SIerとは違う、全く新しい受託開発のスタイルで存在感を発揮しているトライフォート。その代表でありCTOの小俣泰明氏に、今回は「市場価値の高いエンジニアとは何か」を定義してもらった。小俣氏いわく「自分でサービスを創れるか、否か」がエンジニアの価値を大きく左右するという。
▼トライフォート CTO 小俣泰明氏へのインタビュー第1弾
エンジニアはCTOなど目指すべきではない―トライフォート 小俣泰明氏の提言。
※こちら2013年8月に取材した記事となります。2015年12月に小俣泰明氏はトライフォート社を退任済みです[2016/06/30/17:00 編集部追記]
SIerとは違う、全く新しい受託開発のスタイルで存在感を発揮しているスタートアップ、それが小俣氏率いる、“あえて”自社サービスを持たずに、技術を追求している《トライフォート》だ。
「WEBサービスには流行り廃りがある。だから、僕たちは技術を追求し、世界最強のテクノロジーベンチャーを目指している」と語るのは、同社の代表でありCTOも務める小俣泰明氏。
「自分が創りたいと思うサービスを自分で作り上げれるエンジニアは、2倍の市場価値がある」という小俣氏とともに、同社の実例も踏まえ、エンジニアの市場価値について考えてみた。
─ 技術を使って自分の叶えたいモノ・コトを実現させることが、イノベーションが起こせるエンジニア、つまりは優秀なエンジニアへの近道と仰っていますね。
とにかく自分が「こんなサービスを創ってみたい」と思ったのであれば、一度、自分自身で作りきることが大事です。
作りたいモノをひと通り作ってみると、各工程で色々な壁にぶち当たります。「URLってどうやって発行すればいいんだろう?」「サーバやDBはどうするか?」こうした問題を一つずつ解決していくことによって、一連の全体像が見えてくる。この時にはもう、自発的に自分で問題を解決しようという意識が芽生え、単に言われた課題を解決するだけのエンジニアからはすでに脱却できているかと思います。
─「自分でサービスを創る」というのは、プライベートな時間で開発するということですか?
業務時間でやるとなると、そこに給与が発生してしまいますし、ユーザーを意識したものを作らなければいけないので、自分の欲求だけでは動けなくなります。
だからこそ、プライベートな時間でやることが重要なんです。自分の熱量を試す、いいきっかけにもなりますしね。よく「こういうサービスを創りたいので、企画書を見てください」というプランナーやディレクターが僕のところにやって来るんですね。それに対して、「パソコン持ってるなら、自分でプログラミングすれば?」と言うと、プログラミングが出来ないからつくれないと言います。その程度の熱意では、とてもじゃないですけどサービスなんか創れるはずがない。
エンジニアも同様で、「プログラムはできるんですが、インフラ周りはできないから作れない」とか言うのであれば、それはもうこの仕事に向いていないと言えるかもしれません。
とにかく何でもいいので、自分が創りたいというサービスを一度創り切ってほしいですね。これができるエンジニアと、プランナーやディレクターから言われたことしかできないエンジニアでは、実力も給与も雲泥の差になりますから。当社の実例でいくと3ヶ月~半年の期間で給与にして1.5倍~2倍の差が出ます。
─ 2倍、ですか!?
ええ。先ほども言いましたが、自分でサービスを作りあげた経験があれば一連の工程を理解できているので、どんな問題点・課題にぶちあたっても焦りません。「これは、自分がサービスを作った時に体験したことだ」と、自分で解決策を導き出すことができるようになります。その違いは大きいですよ。
─ トライフォートの採用に関しても、自分でサービスを創った経験は重視していますか?
めちゃくちゃ見ていますね。面接のヒアリング事項の一つになっていますし、創ったことがある人は実務未経験でも採用しています。
彼ら、すごくいいエンジニアになるんですよ。入社3ヶ月でもう立派な戦力になっています。ウチは3ヵ月ごとの昇給なので、月給で5~10万円アップすることもざらにあります。
─ 自分が創りたいもののアイデアって、そんなに簡単に出てくるものなのでしょうか?
そもそも欲求ない人って、いないじゃないですか?人が行動する時って、常に何かしらの欲求を介しているワケで。生き物である以上は、何か食べたいとか、常に欲求がつきまとっている。「こういった情報が知りたい!」「給与を上げたい!」とか、何でもいいんです。
僕の周りにいる優秀と呼ばれる人のほとんどは、くだらないサービスを自分で創っていますね。たとえば、ガンダム好きなとあるエンジニアは、モビルスーツやモビルアーマーを身長順にソートしているサイトを自分で創っていました。
─ とはいえ、自分でサービスをつくりたいというエンジニア自体、そもそも多くはないような気もします。
そうです。これは非常に根深い問題で、日本の教育のあり方が大きく起因していると思っています。
海外の場合、答えに到達するまでのプロセスに工夫を凝らすことを大切にします。しかし、日本の教育は決められたレールにいかに沿うかを重視する。これでは、新たな発想なんて生まれません。だから、日本ではイノベーションを起こせるエンジニアが生まれにくいし、ひいては、イノベーティブな企業もなかなか生まれてこない。
以前はそれでも良かったんです。WEBの世界もまだ熟していなかったので、企画者の言うことを黙って聞く人間、つまり言われた通りにモノをつくれるエンジニアのほうが、会社としても使いやすかったと思います。
しかし、今の時代はシステムが複雑化して、かつ競争も激化している。プランナーやディレクターの言う通りにただただ開発しているだけでは、企業としてもサービスとしても勝ちにくくなっています。だから、自分の意志やアイデアを持って、かつ発信できるエンジニアの価値が高まっているんです。
─ 御社の場合、依頼を受けてクライアントのサービスを開発していますよね。自分の意志やアイデアでモノを創るというスタンスと相反しているようにも感じるのですが?
え、なんでですか(笑)?いくら自社サービスを開発していたって、結局はクチの上手いプランナーやディレクターに言われたまま開発するケースもあるわけです。お金を出しているスポンサーが違うだけで、VCに出資してもらって自社サービスをやっているのと変わらないと思いますよ。
たしかに一般的な受託開発では、送られてきた仕様書の通りに開発するものかもしれませんけど、ウチの場合は、あくまで共同で企画を考えたり、開発する側もそのサービスを良くするために考えて動きます。お客さんの言うことが絶対ではないし、少し違うなと思うのであれば逆提案もします。何よりチームの一体感なくして勝てるサービスは作れないと考えているんです。
― なるほど、顧客が決めた仕様に沿って開発するわけではないんですね。
「じゃあ、自社でサービスをやったら?」と思われるかもしれませんが、たとえばSNSをやるとなると、自社の技術がSNS関連の技術だけに偏ってしまいますよね。それは、僕らが望むトライフォートのあり方じゃない。僕らは技術力に強いことを看板にしてやっているので、基本的には技術を売っていく会社としてやっていきたいんです。
そもそもWEBは移り変わりの激しい領域ですから、今のトレンドが10年続くなんていう発想は時代遅れです。よく自社の主要サービス名をそのまま社名にしている会社がありますが、僕だったらそんなこと恐ろしくてできませんよ。自社サービスの開発だけをしているエンジニアは、そのサービスに関する技術しか手に入れていないわけです。もし、サービスがクローズしてしまったらどうなるでしょう?それって、エンジニアにとってすごくリスキーなことじゃないですか。
それに、技術向きの人が、例えばソーシャルゲームだけを1年間つくっていたら、先が見えてしまい、いずれ開発に飽きてしまいます。そうなると次の技術がほしくなり、その業種以外の会社に転職しなければいけませんよね?
だから僕たちは色々なクライアントの仕事をすることで、いろんなサービスを作っていくことができる環境をつくり、エンジニアのステップアップの場所を用意しているわけです。
そうすることで、高い技術力も培われます。自ら主導してプロジェクトを進めることで、イノベーションを起こすトレーニングもできる。ここから僕たちは世界最高の技術者集団となり、日本のエンジニアがイノベーションを起こせるというところを、世界に見せつけていきたい、そう考えています。
─ トライフォートの今後の展開にぜひ注目していきたいと思います。貴重なお話をありがとうございました!
(おわり)
[取材]梁取義宣 [文]後藤亮輔
編集 = CAREER HACK
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