2019.02.12
「デザイン経営」の未来|南場智子、宗像直子、増田真也、田川欣哉、土屋尚史 トークセッション

「デザイン経営」の未来|南場智子、宗像直子、増田真也、田川欣哉、土屋尚史 トークセッション

「デザイン経営」の未来が議論された「UI Crunch Special Edition」の模様をお届け。特許庁の長官・宗像直子氏、Takram代表の田川欣哉氏、DeNA会長の南場智子氏・デザイン本部長の増田真也氏、グッドパッチ代表の土屋尚史氏が登壇した。

0 0 13 0

特許庁、自ら「デザイン経営」を。

image

まず特許庁長官を務める宗像氏は「デザイン経営」提言の背景について解説をしてくれた。

「実は特許庁としては意匠法の改正を主題に、研究会を開催していました。その中で生まれたのが明治以来の大改正になる抜本的な改正(新しい技術に対応して意匠の保護範囲を拡げるなど)を行うべきだ、という提言です」

そして第一線で活躍するデザイナーを集め、議論を行った結果たどり着いた結論は「デザインはもはや経営そのものだ」という当初の予想とは異なったものに。こうして最終的に形となったのが「デザイン経営」宣言の報告書だ。

その必要条件は以下の2つ。

・経営チームにデザイン責任者がいること
・事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること

特許庁自体にもCDO(チーフデザインオフィサー)を置き、「デザイン経営」のマインドを広げるための取り組みを率先して進めている。

たとえば、特許をはじめとする「権利取得のプロセス」を職員自身が追体験。ユーザー体験の問題点を探す研修も実施した。

研修に参加した若手職員、一人ひとりが「デザイン経営」の重要性を身をもって体感し、「特許庁はユーザー本位だと言っているけど違いますね」や「やっぱり本質から考えないとダメですね」など正直な感想を口にしたという。

「付箋にアイデアを書いてホワイトボードに貼る、絵を描いてストーリーボードを作る、寸劇をする、といったデザインの作法は面倒だ。なんかバカバカしい。照れくさい。みたいに思っていたんです」

こういった職員の本音を紹介してくれた宗像氏。

しかし、職員はそうした考えが単なる思い込みだったと「デザイン経営」を特許庁で実践する中で気付かされたという。「デザイン経営」を実践することで職員が見た変化をこう引用した。

「これまでは実現可能性や自分が所属する部署、立場など自分が思いこんでいた制約の中で政策を考えていましたが、ユーザーの立場になりきって、本当に必要なことから発想できるようになりました」

その成果の1つが、スタートアップ向け支援です。1-2か月で特許がとれるスピード審査の導入、スタートアップの意見を聞いて作り直したウェブサイト、知財と経営のアドバイスを一緒に受けられるメンタリング支援などです。

報告書のスタイル、デザインにも目を惹かれる。これはTakram代表の田川氏が「役所の報告書だと、読んでもらえない」と問題提起し、作成したもの。これまで行政機関が発行してきた報告書とは一線を画す。

image

「デザイン経営」p4

DeNA南場氏の「論破」が、新サービスの足をひっぱっていた

image

DeNAにおける「デザイン経営」への思いについて明かしてくれた南場氏。

「DeNAがなぜデザイン経営を始めたのかよく聞かれます。私は事業の成否を決めるのは戦略ではなくデザインやユーザーエクスペリエンスだと訴えています」

たくさんの失敗と成功を重ねる中、ロジックや市場分析が大ヒットを生み出すわけではないと気付く場面があった。

経営会議で新サービスを理詰めで論破するクセがあったと振り返る南場氏。その言動が、様々なプロダクトのリリースの足を引っ張ってきた一面もあった。

「質的な議論を大切にすると言うのは簡単だけど、いつまでたっても経営会議の議論は数量的なまま。このままではダメだなと」

そんな背景から南場氏はデザインや人の気持ち、デライトや手触り感といった右脳的な議論が出来る人材を社内で探した。

image

そんなとき白羽の矢が立ったのが増田真也氏だ。彼は2018年4月には執行役員に就任。これまで役員にデザインのできる人材が任命されたことはないDeNA社内で大きな期待を一身に背負う。就任直後、特許庁から発表された「デザイン経営」宣言は、現場で議論を行う増田氏にとっては力強い後押しとなった。

「南場さんも社長の守安さんも、端からみても数量的な分析が強そうに見えると思いますが、いい意味で本当にすごく強い。その方々にデザインのような右脳的な話をしなくちゃいけないのはなかなか大変ですが、それをやめない。何回も、分かってもらえるまで話すことを続けてきました」

ユーザーと経営者の距離を近づける、デザイナーの役割

image

田川氏はこう補足する。

「テクノロジーやインターネットカルチャーがほとんどの産業を塗り替えていく。そうした社会の変化を前提に、左脳派経営陣にデザインの重要性を理解してもらう重要性が今後ますます大きくなる。ユーザー視点を取り込んで、常に改善し続けるというデザインプロセスが企業に組み込まれてないと競争に勝てなくなっていく。本当に地味ですが、こうしたデザインプロセスを組み込む重要性をいまは丁寧に説明するようにしています」

セッション終盤、南場氏は「経営者がデザイナーに求めることは何か?」という質問に率直な思いを口にした。

「企画の上流、それのみならず、経営にまで口を出してほしい。デザイナーの人達の指摘が本質をついているのは、彼らは”ユーザーのため”という目的意識を片時も忘れない人達だからだと思います。だから経営に対しても遠慮しないでほしい。自分の責任はここまでだ、と線を引かないでほしいですね」

この南場氏の意見を受けて、田川氏が付け加えてくれた。

「ポイントは、デザイナーの役割が変化しているということ。時代が変わってくるなかでプロダクト、プライス、プロモーション、それからプレイスみたいな構成要素にユーザーエクスペリエンスも入ってしまった。これらは全てやらないと市場では受け入れられません。このエクスペリエンスを向上させるためにデザインが今回入ってきたということだと思います。デザインをやるからといって、他が後回しになるということではないんです。ANDで持たなきゃいけないものが一個増えてしまったということじゃないかなと」

image

グッドパッチ・土屋氏の意見も同様だ。フェーズと共に変化する経営者のマインドの問題を指摘する。

「ORではなくANDの発想をする。そこに新しいイノベーションの種があります」

そういった組織の中におけるデザイナーの役割にも言及をした。

「起業したときって絶対にユーザーの方を向いてると思うんです。これは間違いない。起業したときは事業も小さいし、ユーザーを常に向いて、この人たちに価値を届けたいって考えている。でも、組織が大きくなっていったり、考えることが増え始めると、何故かユーザーがいつのまにか遠くにいってしまう。ユーザーと経営者の間をつなぐのがデザイナーの、経営陣の役割かもしれないですね」

経営者とデザイナーの距離が近づくなかで、いかに「ユーザー」を向くことができるか。共通言語で話をしていくことができるか。さらなる事例や実践について今後も追っていきたい。


文 = 千葉雄登
編集 = 白石勝也


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから