わずか1日にしてサービス一時停止した『ONE(ワン)』。話題をさらった1枚10円でレシートを買い取るアプリだ。予想を上回る利用希望が殺到し、新規登録できない状況に(2018年7月2日現在)。一体何が起こったのか、そしてこれからの展望とは。仕掛け人 山内奏人さん(17)の胸の内に迫った。
2018年6月12日、衝撃的なサービスが突如世に現れた。
レシート買取アプリ『ONE(ワン)』。公開後、予想を遥かに超える利用が殺到。わずか16時間でサービス停止に陥った。
現在、サービス開始から約16時間経っており以下のような状況です。
— 山内奏人 Soto Yamauchi (@5otoyam) 2018年6月12日
約8.5万ダウンロード、約7万人のユーザー様から24.54万枚のレシートを買い取らせていただきました。
現在一時的にサービスを停止させていただいております。
サービス停止しているのにもかかわらず、暖かいお言葉をありがとうございますチーム一同全力で再開に向けて取り組んで行きますのでどうぞこれからもよろしくお願い致します。https://t.co/y2ifoSoUkW
— 山内奏人 Soto Yamauchi (@5otoyam) 2018年6月12日
山内奏人
一瞬にして、はじまり、そして終わったかに見える一連の”レシート買取騒動”。
彼は何を仕掛けたのか。
今回の騒動で何を学び、どこへ向かうのか。
ここまでの軌跡と共に、山内奏人さん(17)に伺った。
レシート買取アプリ、騒動の経緯
6月12日 … AM6:00にサービス開始
6月12日 … PM10:00にサービス一時停止 10万ダウンロード突破
6月18日 … クルマ即時買取サービス「DMM AUTO」と連携し、一部利用再開。レシート買取枚数は目標達成し、連携はすでに終了している。
6月20日 … PM0:22に新規登録不可へ
現在 … サービス再開に向け、リスタートのための事業提携・開発へ。サービスの新規登録不可。利用停止状態。
まず、そもそもなぜここまでの話題を彼は生み出すことができたのか? そこには彼が考えたプランがあった。それはプロダクトを効率的、かつ確実に世の中に広めていくためのものだ。
まずぼくが考えたのは、とにかく機能をシンプルにするということ。「レシートが10円にかわる」というコンセプトに忠実に、”レシートを撮影して読み込む”だけ。必要最低限に機能を削ぎ落としました。
個人情報の入力も、必要なタイミングで少しずつ入力してもらう。いきなり個人情報を取られることに抵抗感を持つ人は必ずいる。いかにユーザーの抵抗感をなくすか。徹底したポイントでした。
じつは国内外に似たサービスは既にありました。ただ、使い方が複雑だったり、現金ではなくポイントに還元されたり、正直どれも「自分なら使わないもの」でした。
また、「1枚10円」という価格設定はかなりこだわりました。きっと「1枚1円」だったら、こんなに反響はなかった。「1枚100円」だったら会社が潰れていた。レシートの盗難や不正が起きていたかもしれない。いくつかパターンを出し、勝負できると確信が持てました。
「1枚10円」に価値を見出す層は必ずいる。1日10枚のレシートを読み込み続けたら、毎月3000円分。10代後半の高校生や大学生にとって、良いお小遣いになる。
「無限にチロルチョコ食えるじゃん」とか「飲み会1回分無料になるじゃん」とか。家計を10円や100円単位でやりくりしている主婦のみなさんにも使ってほしいと考えていました。
「レシート盗難のリスク」についても、10枚集めても100円分。盗難する労力をかけてレシートを集めないのではないかと考えていきました。
もう一つやったのが、どうやったら一番早く、ユーザーを獲得できるか。シナリオを描いて、読者や視聴者層別にメディアを分析して、プレスリリースを送りました。
実現したかったのは、高校生や大学生、主婦の方々にちゃんと届くこと。たとえば、ビジネス系のウェブメディアさんで拾ってもらって、そこから学生が周りの友人たちにTwitterで広めてくれる。Twitterのトレンド入りし、一般層の女子高生たちの目にとまる。モーメントが作れられ、ヤフートピックスや、LINEニュースでも取り上げていただくことができました。結果的にはテレビの取材などにもつながっていきました。
そして、彼は実際「大きな話題」をつくることに成功した。その時に起こっていたこと、そして心境について伺った。
狙って広めていこうと考えていたし、使ってもらうためにやってきて。だから、ある程度の反響は予想していました。ただ、考えていたよりもずっと早いタイミングで、提供できる資金が尽きてしまった。やむなく一時停止といった措置を取らせていただくことになりました。
期待いただいて使ってくれていたみなさんにもご迷惑をかけてしまった。ここはお詫びしてもしきれないです。また、サービス提供者として、反響の大きさを正確に計算できていなかったことに悔しさがありました。持続可能な状態で全再開しないと、結局またご迷惑をお掛けしてしまう。そうならないためにも、いま会社のメンバー一同で全力で準備を進めています。
同時に起業家としては、ものすごい勢いで自分たちがつくったアプリがダウンロードされ、お金が減っていく。あの瞬間は、たぶん一生忘れられないもので。アドレナリンがすごく出ていたように思います。電車に乗ったら自分の知らない人たちが僕のつくったアプリについて話をしていたり、まわりの友達が使って楽しんでいるのを肌で感じられたり...。
世の中にインパクトを残し、新しい価値を生む。そのためにやってきたことが、すごく実感できた16時間でした。得られたデータや経験にもすごく価値があると思っています。
サービスの利用停止状態になってから、まもなく1ヶ月。その後の動きが語られていないままだ。水面下では何が起こっているのだろう。
まず直近で取り組んでいるのが、マネタイズの実証をおこない、ビジネスモデルの再構築に取り組んでいます。「1枚10円」は妥当なのか、データ価値をどのように算出するか。どういった企業やアライアンス先と組ませていただくか。いくつかの検証のなかで、可能性を見出すことができそうな領域、事業とのシナジーも模索しているところです。
じつはやりたいことの10%もまだできていない。諦めるには早すぎるし、まだまだこれからだと思っています。恥ずかしくない形で戻ってきたいと思っています。
僕らがこれからつくりたいのは、ちょっとお金が足りない時に、パッとお金が作れるような”次世代の金券ショップ”。1番身近なところで、あらゆる人たちを支えたい。そして、少しだけでも笑顔にできる存在でありたい。
ご期待いただき、サービスを待ってくださっている方々からの励ましや激励もできるだけ目を通させていただきています。その期待に応えられるよう、できることを一つずつやっていければと思います。
文 = 野村愛
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。