豊かな自然に囲まれ、晴れた日には富士山も望める神奈川県「葉山町」。第一子の誕生を機に同町へ転居したのが、成長著しいスタートアップ『UZABASE』代表の梅田優祐氏だ。梅田氏が実践する理想の働き方、ライフスタイルから新しい生き方の可能性を探る。
あらゆるビジネスにおける情報インフラ「SPEEDA」で話題のUZABASE。代表の梅田さんは、3年ほど前、第一子の誕生をきっかけに神奈川県の葉山町に転居。葉山からオフィス のある青山まで、約2時間かけて通勤する生活にシフトしたという。
以前は、職場の目と鼻の先で暮らし、寝る間を惜しんででも働いていた梅田さん。
生活を180度変える“理想のライフスタイルへの挑戦”だったわけだが、改めて振り返ってみて「人生最高レベルの好選択だった」と語る。
なぜ、葉山での暮らしを選んだのか?実際にどのような生活を送り、働いているのか?仕事と同じようにライフスタイルも重視していく。そんな新しい生き方の可能性を探るべく、梅田さんにインタビューした。
― 3年ほど前、東京から葉山に住まいを移したと伺いました。そのきっかけから教えてください。
起業して「とことんやっていこう」という仕事が見つかったので、次は「仕事以外の幸せって何があるんだろう?」と考えていたのですが、その中で、自然の中で子どもを育てたいなぁという気持ちがありました。
もともと私自身が田舎で育ったこともあって自然が大好きだし、小さい頃を思い出しても、すごく幸せだったんですね。
だから、自然の中で家族と暮らせたらどんなに楽しいだろうと。少なくともビルが立ち並ぶ東京の埋立地で子育てするという選択肢はありませんでした。
きれいな海や山にかこまれて、のびのびと家族で暮らす。ちゃんと子ども達との時間をとって、家族で夕飯を食べて、いい波がきた休日は、趣味のサーフィンも楽しみたい(笑)
自分の幸せは仕事だけじゃない。全部を叶えよう。そんなシンプルな感情があったんです。
それで、家を探し始めて、葉山にあった築70年の古民家に一目惚れしてしまって…コレはもう引っ越すしかない、と即決しました。
― ちなみに、奥様の理解もすぐ得られたのでしょうか?
私が驚くくらい、すごい乗り気でしたね(笑)その古民家を見たときも「トトロの家みたい!」と。
奥さんの後押しもあったので、「とりあえず、やってしまおう」という勢いで転居することにしたんです。
経営と一緒で、全く経験のないことに向き合う場合、考えれば考えるほど、メリットだけでなくデメリットもたくさん見つかってしまうもの。考えたところで、結局は決断に迷ってしまうわけですから。
― 実際に生活を始めて、仕事と私生活は問題なく両立できたのでしょうか?
それが最初の3ヶ月は、正直後悔したんですよ。なかなか生活のリズムがつかめずに苦労しました。何も考えずに勢いでやってしまう自分の悪いクセが出た、と思いました。
たとえば、夜遅くまで仕事して終電で帰ると、駅からのバスは終わっているし、タクシーの数もすごく少ない。一台行ってしまうと、なかなか次のタクシーも来ないんです。
最初はそんなことも知らないから、真冬の寒空の下でブルブル震えながら、30分くらいタクシーを待ったこともありましたね。
遅い時間の電車だと、乗っていた人たち全員が、駅を降りた瞬間にタクシー乗り場に向かってダッシュするんですけど、その意味がよくわかりました。
― タクシーの順番争いですね(笑)今ではうまくいっているのでしょうか?
そうですね、もちろん例外的に遅くなることもありますが、夜のミーティングはほとんどいれず、18時くらいに会社を出て、20時くらいには家で家族とご飯を食べるようにしています。
― 具体的には、どのような生活リズムを心がけているんですか?
朝はだいたい5時くらいに起き、奥さんと朝食を食べて、電車に乗るのが6時30分くらい。電車の中で仕事を始めます。
会社だとミーティングやプレゼンに追われて、まとまった時間がとれないので、通勤中の空間はすごく貴重なものになっていますね。
― 電車内ではどういったことを?
主に「思考」と「インプット」の時間にしようと決めています。通勤というアクションは、毎日必ずやってくるものですよね。そのため、電車が「思考」や「インプット」を習慣化するためのワークスペースとして機能するようになるんです。
いま、UZABASEで新規事業を進めているのですが、そのアイデアも電車の中で生まれました。
― 電車だと、他人が乗ってきたり、乗り換えがあったりと、集中できないイメージもあるのですが?
逗子駅から電車に乗っているのですが、早い時間だと空いているし、1時間以上は乗り換えも無いので快適です。完璧に仕事ができる空間になっていて、かなり集中できますよ。
簡単なメールなんかは通勤時間中に済ませられるので、出社してすぐ仕事に取り掛かれるのも良いですね。
― 通勤時間の使い方がポイントになっているんですね。プライベートと仕事のスイッチが上手く切り替えられ、バランスも取れそうだと感じました。
それもあると思います。ゆっくりと時間が流れる葉山での生活、最先端テクノロジーを追求する東京での仕事、『スロウライフ』と『ファストライフ』の両方がやってくる。
両方とも好きなスタイルなんですけど、相反する二つの生活を行き来すると、右脳と左脳がすごく刺激されるイメージがありますね。
たとえば、すごく優秀な人って、相反するもの、全然違うものを高いレベルで追求して、高次元でバランスを取っていますよね。
― いい例かわかりませんが、ビートたけしさんが“お笑い”と“映画”の両方をやるように。
そう!すごく近いです。どちらかが中途半端だと、相乗効果は臨めないのですが、両方ともすごい高いレベルでアウトプットされると、バランスがとれて、両方によい影響を与え合っていくんですよ。それで仕事の生産性も向上していく。
― 本当に良いこと尽くしですね。正直、すごく羨ましいです。
ぜひ葉山に来てください(笑)
葉山という町そのものも、みんなにオススメしています。鎌倉ほどごみごみしていないし、すごく静かで、ゆっくりとした時間が流れていますよ。
一軒家をアトリエに改装しているデザイナーさんがいたり、ウクレレのプロ演奏家がいたり。自由な生き方をしている人がたくさんいる。そんな雰囲気も気に入っていますね。
― 自由な生き方をする、簡単ではないと思いますが、誰しもが憧れる生き方かもしれません。
確かに私自身も「自由に生きる」ということが人生の大きなテーマになっていると思います。
学生時代、時間だけは余っていたから、バックパックひとつで世界を放浪したことがあるんです。
どういうルートを辿るか。次にどこへ行くか。何も決めずに、会いたい人がいれば会いに行くし、楽しければ長く滞在して、飽きたら次の場所を目指す。
すべて自分で意思決定できて、好きなようにできる、そんな自由な時間が最高に楽しいと気がつきました。
そこから、どうすれば自由に生きられるか?と考えるようになったんです。
― 梅田さんが以前働いていたコンサルファームや投資銀行は、「自由に生きる」とは対局のイメージがありました。
代替不能なスキルをつけていけばいくほどプロとして仕事が選べるようになって、自由を手にできる。
元マッキンゼーの波頭亮さんの本だと思うのですが、こういったような意味合いのことが書かれていて、すごく印象に残っていたんです。
だからコンサル時代も「スキルを身につけるための修業だ」「いつか自由を手にいれるんだ」と言い聞かせながら、むちゃくちゃ働きましたね。
最初に就職したのが、戦略系のコンサルティングファームでまわりにいたのは東大、京大、海外の有名大学出身者ばかり。劣等感もあり、「負けたくない」という一心で、目の前のことをとにかく全力でやり続けていました。
毎週木曜は「徹夜の日」と決めてスケジュールを組んでいましたし、自転車通勤できるほど会社の近くに住んでいたし。
― 最初から“起業”が念頭にあったわけではないんですね?
そうですね。ただ、起業してみて結果的に分かったのは、起業とは究極の自由を手にすることなのかもしれない、ということです。
好きな仲間を集め、好きなところにオフィスを構え、好きな時に働ける。そして、自分たちが問題だと思うことに全力で取り組む。
もともと起業しようと決めていたわけではなかったのですが、自分の生き方にもすごくフィットしていたんだと思います。
― なるほど。葉山で暮らすライフスタイルの根底にも、「自由に生きる」という考え方がベースにあるわけですね。
前職、投資銀行で働いていた時は、「仕事で成功するために、プライベートを犠牲にすべし」これが定説のようになっていたんです。
友だちとゴルフをしていた時も、「今すぐ来てほしい」と17番ホールで呼び出されたことも(笑)
死ぬほど働いて、世の中にインパクトを与える仕事をしても、家族を犠牲にしているとしたら、幸せとは言えません。
多くの人が、自由な生活を無意識のうちに諦めているように思います。でも、自由に働ける環境を自分たちで作ることができれば、仕事と家族、仕事とプライベート、どちらも諦めない生き方を実現できるんじゃないかと思ったんです。
(つづく)
▼《UZABASE》梅田優祐氏へのインタビュー第2弾はコチラ
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[取材]上田恭平 [文]白石勝也 [撮影]松尾彰大
文 = 白石勝也
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