日本国内トップ(※1)のコスメ特化クチコミサービス『LIPS』。10代女子たちに支持され150万DLを突破した。このヒットのウラ側には「初期ユーザーが集まらない」「リテンション伸びない」「無駄な機能を作ってしまう」など壁があった。
【1】どのユーザーから集めるべきかわからない
【2】ユーザーが定着しない
【3】狙った数字が伸びない
【4】つくった機能が使われない
【5】ユーザー同士が喧嘩してしまう
- 『LIPS』について
国内トップのコスメ特化クチコミ、コミュニティアプリ
- DL数・ユーザー数
ダウンロードで150万ダウンロード
- ユーザー属性
10~20代前半が中心、SNSが当たり前にある世代
- 企画/開発会社
AppBrew社。社員17人(2018年10月現在)。平均年齢26歳のチーム
立ち上げたばかりのサービスには当然ですがユーザーはいません。特に口コミサービスでは人がいないとコンテンツが生まれないし、コンテンツがないと人が残らない。そんな「鶏卵問題」があります。
ぼくたちがやったことは、次のとおりです。
・有償のモニターをクラウドワークスで募集する
・ユーザーに近いようなセグメントの人にコンテンツを投稿してもらう
・使ってみた感想をフィードバックして貰う
そうして、最初の約5000投稿を集めました。大量に集めた結果、オーガニックでも投稿してくれるユーザーが発生して。ようやくサービスが動き始めました。
約5000投稿を集めて「いざ!」と、思ったんですが……。
モニターさんの投稿期間が終わると、ユーザー数が伸び悩み、活気もなければ、流動性もない。リテンションなどの数値がかなり悪い状態でした。
そこで行ったのが、YouTuberにLIPSの紹介動画を投稿してもらう施策。いわゆるYouTuberマーケティングです。20代前半で、いつもインスタやYouTubeを見てるような人をターゲットにして、一気に大量獲得したら流動性が生まれました。
一定量の人が「バイユーザー(投稿者兼閲覧者)」として定着し、やっとここから本格的にサービスが回りはじめたといった感じです。リテンション率は3倍も伸びました。
何でYouTuberだったのか。Twitterとかインスタより若い層の「美容垢予備軍」といった人たちがいた。彼女たちは美容系YouTuberの動画を見ているのでは?といった仮説があり、リサーチしてみたんです。すると、熱量の高いユーザーもいたし、LIPSへのニーズもありそうだった。
もともと学生起業だったので資金に余裕があるわけでもない。残高は500万くらい。仮説検証をちゃんとすべきだったかもしれませんが、そこにかけるお金をPRにまわしました。まさに賭けでしたが、結果的に上手くいきました。
・クラウドワークスで募ったモニターユーザーは主に主婦層だった
・LIPSは、もっと若い人たちを狙いたいと考えていたし、使われる傾向があった
(主婦層に加えて、より多くの方々に楽しんでもらいたかった ※2)
・YouTuberマーケティングで「若い層の美容垢予備軍」に刺さった
・ユーザーがたくさん集まってきて「賑わいの”しきい値”」を超えた
まだまだ壁はあります(笑)
こうしたYouTuberマーケティングによってユーザーは増えたのですが、まだまだ閲覧だけするユーザーが多かったです。
「お気に入りのコスメを投稿してください」って案内するんですけど、なかなかしてくれない。投稿の動機づけを作るのがかなり難しくて…。
閲覧専門のユーザーはデイリーだとリテンションしてくれない。でも、ウィークリーやマンスリーで数字を追ってみると、買い物するときにはちゃんと「帰ってきてくれている」ということがわかりました。「LIPSはメディアだ」とどこか思い込んでいた部分がありましたが、ショッピングのような感覚で使っている人ユーザーも多かったんです。
そこで現在は、KPIを変えています。閲覧記事数、閲覧投稿数を追っていて、そこへの流入を増やすような指標を見ています。「インストールしてから24時間以内の投稿者率」があがれば、ここが担保されます。
つまり帰ってきてくれた閲覧専門ユーザーたちにとっても「見たい物をちゃんと見られる」ようにしておく。
オンボーディングの際に年齢やお気に入りブランドを入力してもらって、それに合わせて表示するコンテンツを分けたりしています。
“アプリあるある”だと思うのですが、なんとなく「定性」で作った機能ってあんまり使われない。その罠にハマった時期もありました。
たとえば、初期にはオンボーディング画面にアカウント登録があったんですよね。ただ登録をしなくても使えるようにしていて。登録率は4割くらいだったので、何もしないで通過しちゃうユーザーのほうが多かった。なので、オンボーディング画面でのアカウント登録は必要ないという判断しました。
最初っから登録なし。引継ぎもなし。開発コストが掛かるだけなので、割り切っちゃった方がいいです。
『LIPS』の場合は「投稿する」が「マジックモーメント」、つまり投稿さえしてくれたら継続利用ユーザーになってくれる、ということがわかっていきました。だからそこに標準合わせて、ゴリゴリ最適化していくようにしました。
ちなみに、アカウント登録ではなく、オンボーディングでユーザー年齢や性別などの情報は入力してもらっていて。目的はユーザーに最適化したコンテンツを届けるため。情報入力があっても約95%が回答し、通過してくれているので、実施しています。自然の流れで項目数を増やしても離脱に影響することはあまりないというのが実感です。
最後に、コミュニティが荒れた事例を・・・。
クチコミサービスってランキングがあるものが多いですよね。『LIPS』も倣って投稿者たちの月間ランキングを作りました。そしたら、めっちゃ荒れて…。なぜなら新規ユーザーがなかなか上位にあがれないので不平不満が出たんです。
でも、ランキングは情報としては有益なので、完全になくすわけにはいかない。
そこで行なったのは、
・メインのフィードに日間の投稿を扱う。
・新しく入ってきた人も取り上げるタグを用意する
・ランキングをサブコンテンツのように見せる
などです。
あと、コメント欄も考えるべきことが多い。喧嘩がはじまり、コメント欄が荒れるといったこともありました。とあるユーザーがコスメ以外の画像を投稿したんです。すると「コスメ関係ないですよね」ってコメントが付いて。
対策としては、コスメに関する投稿か、雑談か、すみ分けできるようにタグ作るなどしています。機能で対策しても問題は起こるので、カスタマーサポートが介入して対応もする。コミュニティ運営を頑張って改善できていますね。
『LIPS』にたどりつくまで、AppBrew社ではいくつものサービスを試してきました。そこで決めていたのは、企画から3ヶ月で撤退するか否か、判断するということでした。
開発に1年なんてかけない。3ヶ月以内にリリースし、動き出しをみれば、ダメそうか判断できる。検証してみて仮説が崩れたときはリリースすぐであっても閉じる勇気が必要です。
もう少し細かなところでの意思決定の話をします。
大前提として、AppBrewのメンバーは『LIPS』のビジネス的な将来性を信じているはず。カルチャーフィットもし、目線揃えて、サービスを伸ばしていこうとしています。それでも、やっぱり「セールスする人」と「プロダクトをつくる人」の間では問題も発生する。
例えば、企業さんに商品を頂いて、ユーザーさんにサンプリングを実施、レビューキャンペーンをやりましょうってなったとき。
キャンペーン投稿が増えるとオーガニックのレビューにおける「信頼性」が失われるかもしれない。
セールスとしては売上があがったほうがいい。ただ、プロダクトとしては増やしたくない。ジレンマですが、正直「決め」の部分が大きい。取締役2人で話し合って決めることもあります。
理解を得られるよう説明の責任を果たす。ここはPMや経営陣の信念や意志が問われるし、最も大切なやるべきことだと捉えています。
(※2)10日5日21時25分、追記いたしました。
文 = 大塚康平
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