タイトーに、世界から注目を集めるゲームデザイナーがいる。《スペースインベーダー インフィニティ ジーン》《GROOVE COASTER》といったヒットタイトルを生んだ、石田礼輔さんだ。GDCの基調講演でも明快なゲーム制作論を披露した石田さんに、ゲームの“今”と“これから”について考えを伺った。
もしあなたがタイトーの《スペースインベーダー インフィニティジーン》や《GROOVE COASTER》をプレイしたことがないなら、すぐにでも体験したほうがいい。映画顔負けの描写が当たり前になったこの時代、その流れと逆行するかのようなドットや線だけで描かれたゲームビジュアルは、一見すると単なる懐古趣味のゲームに思えるかもしれない。だが一度やってみれば、それがいかに“今までにないもの”なのか、分かっていただけるだろう。
そのゲームを生んだのが、石田礼輔さん。彼がGDC2012で行なった、「一生忘れられないゲームをつくる5つの手法」と題する基調講演をご記憶の方もいらっしゃるのではないだろうか。
1. アイデアをキャッチコピー化する。
2. コンセプトが際立つよう、アイデアに肉付けする。
3. 操作は直感的に、反応は大げさに。
4. 多少、違和感のあるものを入れてみる。
5. ゲームの枠を超えた、プラスアルファの価値を。
先に上げた2つのタイトルもこの明快な方法論にしたがって制作されたもの。そしてともに、国内外で数々の賞を受賞している。そんな気鋭のクリエイターに、ゲームの「今」と「これから」についてお話を伺った。
― ここ数年で一気にソーシャルゲームの波がきていますよね。従来のゲーム業界とは違うところから、こうしたムーブメントが起きていることに対してどうお考えですか?
ここでいうソーシャルゲームとは、いわゆるGREEさんやDeNAさんがモバイルで提供されているフリーミアムモデルのゲームになるかと思うのですが、あれをゲームではないと捉える方もいるんですよね。ただ僕としては全くもってゲームだと。そもそもゲームってアクションの多彩さや選択肢の多さが必ずしも必要なわけではなくて、ユーザーの決断によってユーザーの感情の起伏が生まれるような仕組みが入っているもの。その仕組こそがゲームなんです。極端な話、選択肢が一つしかないゲームがあっても、それがものすごく感情の起伏を生むのであれば、それはもう立派なゲームだと思います。むしろ名作でしょう。
今のソーシャルゲームの多くは、複雑なアクションがあるわけでもないし、選択肢が多いわけでもない。運良くレアアイテムが出たときの嬉しい気持ちだったり、イベントがもう少しで終わってしまうときの焦りだったり。そういった「嬉しさ」や「焦り」といった人間の感情を、ピンポイントで突こうとしているんですよね。
もちろん従来のゲーム業界も感情の起伏をいかに生み出すか、ずっと研究してきたはずです。でも、最近のソーシャルゲームのディベロッパーはアプローチの仕方が違うように感じます。これは先人に直接聞いたわけではないので誤解かも知れないのですが、今までのコンシューマ向けのゲームの場合、ロジカルに考えるよりも、世界観だったりアクションの面白さといった右脳的な発想で考える傾向があったように思います。それがソーシャルゲームの場合、ゲームという固定観念にこだわらず、一歩外から冷静な視点でみているような気がするんです。どんなポイントをユーザーさんは楽しんでいるのかとか、どんな風に勝利すると達成感を感じるのかとか、ロジカルに分析しているんでしょうね。
それが今のソーシャルゲームの作り方であり、魅力だと思います。人間の本能的な部分をピンポイントでついている。例えば資産が増えると嬉しいのは人間の本能ですよね。だから価値の有無に関わらず、カードはたくさん集めたい。毎日タダでもらえるのであれば、それほど欲しくないものでも、もらわないとソンだと感じてしまう。そういう本能的な欲求が刺激されているわけです。
やっぱりゲーム業界って、ゲームに憧れて入ってきた人たちが先人の方法論を継承してやってきているわけで、「ゲームってこういうものだよね」というように、イメージが凝り固まっていた部分は多少なりともあるんだと思います。今のソーシャルゲームは、従来のゲームの流れとはちょっと離れたところから、面白さだけを抽出して検討した結果だと思うんですよね。今までのゲームの流れとかはいったん置いときましょうと。今までの面白いコンシュマーゲームは一旦置いといて、新しいものを作ろうと。そういうことだと思います。
― 感情の起伏をいかに生み出すかがゲームの本質で、ソーシャルゲームはそこが優れていると?
そう思います。感情の起伏がないゲームって、単なる作業なんですよね。「右から左にキャラクターを移動しました」って、そのときドキドキしなかったらただ右から左にボタンを入力したというだけの話なんです。だから、そのアクションが難しいかどうかとか、複雑かどうかということが重要なわけではない。アクションや難易度は、あくまで感情の起伏をつくるために考えるものなんですね。
《スーパーマリオブラザーズ》を思い出してもらうと分かるかと思うのですが、感情の起伏を生み出す仕組みがたくさん入っているんだけど、見た目にはすごくシンプルで、それが人に伝わるんですよね。1UPのキノコが出て、慌てて追いかけたら穴に落ちてゲームオーバーとか。スターがぴょんぴょん跳ねていくのを焦って追いかけて、またゲームオーバーとか。ああいうのってすごく感情の起伏が生まれていると思いますよ。あの悔しさと、取ったときの嬉しさと…その瞬間瞬間でさまざまな感情がありますよね。
これはあらゆるゲームに通じることだと思っていて、中でもソーシャルゲームは特にすごい。感情の起伏を、複雑な操作を一切必要とせず、ただ単純にボタンを押すことだけで生み出しているんです。だから誰でもできる。テクニックがいらない。「操作のハードルを極力ひくくしたにも関わらず感情の起伏を味わえる」という意味では、ゲームの究極形のひとつとも言えるんじゃないかと思います。しかもそれでビジネス的にも成功しているわけですから。
でも今、ソーシャルゲームはビジネス的な観点でしか分析されていないように感じます。「今までにないうまいマネタイズの参考になるんじゃないのか」と、そういう見方が強い。とはいえ、そもそも人間がリアルにお金を払いたくなるくらいまで楽しませることって、ものすごく難しいことですよね。そこまでの感情の起伏を作ることができているというのは、マネタイズの観点だけでなく、エンターテイメント的な観点でみてもものすごいことだと思うんです。だからエンターテイメントの観点からソーシャルゲームの魅力を分析する動きが、もっとあるべきだと思っていて。ゲーム業界ならなおさらですよね。人の感情を動かすところに専門特化してやってきた我々ではなく、ゲームとは異なるジャンルにいた人たちが、ソーシャルゲームという形でいきなり成功させてしまった。個人的に、悔しい気持ちもありますね。
(中編につづく)
編集 = CAREER HACK
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