《スペースインベーダー インフィニティ ジーン》《GROOVE COASTER》で知られるゲームクリエイター 石田礼輔さん。インタビュー中編では、石田さん自身のゲーム制作の方法論と、そのバックグラウンドについて語っていただいた。
― 続いて石田さんご自身のことを伺えればと思います。まず石田さんが今までで最も影響をうけたゲームとは?
《スペースインベーダー》という答えが正解なんでしょうけど…単純に世代が違うので(笑)。
そこでいくと、やっぱり《スーパーマリオブラザーズ》ですね。初めて自分でゲームを作りたいと思ったきっかけが《マリオ》。自分の中では今も一番すごいゲームだと思っていますし、学んだこともすごく大きいです。実は《マリオ》と出会うまで、ゲームをバカにしていたところがあったんです。いわゆる「いい子」でいたかったんでしょうね、「ゲームをやるとバカになる」という話にわりと洗脳されていて。でも友達の家で初めてプレイしたときに「これはすごいぞ」と。最初のクリボーのところでゲームオーバーになっただけなんですが、何がなんだか分からないなりに可能性を感じるわけです。
それからゲームに一気にはまりました。方眼用紙にドット絵でキャラクターを描いたり、小学生なりにゲームの仕様書を書いてみたり。そうするうちに、だんだん自分の書いているものがただの模写だということに気づいてくるんですね。面白いゲームをただ合体させただけだって。すると、じゃあ何でこのゲームが好きなんだろうというところをちょとずつ考えるようになってくるんです。もちろん明示的に言葉で理解したわけではないのですが、何で好きなんだろう、何で面白いんだろうと考えるようになって。
中学生くらいになると、物事をみるとき「普通はみんなこう見るだろうな」「だけど、こういう見方もあるよね」と、2つセットで考えるようにすることを意識的にやるようになりました。これもゲームを通じてではあるのですが、いくら面白いことを考えたところで、それが伝わらないとダメなんだということをなんとなく認識したんです。特殊な発想と普通の考えとの距離感を見ることの大事さに、本能的に気づいたみたいなんですよね、石田少年は(笑)
それから物事をいろんな方向から見るクセがついたのですが、逆に一個の解答をズバっと出すことが苦手になってしまって(笑)。だから、学校でも授業には全然集中できないんですね。何か言われると、アレコレいろんなことを考えてしまう。実は、それが社会人になるまですごくコンプレックスだったんです。自分はすごく頭の悪い人間なんだと。僕は、言われたことをズバっと「点」で受けとることができないんですよ。フワっとしたボールみたいなイメージで受け取っているんですね。「点」の周りにあるイメージ「全体」を受け取っているので、「点」そのもののことはいまいち捉えるのが難しいんです。
ただゲームを作る仕事をするようになってから、それが仕事に活かせるんだと思って。僕の認識の仕方だと、何か一つ言われたときに、いくつかのアイデアというか、イメージが広がりやすいという特性がある。だからこれはあくまで僕の個性であって、別にほかの人より劣っているわけじゃないんだと思うようになりましたね。そういう意味でも、ゲームにはすごく感謝しています(笑)
― ゲーム以外からの影響もあるのでしょうか?
もともと美大出身なので、グラフィックデザインの本はよく買います。分厚いし高いし置く場所もないんですけど、見ているだけで何かしらの刺激をもらえる。何冊か眺めていると「このラインの作り方って、今まで考えたことなかった」みたいなインスピレーションが浮かぶんですよね。ビジュアル的な要素が大きいんですけど、イメージを膨らませるきっかけとしてはすごく有効です。
あとは、僕の趣味でもあるんですが、ミュージックPVをよく観ます。PVって普通の映画よりも自由で面白いところがあって。唐突に映像が切り替わってもいいというか、断続的なつながりで一本の作品を作っているので、普通に物語を描くよりも自由度が高く、意外性のあるつながりが多いんです。僕も《GROOVE COASTER》でチャレンジしてみたことなのですが、映像と音楽のシンクロでこれだけ人を気持ちよくさせられるのは本当にすごいと思います。映像と音が組み合わさることで、単体で観たり聴いたりするときとはまた違った魅力が生まれている。その組み合わせ方の発想など、ゲーム作りにもすごく参考になりますね。
PVのディレクターだと《ミシェル・ゴンドリー》をリスペクトしています。ビョークのPVを撮っている監督ですね。あの人の作品って、ただキレイなだけの映像を撮っているわけじゃない。必ず、ひとひねりされているなと。それでいて、その面白さが観ている側にもちゃんと伝わるんです。ひねり方が上手いんでしょうね。PVなので、言葉で説明を入れることはできないじゃないですか。だから複雑なことはせず、あくまで視覚的に分かるレベルでひねりを入れているんですよね。
視覚的な要素だけでひねりを入れるって、非常に難しいこと。使える要素が減れば減るほど、新しい驚きを生み出すことは難しくなります。使える要素が限られていれば、あとはもうそれをどうひねるか、破るか、穴あけるか…。そうした制約の中で、今なお新しいものを生み出し続けているというのはものすごく参考になるし、ただただリスペクトしてしまいますね。
― ゲーム作りの方法論も少し伺えればと思います。例えばボタンを押すという操作でも、そこで感情の起伏が起こるものとそうでないものとありますよね。そこに、ゲーム作りのテクニックが込められているのではないかと思うのですが…。
ゲームで生まれる感情の起伏って、「どういうシチューエーションでユーザーにアクションさせるか」で決まる部分が大きいんです。ボタンを押すという操作自体はどのゲームでも一緒。でも、崖を飛び越えようとジャンプするためにボタンを押すのか、コインを取るために押すのか、ただメッセージを先に進めるために押すのかで、感覚は全然違うじゃないですか。うまくシチュエーションを作ることで、ボタンを押すという無機質な行為に、何らかの意味を持たせることが重要なんです。
― シチュエーション作りが優れているゲームといえば?
《ワンダと巨像》はすごく印象的でした。巨大な敵に立ち向かっていくゲームというのはそれまでにもよくありましたが、非力な人間と巨大な敵との対比がものすごくコントラストをつけて表現されていて、これまでにないゲームになっていると思いました。「よじ登る」というアクションを加えたことも大きいですね。剣で攻撃するというアクション自体は特に珍しくはないのですが、巨大な敵によじ登って、振り回されて落とされそうになりながら一本の剣を突き刺すというシチュエーションをつくったことで、今まで剣を振っていた感覚とは全く違う体験を提供していると感じました。
しかも、《ワンダと巨像》はそこだけに特化しているわけです。その研ぎ澄まし方たるや…よくやり切ったなと。あのゲーム、出てくる敵が十数体の巨像だけなんですよ。普通はザコ敵も入れたくなるでしょ。でもそうすると、本当に伝えたかったところが伝わらなくなるという判断があって、あえて切り捨てたんだと思うんです。
僕はそれまで、3Dという技術でゲームの遊び方が変わったとは思っていませんでした。どの3Dゲームも、結局は2Dで再現できる面白さだと思っていて。でも《ワンダと巨像》に関しては、3Dじゃないとできないゲームだと初めて思った。3Dだからこそ成立しているゲームだと。そういうのもあって、個人的にすごくリスペクトしている作品です。
― 《ワンダと巨像》と《GROOVE COASTER》の間にも共通点があるように感じます。どちらも「引き算」されているゲームというか、シンプルにしたことで奥行きを出したゲームというか。
引き算は、《GROOVE COASTER》でもその前に手がけた《スペースインベーダー インフィニティ ジーン》でも意識的にやっていましたね。そもそもワールドワイドに展開するという目的があったことも大きいと思います。全世界の人が誰でも理解できるゲームにしようと考えたとき、まず説明書の問題がありました。そもそも説明書なんて読まないし、あったとしても読めない国の人がいるわけです。だから複雑な操作を極力はぶいて、それでもきちんと面白さを味わえるゲームにしようと考えました。
画面のイメージも、どの世界の人が見ても同じように受け取ってもらえるものを目指しました。例えば日本のアニメっぽいグラフィックにすると、ある国ではウケても、別の国では全く受け入れられないかもしれません。それだけでプレイしてもらえないのは悔しいので、人種や性別、文化の違いでシャットアウトされることなく、できるだけたくさんの方にゲームで伝えたいことをきちんと伝えられるようにするにはどうすればいいか考えて、結果的に引き算という選択肢に行き着いた感じです。
もちろん、受け手の自由度が広がるという理由で、意図的にシンプルなグラフィックにしている部分もあります。たとえばコップをコップとして表現すると、単に「ああコップだな」という感覚しか生まれないと思うのですが、それがワイヤーフレームのコップだったら、「筒状の建物かな?」と思ってもらえるかもしれない。人によっては柱かもしれないし、まったく別のものと思う人もいるでしょう。そんなふうに、シンプルにすればするほど受け取り方の幅は広がるんですよね。もちろん具体的に描けば描いたなりの面白さがあるんですけど、シンプルに表現するからこそ出せる「だまし絵的な面白さ」もある。もともと、だまし絵が好きなんですよね。「そうだったのか!」って、言葉なしで感じられるというか、楽しませ方がプリミティブ。そういうもののほうが、より多くの人に楽しんでもらえるんじゃないかと思っている部分はありますね。
(後編につづく)
編集 = CAREER HACK
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