2013.07.25
プロダクトの成長なくして、CTOの存在価値はない―VASILY今村雅幸氏のCTO論。

プロダクトの成長なくして、CTOの存在価値はない―VASILY今村雅幸氏のCTO論。

広く認知されているものの、その役割の明確な定義が見当たらない“CTO”というポジション。その正体に迫るべく、ファッションコーディネートアプリiQONで急成長中のVASILY CTO今村氏に話を聞いた。曰く「プロダクトの成長」こそがCTOが全責任を負うべきミッションだという。

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いま改めて解き明かす、CTOの役割

CTOとは何か?この問いに、あなたは明確な答えを持っているだろうか。CTO=最高技術責任者という言葉こそ一般的にはなったものの、その役割や仕事の中身は、それほど明確化されていない印象も受ける。

そこでCAREER HACKでは、第一線で活躍中のさまざまなCTOにインタビューし、「CTOとは何か?」という問いの答えを探っていくことにした。

第1弾として話を伺ったのは、iQONを手がけるVASILY CTOの今村雅幸氏。CEOである金山裕樹氏とともにYahoo! Japanを飛び出し起業した注目の人物だ。


今村雅幸


CTOはスーパーエンジニアなのか?

― ズバリお伺いします。CTOの役割とは何なんでしょうか?

端的に言えば、「プロダクトを技術面から支える役割」でしょうか。技術を使ってプロダクトをいかに成長させていくか、ということに全責任を持つ仕事だと考えています。

平たく言うと、「こいつに頼めば、どんなことでも形にしてくれる」存在。CEOの金山が描くビジョンを、どんな技術を使い、どんなチームで、どれくらいのスピード感で実現していくのか考え、実践するということです。

― 今村さん自身も、エンジニアと一緒にコードを書いているんですか?

もうガツガツ書いていますよ(笑)大手はさすがに違うと思いますけど、スタートアップに関しては、CTOがコードを書くのも珍しくないんじゃないでしょうか。



― 今村さんの仕事は、経営側の仕事とエンジニアとしての仕事と、どちらに近いのでしょう?コードを書くとなると、やはり一人のエンジニアとして、周囲を圧倒する存在でなくてはならないと?


そうですね、僕自身、自社のエンジニアに負けないよう意識はしています。ただし、CTOは技術にだけ長けていてもダメだし、逆に経営を知っているだけでもダメなのではないかと思います。

CTOとして重要なのは、プロダクトのことを技術的に最も深く理解することです。経営に集中して技術が疎かになってはいけない、かと言ってエンジニアと同じように開発にだけ没頭してもいけない。どちらとも違う立場で、バランスを保つ必要があると思います。

CTOは、“一人のエンジニア”として尊敬されなければならない

― エンジニアの目からみて、どんなCTOでありたいと考えていますか?


僕がやるべきことは、エンジニアたちがモチベーション高く働ける環境を整え、用意することだと思います。それによって彼らが素晴らしいアウトプットを出せるようになり、結果、プロダクトに良い影響を与えられるからです。

CTOは、現場のエンジニアに対して技術的なアドバイスをするだけでなく、経営側が描いているビジョン、会社として成し遂げたいことを浸透させていく存在でもあります。だからこそ、CTOがエンジニアと一緒になってコードを書くことが必要だと思うんですね。もちろん会社のステージによって変わってくるものかもしれませんが。

単純にマネジメントするだけならば、CTOという立場は必要ありません。僕が最もイヤなのが、技術を分かっていないCTOや技術部長。エンジニアの目線で言うならば、技術には疎いわりに、物事の承認プロセスに関与してくる人たちです。そういう人に限って、エンジニアの個性や特徴を無視し、仕事の価値を工数計算のみで測ろうとしたりします。

それでは、エンジニアの心は掴めませんし、彼らがいくら優秀であっても、本来の能力を発揮してはもらえません。重要なのはやはり、トップに立つ人間が技術的な面で尊敬される、信頼されること。僕が書いたコードでエンジニアの心を掴むことが、エンジニアのモチベーションを高めるためには不可欠だと思います。

規模が変わろうと、チームの理想形は変わらない

― 組織の規模がもう少し大きくなったとしても、そのスタンスは変わりませんか?


難しい質問ですね…。VASILYの場合、私のもとで全8名のエンジニアが仕事をするという組織なので、確かにやりやすい部分もあるのかもしれません。ただ僕としては、組織が大きくなったとしても同じことができると思うし、できる組織にしていきたいと考えています。

僕らはエンジニアをものすごく厳選して採用していて、技術への探究心が半端なく強く、世界を変えていこうという野心を持った人間、つまりVASILYの既存メンバーと同じ価値観を共有できる人だけ採用しています。



この先、組織を階層化する必要が出てきたとしても、エンジニアがリーダーを信頼し、リーダーは信頼されるよう努め、リーダーがCTOである僕を信頼し、僕は信頼されるよう全力を尽くす、という形で、今と変わらないスタンスでやっていけるはずだと思っています。誰か一人が気を抜いただけで崩れてしまいかねないものですが、今のメンバーの意識の高さと、採用基準がブレさえしなければ、必ずいけると思います。

僕自身、新卒で入社したYahoo! Japanでは、周囲の同僚をみても、エンジニアリングに対する意識がバラバラで、高いモチベーションで向上心がある人なんて、数百人のうち一握りでした。その環境を反面教師にしている部分は、あるかもしれませんね。

CTOに向いているのは、“人”への興味が強いエンジニア

― CTOに向いている人、CTOに必要なスキルとは?


そうですね、二つあります。

一つは技術が好きだということ。エンジニアから信頼されるCTOには、技術スキルの高さは当然必要だと思います。

もう一つは人を見れるか。人間観察力のようなものでしょうか。エンジニアのモチベーションを高めるにはどうすればいいのか?どんなミッションのもと、どういうチームを組んで、どれくらいのスケジュールで、どの程度の成果を求めるか?それを俯瞰して掴むには、一人ひとりのエンジニアをいかに理解するかに掛かっています。

僕自身、まだ理想的なCTOと言えるか分かりませんし、会社の規模の変化によっても役割が多少変わってくるかもしれません。とはいえ、理想的なエンジニアリングチームを作り、iQONというプロダクトを成長させる“柱”であることに変わりはないとも思っています。今後も、iQONで世界を変えるというチャレンジを、最高の仲間とともに続けていきたいですね。


(つづく)
▼VASILY CTO・今村雅幸氏へのインタビュー第2弾
優秀なエンジニアほど表には出てこない―VASILY 今村雅幸氏が語るエンジニアの理想像。


[取材]上田恭平 [文]松尾彰大


編集 = 松尾彰大


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