2019.12.10
DAZNが変えるスポーツ観戦、その現在地と未来|GOAL編集長 大川佑

DAZNが変えるスポーツ観戦、その現在地と未来|GOAL編集長 大川佑

スポーツの見方が変わってきた。特にサッカーは、ネット配信、SNSでの動画公開、リアルタイムのビデオ審判など変化が著しい。サッカーメディア「Goal.com」日本語版の編集長である大川佑さん(『DAZN』ソーシャルコンテンツ制作兼務)に、さらなるスポーツ観戦の盛り上がりのために次世代の「メディア」が出来ることを聞いた。

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スポーツは、メディアは、テクノロジーでどう変わっていくか

渋谷某日。

あるスポーツカフェを訪れると、壁一面のプロジェクターでサッカーの試合が流されていた。

J1リーグの試合だが、リアルタイム放送ではない。

スポーツ中継サービスの「DAZN(ダゾーン)」が入ってきてから、サッカーならJ2やJ3の試合も、すべて好きなときに見られるようになった。

サッカーファンにとっては、テクノロジーで「体験」に大きな変化が起きたのだ。

スポーツ配信サービスのDAZNでは、数々のスポーツメディアを展開している。大川佑さんが日本語版の編集長を務める「Goal.com」もその一つ。さらに大川さんは、『DAZN』の配信以外のコンテンツ制作も兼務する。

サッカーや、日本のスポーツがさらに盛り上がるために、テクノロジーやメディアが担える役割とは何だろう。

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【プロフィール】大川佑
Goal.com』日本語版編集長。系列のスポーツ動画配信サービス『DAZN』のソーシャルメディアコンテンツ制作を手がける責任者も兼務。

DAZNが変えた情報発信

ラグビーW杯が盛り上がってましたけど、サッカーにもかつて同じような瞬間があったんです。

1994年のW杯出場を懸けたイラク戦での「ドーハの悲劇」は、深夜帯でもテレビ視聴率が非常に高かったそうです。つまり、国民的スポーツに成長していく段階において、一際輝く瞬間はある。

W杯出場が当たり前になってしまったサッカーにその「輝き」を感じる機会は減ってしまったかもしれなくとも、違う形で見せていきたいですよね。

手前味噌でもあるのですが、DAZNが入って来たのはスポーツにおいても大きな変革だと思っています。Jリーグさんとも協力し、さまざまに行動を興しているところです。

いつでもどこでも試合を見られるだけでなく、サッカーでいえば放映がなかったJ3の試合まで観戦できるようになりました。さらに、カメラ台数を増やし、イングランドサッカーのトップリーグから指導者を招いて、映像の作り方から変えているんです。

加えて、メディア業界に多少なりともインパクトがあったと思うのは、インターネットへの映像の開放ですよね。

──ゴールシーンの切り出し動画などDAZN公式で発信されていますよね。

それらのTwitterやYouTubeといったものへの発信を、ウェブメディアがコンテンツとして使えるようになりました。文字に映像が合わさって記事が立体的になったのは、DAZNが到来してからの明確な変化で、サッカーにとっては大きな出来事だったといえます。

──テクノロジーの進化は、サッカーの視聴や観戦体験も変えていますか?

最近の変化では、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)は一つですね。賛否両論ありますが、基本的には導入される方向ですし、判断基準がしっかりしました。見る体験としてストレスがあるのは、正直否めない部分ですけれど……。

あとはラグビーW杯を見ていて面白かったのは自由視点の映像ですね。

ただ、コスト面が非常に高いとも同時に聞いています。大量のカメラと、大量のデータを処理しないといけないですから、導入できる会場は限られてしまうでしょう。

視聴体験では、イスラエルにあるベンチャー企業の「WSC Sports」が開発している技術が面白いです。試合中でもリアルタイムにゴールシーンだけを自動で抜き取って、クリップできるんです。

おそらく、ゴールが入ったタイミングでタイムスタンプが押され、その前後を含めて映像が切り取られてストックされる。昔なら映像編集者が秒数を指定して、編集ソフトで切り抜く作業が必要だったのが、全てオンラインで完結するわけです。当然、試合後すぐにゴールシーンだけをSNSにアップできます。

さらにすごいのが、コンピレーションも自動的につくってくれること。たとえば、「今シーズンでの特定の選手のゴールシーンだけを集めたい」となれば、数分で自動的に編集され、動画ができあがるんです。

スポーツコンテンツは「鮮度が命」という面もあります。次の試合までの賞味期限が短く、要求されるタイミングも早い。選手が次の試合で怪我をしてしまえば、動画も出しづらくなってしまう。これまでも1週間以内くらいのタイムスパンで動いてきましたが、もっと早められるテクノロジーは、メディアにとってもです。

なにより、編集者のリソースをストーリーテリングに割けます。面白い文脈を持つコンテンツを、より早く作りやすくなるんじゃないでしょうか。

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アスリートやチーム自らがメディア化する

──海外などで、面白い動きや仕組みを持つスポーツメディアはありますか?

日本でも起きつつある現象ですが、ニュースだけに頼らない非正統派なメディアが増えました。SNSだけで展開していたり、批評眼が優れていたりします。

たとえば、長文コンテンツで有名なBleacher Report(ブリーチャー・レポート)やCOPA90などは分析や考察が面白く、英語圏での発信なので世界的にアクセスを集めやすい。コアなファンのニーズに応えるような記事やメディアでも、英語圏だと分母的に成立するんですよね。

アスリート自身が発信するケースも多くなってきました。国内でも、浦和レッズの鈴木大輔さんが対談メディア「HISTORIA」(ヒストリア) を立ち上げたり、ヴィッセル神戸の那須大亮さんがYouTuberになったり。

SNSを含めたアスリートのメディア化、あるいはクラブ自体のメディア化が進む中で、ウェブメディアがいかに変化を遂げるかは……まだ答えがなく、発展途上じゃないでしょうか。

デジタルメディアとマスメディアの関係も変わっていけるといいですね。デジタルは「好きな人に好きなものを届ける」、マスメディアは「新しい出会いを提供する」ために最高の場です。もし、ラグビーW杯がデジタルメディアでしか展開されていなかったら、ラグビーファンしか見ていなかったでしょう。

専門的なメディアの特技と、網羅的なメディアが持っているリーチ力の違いを理解して、お互いにうまく補完しながら付き合っていきたいです。

──あるいは「パッケージに戻る」という流れもありえますか。

一周回って、パッケージしたウェブメディアもいいかもしれません。載せるもののセレクトが評価されるようなメディアが出てきてほしいな、と。

最近、別のサッカーメディアの方と飲んでいて、「改めて基礎のおさらいをしたら好評だった」と聞いたんです。情報が「点」になるとハイコンテクストになりがちですから、基礎から理解してもらえるコンテンツも、より必要なのだと思わされました。

Jリーグでさえ、とてもハイコンテクストになっていて、新参者にはハードルが高くなっていると思います。これまでの文脈があるからファンが離れない、という考えも大切なのですが、外側からその文脈に入るのには、大きな努力が必要になるじゃないですか。

ジャーナリスティックな面も欠かせないのですが、その分断を埋めるようなコンテンツを、クラブやリーグからスポンサードしていただいて、つくっていくのもいい。メディアだけでなく業界も一緒になって、まだまだ新しい人に入ってきてもらうきっかけをつくらなければと考えています。

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サッカーが持つ「つながり」の価値

──あらためて、大川さんが仕事に選んだ「サッカー」の魅力は、なんだと思いますか?

難しいなぁ……なんですかね(笑)。一言では難しいけれど、僕にとっては「つながっている感覚」ですね。

学生時代のほとんどを海外で過ごしてきたのですが、サッカーを見ることを明確に意識したきっかけがあるんです。イギリスにいた頃、英語があまりしゃべれませんでした。コミュニケーションが取れない中で、サッカーが共通の話題になって、すぐに友達ができたんです。僕も草サッカーはするので、うまくはないですけど、プレーする喜びもあります。

──サッカーがグローバルスポーツゆえに、見聞きすることやプレーすることが共通の話題となると。経験が直接的に世界とつながりやすいものって、あまりないように感じます。

世界の縮図だなって思うことはありますね。特にヨーロッパでは、クラブ間の試合は「都市間の代理戦争」だという人もいます。ヨーロッパは都市国家が多かったですからね。

あっ、つながりで思い出した。僕のTwitterアカウントは25000人くらいフォロワーがいるんですけど、そのうち1万人がペルー人なんです。

──なぜペルーなんですか?

僕のTwitterアカウントは3文字で「@tas」なんですが、スポーツで起きた問題を解決するための「スポーツ仲裁裁判所」が、スペイン語だと「TAS」と略されます。2018年にパオロ・ゲレーロというペルー代表の国民的選手が出場停止になりかけたとき、サポーターたちが「@tas」に文句を言いまくったんですよ。つまり、僕のアカウントなんですけど(笑)。

それにリツイートで「違うよ」みたいに返事をしたら、ペルー国内でバズり、ペルーのラジオ局などから取材が舞い込んで。僕も調子に乗って、渋谷のペルー料理屋さんで食事している写真をTwitterにアップしたら、その内容が翌日にはペルーのテレビに映っていて。

──ペルーの人たち、ノリが良い!

あと、フォロワーのうちの8000人はスペインのアトレチコ・マドリードのサポーターです。これも彼らが「@tas」でTASへ抗議し、それに返答をしたら、マドリードでバカ受け。最後にはスペインのある新聞社からインフルエンサーとして呼ばれて、スペインへ無料で行ったんです。新聞の見開き2ページに僕が載りました(笑)。その縁で、アトレチコ・マドリードのサポーターズクラブで代表を務めることにもなりました。

その騒動はスペイン国内で結構広まったみたいなんです。ある時、サガン鳥栖にフェルナンド・トーレス選手が移籍してきたので取材へ行ったら、会うなりトーレスさんから「あれ?@tasでしょ?」って、いきなり話しかけられました。

──まさかのトーレスさんに顔パス。

僕も知っているとは思わなかったので、びっくりしました。あぁ、サッカーって、やっぱりコミュニケーションであって、つながりなんだなって、あらためて思いましたね。

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>>>「メディアは、どこまで「スポーツの物語性」を伝えられるか」に焦点を当てた後編はコチラ


編集 = 白石勝也
写真 = 黒川安莉
取材 / 文 = 長谷川賢人


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