2018.08.21
有川鴻哉が明かす「ズボラ旅」での勝算

有川鴻哉が明かす「ズボラ旅」での勝算

有川鴻哉さんは「インターネットサービスをグロースさせる策士」と言っていいだろう。新たに仕掛ける『ズボラ旅 by こころから』はチャット型の旅行予約サービス、リリース直後から大きな話題に。なぜ「旅行」を狙った? 今後、勝っていくための策は? すべてを語ってくれたロングインタビュー!

『ズボラ旅』仕掛ける、有川鴻哉の頭の中

「海の近くに旅行したい」

こういったふわっとした希望にも、旅行プランを提案、予約まで代行してくれるのが『ズボラ旅 by こころから(以下、ズボラ旅)』だ。一連の流れをLINEで行なえる。

すべて人力で対応しており、チャットの向こう側には旅行好きのコンシェルジュがいる。

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ここ最近、『TRAVEL Now』『LINEトラベル』『DMM TRAVEL』、そしてメルカリも旅行領域発表など各企業の旅行領域への参入が相次ぐ。2018年のトレンドといってもいい。『ズボラ旅』は2018年5月末リリースとその口火を切った。リリース直後から注目を集め、1日で4,000件を超える問い合わせがあり、一時パンク状態に。

新規参入が相次ぐ「旅行領域」にいち早く目をつけ、『ズボラ旅』をリリースしたのは、有川鴻哉さん(26)。ペロリ創業メンバーとしても知られる起業家/エンジェル投資家だ。

なぜ、旅行だったのか。
なぜチャット型だったのか。
彼が見ている世界とは。

「旅行の市場は参入の仕方が難しく、誰もができる領域ではない。だからおもしろい」

Twitterではなかなか見せることはない、事業成功へと導く策士としての顔がそこにはあった。

「好きじゃないと飽きちゃう」

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[プロフィール] 株式会社Hotspringの代表取締役|有川鴻哉
女性向けメディアMERYを運営していた株式会社ペロリの創業メンバーとして主にデザイン / SEOの領域を管掌。 2017年5月に株式会社Hotspringを創業、2018年5月に『ズボラ旅 by こころから』をリリース。エンジェル投資家としてスタートアップの支援も行なっている。


ー そもそもなぜ「旅行」だったのでしょうか?

市場に変化が起こる兆しがあり、チャンスだと思ったからです。これまでの数年、『Booking.com』や『Expedia』など海外の巨大なOTAサービス(※)が日本に参入し、国内シェアをどんどん伸ばしています。

※OTAとは、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。Online Travel Agentの頭文字の略。店舗で営業を行っている旅行会社のオンライン販売はOTAとは呼ばない。国内外の宿泊や航空券などの手配旅行、宿泊と航空をセットにしたダイナミックパッケージ、施設とお客様が直接契約する宿泊仲介、旅行保険などを取り扱うことが多い。(JTB総合研究所より引用)『ズボラ旅 by こころから』もOTAのひとつ。

そんななか、国内のOTAサービスを見てみると、スマホシフトできていない。このギャップによって大きな変化が生まれると思ったことが大きなきっかけでした。価格によってセグメントを切る戦略のサービスもありますが、業界全体に大きな変革が生まれる様子は感じられませんでした。

調査したところ、旅行予約のオンライン比率は伸びているが、いまだに旅行の予約は多くがPC経由で成約されています。こんなにスマホが普及している世の中でですよ(笑)。

ファッションやECなどの領域は、数年前くらいから順当にスマホシフトが始まっていますが、国内のOTAサービスではまだまだだったんですよね。

ー 国内のOTAサービスでは変革が起こせていない。なぜ飛び込もうと思えたんでしょうか?

大前提として、僕自身が旅行が大好きなんですよ。『MERY』を運営していたペロリを立ち上げから携わってきて。辞めて何をやるか、グルメ領域を考えたりもしたのですが、やっぱり「旅」でいこうと。好きじゃないと起業家として飽きちゃうなと思ったんですよね。

旅行市場は大きいし、プレイヤーも強い。かなり年数がかかる勝負になる。好き以外の理由だと戦い切れないと思いました。

また、僕自身の起業のテーマとして、今すでにある大きいマーケットに対し、新しい切り口や新しいものをつくり、世の中を楽しくしたい。アップデートをしたいという思いもあります。

「このままだとやばい」

ー 『ズボラ旅』はスマホのなかでも「チャットで相談&予約できる」というサービスですよね。そのアイデアにはすぐに行き着いたのでしょうか?

いきなりチャットだったわけではないんですよね。もともとは、いわゆるウェブサービス型のOTAで真っ向勝負しようと考えていました。

実際、そのようなサイトをつくってテストもしました。アフィリエイトプログラムを利用し、他のOTAサイトへ誘導するというもの。集客効率化とスマホ化を尖らせたら、どこまでいけるのか。

じつは想定以上、かなり順調に成長したんです。きれいにグラフとしても伸びていきました。スタートアップの成長基準となる「週次7%成長」も余裕で超えていたし、一気に投資すれば月間1億円、年間で10億円以上の規模の流通額は出せる計算でした。

ただ、ある時「このままだとやばい」と気づいて。年間10億円以上の流通額って…OTAでいったら相当しょぼい。僕らの目指している規模はそんなもんじゃない。

たとえ、2桁億の流通額が達成できても「100倍の規模にします」となった時、次の資金調達をする時に「本当にいけるか」となってしまう。数字だけ見て「めっちゃ伸びてる!好調!」とうぬぼれているといずれ死ぬ。そんな罠にハマりかけていました。

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2017年5月よりウェブサービス型OTAを検討し、2017年末に検証サイトをリリース。2018年3月まで検証を行なった。「かなり時間がかかってしまった」と語る有川さん。その間にも、チャット形式など可能性を探っていたそうだ。

「爆発が必要だ」

ー OTAのなかでもどう戦うか、策が重要だったと。

そうですね。「旅行」というとんでもなく大きなマーケットは、一回目の資金調達から5年、10年という未来を見越し、策を練らないと厳しい。ここは大きな学びでした。数億レベルの流通をつくって伸ばし続けたところで、いつまで経っても数千億円規模には届きません。

僕たちが地道に戦っている間にも他のプレイヤーが伸びていく。じつは一生勝てないビジネスをしてしまっていた。気づくのが遅くなって、後悔しています。

国内の旅行市場そのものでみるともう伸びてはいない。そういった中、オンライン流通額は年間2ケタ%レベルで伸び続けている。一見するとチャンスが多そうに見えるし、実際、海外勢もガンガン入ってきています。

ただ、そういった大手と「お金」で張り合うのは相当厳しい。従来のOTAにおけるビジネスモデルだと、基本的に「広告にお金をどれだけ突っ込めるか」という戦いです。

できるだけ固定費を削り、広告宣伝費、特にリスティング広告にお金をガンガン突っ込んでいく。

例えば、他社OTAと比べ、広告の集客効率が「30%高い状態」だとしても、彼らが年間100億円投下していたら、効率が30%良くても1億円の広告予算では絶対に勝てません。さすがに戦えないと判断しました。

おそらく近年のオンラインの伸び分は、海外勢がほぼ全てをかっさらってしまった。さらにメタサーチ(価格比較メディア)の普及によって値下げ合戦が起こり、利幅が少なくなる可能性がある。低い天井がさらに下がってくるみたいな状態。このままだと窒息死してしまう。そんな危機感がありました。だからこそ「爆発」が必要なんです。そこに気づき、チャット型へと振り切りました。

「旅行代理店の窓口」に得たヒント

ー チャット形式の可能性を感じたきっかけは?

まず目をつけたのが旅行代理店の窓口でした。

じつは「ウェブサービス型のOTAサイトを訪れた人のうち、約2割が窓口にも足を運んでいる」というデータがあります。つまり「OTAだけでは満たせないニーズがある」ということ。窓口ではどんなニーズを解消しているのか知るため、実際に行ってみたんです。

すると”ふわっとした希望条件を持っている人“がある程度いることが分かりました。たとえば「夏に家族で温泉に行くならどこがおすすめですか?」とか。OTAウェブサービスを利用するとき、行き先、日程、人数を入力します。その条件が決まっていない人たちが取り残されていた。

さらに、窓口に行って大きな課題だと思ったのが、待ち時間です。みんな仕事終わりで疲れた様子なのに、30分以上も待たされていた。これはツラいですよね。「相談したいけど忙しい」とか「店に行くのが面倒くさい」とか、そういった理由で相談できていない潜在層がめちゃくちゃいると肌で感じることができました。

これはチャンスがあると思って、チャットで旅行の相談を受け付けるコンシェルジュサービスの検証をスタート。『LINE』と『Facebook Messenger』を使って、「旅の相談をなんでも受け付けます」という打ち出し方をしていました。

検証したかったのはこの2つです。

・ふわっとしたニーズのユーザーを、オンライン接客で成約まで持っていけるか
・集客効果がどれくらいあるか

『ズボラ旅』が目立っているのですが、じつは観光スポット情報を集めた『こころから』というサイトもあります。観光スポット、ホテル検索のページを分けて、それぞれに検証用サイトへのリンクを出す。

異なる入り口を経由したユーザーに対して、それぞれ「獲得コストがどの程度かかるのか」「どんな動きをするのか」「どれくらい収益に繋がるのか」を測りました。

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検証に使っていたチャットサービスのLP。相談件数は徐々に増え、成約に至ったユーザーやリピーターもいて、手応えを感じたという。

『ズボラ旅』のコンセプト誕生秘話

ー 当時のLPをみると、“ズボラ”というコンセプトではなかったんですね。

コンシェルジュたちにも知見がたまり、「出発地やふわっとしたニーズを聞けば、おすすめできる」というレベルになっていました。なので利用していただいたユーザーの満足度は高かったのですが、あまり広まっていかなかった。このまま進めてもいずれは集客に苦戦をしてしまうだろうと考えました。

どうしても「なんでも相談してください」って切り口として弱い。たとえば、広告を打つにしても、街を歩く人に「旅行行きませんか?」とビラを配るくらい大雑把なものになってしまう。

そこで「出発地だけ教えてくれたら、コンシェルジュが相談に乗って、旅行に行くことができます」という見せ方に切り替えました。これが『ズボラ旅』です。

また、「旅の専門家があなたの旅行をカタチにします」みたいな、硬いトーンのデザインも変更して。どんな雰囲気なら話しかけやすいのか、検証しながら「旅行好きなスタッフが気軽に相談に乗ってくれる」というデザインに落ち着きました。

チャットのログデータが武器になる

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ー 実際リリースから3ヶ月、どのようなユーザーに『ズボラ旅』は利用されているのでしょうか。

年齢も、性別も、じつはあまり偏りがなくて。20代から50代の方もいて、すごくバランスが取れていますね。『LINE』の友だち追加から利用できるので、幅広い年齢層に使いやすくしています。「広告の最適化」が難しいという考えもありますが、いまはポジティブに捉えています。

ズボラ旅をリリースしてから今までは、チャットで問い合わせを受けたところから旅行の予約が完了するまでのUXを高めることに注力してきました。旅マエと呼ばれる領域のなかでも出口の部分です。全て人力で対応するなかでオペレーションの効率化やUXの改善を行なってきました。

チャットでのログが大きな資産になっていて、このデータは僕らの強みだと思っています。

旅行の行き先さえ決まっていない状態から、目的地を決めて「旅行しよう」と決断する瞬間まで、ユーザーのみなさんの「声」が集まります。たとえば、「生まれたばかりの子供と小学3年生の子供を連れて行きたい」とか「糖質制限をしていて、食事を考慮してくれるか」とか。これって普通だと「検索できない条件」なんですよ。それがチャットなら得られる。こんなところにニーズがあったのか、と気づけます。

言ってみれば、「チャットでの旅行相談」は、無限にある旅行プランとのマッチング。つまりはレコメンドの事業なんですよね。レコメンドエンジンにデータが貯まれば貯まるほど進化させていける。

ー ただ、今はそのデータを人力で蓄積しているんですよね? 売上を伸ばすためには人員を増やして対応するか、コストを削減するしかない。ヘタすると数百人規模のオペレーターが必要なビジネスになりかねないと思うのですが…?

インターネットサービスである以上、「オンラインの旅行代理店」で終わらせるつもりはありません。人員を増やさずに待ち時間を削減するためにシステム開発・導入を進めているところです。ただいきなりすべての部分を自動化しても、機能しない。「人力」から離れ、テクノロジーで効率化することは大事だと思いますが、バランスが肝だと捉えています。まずは全てのプロセスを人力でやってみて、人がやるべきところと自働化すべきところを見定めていました。

移動・宿泊・アクティビティ、全てに応えるサービスへ

ー 今後、強化していく部分でいうと?

集客ですね。これまで「一人あたりの体験」に注力してきましたが、今後はいかに効率的に利用者を増やせるか。従来のOTAのような集客方法に加えて、チャット型だからこそのマーケティング手法を見つけたいと考えています。

また、旅ナカ(※)にもサービス領域を拡張して、多くの方のニーズに応えられるように進化していきます。たとえば、旅行中のアクティビティの予約を『ズボラ旅』で行なえるようにする。「海の近くに行きたい」という方であれば、宿の予約に加え、近場でシュノーケリングの穴場もおすすめし、予約してもらえます。

(※)旅行中、現地で受けるサービス。

いずれは移動手段となる交通機関の予約も取り扱っていく予定です。移動・宿泊・アクティビティの3つが揃えば、旅行における大部分が支援できる。いまは国内旅行だけですが、海外旅行のサポートも予定していますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。


文 = 大塚康平


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