2020.04.17
マネーフォワード『新型コロナウイルス 支援情報まとめ』リリースまでの3日間

マネーフォワード『新型コロナウイルス 支援情報まとめ』リリースまでの3日間

2020年3月31日、『新型コロナウイルス 支援情報まとめ』をマネーフォワードが公開した。補助金・助成金等の情報を集約し、対象となる制度が検索できる。発案から3日後にリリース。その舞台裏に迫った。

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経営者、税理士、会計士がシェア。『新型コロナウイルス 支援情報まとめ』

新型コロナウイルスにおける経済対策として、各府省や地方公共団体等がさまざまな補助金・助成金の支援に動き出している。

ただ、その内容は必ずしも「わかりやすい」とは言い難い。

支援制度が充実しはじめる一方、

「自社が対象となる支援策がどれか分からない」

「発信元がバラバラで正確な情報が分かりづらい」

といった悩みが頻出している。

こういった状況を踏まえて動き出したのが、マネーフォワードの有志による開発チームだ。

彼らが公開したのは、「新型コロナウイルス 支援情報まとめ」

約250件の中から自社の対象となる支援を検索できる本サイト。各省庁が発表する公式の最新情報が集約されている。

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公開直後、SNSでは経営者や税理士、会計士による発信を中心にシェアされた。

飲食店や物販店の顧問を担当する会計事務所などからは「サイトのおかげでどの融資を使うかすぐに意思決定できました」と感謝の声も多数届いたという。

「マネーフォワードは中小企業のお客様が多く、お金に関するリアルな悩みに近い存在だと常々捉えていました。もちろん国の情報が元になるのですが、私たちであれば本当に困っているお客様が求めている形で届けられる自信がありました。それにSNSを通じて届けることも、政府より私たちのようなWebベンチャーのほうが得意なはずです」

こう答えてくれたのが、プロジェクト発案者の村上勝俊さん。

発案からリリースまで3日で進んだ同プロジェクト。その舞台裏を見ていこう。

マネーフォワードだからこそできることを

─ まずはじめに、プロジェクトの発端について教えてください。

2月下旬頃だったと記憶しているのですが、マネーフォワード社内でも「自分たちに何かできることはないか?」と各所で話が持ち上がりました。ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が報道されるようになり、危機感が高まってきた時期。

僕個人としても、知り合いのお店が経営難に陥る状況を目の当たりにしていた。ただ、補助金や融資について調べてみても、ほしい情報が一向に得られませんでした。

ちょうどその頃、Twitterで経済産業省がまとめた支援情報を事業者に届ける『奇跡のラストワンマイル』運動を知りました。

国とエンドユーザーの間にいる我々こそ、こういったことをやる意義があるんじゃないか?特にうちは“お金”という重要なテーマを扱っていて、かつお金に関するビジネスを展開する企業は多くない。国が発信するよりも、マネーフォワードが発信する方がよりユーザーに届くだろうと、根拠のない自信がありました。

そして、3月28日の夜。思い立ってSlackに投稿をしました。

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「我々も世の中に何かできないかと考えていたのですが、 コロナに関わる補助金とか給付金、特別物資をとりまとめたサイトを作り、 それをウェブでまとめて検索可能にし、 さらにAPIとかで開放して、世の中にあるいくつものサービスがその検索機能を使って、本当のエンドユーザーまでデータを届けることができたらいいんじゃないでしょうか」と。

この投稿が、CEOの辻の目にとまって。他にもいくつか動き出しそうなことがあったようで、「村上くんもぜひ一緒に」と招待されたのがはじまりでした。プロジェクトにアサインされたというより、「ただ雑談チャンネルに呼ばれた」のほうが近いかもしれません。

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【プロフィール】村上 勝俊(マネーフォワード 京都開発拠点長)※写真左※

インフラチームにてマネーフォワードが提供する各プロダクトのインフラまわりをサポート。2019年春より、京都開発拠点の立上げメンバーとして組織作りに携わっている。

土曜深夜にスタートし、火曜夕方にリリース

─ リリースにはどのくらいかかったのでしょう?

3月28日(土)の20時半頃に話が始まり、リリースしたのが3月31日(火)の17時頃。土日を使い、3日後に突貫で出した感じでした。

─ スピード感が早いですね。

すでにコロナによる自粛ムードから1ヶ月以上経っていて、中小企業は早くも限界が来ている頃。とにかく1秒でもはやくリリースすることが重要だと思いました。

1ヶ月も2ヶ月もかけられるものではない。機能はリッチじゃなくても、世の中全てのデータを集めた完璧なものでなくても、1つでも役に立つ情報を届けられれば良いのではないか?と。CEOの辻を含め、全員がそういった温度感だったように思います。

─ メンバー集めはどのように?

それが、メンバーは完全に有志でした。エンジニアだけでなく、広報やデザイナー、役員もいるSlackのチャンネルでやり取りをしていると、「僕も手伝います!」「1日中暇なので」と徐々に人が集まってきました。スケジュールもここだと決まっていたわけではなく、皆が許せる範囲で進めたことでした。 

最初は、僕が「叩き」を作り、サーバーサイドエンジニアがすぐに手を動かしてくれました。デザイナーが「デザインのラフを作りました」とデザインを投げ込んでくれ、あれよあれよという間にフロントエンドが完成し、データの中身を悩んでいたらサンプルデータが作られていた。アプリケーションが取り込まれ……。形になってきタイミングで、広報が「プレスリリース出しますよ」と。CEOの辻も、お客さんである税理士事務所の方にユーザーヒアリングなどをしてくれました。

皆がオープンに、「次は〇〇をします」と発信するのを拾いながら自分にできることを探して動いた。だからスピードが速かったのだと思います。 

マネーフォワードには、お金をテーマに社会に対してアプローチするのが好きなメンバーが非常に多く集まっています。職種は違えど、ミッションやビジョンに対して、ユーザーフォーカスで自ら取り組むメンバーばかりです。

休日に突然動き出したプロジェクトでも、見かけて面白そうだなと首を突っ込んでくる。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、「愛すべきバカ」ばかりでしたね。

僕にあったのは、失敗する覚悟と勇気だけ

─ このスピード感でできたのは、やはり「仲間の力」が大きかった?

仲間には非常に恵まれたと思います。マネーフォワードは誰かの火がつけば皆火がつくメンバーなので、安心感はありました。

また、2人目の賛同者がすぐに現れたのも大きな要因でした。これは「セカンドペンギン」と呼ばれるものです。ペンギンは1羽だけ飛び込んでも群れとして飛び込まないのですが、2羽目のペンギンが飛び込むと、3羽目4羽目とどんどん飛び込む習性があります。

今回は、エンジニアの大倉というメンバーがすぐに「僕やりますよ」と言ってコードを書き始めてくれました。彼がセカンドペンギンになってくれたことで、3人目、4人目と協力者が増えていった感覚がありますね。

─ もし、セカンドペンギンが現れなかったら……

もちろん、誰の協力を得られなくてもやる覚悟はありました。「失敗する覚悟と勇気」を持つ。これは最初に飛び込む「ファーストペンギン」の仕事でもありますよね。

リスクを背負ってでも行動を起こす。とくに今回はユーザーにとって必ず価値のあるものにできる自信があったので、迷いなく飛び込めたのだと思います。

もう一つ進めていく中で心がけていたのは、「誰かの決裁や意思決定を待たない」こと。やはり組織とは誰が何をするか、手続きはどうするかといった形にこだわってしまうものです。

もし僕がもう少し臆病だったら、CEOの辻に都度確認をとったり、「エンジニアや広報に協力してもらっていいですか?」とお願いベースになってしまったりと、このスピードでは実現できなかったと思います。

まずは自分の手を動かしてアウトプットを作ってしまい、ある意味無遠慮に進めていく。ここは意識的にやっていました。

1歩を踏み出せば、何かが変わるかもしれない

─ 今回「新型コロナウイルス 支援情報まとめ」をリリースしてみて、気づいたことがあれば教えてください。

まずは、非常に多くの人が「支援情報」を求めているということ。

今「新型コロナウイルス 支援情報まとめ」のPVは、60万を超えるほど爆発的に伸びています*。「個人向けのまとめがほしい」といった声も数多く届き、早速情報を集約し検索できるページを実装しています。マネーフォワードとしてのサービスに閉じずに、今お金に困っている人やユーザーに対して、少しでも多くの情報と手段を提供できたらと強く思っています。 

*2020年3月31日〜4月10日の期間での集計値

もう一つは、「まずやってみることの大事さ」を、改めて実感しました。今回最低限の情報でリリースした理由はどれだけニーズがあるかまず確かめるためでもあったのですが、ユーザーの方々から想像以上に沢山のフィードバックの声をいただくことができました。結果として、ローコストでかなり高い価値が得られたと思っています。

「自分には何ができるだろう」と考えている方に何かお伝えできることがあるとしたら、「こうだったらいいな」と感じることを、ぜひまずは声に出してみてほしいです。

立場や年次は関係ない。つたなくても、下手でも、遅くても良い。1歩目を自分で踏み出して、しっかりと発信していけば応援してくれるメンバーはきっといると思います。

失敗したって失うものはない。1つでも多くの失敗と成功を繰り返すことで、少しずつでもコロナに対してアプローチできるはずだから。ぜひ、皆で一緒に頑張っていけたらと思っています。


文 = 長谷川純菜
取材 / 編集 = 野村愛


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