ローンチ直後の好調な滑り出しから一転、半年でクローズしたソーシャルマッチングサービス《Pitapat》。しかし開発チームは既に、《Pitapat》に続く新サービスを開発中だという。新サービスにも活かされる《Pitapat》クローズから得た学びとは―。
無数のWEBサービス・アプリが生まれては消え、生き残るものはほんのわずか。
成功しているサービスの成功要因を探るのも大事だが、クローズしたサービスの経験から学び、新たなサービスに生かしていくことのほうがより重要になることもある。
今回お話を伺ったのは、株式会社Pitapat CEOの合田武広氏。ご存知の方も多いだろうが、まずは彼の経歴を少し紹介しよう。
サイバーエージェント社の新卒内定者たちと参加した、2カ月にも及ぶ学生向けアプリ開発コンテスト、ブレイクスルーキャンプ2011SummerにてFacebookのソーシャルグラフを活用したマッチングアプリ『《Facematch》(後のPitapat)』で優勝。その後も様々なコンテストで、審査員の高評価を獲得し続け、2011年11月に開発メンバーと起業を果たしている。メンバー全員が一度は内定を辞退したものの、サイバーエージェント藤田社長から声がかかり、子会社化という形で、サイバーエージェントグループに参画。
そして、2012年5月に満を持して国内で《Pitapat》をリリース。App Storeで1位を獲得し、なんと公開3日で10万ダウンロードを記録。アーリーアダプター層に一気にリーチすることに成功するなど、コンテストの評価に恥じない、順調な船出をきった、ハズだった。
その後、数か月の時を経て、大きなニュースが2度舞い込んできた。一つはローンチしてわずか半年、2012年の初秋の、《Pitapat》サービスクローズのニュース。
そしてもう一つは2013年はじめ、新サービス・《Qixil-キクシル-》のローンチ発表について。
怒涛の勢いで、希有な経歴と経験を積み、新たなサービスのローンチを控える合田氏へのインタビュー。《Pitapat》クローズの真相、そして新サービスの全貌とは―。
― 本日はお時間いただきありがとうございます。《Pitapat》のクローズから半年が経ちますが、いま、《Pitapat》での経験を振り返るといかがでしょう?
まず一つ目の大きなポイントは、ビジネスコンテストと実際のサービスには大きな違いがあるということですね。
僕らがビジネスコンテストで評価されたポイントは、新規性・事業性・そしてうまくソーシャルグラフを使っているということでした。確かにこれらをある程度は満たしていたかもしれませんが、実際リリースしてみるとなかなかうまくいかないものなんですね。起業前に出たビジネスコンテストでは、アイデア・実力以上に評価をいただき、「絶対このサービスでいけるんだ」と確信していました。
プロモーション関連でも大きな学びがありました。 僕たちはソーシャル上のバイラルに過剰な期待をしてしまっていたんです。最初に広告でユーザーを集め、ソーシャル上でバイラルし、ユーザーがどんどん増えていくだろうと。
ユーザーを集めたはいいものの、そのユーザーは広告で無理やり集めているので、実際のターゲットユーザーとは異なった行動をします。そのため、サービス改善のためのデータが取れません。
また、バイラルに関してもまったく機能しませんでした。 要因は、ユーザー視点が足りなかったからだと思います。 《Pitapat》はFacebookのソーシャルグラフを用いた“異性との出会い”のきっかけを提供するアプリだったのですが、ユーザー視点で考えてみると、「自分がアプリを使って出会いを求めている」というということは、オンラインだろうとオフラインだろうと口に出しづらいですよね。僕たちはソーシャルグラフを使うことによって、より安心した出会いが得られるサービスを実現し、口コミ、ソーシャル上のバイラルが起きると思っていたのですが、ユーザーにはそう思っていただけませんでした。
― その原因は何だとお考えですか?
総じて、冷静さを欠いていました。ビジネスコンテストで僕たちのサービスを評価していただいたのは、Facebookを当たり前のように使い、Facebookログインを抵抗なく使っているような方です。
一方、実際に使っていただくのは、そうしたユーザーではありません。Facebookを使いはじめたばかりであったり、Facebookアプリを使ったことがないような方ばかりです。そういった方に、Facebookログインを促し、友だちの情報を使うのですからそれなりの抵抗はありますよね。そういったところが考えられていませんでした。
― しかし、サービスを閉じてしまう必要性まであったのでしょうか?
確かに、多くの方に「クローズまでする必要はないのではないか」、「続ける価値のあるサービスであるのは間違いない」など、ありがたいご意見を多数いただきました。しかし、《Pitapat》はサービス構造そのものに難しい問題を抱えていたんです。
《Pitapat》は、Facebookの友だちの友だちが表示され、その上で成り立つマッチングサービスです。しかしFacebookのAPIの都合上、友だちの友だちを表示するには、 仲介役となる友だちが、 必ず《Pitapat》を使っていなければいけない構造だったんですね。
たとえ、Facebookで友だちが100人いたとしても、その友だちが誰も《Pitapat》を使っていなかったら、友だちの友だちは表示されず、 結局は出会いが生まれることは無い、というわけです。これを解決するために機能を追加しましたが、軸がぶれてしまい、うまくいきませんでした。
限られたリソースしかないスタートアップでは、片手間でサービス運営しながら解決手段を見出すのは時間がかかる。そうであるならば、きちんとサービスを閉じる決断をして、新しいサービスに注力していくことにしました。
― あくまでも、サービスの構造上の問題でクローズしたと。
一部では収益化が難しいこともクローズの要因であるとの指摘がありましたが、当初どのようなビジネスプランをお考えだったんですか?
ひとつは月額課金者にはプレミアム機能を追加し、より充実した体験を提供できるようにすることです。
もうひとつは、マッチングした2人だけが飲食店などで使える有効期限付きクーポンを発行することですね。
ユーザーのメリットとしては、マッチした2人が「2人でしか使えない、期間限定のお得なクーポン」を口実に、会う機会を作れること。飲食店のメリットは《Pitapat》を通じて、新規のお客さんに来店してもらえること。そして僕らは飲食店からクーポンの発行手数料をいただくという、3者にとってメリットのあるモデルを考えていました。
ただ、クーポンに関してはどうしてもオフラインの営業力が必要で。人的リソースが限られていて、且つエンジニア中心のPitapatチームではなかなか難しい部分がありました…。
― 出会いの体験を提供するいわゆる“出会い系”サービスは、コンタクト行為に課金したりと、かなり有効なマネタイズ方法があるとも思うのですが?
例えば、メールの送受信に課金するとかですよね。ユーザーを一定数集められたら、より“出会い系”色を強めて、そちらでマネタイズするべきだという意見は多方面から頂きましたし、当然僕らも検討しました。しかし、《Pitapat》は従来の出会い系の問題を解決するために作ったサービスなので、そちら側にシフトしていくことには、やはり抵抗があって…。それに、僕たちは異性間の出会いに限ったサービスを志向していたわけではないんです。
― といいますと…?
この話は僕が起業を志したきっかけにもつながるのですが、あるTwitterのつぶやきを見たのがきっかけで、人生が大きく変わったんです。当時僕は大学でプログラミングを学んだり、アルバイトでコーディングをしていたのですが、プログラミング自体も嫌いでしたし「何のためにやってるんだ?単位のため?お金のため?」と悶々としていた時期でした。
そんなとき、町田龍馬さんというグローバルな活躍をされている起業家がブレイクスルーキャンプについてツィートしていたんです。興味本位で参加してみると、miepleやAnyperkを手掛ける福山太郎さんの講演があったり、既にグローバルな活躍をしている同世代や年下の参加者がたくさんいて、強烈なカルチャーショックを受けました。
僕自身はその経験はセレンディピティそのものだと思っていて。何気ないTwitterの一言から、僕の意識ががらりと変わる体験をできたんですね。
それを機に自分は「人と人の出会いから生まれるセレンディピティを多くの人に届けたい」と考えるようになって。
その考えが僕とPitapatのサービスの根幹にあるんです。そのひとつの手段として、《Facematch》を開発し、起業した経緯があります。
事業内容やマネタイズ方法をより良い方向へピボットするのは間違いなく重要なことです。ただ、自分たちがサービスで成し遂げたいこと、その軸をずらす変更だけは絶対にできなかったんです。
(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら□サービス閉鎖を経たPitapatが見据える新サービス《Qixil-キクシル-》の全貌[後編]
文 = 松尾彰大
編集 = CAREER HACK
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