『Crono(クロノ)』は、若者が挑戦資金を得られて、将来社会にお返しをする。実質的に自己負担のない奨学金を提供するサービスだ。ギリシャ語では「時間」を意味するらしい。そこに込められているのは「限られた人生で“今”挑戦したいことに時間を注げる世の中に」という思いだーー。
若者の挑戦に対して資金を提供し、将来加盟企業へインターンシップや入社・勤続してリターンを提供する。そんな、実質的な自己負担のない奨学金を開発するのが『Crono』だ。
2019年6月15日まで第一弾の希望学生たちを募り、7月末には選考結果が発表される予定だ。
「中長期で若者を支える仕組みを慈善活動ではなく、持続可能なかたちで作りたいと考えました」
こう語ってくれたのが、開発した高瀛龍さん (コウインロン/30)。
「生まれた家庭の経済環境によって挑戦を諦める人たちがたくさんいる。それは、社会的にも損失だと思います」
経済的な理由で挑戦したいことを諦めなければいけない若い人たちの現状、そして彼の原体験に迫ったーー。
ー「Crono」ですが、とてもユニークな仕組みですね。取締役に参画されている家入一真さんはTwitterで2012年に立ち上げた「Studygift」をアップデートした「2.0」と位置づけていました。そもそも高さんが開発しようと思ったきっかけは?
このCronoはかつて立ち上げたstudygiftの再挑戦、studygift 2.0と僕は位置付けてます。studygiftは、経済的な理由で学ぶ機会を得られない若い子たちへの学費を、クラウドファンディングで集める仕組みでした。今でもその本質的な想いは変わっておらず、再度挑戦したい。https://t.co/P3Tk2uOFQH
— Kazuma Ieiri 家入一真 (@hbkr) 2019年5 月16日
僕より下の世代に同じ苦しみをさせたくないんです。
とてもシンプルな動機で。自分に娘ができ、その思いはさらに強くなりましたね。
じつは大学在学中、留学したかったんですけど、費用面で叶わなかったんです。それが、すごく悔しくて...。
当時、留学のために教育ローンを借りる選択肢もあったけど、もともと学費のために800万円ぐらい借りていて、それだけでも「本当に返せるのか」と不安もありましたし、そもそも家庭的に与信が通りませんでした。
就職してからも「もしあのとき留学できてたら...」と何度も思いました。新卒でコンサル会社に就職したのですが、海外プロジェクトで帰国子女のメンバーが高いパフォーマンスを発揮しているのをみると、自分も「あのとき留学できていたらな」と、自分の生まれた環境を恨んだこともありました。
さらに、毎月6万円、奨学金を返済していく。生活はカツカツの状態で、社会人になっても結局資金面の工面が大変でした。
奨学金の返済が足かせになって、自分のスキルアップやチャレンジになかなか踏み出せないなんておかしい。そんな憤りに似た気持ちがずっとありました。同じような思いを下の世代にさせたくない。
そんな原体験もあって、貸与型奨学金を借りている方向けのサービス構築も進めております。貸与型奨学金や教育ローンの借り入れをしている奨学生に向けて、返済を肩代りする企業とのマッチングプラットフォームです。
ー挑戦したいことがあるのに、経済的な理由で断念される人は多くいるのでしょうか?
まずは実態を把握するために、知り合いからの紹介を辿って奨学生にヒアリングをしました。
奨学生の多くには、なにかしら「やりたいことを断念した経験」を持っていて。僕と同じように留学にいきたかったけど行けなかった人とか、弁護士になりたかったけど学校に通うお金がなかくて諦めてしまった人とか。
実際に初回奨学金の応募者の方の中には、グローバルやDeepTechの分野など、今後間違いなく必要とされる人材分野にも関わらず、挑戦資金に苦しんでいる方がおります。
将来の社会を支えるのは、「今」頑張っている若い人たちだと考えております。
そういった方にすら挑戦資金が回っていないので国としても深刻な問題ですよね。日本は人口減少していく中で、今後生産性を上げていかないといけないので、人材育成を個人の自己責任で片付けていたら、国際社会のプレゼンスはどんどん下がっていくと思います。
ーー自分のやりたいことのお金は自分でなんとかする、ここはある意味で当然とも言えますよね。
そうですよね。「自分の挑戦するためのお金は自分でなんとかする」という考え方はすごく大事。ただ、まだ社会経験もスキルもない若い頃って、自分の時間を安く切り売りするしかない。ここが問題だと捉えています。なかなかお金にもつながらないし、自己研鑽をする時間も奪われて、時期も後ろ倒しになってしまう。
Cronoでは、若者には「今」挑戦すべきことには集中してもらい、成長後に社会に貢献することを目指しています。
ーー若者の学費や奨学金という分野は、なぜこれまで課題が解決されてこなかったのでしょうか?
一番大きいのは「学ぶ費用は自己責任」という世の中の風潮だと思います。「学費は自分で頑張ってバイトして、払いなよ」みたいな。
あとは、日本の公的な貸与型奨学金は金利が0.3%と海外と比べてとても低い。それが民間企業が「奨学金ビジネス」に参入できなかった、そして市場が育たなかった理由になってきたのではないかと捉えております。
日本にはそもそも奨学金マーケットがない状態で、前例がない。「貸金業法」だったり「労働関連の法律」も絡んでくる。だからこそリーガル面含め、弁護士さんと議論を重ねてきました。そこから考えたのが「Crono」のビジネスモデルです。
ーCrono(クロノ)は、学生が将来的に加盟企業への入社・勤続が条件となるサービスですよね。一部では「学生側の職業選択の自由を奪うのでは」といった声もあります。
おっしゃるとおりで、学生さんたちの選択肢を狭める可能性もある。「奨学金を返してもらうためにあそこの企業に入ろう」という思考になってもおかしくないし、「奨学金の返済」が学生を拘束するシステムにもなりえてしまう。ただ、それは“選択肢が少ない場合において”だと捉えています。
だからこそ、必ずクリアしなければいけないのが、加盟企業数を増やすこと。それぞれの業界で、複数社の選択肢があるようにしなければならないし、追うべきミッションと捉えています。
これから100社、1,000社と増えていけば、必ず選択肢は広がっていく。
ー加盟企業をどのように集めていったのでしょうか?
正直、そこが一番苦労しました。実は2年前からアイデアとしてはあったんです。だけど、いままでにない新しい仕組みですし、なによりいつ入社できるか分からない学生、いわば「原石」のために採用予算を組んでもらわないといけない。なかなか話が前に進んでいきませんでした。
ただ、認知と発信をし続けることで、メディアでも取り上げてもらえるようになり、「共感」が少しずつ生まれていきました。メリットはもちろん「Crono」の目指す姿を伝えていく。企業のトップに直接働きかけることで「同志」を増やしていっているところです。
ーーもうひとつ大きな問題として、資金を提供する学生への与信をどのようにとっていくのか?という部分があるかと思います。
学生側に対しては独自の与信スキームを作っていこうと考えています。いま考えているのが、個人の「人生計画書」です。
たとえば、企業が銀行などから融資を受ける場合、事業計画書を書き、融資可否を決めますよね。それの個人版をイメージしています。
将来どんなことをしたくて、それにいくら必要か。僕らとディスカッションし、プランをブラッシュアップしながら、資金提供を決めていく。
実際に走り出したあとも、企業さんにメンタリングというカタチで入ってもらえば、その人の状態や成績をフォローし続けることができます。いろいろな人の助言をもらって前に進んでいってほしい。
ーー…その与信で充分なのでしょうか? 信頼に欠けるといいますか。
たとえば、クレジットカードの利用状況をもとに、ブラックリストに入っていないかなど従来通りの与信をとる仕組みも可能だとは思います。ただ、それは僕らのやりたいことではないんです。自己投資や夢のために、クレジットカードを使っているパターンもあるでしょうし。
僕らの目指してるのはあくまで "機会の平等" です。性善説に立ち、やりたいことがある人が、平等にバッターボックスに立てるようにしていければと思います。
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