2013.08.22
老舗企業にこそ、エンジニアの活躍の場がある―創業85年《日本交通》川鍋代表からの問題提起。

老舗企業にこそ、エンジニアの活躍の場がある―創業85年《日本交通》川鍋代表からの問題提起。

エンジニアの活躍の場というと、大手サービス会社やベンチャー企業、スタートアップ企業に注目が集まってしまいがち。しかし、老舗企業こそ、テクノロジーによるイノベーションを起こす必要があるのでは?と、大手タクシー会社《日本交通》の代表・川鍋氏は提言する。その真意とは?

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▼《全国タクシー配車》開発エンジニア 亀井氏へのインタビュー
エンジニアが語る開発秘話。老舗タクシー会社《日本交通》は、なぜ90万DLのアプリを自社開発できたか?

技術革新が急速に進む中、老舗企業がすべきこととは?

ここ数年でスマートフォンやタブレッド端末などが急速に普及し、世の中はとても便利になった。WEB上でボタンをクリックすれば、どんなものでもスグに届くような時代。人々の価値観も変わり、多くの企業で技術変革が求められ、サービスの新しいあり方が問われてきた。

しかし、そういった時代の潮流に、すべての企業が上手に乗れたとは、とても言い難い。時代の移り変わりの中で、廃れていった定番商品やサービスが多くあるのも周知の事実。技術革新に踏み切れず、もやもやしている企業は、特に老舗企業で多いのではないだろうか。

現に、創業85年を誇るタクシー会社《日本交通》も、そんな老舗企業の1社だった。タクシー配車アプリを自社開発し、大ヒットさせたことで、「老舗企業が行なうべきこと」が分かってきたと、代表の川鍋一朗氏は語っている。

今、技術革新が必要なのは、日本に古くからある老舗企業ではないだろうか?エンジニアだけでなく、老舗企業の経営者にも考えてほしい、問題提起がそこにはあった。

老舗企業こそ、他企業とコラボするべき。

日本交通株式会社 代表取締役社長 川鍋一朗氏。
大学を卒業後、マッキンゼーに約3年間勤めた後、同社の3代目代表に就任する。

― 昨年アメリカのシリコンバレーに、海外研修で行かれたそうですね。Google、Apple、Evernote、Facebookといった大手IT企業の現場を視察してみて、どのような発見がありましたか?


海外研修で大きな収穫となったのは、Evernoteを訪問した時に、日本法人の会長を務める外村仁さんに出会えたことです。今、WEB・IT業界で起こっている革新やサービスについてお話をしている中で、「今度、日本でハッカソンをやるから、出てみない?」と誘われたんですね。

WEB・IT業界では有名なイベントだと思うのですが、なんせ私たちはタクシー業界ですから、まったくそのようなイベントがあるのも知らなくて…。エンジニアたちも全員、ぽかーんとしていました(笑)

そんな状況ながらも出場することにしたのですが、決め手となったのは、エンジニア達の「社長、出ましょうよ!」という一声。タクシー配車アプリが好評だったこともあり、きっと自社の評価に対する興味があったんでしょうね。彼らには、どんな場所にでもタクシーを呼ぶことができるサービスをつくり、多くの人たちに感動を与えてきたという、エンジニアとしての強い自信があったんです。


― 最近、発表されたアプリ『タクシーおじさん料金検索!(タクおじ) 』も、 そんな“ハッカソン”で知り合ったFULLER株式会社とのコラボ作品なんですよね?


そうなんですよ。ゆるカワおじさんキャラシリーズの「FULLER」と共同で開発しました。弊社は料金検索エンジンAPIをFULLERに提供し、おじさんキャラクターを随所に使った愛嬌たっぷりのUIでデザインしてもらいました。

タクシーを日常的にご利用いただいている方の多くは、ビジネスマン、医者、弁護士といったある程度、年齢を重ねた方が中心です。だからこそ、「全国タクシー配車」アプリも、ビジネス向けのちょっとお堅いデザインにしてきたのですが、それでは、スマホを利用する大半の若者に対して上手にアプローチできない。もっと面白いものを作らなくては、若手ユーザーは離れていってしまうと思ったんです。そこで、UIを可愛く、面白くすることで、新しい客層の獲得を図ったんです。



― このアプリのタクシー料金検索は面白いですね。検索したら、“だいたい1700円くらい”、って表示されました(笑)


「だいたい」ってなんだよと思われますよね(笑)?私たちも最初は驚きました。

私たちが開発するのであれば、1710円ときっちり細かく表示していたでしょう。でも、FULLERの方々が言うんです。「最近の若者は、そこまで細かいことは求めていませんよ。アバウトを好むんです」と。この考え方は、老舗のタクシー会社の中だけで開発をしていたら、あと100年考えてもきっと出てこなかった発想。自社内だけで完結するのではなく、他企業との関係を持つことで発見できたことなんです。今後もいろいろな企業とコラボすることで、新しい価値観を創出していきたいですね。

老舗企業は、異質な文化を受け入れる風土をつくるべき。

― 老舗企業が、新しいサービスを創出したり、技術革新を進めていく中で、一番ネックとなることは何なのでしょうか?


それは、もうズバリ、長い伝統の中で築かれてきた企業風土なんだと思います。見てくださいよ、私たちの職場、開発環境を。いわゆるIT企業とかけ離れてすぎているんです。おじさんが多いですし、全員スーツで白いワイシャツを着用している。今でこそEvernoteやFULLERとコラボして仕事をしていますけど、そんな環境ですから、つい1年前なんて、とあるベンチャーの方がTシャツ姿で来社されて、社内全体が騒然としましたよ…。Tシャツのお客様なんて、弊社の歴史の中で一度もなかったことですから(笑)



当社の例が極端すぎると感じられるかもしれませんが、他社でも同様のことが起こっているのでは?と考えています。実際、知り合いの老舗企業の社長に話を聞いた時に、同じようなことを言っていました。特に30代・40代の社長はとても悩んでいるんですよね。今の20代に流行している文化と、社内の価値観が違うって。歴史ある企業というでかい船の操縦かんを握っているけど、時代の流れに乗れずに、違う方向に進んでいる企業も多いんじゃないかな。


― そんな企業がまず技術革新を始めるとしたら、何から着手すればいいんでしょうか?


やっぱり、自社内でエンジニアを抱えて、WEBサービスを自社開発していくことじゃないかと思います。社員数の1%程度のエンジニアがいるだけで、できることは一気に増えます。営業の人員を1%増やすのとは、まったく違った価値があるんです。

問題は、自社内に開発部隊をつくることを、まず経営者自らが本気で考えることと、いかにしてエンジニアが受け入れられる風土を作っていくか、ということ。下手すると、「パソコン屋さんがやってきた!」と勘違いする人もいるかもしれない。エクセルの使い方指導やパソコンの修理を頼まれても困りますからね。経営者は、エンジニアが活躍する風土づくりを進めないといけないんです。

老舗企業だからこそ、特定の主力商品やサービスもあるでしょうし、もう市場での認知もできているので、サービスの技術革新が当たったときの反響も大きいはずです。あと、老舗企業のバジェットって本当に大きいですよ。でかいことをできる基盤は絶対にあるんです。


― 新しい文化を受け入れる風土を作れるかどうかに、老舗企業の今後の発展は掛っているということですね。


そうですね。

例えば、「リポビタンD」で有名な大正製薬さんは、「StartUp リポD大賞」というイベントを開催して国内のWEB系スタートアップ企業との関係性を構築する取り組みを行なったりしていますよね。これも新しい技術革新のカタチだったりするのです。

このように、今後エンジニアが活躍できる場所は、老舗企業にこそ増えてくると言ってもいいかもしれません。両者が出会える機会というのがもっと増えていけば、より日本経済は発展していくんでしょうね。

(おわり)

[取材・文]白井秀幸 [撮影]松尾彰大


編集 = 松尾彰大


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