話題の教育系スタートアップ《schoo》開発チームに、昨年からのサイトリニューアルを振り返ってもらうインタビュー。後編では、彼らがリニューアルを通じて改めて痛感したという“リアルタイム配信サービス”の難しさとポイントについて語ってもらった。
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話題の教育系WEBサービス《schoo》開発チームが、“サイトリニューアル”から得た手応えとは[前編] から読む
― やはりリニューアルで最も力を入れているのは、“生放送授業のページ”なんですね。
中西:
僕らが一番重視しているのは、一度“生中継授業”を見てくれた人が、再度、授業ページを訪れて、リピートしてくれる確率なんです。で、リニューアルを経て、現状のリピート率が84%あります。この数字は、僕らとしても、わりと自信をもっていい部分かなと思っていて。
― その数字はすごいですね!
森:
schooというサービスを通じて僕らが提供していきたい価値を最も色濃く反映させられるのは、やっぱり、生放送授業ページのUI・UXなんです。
受けたいボタンなど各論のお話をしましたが、今回のリニューアルを一言で表すならば、「ユーザーさんに、もっとschooというサービスに近づいてもらう」ための変更なんですね。
それまでのschooは、僕らが作ったコンテンツを発信していくだけのサービスでした。でも学校って、生徒が質問したり、居眠りしている人がいたり、たまたま隣に座った子が好きになったり…そうした“コミュニケーション”や“つながり”や“動き”が、複合的に合わさった上に成り立っているものです。
僕らはそんな学校の姿を、インターネット上に実現したいわけで。だからこそ、ユーザーさんにもっと入ってきてもらえるような仕掛けを加えて、ある意味、学校の“カオス”な部分を体験できるようにする、ということに徹底的にこだわったつもりです。
篠原:
着席ボタンが、授業終了間際に押されたりしてね。
森:
そうそう、それこそやっぱり「学校」っぽいんだよね(笑)
― リニューアルを経た現バージョンに対して、課題を挙げるとすれば?
中西:
山ほどありますよ。実際、僕らが目指しているサービスの20%も実現できてないと思います。
森:
さっきお話した「ユーザーさんにもっと近づいてきてもらうようにする」という部分ですが、例えばチャットに積極的な方が増えたとはいえ、まだまだ限られた一部の方じゃないですか。もっと敷居を下げて、もっとたくさんの人たちに、僕らのサービスの最も“セクシー”な部分を体験してもらいたいんです。そのためにはどうすればいいのか、逆にもっと多くの方が入ってきてくれたときに、現時点でのWEB授業の面白さを担保できるかどうか、全員で議論を続けつつ、上羽・篠原が中心となって開発を進めているところですね。
― その観点でみて、注目しているサービスはありますか?
上羽:
最近改めて「アメーバピグ」がスゴイなあと思ってます。どんどんバージョンアップしてるんですよ。で、schooのような生放送っぽい機能もあって。YouTubeのリンクを貼ると、ピグが集まっている場所でリアルタイムに再生されるんです。「ピグチャンネル」というサービスなんですが、みんなで映画やライブをみている感覚を、WEB上で実現しているんですね。さらに、盛り上げるための「いいね」のようなボタンもついていて。これが実に楽しいんです。
中西:
僕は、ソーシャルゲームの“非言語的なコミュニケーション”に可能性を感じています。例えば「パズドラ」。パズドラって、プレイ毎にまず自分の“チーム”を作るじゃないですか。(※チーム:ダンジョンを攻略するために結成するパーティのようなもの)
その際、実際のパズドラユーザーの中から、何人か自動でサジェスチョンされるようになっていて、そこから自分のチームに加えたい人を選べるんですね。で、ダンジョンでのバトルが終わると、先ほどチームに加えた人に対して「フレンド申請しませんか?」と促される仕組みになっています。一切テキストを入力することなく、別のユーザーとの“つながり”を作ることができるんですね。
例えばニコニコ動画の場合だと、“書く”という行為を通じて盛り上がるところにカタルシスがある。ただ僕らが同じことをやっても、単なる二番煎じになってしまうわけで。ニコ動とは違う形として、“ユーザー同士の非言語的なコミュニケーション”という部分には大きな可能性があるんじゃないかと思います。
― 少し話を戻しまして、生放送授業への再来訪率が84%。やっぱりこれ、そうそう出せない数字だと思います。しかも、コメントやチャットといったユーザーのアクションも活性化している。一番の勝因は何だと考えていますか?
森:
schooが掲げている「WEBに誕生した、学校の新しいカタチ」というコンセプト、“schooはこれまでの学校を進化させていくような、世の中の人から卒業をなくすような、新しい学び場である”というコンセプトをチーム全員で共有できたことだと思ってます。
デザインもプログラミングも、コンテンツに関しても、全員が同じ目線で同じUXを追求したからこそ、他にはない学びの体験を提供できているんじゃないかと。
中西:
一つ言えるのは、僕らの場合、何をするにしても、とにかく納得するまで妥協せずに話し合っているかもしれないですね。「とりあえず作ってみよう」という進め方をすることは、ほぼないです。一般的に“スタートアップ”と聞いて想像されるような、手を動かすことを優先する進め方とはあり方が少し異なるかもしれませんね。
篠原:
僕と上羽がYahoo! JAPAN出身というのも大きいかもしれません。僕ら2人は、ある意味スタートアップ慣れしてなかったんですよ。自分たちの中には「とりあえずやってみよう」という文化がそもそもなかった。
で、schooにもそのやり方が根づいていって、結果として、皆さんに評価していただけるサービスを生み出す土壌になっているんじゃないかな。
中西:
議論して決めたことでも、作り始めて「やっぱり違うな」となることもありますよね。その「やっぱり違うな」という意見が、僕らのやり方だと許容されやすいかもしれないですね。
森:
事実、リニューアルの改修作業が始まってから、僕がいきなり「録画授業のサービスをやる」って言ったんですよ。立ち上げから一貫して「録画はやらない」と言ってきたにも関わらず。
― なぜ録画をやろうと?
森:
長期的なユーザー数の伸びを試算して、このペースだと危ない、と。で、もっとユーザーを増やすにはどうすればいいかと考えたときに、やっぱり録画授業というストックコンテンツが必要だと判断したのが一つです。
もう一つは、僕らがユーザーさんに提供したいのは“コンテンツ”ではなく、“コミュニケーションの体験”なんだ、という部分を突き詰めて考えた結果です。
そもそも録画をやってこなかったのは、ユーザーさんに先生や他のユーザーさんとのやり取りを体験してほしいと考えてきたからです。でもニコニコ動画みたいに、生放送のときのタイムラインを録画授業に同期させて、いつ見ても生放送に参加しているようなリッチな体験を作ることができたら、時間的制約にしばられずとも、みんなで“つながり”を感じながら学ぶ楽しさを体験できるんじゃないか、と。
上羽:
あのときも、かなり議論したよね。「普通に録画放送するのは違う」「それじゃYouTubeと同じじゃないか」って。
結果的に現在の「生放送のときのタイムラインを、録画授業に擬似同期させる形」になったわけですけど、これができなかったら録画はやらなかったかもしれないよね。
― なるほど。schoo成長の大きな要因の一つに、録画放送に踏み切った決断があったんですね。
森:
ええ、それも一つです。ただ、逆説的な言い方になりますが、最終的には「生放送授業にフォーカスしよう」という方向に振り切っているんです。
録画とかいろんなことをやるんだけども、僕らが追うべきなのは、生放送の参加者数だと。その数字が伸びていれば他の部分も引っ張られて必ず伸びてくるから、そこに集中しようというふうにチームで目線を合わせたことが一番大きかったかもしれません。
― なぜ改めて「生放送」に注力しようと?
森:
それこそがschooの独自性だからです。世界中をみても、オンラインの生放送授業と、そこから生まれるコミュニケーションに軸足を置いて提供しているのはウチだけだ、と自負しています。そして僕らのサービスの一番のポイントは、“学び”というコミュニティの中で、ユーザーさんがどんどんコミュニケーションをとって活性化している状態を、高い状態で維持し、多くのユーザーさんを滞留させるところにあると考えています。
その強みをよりとがらせていくためには、生放送にフォーカスしたほうがいい。自分たちが本当に強いと自信を持っているところで、一点突破するんだ、と。
中西:
録画は録画で、ものすごく効果はありました。PVも2倍以上になっているし、直帰率も10%程度になっているんですね。ほとんどのユーザーが直帰せず、何らかのコンテンツに回遊しているんです。そういう意味でもすごく効果はあったんですけど、でも実際にやってみて、改めて「僕らが本当に追うべきものではないんだな」と分かりました。
やっぱり生放送の授業を見て、リアルタイムに「着席しました」のコメントが出たり、誰かの質問に先生が反応して、「僕も聞きたかった」「私も聞きたかった」ってコメントがどんどん投稿されて。
それこそが、森がよく言っている“schooの最もセクシーな部分”であって、そこにフォーカスしたことが僕らの成長の一番の要因なんじゃないかと思います。ユーザーさんにとっても、分かりやすくなったんじゃないかな。「schooって何?」と言ったときに、「生放送の授業を見るところだ」って。
― マーケティング面の戦略変更だったり、そういった部分は?
森:
もちろん、テクニックベースのアクションも、細かい部分ではやってはいますよ。ソーシャルボタンの文言を変えたり、ボタンの色を変えたり。
でも、それは本質ではないと思ってます。僕らのサービスのコアな部分を体験してくれれば、84%がリピートしてくれるんです。その自信があるので、あとはそのコアな部分をどれだけスピーディに、スマートに当てていくかだけを徹底的に考えるべきだと思っています。そうすれば、クチコミで絶対に広まっていくはず。
実際、CAMPFIREやラクスルといった会社では、社内研修でschooの動画を使ってくれているそうです。それから元ソーシャルランチの上村康太くんが、今Donutsという会社で経営企画室長をやっているんですが、schooで配信したグロービスの授業を社内で共有してくれたりもしていて。徐々にではありますが、ソーシャルメディアで話題にのぼるだけでなく、会社の中のような“リアルな場所”でのクチコミも起こってきています。
― たしかに、ソーシャルメディアの話題って一過性のものになりがちですよね。人から人への“リアルなクチコミ”を起こせていることこそが何より重要だと、以前、「ドットインストール」の田口元さんも仰っていました。今日は、WEBサービス運営の“本質”に迫るお話を伺えたと思います。貴重なお話をありがとうございました!
(おわり)
編集 = CAREER HACK
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