2019.05.16
糸井重里さんと考える、企画って何だろう。

糸井重里さんと考える、企画って何だろう。

西武百貨店やスタジオジブリなど、伝説とも呼べるキャッチコピーを残してきた糸井重里さん。人の心を動かし続ける彼の真ん中には、どんなときも「遊び心」がある。ともすると私たちは、仕事に対して肩の力が入りすぎなのかもしれない?

※本記事は、2019年4月7日に、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにてされた、連続講座「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の特別イベントをキャリアハックにて再編集したものです。

分かち合うことは、自分を活かすことでもある

コピーライターやエッセイストとしての「言葉の仕事」、テレビゲームやウェブサイトといった「企画の仕事」……どれもが“糸井重里”から生み出され、そして人々の心を動かし続けてきた。

彼はいかに言葉や企画、そして仕事と向き合ってきたのだろうか。その一端を、コピーライターの阿部広太郎さんが聞き手を務めたトークイベントでうかがい知ることができた。糸井重里さんの「仕事の姿勢」、その味わいは軽やかだが、奥深い。糸井さんにとっての「企画の原体験」からトークはスタートした。


企画といえば、小学校の時に学校の売店で買えるメモ帳で、紙飛行機を折ったらよく飛んだんですよ。「この紙をみんなにあげれば、みんなが紙飛行機を作って、誰が一番飛ぶのか遊べるな」と思って、お小遣いでメモ帳を買って、誰でも参加できる紙飛行機大会をやったんです。それは、今思うと企画ですよね。

一人で紙飛行機を折って飛ばしているだけでは、誰かが興味を示してくれるかもしれないけれど、ちっとも面白くない。それなら、自分の紙をあげてしまおう。その発想は、大きな原点になっているかもしれませんね。たとえば、ゲームのモノポリーがあまりに面白いんで、「みんながやればもっと面白くなるぞ」って、たくさん買って、来る人に渡したりして。

昔だと、杏の木だとか、梅の木だとか、自分の家の庭になってる果実があるじゃないですか。手間をかけて取って、適当な袋に入れて、「持って行きなよ」って差し上げたり。でも、あれはもらわれることで自分も助かっているんです。放ったらかしにして、ただ果実が落ちるだけなのは……循環が悪くなる感じがする。誰かに「本当にもらえるんですか?嬉しい!」なんて言われたら、すごく嬉しいですよね。

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「差し上げる」という言葉には、献上の意味が入っています。そういう気持ちは、人間の中に強くあるんじゃないですかね。今だとカッコつけて「シェア」なんて言いますけど、それは群れで生きてる動物の本能に近いものじゃないかなと、そんな気もしますね。

本当にいいものを分かち合っていくことは、ひいては自分を活かすことでもあるんです。ずるく言うと、功利的な行為を通して、自分が生きやすくするためでもありますから。

もちろん、一人でいることにも、いいことはいっぱいあります。だけど、ちっちゃい頃に、友達と遊んでいて夕方が来て、「カラスが鳴くから帰ろう」と誰かが歌ったりして、「じゃあね」って別れる時は、ものすごく寂しくないですか?

できることならば、ずっと一緒にいたいんですよね。あの「ずっと一緒にいたい」っていう気持ちはいろんな場面にあって、それは他の何物にも代えがたい嬉しさを持っていると、無意識ながらずっと感じてたんです。今、SNSでみんながつながっているのも、学校の庭でみんなで遊び続けているようなものなんでしょう。

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いつも「自分ならどうするか」を考え続けている

糸井重里にも「駆け出し」の頃はある。コピーライティングの修練にもつながったのは、ひたすら「考え続ける」という姿勢だった。


結局のところ「何をして遊ぶか」が全てなんですよ。趣味なのか、遊びなのかわかんないですけど、絶えず「自分だったらどうするかな」ってひっきりなしに考えてるんですね。

たとえば、電車の中吊りにコピーがいっぱい並んでいて。「下手だなぁ」なんて思うわけです(笑)。じゃあ、自分ならどう書くんだろう。テレビを見ていても、投げかけられた問題に、誰かが何かしらの答えを話している。それを自分だったら、どう返すんだろう。そんなふうに、いつの間にか、とても広い範囲でひっきりなしに考える癖がついたと思いますね。

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ボクシングの試合を見ていても、避けきれないパンチってあるじゃないですか。自分でも絶対避けられないんだけど、どうすればいいかを考えるほどに試合が面白くなる。定食屋から高級レストランまで「なぜこの店が成り立ってるんだろう」と思うし、「この美味しい料理を作るシェフが辞めてしまったらどうしよう」とか……いつでも「どうするんだろう?」って考えてしまう。余計なお世話なんだけど。

これを最近は「自分ごと化する」とも言うけれど、そんな言葉は昔になかったんですよ。でも、昔からその癖がついた大元には、「言うだけのやつ」への怒りがあったのかもしれない。世の中には他人ごとだと思って勝手ばかり言う人がいますよね。ちょっとしたニュースから「世の中間違ってますよ」なんて言うのを聞いたりして、言う方はとんでもなく簡単なんだけれど、聞いているこちらはツラくてたまらない。

東日本大震災があったときに、行政の対応に不平不満を言っている人たちがたくさんいたけれど、実際に現場へ入ったら、とてもじゃないけれど出来るわけはないと感じる。そういうことを一般化して話してしまうことは、みっともないなって思うわけです。そういう、ちょっとした怒りが、自分に考えさせているのかもしれません。

楽しいことを突き詰めて、楽しいバカでいる

豊かな発想で企画を生み出してきた糸井さん。どうすれば糸井さんのように考えられるのか。そこには、軽やかに「楽しいバカでいる」という哲学があった。


企画を話すとき、僕は「ターゲット」を考えていないんです。最近、映画の『ダンボ』を観て、僕はすっかり喜んだのだけど、あれを考えた人は楽しかったんだろうなぁ、と思いました。耳の大きな象が空を飛ぶなんてアイデア、何の役にも立たないじゃないですか(笑)。

でも、今はマーケティングが当たり前になっちゃったもんだから、「役に立つから」とか「問題解決のために」とかって考えてしまう。耳の大きな象が空を飛ぶ、なんてアイデアは悩んでいる人の問題には何の役にも立ちませんよ。でも、世界中で何億という人が耳の大きな象に夢中になって、それでご飯を食べている人もたくさんいる。「何かのために」と考えすぎると、それは仕事になっちゃうんですよね。

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つい、徹夜で麻雀を打ってしまうのは、強くなりたいと思っているからです。でも、徹夜で打てば代わりに毎月ギャラが振り込まれるとなったら、イヤになっちゃうじゃないですか。「もう辞める、ぜったい辞める!」と言いつつ、家にも帰らず麻雀を打つバカは、すごく楽しんでますよね。で、結局、お金をもらって打つと、そのすっごい楽しいバカには勝てないんです。

楽しいことを突き詰めていっちゃう感じが大事なんだと思いますね。たとえば、文章を書くのは素人なんだけれども、ブログを始めたら「大好きです」と言ってくれる人がいた、というのは報われた形ですよね。僕も、だんだんとそういうことをやっていて、ご褒美のように良いことがあった。おかげで次の新しい「面白い」にも手を突っ込んでいけています。

御用聞きにならない。嬉しさ中心でいこう

長らく広告に携わってきた糸井さんは、現在の広告(あるいは広告代理店で働く人々)についても違和感があるという。糸井さんは「自分の嬉しさを中心に」と伝えた。


「広告に制約がある」と決まり文句のようにみんな言っていますよね。でも、たぶん「制約とは何か?」というやり取りをしていないはずなんです。たいていの人が「必須です」と言ってくるものが「本当に必須なのか」を話し合わなければいけない。必須であると思いこんでいることが多く、そこを話し合っている時に次のアイデアが思いつくこともある。制約だと思っていることを分解したら、実は制約ってだいぶ減るんですよ。

それに、何かしらの条件を元にして物事を考えると、ただの問題解決になってしまうんです。それは「いつでも答えを出してくれる人」という役割にはなるし、飯の糧にもなりますけれど、面白みは無くなっていきます。いまは、広告代理店の人たちの姿を見ていても、どこか本職について真剣に考えすぎなんじゃないかと思いますね。広告屋さん同士で、「一番に考えるべきこと」についてばかりを考えているんじゃないですか。

自分に子どもが生まれたとしたら、子どもからの発見って、仕事への興味に匹敵する以上に山ほどあるはずですよね。子どもからいろいろ発見できる自分のほうが、どこかの部長の好みや機嫌を知っている自分よりも、ずっと役に立つんですよ。根本的に「自分とは何か」を考えても、肩書きだとか、キャリアだとか、そういうの取っ払っちゃったのが「自分」だと思います。

御用聞きで、制約を満たすマシーンのように仕事をしていくと、どこかで人間としてだめになっていくんじゃないでしょうか。その上で、仕事にも「嬉しさ中心」でやったほうがいいはず。自分が嬉しいと思えること、喜べることを、込めていくんです。

君は100円玉を捨てたことがあるかい?

会社経営者でもあり、部下を持つ立場でもある糸井さん。自らのクリエイティブマインドを、いかに教えているのだろうか。


「ちょっと面白くないね」っていう言葉は、残酷だし申し訳ないですが、使いますね。

なぜ今ひとつなのかをお客さんとしてまず受け止めて添削し、その上で「どうしてかな?」と一緒に考えます。自分でやっていることであれば「これは面白い?」と逆質問することもあります。

真逆のところから見たらどうか、もっと極端にしたり、引っ張ったり、叩いたり、重くしたり、色んなことを一緒にやって……そのうちに、「こうしたらちょっと気配が出てくるね」という瞬間に立ち会ってもらいます。大事なのは「物足りないもの」に対して正直になることかな。「これだと相手の顔がパーっと明るくなんないな」というのがありますよね。僕はいわば花束を差し出したいわけで。

あとは、「今、思いついたんだけどさ」というのがいっぱいあればあるほど面白くなる。そうじゃないと、予定通りに進んだだけになってしまうから。「今、思いついた」が、どれだけ持てるかが、一緒に旅する人としては、面白いんじゃないの?

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昔、こんなふうに教室を受け持っている時に、みんなに100円玉を出してもらって、「10分待ってるから、どこかへ捨てておいで」と思いついたんです。そういう時にだめなのは、電話ボックスの返却口のところに入れてきたりして、捨てないこと。ある女の子が「歩道橋から目をつぶって投げたら、トラックの荷台に落ちました。千葉ナンバーだったから、きっと私の100円は千葉に行くんです」って、そういう話が聞きたいでしょ。

法律的や倫理的には悪いことだと思います。自分の100円なんだもん。そういうことを思いついてやって、「面白かったです」っていう人は、その後も経験としてものすごく財産になるはず。どこかに隠して、「帰りに拾っていこう」みたいにしている人は、きっと一生そういうことをやってる。

この話を聞いて、100円玉を海に捨てる人もいると思うんだよね。それを考えただけでも、ワクワクする。お金って捨てたら絶対ダメなもの。それを海に向かって投げたことって、一生覚えてると思うよ。100円がそんな一生の思い出を作ってくれるんだからさ。

そういうようなことなんだよ、企画って。

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撮影:鈴木秀康


文 = 長谷川賢人


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