2013.09.10
プログラマは職人、力なければ淘汰されて然るべき―ソニックガーデン倉貫氏が問う、プログラマの覚悟。

プログラマは職人、力なければ淘汰されて然るべき―ソニックガーデン倉貫氏が問う、プログラマの覚悟。

プログラマを一生の仕事に―と考えるソニックガーデンCEOの倉貫義人氏。人月ビジネスで時間を切り売りしているうちは、35歳定年説は覆せず、収入を上げるためにはマネジメントの道に進むしかない。人の管理ではなく、生涯プログラマであり続けるために必要な条件とは。

0 0 708 4

▼ソニックガーデン代表倉貫氏へのインタビュー第1弾
“納品のない受託開発”とは何か?―ソニックガーデン代表 倉貫義人氏が全貌を語り尽くす。

プログラマを続けられる人、続けられない人。

「納品のない受託開発」というビジネスを確立したソニックガーデン。代表である倉貫氏は、「従来の受託開発は誰も幸せにできないモデル」と切り捨てる。倉貫氏の考える、新しいエンジニアの働き方とは何なのか。プログラマを一生の仕事にするために、必要な環境や能力とは。

人月商売は、エンジニアを馬鹿にしている。

― 従来の受託開発モデルは、顧客・ベンダー・エンドユーザーから満足を得られていないというお話でした。では開発を手掛ける当の本人、エンジニアにとってはどうなんでしょうか。


働いているエンジニアからみても問題があります。人月商売になっているのに、能力が高かったら開発が早く終わってしまう。短期間で済むということは、売上が下がってしまうんです。努力して生産性を上げれば上げるほど、自分の会社に貢献できないんですよね。特に優秀なエンジニアであるほど、割を食っているという事実。効率を上げるために存在するのがエンジニアなのに、自分自身にそれを求めることができない。仮に求めてしまうと、会社から評価されなくなってしまう。人月商売なんて、エンジニアを馬鹿にしているんですよ。



― エンジニアの働き方という観点からも、従来の受託開発はやるべきではない、ということですね。


そうです。だから当社が受託を行なうと決めたときも、いわゆるSIerのビジネスをやるつもりはなかった。どういう仕組みなら良いのか、お客さんが幸せで、自分たちにとって新しい受託の形について熟考を重ねましたよ。そもそもアジャイルの開発をやりたかったというのがあります。クラウドだったらアジャイルと相性がいいのはわかっていたので、二つを組み合わせられないかと考えたわけです。

そこから生まれたのが、納品のない受託開発。これならいける、と。お客さんに満足してもらえて、エンジニアは最高の環境でプログラマを続けられると思ったんです。

デスマとは無縁。時間で売らないプログラマ。

― プログラマを続けられる、とはどういうことでしょうか。深い意味がありそうに思うのですが。


ソニックガーデンが掲げるビジョンのひとつに、「プログラマを一生の仕事にする、高みを目指し続ける」というものがあります。先ほどの「エンジニアを馬鹿にしている」と関係するのですが、プログラマという人は、決まった内容を打ち込むだけの作業者ではないんです。そんな作業ならマニュアル化できるので他の人がやればいい。顧客から要件を引き出し、専門知識を駆使して設計を行ない、職人技のソースコードで表現し、ユーザーが使い続けられる運用をする人だと思っています。

逆に言うと、それができない人はプログラマになって欲しくない。一年や二年プログラミングをしたくらいで、一生の仕事にできるわけがないんです。プログラマを希少価値の高い仕事にして、より多くの報酬をもらえる仕事にしたい。それこそ、弁護士や税理士のような専門家であり、職人の世界でいいと思ってる。ナレッジワーカーの仕事なんですから。


― 職人の世界。いいですね。おっしゃるような専門スキルを持つプログラマばかりになれば、希少性や報酬が高く、誰もが憧れる仕事になりますね。


別に私たちは政府じゃありませんから、雇用創出をどうこう言う必要はないんです。一生の仕事にするために技術を高めていけないプログラマであれば、淘汰されてもいい。

この業界で働くプログラマは、優秀じゃないと務まらないと思われたいですし、そういう世界にしていきたいと思っています。


― その目標は、ソニックガーデンの提唱する「納品のない受託開発」で実現できるのでしょうか。



できる、というより実現しています。先にお話しした通りで、当社が提供するのは、お客さんに優秀なCTOを雇っていただくようなサービスです。常駐するわけではないので、顧問CTOですね。スタートアップの顧問CTOになるからには、とてもレベルの高いプログラマであることは必須条件。そんな職人たちですから、自分を時間で売る必要はありません。成果だけを提供すればいい。人月商売とは無縁です。


― なるほど。具体的にはどんな働き方をしているのでしょうか。


まず、顧問CTOとなれるエンジニアは、受託開発だけを手掛けているわけではありません。もともと自社サービスだけでやっていける集団ですし、エンジニアとして技術やサービスの高みを目指すことに生きがいを感じる人たちです。ですから自社と受託の割合が、今では6:4くらいでしょうか。これを50%ずつのポートフォリオで事業を考えています。

一週間のうち半分がお客さんのCTOとしての仕事。これだけでも充分、利益を上げています。残りの半分を自分のやりたいサービスの開発に充てるんです。お客さんとは成果でしか契約をしません。また、約束すること、しないことを明確にしています。

約束することは、「価値に見合うパフォーマンスを出すために全力で働くこと」「お客さまのビジネス価値に繋がらないことには意見すること」「お客さまには出来ることと出来ないことを正直に話すこと」。

約束しないことは、「納品や提供のためのドキュメントは作らないこと」「お客さまの会社にプログラマは訪問しないこと」「見積もりと調整のための営業担当がいないこと」「納期を絶対に死守するという約束はできないこと」。

毎月、同じ量・同じクオリティで、納得される成果の提供。

― 「納期を絶対に死守するという約束はできない」…すごいですね。強気というか、自分たちの仕事に確固たる自信がなくては言いきれないことだと思います。


はい。自分たちの技術には絶対の自信があります。なかったら、こんな約束はできませんし、私たちが存在する必要もありませんから。

先ほどの約束を守るためにも、毎月、毎週の成果で契約なんです。どのお客さんに対しても、同じ量の高い成果を提供するようにコントロールしています。絶対に手は抜かないし、必要以上の成果を提供することもしません。


― 一カ月で提供する成果について、顧客は納得しているのでしょうか。普通に考えたら、週の半分ではなく全部を自社に使って欲しいと思うものなのでは。



定量で提供する成果に納得いただけるかどうか。当然、不安に感じられる部分だと認識していますので、契約前に無料でサービスを提供するトライアル期間を一ヵ月設けています。そこでのパフォーマンスに納得いただけたら、正式な契約を行なうんです。この期間も、通常通りの成果を提供します。受注のためにゲタを履かせるようなことはしません。


― トライアル期間で満足させる力があるということですね。


はい。実際にこれまでは、フリー期間を経て契約に至らなかったことはありません。それに契約するまでも、じっくり時間をかけます。中には数ヶ月間、毎週のように来社いただき、話し合いをすることもありますよ。


― 数ヶ月ですか。しかも、来社いただいているんですね。


弁護士とかを想像していただければわかりやすいですが、普通、相談する側が弁護士のところへ行きますよね。相談したいので弁護士さん来てください、とはならない。それと同じです。お客さんの会社にプログラマが足を運んだとしても、それって結局、販管費として見積もりに乗るわけですよ。だったらその分も含めてCTO業務に充てることが誠実だと思います。


― それでも顧客はソニックガーデンに依頼したい、と。


おかげさまでマーケティングは順調で、多くの相談をいただいています。ただし、すべてに対応できていません。顧問CTOですから、自ずと一人が抱えられる企業数にキャップがある。「すみませんが、どこかとの取り引きが終わったり、休止期間に入るまで、もしくは優秀なエンジニアを採用できるまで待ってください」って(笑)。

(つづく)
▼ソニックガーデンCEOの倉貫義人氏へのインタビュー第3弾
プログラマを一生の仕事にするためのステップとは?―ソニックガーデン倉貫氏が描く、IT業界の理想形。

[取材]松尾彰大 [文] 城戸内大介


編集 = 松尾彰大


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから