「人が欲しがるものを作る」「グロースハックは手数が重要」そんな定説を疑うことから始めていく。10X 矢本真丈さんは、「逆説」から施策を導き出す、プロダクト開発の考え方を語ってくれた。
※2019年11月12日に開催された【Product Manager Conference 2019】よりレポート記事をお届けします。
【プロフィール】矢本真丈
株式会社10X 代表取締役。2児の父。大学院在学中に3.11の震災で被災。その後、丸紅、NPOを経てママ向けECスマービー創業参加し、プロダクト責任者を務める。3.11震災の避難時に「火を入れた料理」に感動したこと、また育休中に家族の食事を創り続けた原体験から、タベリーを創り、石川洋資とともに10Xを創業した。
Twitter:@yamotty3
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ターゲットやペルソナを設定、具体的な「人」に対して何を届けるか考えていく。これはモノづくりの定説と言ってもいい。
ただ、10Xの矢本さんはこう語る。
「人ではなく、シーンに合わせたモノづくりが大切だと思っています。デジタルが発達し、ユーザーの背景が多様化した時代に、ペルソナの概念はマッチしにくい」
現在、多用されている「ペルソナ」というワード。その誕生を紐解いていくと広告の世界に辿り着く。
「もともとペルソナは、CMが効果的だった時代に、そのクリエイティブ精度を高めるために活用されるようになったものです。しかし現代はデジタルが発達し検索結果やSNSのタイムラインが一人ひとり違います。見ている情報がパーソナライズされユーザーのコンテキストが多様化した現代において、本当にペルソナの概念はマッチするのでしょうか」
もともと、矢本さんがPMとして開発した『タベリー』という献立提案アプリも、「都心在住」「共働き」「子育て世代」などのペルソナを設定していたそうだ。
「気づいたのは、ペルソナの中でも刺さるシーン、刺さらないシーンがある、ということ。たとえば、週末に料理を作り置きするケースには刺さるが、そうではないケースには刺さらない、といったように。ペルソナ的な属性の同じユーザーセグメントでも、シーンによって意思決定や行動は変化していくんですよね」
こういった実体験を経て、ターゲットを「人」で見るのではなく、コンテキストを踏まえた「シーン」で考えていくようになったという。
「ユーザーが見ている情報が多様で、選択肢で溢れた現代では、属性が似ているという条件でターゲティングするだけでは網目が大きすぎるのかもしれません。極めて具体的なシーンとコンテキストに対して、どれだけ適切なプロダクトであるか。「人」を前提としながら、より詳細な「シーン」こそが鍵を握っていると思います」
プロダクトを成長させるために、グロースハックの手数が重要。これも、プロダクト開発の世界では定説と言える。この定説に関しても、矢本さんは「逆説」で考える。
「グロースハックで重要なのは「手数」ではなく「位置」だと考えています。そしてグロースハックをする以前に、はじめのトラクションが生まれるためのグランドデザインのほうが大切。
これまで1000本近い施策を打ってきたのですが、「誰もが通過する場所」もしくは「最も重要なコンバージョンの直前」以外ではほとんどその効果が実感できませんでした。また、グランドデザインが悪く、トラクションがないものに対して、グロースハックで巨大なサービスに成長した事例もほとんど存在しません」
登壇の最後に、矢本さんが語ってくれたのは、いわゆる巨人といわれるようなサービスについて。本当にそれらは参考になるのか?といった改めての問いだ。
「たとえば、「NetflixのABテスト結果」や「Airbnbの機械学習適用事例」など、成功したサービスの事例って無数に存在しますよね。多くの定説はそこから導き出されています。ただ、こういった事例を一通り試しても、事業を前に進める結果は導けなかったんです。あたりまえですが、他サービスと自分のサービスは利用するユーザーのシーンが大きく異なっている。ここは強く自覚したほうがいい」
どれだけ事例に踊らされず、自分が向き合ってるユーザーを深く理解し、自分だけが知る事実を見つけられるか。
「権威的な事例から導かれた定説は、自身のプロダクトの成功とはほぼ無関係です」
自分たちしか持ち得ない事実を引き出し、サービスを大きく前進させていく。定説を疑うことで、その可能性はさらに広がっていくのかもしれない。
取材 / 文 = うすいよしき
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