2018年、山口翔誠さんは注目すべき21歳のひとりだ。友だちとYouTubeを見ながらおしゃべりできる『Talkroom(トークルーム)』が中高生にヒット。開発に要したのはわずか1ヶ月。なぜ中高生にウケるアプリがつくれたのか。ペンギンの服装で登場した彼…そこにも狙いが?
「よりよいプロダクトを作ることを突き詰めていった結果、ペンギンの姿になってしまいました」
コスプレのようなペンギンの服装、すこし変わった出で立ちで取材場所に現れた山口翔誠さん。この格好こそ、彼のアプリ開発に対するスタンスの表れといってもいいのかもしれない。
「この格好をしていると中高生たちが面白がってくれるし、声もかけやすい。僕にとって大切なのは、ユーザーの”そば”に立ち続けることなんです。」
飄々と語る山口さん。仲間と立ち上げ、自身がCEOを務める picon社で「Talkroom(トークルーム)」を開発。企画とデザインをほぼ1人で手がけた21歳だ。彼が主体となって2017年11月にiOSアプリをリリース。YouTubeを見ながら友だちとおしゃべりができる、ありそうでなかったアイデアが中高生たちにウケた。
このアプリ、着想からわずか1ヶ月でリリースされたというから驚きだ。どういった発想・プロセスで『Talkroom』はつくられたのか。そして進化を遂げようとしているのか。
2018年、注目すべき人物、山口翔誠さんを直撃した。
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― わずか1ヶ月という短期間でアプリ開発、すごいですね。もともとアイデアがあったのでしょうか?
いえ、アイデアもゼロの状態からのスタートでした。前サービスのピボットを決めたタイミングで、Twitterの創業ストーリーを真似して社内でハッカソンをやってみたんですよね。そこでたまたま僕のチームのお題が「音声を使ったサービス」だったところから始まりました。
音声まわりのプロダクトを体験してみたのですが、これがすごい面白くて。中高生に混じってやりとりする中で、自分たちの時代には無かった「新しい通話文化」を感じました。これは何か面白いものが作れるかもしれないと直感的に感じ、スピード優先で、すぐにプロトタイプの作成に取り掛かりました。
― なぜ、スピードを優先させたのでしょうか?
前のサービスでの失敗から学びました。当時は8人ほどのメンバーで、オフィスの中で議論をしながら長い時間をかけてプロダクトを作り込んでしまったんです。リリースしてもユーザーには全く理解されず、人に見せてみて初めて、誰も求めていないモノを作っていたことに気が付きました。
だからこそ今回は、早くカタチにしてユーザーの反応を見ることを大切にしています。街に出れば中高生に会えますし、ほとんどの仮説は既存のプロダクトを使ってでも検証できます。最低限の機能さえ揃えば、ボロボロでもリリースして、ユーザーが本当に求めているものを見極めながら、少しずつプロダクトの形にしていければいいと思っています。
Sketchでデザインしたものを紙に印刷して、ホワイトボードに貼り出す。それを指でなぞりながらテストしてどんどん改良しました。そうやって、1週間後にはiOSで実装された初期のプロトタイプができたんです。
― 先ほど「中高生たちのなかに新しい「通話文化」の波がきている」とおっしゃっていましたが、どのようなものなのでしょう。なぜ気づくことができたのかな、と。
『Talkroom』を開発するにあたって『斉藤さん』というアプリをかなり使い込みました。知らない人とランダムに繋がって通話ができるというアプリなのですが、「そういえば昔、ハマっていたな」と思って開いてみたところ、今でもかなりたくさんの若い子たちが使っていました。そこで中高生100人くらいとつながって、色々ヒアリングしました。
[参考]『斉藤さん』開発者インタビュー
中毒者を生み出す。ビートマニアの父にして、930万DLアプリの仕掛け人『南雲玲生』の発想。
https://careerhack.en-japan.com/report/detail/279
― 100人!かなりの数字ですね。他にも調査を?
あとは「ひま部」というコミュニティアプリを使ってみたり、仲良くなった子とカカオトークで毎晩電話したり、Twitterで「電話」「グル電」などキーワードを1日中エゴサしたりもしました。ある程度仮説が固まってからは、高校の学園祭に飛び込んで、1日で150名くらいと話したりもしました(笑)
― めちゃくちゃいろいろな形でヒアリングしているんですね。そこから見えてきたものとは?
今の中高生たちは、いろんな通話アプリ「電話=無料」があたり前なんですよね。いつも誰かとつながっていて、いつでも誰とでも会話ができる。「通話」というものに対する概念が変わってきていて、若い世代の中に新しい文化圏がどんどん広がっていると感じました。
― LINEを常時接続する高校生カップルも多いと、聞いたこともあります。
そうなんですよね、電話を繋ぎながら友達と寝落ちする子が結構いたり、通話が有料だった時代には考えられないようなユースケースが沢山見つかりました。一方で、まだまだ新しい文化にマッチしたサービスは少ない。だからこそ自分たちがいち早く、これからの世代に向けた「新しい電話」を発明したいと思ったんです。
中高生と対話をしていく中で、よりリアルな世界での会話に近い「通話体験」を求めているインサイトを発見しました。放課後にマックの机を囲んで話したり、友達の家でテレビを一緒にみる体験に似ているような。
『Talkroom』も、初期はただの通話機能のみのアプリだったのですが、ユーザーの声から「YouTubeを一緒に見ながら」通話できる機能が付き、現在のカタチにたどりつきました。
初期のデザインをリセットして、2週間後にはYouTubeがみれる電話にアップデートしました。
― UXの設計もアプリ開発者やデザイナーから評価が高いですよね。とくにユニークだと感じたのが、プッシュ通知画面でした。
これもユーザーヒアリングから見えてきたヒントがあります。まず『Talkroom』におけるプッシュ通知は、サービスのUXにおける肝です。友だちとリアルタイムで一緒に動画見ながら話すので、いま誰がアクティブになっているかの情報を受け取れないと使ってもらえない。だから、通知を「許可」してもらう必要がありました。でも、ほとんどの中高生は、アプリをダウンロードした時に出てくるプッシュ通知を、反射的に「拒否」にしていたんです。
どうすれば許可してもらえるんだろうと、ヒアリングの際に「友だちからの通知しか送らないようにする」ことを伝えてみたら、許可してくれる中高生が多かった。要するに、望まない通知が送られてくるのはストレスだけど、友だちのアクションはみんな知りたいと思っていることがわかりました。
― ちなみに俳句調である理由も?
これは直感ですね(笑)5・7・5で言葉が並んでいるとつい口ずさんでしまいませんか? だったら画面いっぱい使って俳句を詠めば、ユーザーの興味がひけるんじゃないかと思ってやってみました。実際、通知許可率が急上昇したので成功したのかな、と思っています。
― 今回お話を伺って、徹底したユーザーヒアリングが一つ重要なポイントだったことがわかりました。
そうですね。「ユーザーの声を聞くこと」をいちばん大切にしてプロダクト開発を行なっています。
正直、Talkroomもユーザーに求められていないと思えば、明日にでもピボットするつもりでやっています。コンセプトも、デザインも、どんどん思い切って変える。自分がこだわりを持っているのは、「ユーザーが本当に求めているモノをつくる」という部分だけです。
というのも、僕自身、UIのデザインやUXの設計において特別スキルが高いわけでもないんです。ただ、誰よりもたくさんのユーザーの声を聞いていれば、ユーザーが気持ちいいと感じるUXは実現できると思います。ひたすら足を動かしてユーザーに答え合わせすればいいだけですから。
β版アプリをリリースした直後も、高校生たちからは「デザインがイケてない」「ぜんぜんインスタ映えしない」って言われて(笑)彼女たちにとってインスタ映えの象徴は「ディズニーランド」で撮った写真なんですよね。
『Talkroom』をピンクと紫、緑で配色しているのは、ディズニーランドのパーク内、工事中の壁の色を参考にしています。けっこうアバンギャルドなデザインになりましたね(笑)
― 最後に、これから『Talkroom』が目指すところについて教えてください。
中高生たちの生活に溶け込んいく、ごく自然にそこにあるサービスにしていきたいですね。学校から帰ってきた後に、友だちの家に遊びに行くような感覚でTalkroomを開くような。近い将来は一緒にテレビや映画を見たり、音楽やゲームを流して遊べるような、もっと居心地のいい空間を作っていきたいと考えています。
今後、人と人とのつながりがもっと大切になって「時間を共有する」ことが価値になるということ。そして、それぞれの人たちが職場や家庭以外の「サードプレイス」を必要とする時代がくると、思っています。
アメリカでは『Houseparty』が流行していますが、想像している「サードプレイス」に近いサービスです。まだ日本では、こういった概念は目新しいし、プレイヤーも多くありません。ただ、これから先の時代、必ず必要とされるサービスの1つ形だなと思っています。
今でこそプレイヤーの多い「ライブコマース」ですが、つい3〜4年までプロダクトは無かったし、「ライブコマース」という言葉も当然ありませんでした。でもここ1〜2年で名前がついた途端、一気に注目され、プレイヤーが増え、そして市場も開拓されましたよね。
僕らがやっているのも、まだ名前のない新しい領域のプロダクトだと思っています。そう考えるとすごくワクワクするんですよね。ユーザーの”そば”に立ち続けて、まだ言語化されていない新しい何かを発明する存在になっていけたらと思います。
文 = 大塚康平
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