インタラクティブ広告プロダクション「BIRDMAN」。『TIAA』『Cannes Cyber Lion』など世界的な広告賞を多数受賞してきた彼らは、一体どのように企画を生み出しているのか。そのクリエイティブ術に迫った。
いま、世界中のネットユーザーたちがこぞって取り上げ、クチコミで広まっているロボットをご存知だろうか。その名も「クラタス」。全長3.8メートル、ロボット愛好家集団「水道橋重工」が開発した、人が乗って操縦できる本物のロボットだ。
このプロモーションにもBIRDMANが関わっている。特設サイト、イベントに加え、仮想空間でロボットがカスタマイズでき、それを実際に購入できるようにしてしまったのだ。販売価格はカスタマイズによって変動するが、だいたい1億円前後。サイトオープンから1週間足らずで30万PVを超え、海外から本気で購入を希望する問い合わせもあったそうだ。その他にも、『宇宙兄弟』、『メグミとタイヨウ』、『Intel® Ultrabook™ POP-UP THEATER』、『Honda FaceBoom!』などのキャンペーン・広告を仕掛け、話題をさらっている。
この“バズる仕掛け”は、一体どのようにして生まれているのか。その企画・制作の方法論を探るべく、代表の築地 ROY 良さん、テクニカルディレクターの有方伸晃さん、高橋智也さんにお話を伺った。
― BIRDMANが携わるプロモーションや広告は、いずれもソーシャルメディア等でバズっているものばかりですね。企画をする時に意識していることは?
築地:
「WEBという枠で考えない、ということは意識していますね。WEBプロダクションだからといってWEBのなかで出来ることだけを考えていたら、狭い発想しかできません。もっと大きい視点で、“人を動かすためにどうしたらいいか”まずはここを考えます。
「WEBで何する?」といったオーダーが来たとしても、その範疇におさまる企画はなるべく出さない。例えば明治「果汁グミ」で行なった一連のキャンペーン『Tweet Love Story メグミとタイヨウ』では、TVCMからストーリーが始まるTwitter連動型アニメを展開しました。「メグミ」「タイヨウ」「果汁グミ」それぞれのTwitter アカウントをフォローして、ユーザーが物語に参加できるようにするというもので、ツイートで主人公にアドバイスをすると、それによってストーリーが変わっていくという仕掛けの恋愛ストーリーです。第2弾ではTweet Mysteryと題してリアルタイムでユーザーと一緒に謎を解いていくというストーリー。第3弾ではTweet Fantasyと題してファンタジーストーリーを展開し、1回だけ流れるCMをきっかけに、視聴者に一斉にツイートしてもらうという企画でいきました。ジブリの「ラピュタ」がTV放送された時に「バルス!」ってみんなが一斉にツイートしたと思うのですが、あんな感じです。
こういう発想は、メディアやWEBといった枠にとらわれていては出てこない。だからこそ、より大きな視点で発想することがポイントかな、と思います。
私自身、2011年のカンヌライオンズに行って考えが変わったのですが、とにかく、こじんまりしないことを念頭に置いて考えています。例えばある高機能な商品をプロモーションする時に、その機能から着想を得るのではありきたりかもしれませんが、新しいテクノロジーや全く違った切り口、面白いと思った事や人をむりやり商品に結び付ける方法もある。「商品のまわりでいかに人を動かすか」というところから考えていくと、WEBコンテンツだけではなく、さまざまな表現やコミュニケーションのアプローチも模索できると思います」
― そのような “大きな視点を持つ”ために何かアドバイスがあれば教えてください。
「日本のWEBサイト集だけ見ていても参考にならないことのほうが多いですね。やはりカンヌなどの広告をたくさん見るのは勉強になると思います。それも、サイバーだけじゃなくてメディア、デザインなどジャンルに限らずチェックしていく。そして、“何がいいのか”“どこがいいのか”“なぜ賞をとったのか”、細かく分析してブログなどでアウトプットして自分のものにしていきます。これはBIRDMAN社内でも、新人全員に必ずやらせていることですね」
― FacebookやTwitterでいかにシェアさせるかもポイントになりそうですね。何かコツはあるのでしょうか?
築地:
「“シェアしたい”という人間の心理を考えていくと、その1つの要素として自分のモノやコトを紹介してみんなに自慢したいという欲求があります。例えば、FacebookやTwitterのアイコンとか自分のツイートが組み込まれたコンテンツだと、それは“自分のもの”になりますよね。もちろん、そのアウトプットが面白い、というのが大前提ですが、こういった意味での“自分ごと化”を上手く実現できたコンテンツが、広くバズっていくんだと思います」
有方:
「例えば以前手がけたSONYの『Sound Premiumプロジェクト』では、ログインするとユーザーのFacebookでのコメントやTwitterでのツイートから感情の変化を分析して、それをもとにした音楽とムービーが自動生成されるというキャンペーンサイトを作りました。その時々の心象風景が映し出されて、自分だけの音楽が生み出されたと感じてもらうために、1万5千パターン以上の音楽が自動で生成される仕組みになっています」
高橋:
「最近では『クラタス』という巨大ロボットのプロモーションに関わったのですが、自分で好きに名前がつけられて、装備やカラーリングなどを自由にカスタマイズできるようにしたんです。そうすることで世界に一つしかない自分だけのオリジナルロボットが仮想で組み立てられる。そして、そのロボットを本当に現実に購入できる。その“自分だけの”という部分は欠かせないファクターですね。人間は自分のことをわかってもらいたい、認めてもらいたいという承認欲求があるので、それを上手く使っていくことが大事かと思います」
築地:
「もうひとつは手間をかけさせないこと。自分の性格にも関係しているかもしれませんが、画像の投稿や複雑な操作ってかなり面倒じゃないですか(笑)。なので、パッとどんなコンテンツかわかり、ワンクリックで参加できるものをつくるようにしています。昨年手掛けた『Honda ツイベガス』はワンクリックで参加できるプレゼントキャンペーンで、ツイートするとくじが引けるというシンプルなもの。番号が揃っているとその場で賞品が当たります。押すだけなんですが、ナンバーが揃う快感とその場で商品がもらえるワクワクがありますよね」
― どんなに尖った企画やおもしろいアイデアでも、なかなかクライアントに通らないことも多そうですが…。もしプレゼンで気をつけていることがあれば教えてください。
築地:
「クライアントは、インタラクティブコミュニケーションに関してはリテラシーが低い場合が多いですし、必ずしも想像力が豊かな人ばかりではない。そのことを強く意識してプレゼンに臨むようにしています。パッと伝わらないような企画では絶対にダメ。たとえば“世界初、逆立ちしながら見るサイト”みたいな、分かりやすいキャッチコピーをつけて、分かりやすい絵もつけたりしながら、誰もがイメージできるようにしています。それと、あまり捨て案は入れないようにしています。あたりまえの話ですが、捨て案がなければどの企画が通ってもOKなわけで。
BIRDMANの名前がクレジットに載るからには、生半可なものはつくれません。BIRDMANの自社ホームページには手がけた仕事のほぼ全てをポートフォリオに掲載しています。仕事全てをポートフォリオに掲載出来るように、自分たちが納得できるような形に少しでも近づけるように努力しています」
― 企画、プレゼンもさることながら、制作という観点で見た時もホームページを含めて、作品クオリティの高さに圧倒されました。制作において重視されている姿勢や考え方はあるのでしょうか?
<高橋:
「たびたび『クラタス』の例で恐縮ですが、あれはお金をいただいているクライアントワークというよりも、私が個別に担当した協力開発なので、お金はもらっていないんです。こんな感じで、けっこう自由にやらせてもらっていて」
築地:
「徹夜したりしながらね(笑)。たとえば、クラタスでいうとロボット購入ページは海外ユーザーも楽しめるように各国の為替レートで価格を表示しています。そういえばこの為替レートってどこから引っ張って来たの?」
高橋:
「リアルタイムな日本円・ユーロの為替レートが自動表示されるAPIがあって、それを引っ張ってます」
築地:
「そこまでやってるんだ(笑)すごいな。こう誰に指示されるでもなく、自分から動いてやってみることって実験・研究の一環としても意外と大切」
有方:
「ホームページに公開しているCG作品も、クライアントワークにつながるかもと実験的につくったもの。実際そのムービーがきっかけで依頼がきて。クリエイターとしては新しい技術や手法を試せる場所は貴重ですし、会社としてはその作品経由で仕事の依頼がくる。これがBIRDMANの強みになっているかもしれません」
築地:
「BIRDMANの名をあげるのは当然ですが、メンバーたちが『BIRDMANの○○っていう人、すげえ』と名指しで言ってもらえるようにする。これが直近の目標。私自身の性分として飽きっぽいというのもあって、とにかく新しいことを仕掛け続けたい。その意味でも、インタラクティブ広告というのは本当におもしろいフィールドだと思います」
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。