CTOの役割を「ディレクターやプランナー、経営層の要望を技術で解決できる人材」と定義するのは、話題のテクノロジーベンチャー《トライフォート》のCTOである小俣泰明氏。しかし、同時にエンジニアはそのポジションを目指すべきではないという小俣氏。彼が描くエンジニアの理想像とは一体どんなものなのだろうか。
※こちら2013年8月に取材した記事となります。2015年12月に小俣泰明氏はトライフォート社を退任済みです[2016/06/30/17:00 編集部追記]
CTOの存在意義や役割を追求すべく、様々なCTOにインタビューを敢行しているCAREER HACK。今回お話をうかがったのは 《トライフォート》の代表取締役であり、Co-Founder/CTOも兼任する小俣泰明(たいめい)氏だ。
新卒で大手SIerのNTTコミュニケーションズに入社し、カヤックへの転職を経て、クルーズにジョイン。そこでCTOとして活躍し、取締役まで務めあげた人物である。
そんな小俣氏が2012年8月に設立したのが、トライフォート。まだスタートして1年にもかかわらず、すでに従業員数は110名まで拡大するなど、圧倒的なスピードで拡大を続けている今、注目のスタートアップだ。大手SI、ベンチャー、WEBの大手企業を経験し、現在は“あえて”自社でプロダクトをもたないスタイルをとる小俣氏。彼が考えるCTOの役割、そして存在意義を聞いたところ意外な答えが返ってきた。
― 早速ですが、小俣さんの考えるCTOの定義とは?
一般的には、技術の最高責任者という定義ですよね。より細かく言えば、CEOやCOOといった経営層や現場のエンジニアの要望・課題を“技術”を用いることで解決できる人材だと思います。
最近ではCTOがエンジニアとしてのキャリアの1つの在り方だとされているみたいですが、ただ個人的には、エンジニアはCTOを目指すべきではないと思っています。経営層や現場から求められることを実現させる存在というのは、たしかに所属する企業からは必要とされるかもしれません。しかし一人のエンジニアとして見た時、その目標では小さ過ぎるのではないかと。僕自身、肩書きとしてCTOを名乗っていますが、CTOとしての理想の姿やこうなりたいというイメージは持っていません。むしろ「CTOとしてこうありたい」と言っちゃった時点で、会社の歯車になろうという感じがして嫌だなと感じています。
─ CTOを目指すこと自体、ナンセンスであると?
はい。CTOって戦略を考えるとか、そこらへんのニュアンスが非常に弱いんです。どちらかというと技術で課題をどう解決するのかというところが強くて、戦略を考えるって部分は日本の企業ではほとんど求められていないし、なかなか任されません。
例えば、NPO法人のような非営利組織でR&Dに従事するのであれば、CTOというキャリアはアリだと思います。ただ、株式会社でエンジニアとして働く限り、利益を生み出してナンボじゃないですか。となると、利益を生み出せない技術をずっと追求しているのは健全ではありません。株式会社の定義は企業で利益を生み出して、それを株主に還元するというモノですから、日の目をみないサービスをつくってもしょうがない。
あくまで利益を生み出して、その利益でまたサービスを拡大させていくというフローを循環させることが、大切だと思います。そうすると、エンジニアが常にユーザーのニーズ、世の中が求めているサービスをいかにつくりだせるかというところが重要なポイントになるかと。
─ CTOという企業の一役職ではなく、もっと大きなモノを目指すべきだと?
そうですね。エンジニアが目指すべき姿はCTOではなく、もっと大きい、イノベーションを起こすような存在であるべきだと僕は考えますね。
エンジニアって、自分ひとりの手でサービスの全てをつくることができる唯一の存在じゃないですか?もっとエンジニア自身が、プロジェクトや事業を主導するというスタンスを持つべきだと思います。
これ、アメリカでは当たり前のことなんですよね。マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツも、Googleのラリー・ペイジも、Facebookのマーク・ザッカーバーグも、元はエンジニアです。Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズでさえ、エンジニアリングの経験を持っています。
サービス、プロダクトのすべてを自身の手で創り上げることができるエンジニアとしてのバックボーンを持つ彼らだからこそ、イノベーションを生むことができたと思っています。
─「エンジニアはCTOを目指すな」というのは面白いですね。
日本人のエンジニアって、あんまりしゃべりませんし、そもそもしゃべりたがりませんよね。だから結局、クチの上手いプランナーとかディレクターに上手く使われる存在になってしまいがちです(笑)
コロプラの代表取締役である馬場功淳さんみたいに、技術もトークもできるエンジニアが最近は増えてきましたけど、まだまだ少数派。だから、日本ではエンジニアがトップになる風土が生まれにくく、イノベーションを起こせるエンジニアも企業も増えていないんだと思います。だから僕個人として、エンジニア主導の組織をつくろうと常に考えています。
─ たしかに、前に出るエンジニアはまだまだ少ない印象です。それ以外にもエンジニアが主導者になれない理由があるのでしょうか?
エンジニア=オタク、ねくら、非リア充だとさげすまれている部分があるからだと思いますよ。
ただ日本人には、勤勉性という欧米人が持ちえない独自の武器があります。だからこそ、僕たちが世界最高の技術者集団となり、日本のエンジニアもイノベーションを起こせることを見せつけたいと思っています。そのために、この会社を運営しているわけです。
─ イノベーションを起こせるようになるために、必要なこととは?
それをお話するには、まず前提として「優秀なエンジニアとはどんな人物なのか」を整理しておく必要がありますね。イノベーションを起こすエンジニア=市場価値が高く優秀なエンジニアだと言えるので。
一般的に優秀なエンジニアといえば、プランナーやディレクターが実現したいことを積極的に汲み取りながら"技術"を用いてどんどんアウトプットし、課題を解決していく人のことを指すと思います。
ただ、自分以外の“誰か”が作りたいものを作るために積極的に発言して、技術で課題を解決し続けようとしても、途中でモチベーションが続かなくなります。そんな考えを持って優秀なエンジニアを志す人がいるなら、今すぐやめたほうがいい。そんなことをやっているからいつまでたってもイノベーションが起こせないんです。
僕は、「優秀なエンジニア=イノベーションを起こせるエンジニア」になるためには、”自分の叶えたいモノ・コト”を実現さえることだけに注力し続ける必要があると思っています。
自分の欲求で動ける人間って、ものすごく“強い”です。言われないと動けない人間と、自分の欲求だけで動ける人間、作りたいモノをつくれる人間は質が違います。自分の叶えたいサービスを自分の力で実現するというのは、つまり能動性があるということですよね。この能動性こそが、イノベーションを生むためには絶対に不可欠なものだと思います。
ただただ言われたことをこなせるだけのエンジニアが、優秀という時代は終わるでしょう。自分が本当に創りたいモノを実際に作り、それを一つの事業としてきた欧米のエンジニアのように、日本でもイノベーションを起こせるエンジニアこそが優秀なエンジニアの新しい定義となり、これからの時代、必要とされる存在になると僕は考えています。
(つづく)
イノベーションを起こせないエンジニアに価値はない─トライフォート小俣氏が語る、優秀なエンジニアの条件
[取材]梁取義宣 [文]後藤亮輔
編集 = CAREER HACK
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