2019.08.16
豪華24名が「エロと創作」を語った!異色本『FANZA BOOK』企画のウラ側

豪華24名が「エロと創作」を語った!異色本『FANZA BOOK』企画のウラ側

石野卓球(電気グルーヴ)、呂布カルマ、姫乃たまなど総勢24名が「エロと創作」について語り尽くす書籍『FANZA BOOK』がスモール出版から発売された。ウェブ連載からスタートした同企画。担当編集者であるサカイエヒタさん(ヒャクマンボルト)に企画のウラ側を伺った。

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「エロと創作」難しいテーマをどう企画する?

2018年8月1日、すごい連載が始まった、と思った。

そのページを開くと、大きく描かれたティッシュボックスのイラストのすぐ下に、銃口のような黒目がふたつ。息が詰まるような視線を送るのは、ラッパーの呂布カルマだった。

「創作活動にエロはどれほど作用しているのか」を聞く記事だ。「リリックを綴るときに性欲が役に立つことはありますか?」という質問に、彼は答える。「いえ、むしろエロは邪魔になるんですよ」。現場の焦りが、じわりと伝わる。しかし、そこから変調し、記事は面白みを増していく──さらに以降も週に一人ずつ、骨太なインタビューが撃ち込まれた。

掲載媒体はFANZA Magazineの『TISSUEBOX』という連載。成人向けサービス「DMM.R18」が「FANZA」へリブランディングをした時期に開設されたウェブマガジンだった。その後も、石野卓球(電気グルーヴ)、鈴木涼美、故・ぼくのりりっくのぼうよみ、姫乃たまなど、総勢22名のクリエイターやアーティスト、文化人へのインタビューは続いていった。

このウェブ連載を企画・編集したのが編集プロダクション「ヒャクマンボルト」のサカイエヒタさん、高山諒さん。連載が大きなバズを呼び、スモール出版が書籍化を提案。菊地成孔、二村ヒトシへの追加インタビューを交え、2019年7月30日に書籍『FANZA BOOK』が完成した。

エッジの立った企画を実現させた裏側で、彼らはどのような思考を巡らせていたのか。今回は代表してサカイエヒタさんに、その要点を聞いた。

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【プロフィール】サカイエヒタ
1981年横浜生まれ。中野区在住。株式会社ヒャクマンボルト代表取締役社長。2011年に「MacBook Airで八宝菜を作る」という記事と動画が大ヒット。その後も、WEB制作会社、出版社、編集プロダクション、フリーライターを経て、2016年8月にコンテンツプロダクションとして株式会社ヒャクマンボルトを創業。WEB、紙媒体の一般的な編集業務をはじめ、ディレクションやコンテンツ企画、コンサルティング、地域活性プロジェクトの講師(青森県庁主宰)などを手がける。代表的な企画に、失恋するとカット代がタダになる「失恋美容室」など。2019年7月30日、初の編集担当本として『FANZA BOOK』(スモール出版)を発売。

素材を手に入れてから、本当の「企画」は始まる

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──『FANZA BOOK』すごくおもしろかったです!どのように企画はスタートしましたか?

『FANZA BOOK』の元企画は、FANZA Magazineで連載した「TISSUEBOX」という企画です。DMM.R18がFANZAへリブランディングするタイミングで、キャンペーン施策の一つとして始まりました。

お声がけいただいた時点では、「自社で運営するWebマガジンで、毎週、著名人がエロについて語るコンテンツを全22回で公開したい」というのが決まっていました。準備期間は約3ヶ月。公開後も「2回先の人が見つからない!」なんて危機もありながら、でも妥協はしたくなくて、走りきりました。

紆余曲折あって、テーマを「エロはクリエイティブの源泉なのか?」に定め、まずはミュージシャン、俳優、イラストレーター、漫画家など、ジャンルごとに「自分が話を聞きたい人」のリストアップからスタート。うちのスタッフだけでなく、FANZAさんのスタッフからの意見も伺いました。「書き手や聞き手が興奮し、前のめりに話を聞きたいという個人的な欲求が無ければ、長く同じテンションは保ちにくい」というのが、ヒャクマンボルトの方針なんです。

それで、連載の一発目にお会いしたのが、ラッパーの呂布カルマさんでした。でも、「エロはクリエイティブの源泉にならない、むしろ邪魔なくらいだ」という答えで(笑)。一発目で企画を根底から覆されてしまったんですが、ここは呂布カルマという男の「性」をとことん聞こうと切り替えて、自分たちの欲しい答えになんて話を持っていかずに、とにかく楽しむことにしました。

今でも覚えているんですけど、中野にあるクラブでの取材後、スタッフ全員得も言われぬ高揚感があって、飲んでいるのはジュースなのに瞳孔が開いてる感じになっちゃいました。現場にいる全員が手応えを感じていましたね。

やっぱり、「飛び抜ける企画」って、会議の議論や企画段階では出ないんでしょうね。僕らは編集者だから、生放送やイベントみたいなライブから起きた「生もの」を、いかに料理するかも仕事。編集者やディレクターを始め、企画をする人たちは、本当のアウトプットにたどり着くまでには「猶予がある」と考えても、僕は良いと思います。

取材する時も、現場から近いホームセンターやコンビニを知っておいて、臨機応変に何かあったらスタッフへ買い出しをお願いできるように準備します。「ちょっと丸太あったら買ってきて!」みたいに。それで、素晴らしい素材がそろっても上手くいかないこともある。逆に、不足している素材をなんとか工夫して強みにもできる。

要は、素材を手に入れてからが、本当の「企画」な気もします。

「自己開示」でリテラシーをそろえておくことで見えるもの

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──かなり異色な企画ですが、まずは何から取り掛かりましたか?

今回は仕事にかかる前に、さまざまなジャンルのAVを観まくりました。自分の「エロ」を客観視した時に、当然ながら、すごく偏っていたからです。普段、仕事を進める前に、扱うものが工業製品なら一応は歴史などを調べたりするんですけど、僕自身が「仕事としてのエロ」を体に取り入れられていなかったんですね。趣味趣向の数だけジャンルが存在するような世界ですから、そのカルチャーは意識して調べていました。

ただ、この連載はテーマが「性」だけに曲者で。自分が持っている「性へのリテラシー」って、本当にまちまちですよね。OKにできるラインも違えば、捉え方も好みも違う。だから今回は、まずは関わるスタッフの性癖やエピソードを明かして、「性へのリテラシー」を把握し合うようにしました。

ある程度の自己開示をして、リテラシーや価値観を知った上で、それでも取材にはそれを持ち込まないで臨もうと決めました。僕らは中学生のように無垢に驚きながら話を聞き、各々の価値観が強い「性」に対して、純粋な視線で捉えたかったからです。今回は、フェチシズムや特殊な性癖を持つ方もインタビューしたので、聞き手がそこで引いたりしないようにしたかった。いろんな「性」に対して興味があり、受け止められるようなスタッフで固めたいと考えたので、そういう進め方を取りました。

ただ、僕としては会議の場や関わるスタッフが「みんな同じオタク」だとうまくいかないこともあると思っていて。カメラの宣伝企画なら、一人だけ「韓流ドラマが大好き」みたいな人を入れておく。すると、「韓流好きがカメラを持ったら何に使う?」みたいに、企画に広がりが生まれますよね。ちょっと引いた距離から、カメラオタクと韓流好きの掛け合わせや共通性に気づくのが得意な人は、編集者やディレクターに向いているのかなと思います。

あと、チームにいなくても、「友達にいる」のもいいですね。たとえば、ある新規オープンの美容鍼サロンのブランディングを担当しているのですが、ホームページ、ビジュアル、メニューまで僕が考えていて。美容鍼には行ったことがないから、自分も経験しつつ通っている友達10人くらいにヒヤリングしていくと、知らないこともわかってすごく面白いですしね。

仕事柄もあって知り合いはたくさんいるので、常に「あの人はこういうのが好きだったな」とストックに入れておくんです。今日みたいに「この前、サウナが好きなライターさんが取材に来たぞ」とか。初めてお会いした時からストックしておいて、自分が知らないことは、まず友達に聞いてみるというのはよくやります。

「友達がたくさんいる編集者」って、強いですよ。自分が全ての知識を持たなくても、知識を持っている人とつながっていることも、ひとつのスキルなのかもしれませんね。「インターネット的」な考えですけど。その代わり、僕も誰かに聞かれたら全力で答えたいとは思っています。

この変態な世の中で「君になりたい」が刺さっていく

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──連載企画から『FANZA BOOK』までを通じて、新たに気づいたことなどはありますか?

『FANZA BOOK』にも掲載していますが、ビジュアルアーティストの古賀学さんがおっしゃっていたのが、「僕が作品を作りたいと思うのは『君になりたい』という感覚と同義」だと。

たしかに僕も「その人になりたい」という感覚が、企画や取材で関わるものに感じるときがあって。「その人になりたい」って、文字通りだと気持ち悪いかもしれないけど、世の中で何かを作り上げる時に、その感情は色んなところで作用していくはずです。そして、僕はそれを「愛情」だと思う。あぁ、君になりたいという愛情は強いな、と。

特に僕は14歳で『新世紀エヴァンゲリオン』に出逢った世代だから、「君との境界をなくして一緒になりたい」って思想を、庵野秀明さんに刷り込まれたんでしょうね(笑)。その呪いが解けていないまま、クリエイターをしている人も多いような気もします。

たとえば、記事を作っていると、一瞬だけでも「石野卓球」になれる瞬間があるんです。インタビュー記事だと特に、相手を憑依させて文章を書くじゃないですか。自分に卓球さんを降臨させて、「卓球さんだったら、この文章のつなぎをどうするのかな?」って考えるとき、僕は自然と卓球さんになっている。

その上で、「石野卓球さんファンの方々にどんな風に言われたいか」も考える。今回の記事なら、「さすが石野卓球!俺らの卓球は違う!」でした。性がテーマだけに期待はしていましたけれど、卓球さんのぶっ飛んだところや、人とは違う視点をいかに入れ込めるか。大きなプレッシャーでしたが、結果的にはファンの方々にも「良いインタビューだった」と好評でした。制作チームにもお褒めのコメントをいただいたのですが、何よりも「やっぱり石野卓球はすごい」という反応が出ていたのが嬉しかったですね。

でも、これって、企画の全てにも言えるのかもしれません。記事に触れる人、商品を使う人みたいに、あらゆる「その人」になって何かを生み出していく。もっと言うと、「その人」の「どこの要素へ当てるか」を考えていく。

今は、瞬間ごとにみんなが「変態」していく世の中です。SNSはもちろんのこと、さっきまでは男の子だったけれど、ある場では女の子になったりもする。一人の中にも「人格の多様性」を出していい時代になったな、と思うので。

「広がる場所」から逆算して、反応を言語化しておく

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──『FANZA BOOK』に限らず、企画で大切にされていることは?

記事だけでなく、キャンペーンやブランディングでも、企画を立てるときには「最終的な反応」をテキストにしておきます。「これはやばい!」とか、「流石にそれはないでしょ」とか、拡散される時にひっつく言葉やコメントを想定しておくんです。

今回の連載企画なら「懐かしい!俺もエロ本の自販機に走ったわ」みたいに、欲しい言葉をその都度、決める。そこへ対して、どういうネタが当てられるのかを考えていきます。

言い換えると、最終的な反応を決め、それに対する実現可能な企画を立て、実現出来ないのなら形にしない。この考え方は、たしかなんかのビジネス本で読んだのですが、Amazonがプレスリリースを作ってから商品企画を詰めるという「逆算思考」を参考にしています。

その上で、「広がる場所」によって、コメントの内容は似かよるとも思っていて。ここでいう「場所」は、Togetterにまとめられたら、noteで拾われるなら、若年層寄りのTwitterで広まったら……といったように「場所」として生まれやすい言葉がある程度は見えるんです。

もちろん、それはネットだけじゃなく、テレビの地上波放送だったり、イベントへ来るお客さんの表情だったりもします。それらを想像しておくのが、僕らの仕事にとってのメインといえるかもしれません。

常日頃から色んなコンテンツを見て、その「場所」ごとの広がり方や炎上の起こり方を常に見ていますね。その時は「母数」などの数字を見ることはあっても、全て信じ切っていない節もあります。自分が届けたい場所には反応する人が絶対にいる!という感覚を大切に、どこかで「いないとしても俺が引っ張り出してやる」とさえ思っています。

あとは、その「場所」において、別の場所の「カリスマ」や「象徴的な物」をミックスさせておく仕掛けは結構やります。たとえば、軍事系のクラスタにも刺さるように、登場人物に持たせる武器には異常にこだわっておくとか。そうすると、リーチできる範囲が広がるんです。

起きうる反応を想像しているから、メディアに提供するための素材も準備しておきます。新しくオープンする店舗のPRなら、「夕方のニュースで5分くらい取り上げられる」という映像をゴールとして設定し、顔出しできる女性を体験者役に入れておき、定点でGoPro動画を撮っておこう、とか。

最終的なアウトプットが、どういうふうに世の中へ広がるかを予測して、用意しておくんですね。それで、海外メディアから取材が来たり、今回みたいにWeb連載が『FANZA BOOK』として本になったりと、想像以上の反応があると「ラッキー!」って感じです。


取材 / 文 = 長谷川賢人


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