コルク 佐渡島庸平さんによる、自分と相手との「ズレ」に気づけるワークショップの様子をお届け。思考力のトレーニングや、フィードバックの質向上にも効果的! ぜひ、チームの仲間と一緒に実践してみてはいかが?
※本記事は、自分の企画で世の中を動かしたいプロの編集者を育成する『コルクラボ編集専科』(全6回)の講義内容をキャリアハックで再編集したものです。『コルクラボ編集専科』とは、コルク 佐渡島庸平さんが主宰する編集スクール。佐渡島さんだけでなく、出版業界・WEB業界の一流編集者たちが講師をつとめます。
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今回の『コルクラボ編集専科』では、「DoubRing(ダブリング)」という思考トレーニングが行なわれた。DoubRing(*)とは、「理想と現実」「生と死」といった2つの言葉の関係を、私たちが頭の中でどのように捉えているかを2つの円で表現するコミュニケーション手法のこと。
「みんなが言葉をどう定義しているのか、自分と相手とのズレに気づくきっかけにできたらと思います」と、講師の佐渡島さんは言う。
言葉に対する概念や定義って、人によって本当にさまざまだと思うんです。たとえば僕がいま「男性」と言ったとして。人によって思い浮かべる「男性」のイメージは違うはずです。筋肉質な人、細身な人、短髪の人、長髪の人……。
「男性」という1つの言葉だけでもズレるのですが、「男性と女性」と2つの言葉を使った場合、その関係性はより複雑に絡み合う。
たとえば「男女って全く別物だよね」と思っている人もいれば、「重なる部分もある」と思っている人もいる。さらには「女性の方が偉い」といったように、どちらか一方を大きい、強い概念で捉えている人もいるかもしれない。
図にすることで、自分と相手の捉え方がどう違うのか、そのズレが見えてくるはず。今日はこのDoubRingが、「相互理解」のきっかけになればと思っています。
もう一つ、DoubRingは「思考力」を鍛えることにもつながります。
普段何気なく使っている言葉を自分の中で定義、言語化し、相手に伝える。具体的な事象として捉えたり、抽象概念として捉えたりするわけですから、「具体化と抽象化」のトレーニングにも効果的です。
後に出てきますが、たとえば編集者が作家さんの作品にフィードバックするときにも役立つと思います。どうしても抽象的な感想にとどまってしまう人がいれば、ぜひ活用してみてください。
(*)DoubRingは、細谷功氏が提唱するもの。
▼参考
・DoubRingへようこそ!(www.DoubRing-j.com)
・『「無理」の構造 ―この世の理不尽さを可視化する』(著:細谷功)
今日は「編集」に関わる言葉で、いくつかDoubRingをしてみたいと思います。
その前に、ためしに「失敗」と「成功」を例に考えてみましょう。それぞれの単語を、2つの円で表現するとどんな関係になりますか?
失敗の中に成功が包括されているパターン3、小さな失敗と大きな成功が交差するパターン8など、人によって選ぶパターンはバラバラだと思います。
ちなみに僕は、同じ大きさの円がぴったり重なり合っているパターン6を選びました。
経営者は結構、包括型(パターン3・6・9)を選ぶ人が多いそうです。僕も「失敗と成功って紙一重だよね」「運みたいなものだよね」と思っている部分があって。
ここですごく重要なのが、どの考えも「全部合っている」ということ。自分の選んだパターンが少数派だったからといって、間違っているなんてことはありません。
最初のお題は、「編集」と「企画」。半年間一緒に「編集と企画」を学んできたメンバーだったが、結果として、言葉の捉え方は皆バラバラだった。
「編集」と「企画」は別物なのか、交わるのか、あるいはどちらかに包括するのか。まずは自分で考えて、そのあと周りの人と話をしてみてください。
どうですか?
「編集」というのは概念のことなのか、日常の業務のことなのか。その捉え方が違うだけで、大きなズレが出てきますよね。
ちなみに僕は、パターン3でした。「編集」を大きな概念として捉え、編集という行為の中に、企画という行為があると捉えています。
<受講生の回答例>
パターン2:編集者に必要な「能力」として捉える。「編集力」と「企画力」がそれぞれあり、大きな編集力のと小さな企画力が交わりつつ存在しているイメージ。
パターン3:編集者の「タスク」として捉える。企画を実行することも編集者のタスクに含まれるイメージ。
パターン5:編集を「料理」、企画を「素材そのもの」と捉える。コンテンツによって素材そのもので勝負することもあれば、料理をしてから出す場合もあるため、重なりながら同じ大きさで存在しているイメージ。
いまここにいるのは、ほとんどが「編集者」ですよね。しかも、半年間一緒に「編集」や「企画」について考えてきた仲間です。それなのに、こんなに大きな違いが出る。
同じ編集者でもこれだけ違うのですから、とくに職業の違いは大きなズレを生むと思います。この講義も、編集専科という名前で編集者の僕が話をしているわけですから、やはり「編集」を大きく捉える人が多い。
もし企画に携わる人が集まる講義で同じことをしたら、「企画」を大きく捉える人のほうが多いと思います。
たとえば、プロジェクトの進め方や役割もそうです。広告代理店のクリエイティブディレクターがトップに立てば、その下にデザイン会社やコルクのような編集チームが入る形になる。一方でコルクが主体になって動かすプロジェクトであれば、「編集」は上位概念にくる。誰がトップに立つかで、言葉の概念は大きく変わってきます。
一緒に作品づくりをしている作家さんとも、必ず言葉がそろっているわけではないと思ったほうがいい。「ちょっと演出が弱いですね」と言ったときの「演出」の捉え方は一緒なのか。まずは互いのズレを認識し、言葉の定義をすり合わせるところからはじめるといいかもしれません。
次に行なわれたのは、DoubRingを用いた「フィードバック」のワークだ。
今度は、コルクの漫画家さんが描いた作品を、DoubRingで分析してみましょう。物語のキーワードになる言葉を僕のほうで抽出したので、先ほどと同じように、いずれかのパターンに当てはめてみてください。
当てはまるパターンが見つかったら、次は「どのシーンやセリフでそう感じたのか」「もっと分かりやすく描くには、どんな要素を追加するといいか」を話し合ってみましょう。
どうですか。きっと、DoubRingに当てはめずまっさらな状態で作品を読むよりも、具体的な感想が言えると思います。
というのも、基準のない状態で感想を言うってすごく難しいんですよね。その作品を、そもそもどう読めばいいか分からない。
社内でもフィードバック会を開いたことがあったのですが、本当に全然ダメで。どうしたらこの漫画のコンテンツやコンテクストをもっと強くできるか。具体例がひとつも出ず、まったく議論に発展しなかったんです。
そういった意味で、キーワードに当てはめて作品を分析するのは非常に効果的だと思います。
たとえば「仕事」がテーマになる物語なら、「家庭」といった対になる言葉を当てはめて2つの関係性がどう描かれているか見てみる。そうすることで、仕事と家庭が完全に分かれたパターン4で描きたいなら「このシーンは不要じゃないか」「このセリフはもう少し強調したほうがいいのではないか」といった具体的なアドバイスができるんじゃないかなと。
感想というものはぼやけていて、抽象的になりがち。今日のような具体的なフィードバックができれば、作家さんにも信頼してもらえると思います。ぜひこういった型を使って、フィードバックの精度を高めていけるといいですね。
2019年7月よりスタートした『コルクラボ編集専科』も、今回が最終回。半年間の講義を、佐渡島さんはこう振り返る。
最後に実践的なワークショップを持ってきたのには、じつは理由があって。
「すぐに行動に移せる学び」を届けたいと思ったんです。
LINEの桜川和樹さん、スピカワークスの鈴木重毅さん、編集者の小沢一郎さん、小学館の畑中雅美さん。プロの編集者の講義は、ものすごく刺激になったと思います。
でも、具体的な行動に落とし込むところまでは、なかなか難しかったのではないか。僕の中で、少し反省している部分があって。
講師の話を一度抽象化し、自分自身に当てはまる別の具体に置き換える。この「具体化と抽象化を行き来して実践にまで落とし込む」という作業は、トレーニングが必要だと思います。さらに今回編集専科には、小説、雑誌、漫画、Webコンテンツなど、さまざまな分野の編集者が集まってくれました。
現場にいる人もいれば、いない人もいる。経験豊富な人もいれば、編集者になったばかりの人もいる。講義では「編集」と「企画」、「コンテンツ」と「コンテクスト」などの言葉を共通言語のように使ってきたけれど、皆さんの中に、認識のズレがあったんじゃないかな、と。
だから今回は、相互理解や思考力を深めるためのワークをメインにした。少しでも、何か皆さんの行動のきっかけになればと思ったんです。
僕としては、ただテンションが上がる場ではなく、行動につながる場をつくりたい。いかに実践に結びつく時間を提供できるか。これからも、科学していければと思います。
文 = 長谷川純菜
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