日本のポップカルチャー情報を発信し、世界中でファンを獲得しているTokyo Otaku Mode。そのCTOを務める関根雅史氏は、マネジメント、独立、スタートアップへのジョインと多彩な経験を積んできた。関根氏ならではの視点で「これからの時代を生きるエンジニアのキャリア」について伺った。
今、海外でも盛り上がりを見せているアニメやコスプレなど日本発のポップカルチャー。その最新情報を発信し、世界中でファンを獲得しているのがTokyo Otaku Mode(TOM)だ。Facebookページ「いいね数」で1480万を突破。驚異的なスピードで成長している。主な収益源はタイアップ広告とECであり、スマホアプリや海外イベント出展等にもチカラを入れる。
ファンのほとんどが海外ユーザーという事実が興味深い。限られた日本のマーケットではなく、世界で勝負をしていく。海外ユーザーの獲得に成功したスタートアップとしても注目される。
このTokyo Otaku Mode(TOM)で技術統括を担うのが、関根雅史氏だ。『比較.com』で開発責任者を務め、同社の上場にも重要な役割を果たした関根氏。その後、『SBI Robo』を経て独立。2012年、TOMが『500 Startups』に招かれたことをキッカケにCTOに就任した。
いちエンジニアとしてはもちろん、マネジメント、サービスの立ち上げ&運営、そしてスタートアップへのジョイン、『500 Startups』への参加…とさまざまな経験を積んでいる関根氏。その独自の視点から「20代エンジニアたちがこれからの時代を生き抜くために」というテーマでキャリア論を伺った。
― 『500 Startups』に参加されて、さまざまな国のエンジニアと接する機会があったと思うのですが、日本人エンジニアとの差は感じましたか?
技術的な部分でいえば、大きな差はないですね。情報におけるタイムラグもほとんど感じませんでした。
ただ、すごく差を感じた部分でいえば英語力で。私の英語がヒドかったという話でもあるんですが(笑)、少し込み入った話になったり、独特の言い回しがあったりすると、コミュニケーションが成立しなくなってしまう。気をつかってゆっくり話してくれるなんてこともないので。
『500 Startups』への参加のついでに、多少は英語力がつけばいいな・・・と、下心もあったのですが、現実はそんなに甘くなくて。そもそも『500 Startups』は、3ヶ月以内にプロダクトを作ってピッチに出さないといけない。英語力がどうこう言っている暇もなく、とにかく作るぞ、という感じでしたね。
― たとえば、若いエンジニアに対して「英語力は磨いとけ!」みたいには感じていますか?
もちろん、やれるなら絶対勉強した方がいいと思います。ただ、私の場合は『500 Startups』で、生半可ではぜったいに「使える」英語は話せないと実感しましたし、毎日1時間ずつ英語の勉強をして・・・なんてことでは到底無理。今、やるべきはそれじゃないだろうときっぱり割り切って開発に集中しましたね。
語学の勉強に時間を投資するかどうか。たとえば、もっと時間がある20代だったら、1年間アメリカに住んで、日本語を全く使わない状況で暮らすとかしていたかもしれません。
技術習得のプロセスと似ているのかもしれませんが、個人的には「使わなきゃいけない状況でやる」が一番いい気がして。その時は「絶対に必要な状況」で逃げようがない。集中するし、身にもなりますよね。「いつ使うかわからないけど勉強する」という方法は、いつまでも使う機会が来ないかもしれない。そう思うと、結果的に「今、目の前にある問題を解決する」というほうがいい気がします。
もちろん技術でいえば、流行っているものはさらっとチェックしておいて。で、どこかのタイミングで必要になったらガッと突っ込んで深く勉強する。
浅く広くだと「とりあえず聞いたことあるなぁ」で止まってしまうんですよね。深いレベルで個々の技術が理解できていれば、ポッと出来てきた新しい技術の理解も早い。「あ、あのモデルと同じ構造だ」「あれの派生に近い」と共通項も探れますし。
― 技術を深く理解しようと思ったら、「あえて必要に迫られる環境に身をおく」という方法も?
そうなのですが、結構むずかしいのは、会社でやっていることと、やりたいことが違うことも多い。かといって簡単に転職したり、独立したりもできない。会社でサービスの立ち上げが頻繁にあるわけでもないですし。
で、結局は、「どれだけその技術をやってみたいか?試したいことがあるか?」といった思いの強さになるのだと思います。思いが強ければ、会社を飛び出すという選択になるだけで。そこまでの決断にならないなら、別に今やる必要のないことだった、と。本当にやりたければ行動を起こすから、その時に入り込めばいいのかもしれません。
― 最近、エンジニアは、技術だけでなく、サービスのこともわかったほうがいいと言われたりしますよね。逆に技術を深く知るべきという人もいて。どういったエンジニアが優秀なのか?関根さんが思う定義があれば教えてください。
・・・難しいですね。広く言えば「会社に利益をもたらす人」が優秀ということになると思うんですけど、貢献の仕方はいろいろある。サービス寄りだったり、技術寄りだったり。また、それは、組織のあり方や考え方に依るところが大きいのではないでしょうか。
たとえば、すごい技術を持っていて、超正確に作業がこなせる人でも、全く意図を汲み取ってくれない人がいて。それなら、多少技術が劣る人でも、意図を汲んでやってくれる人のほうが、全体で見た時に成果が出ることもある。
逆に、言われたことだけを正確にこなす、という役割が求められる組織もあって。そういう組織では、「私はコードしか書きたくない」という人がいてもいいのかもしれません。そう思うと組織形態によるし、結局は適材適所だと思います。あと、Web系だからかもしれませんが、「すごい技術を持っているけど、サービスに全く興味がない」という人には、私自身はあまり会ったことがない。両方の視点を持っている人の方が多い気はしています。
ただ、Tokyo Otaku Modeのようにまだ組織が小さく、常に修正しつつ、走りながらやっているところでは、「話がわかる」というのはベースとして必要なところになるのかもしれません。今日決まった仕様が明日変わることもある。先が見えないこと、ボリュームとして測れないことをやるので。
― 今までさまざまなチームを見てきたと思うのですが、「成長するサービスを生み出す」理想のチームとは?
あくまでも私が感じた傾向で…という話ですが、エンジニア、デザイナー、マーケティングに強い人、サービスを売り込める人、こういった数名のチームでまわしていったほうが上手くいくイメージはありますね。
― そういったチームが上手くいく傾向にあるのはなぜでしょう?
「何のためにやるか?」全員がすぐ理解できるんだと思います。だから、サービスの改善が早くまわせる。結局、職種ごとに組織が分断されていると、なぜそれをやらなきゃいけないのか肌感覚でわからなくなるんですよね。エンジニアとしても「とりあえずお願いされたからやります」となり、考えなくなる。
エンジニア自身が「サービスを作って売る」というチームに入ると、すぐ隣に困っている人がいて、それを解決してあげなきゃいけない気持ちになれる。やっている意味もわかるので、何をすべきか考えられますよね。
ただ、サービスそのものが売れないものだと、話は別で。グロースハックがバズワード的に広まっていると思うのですが、成長する「素」がないとハックしようがない。つまり、「ちゃんとプロダクトをつくろう」というところが大事で。だから、結局のところ、何をつくるのか、そのためにどういうチームにするべきか。最適にしていくということだと思います。
― すごく変化の激しい業界ですし、トレンドもどんどん移り変わっていて。特に若いエンジニアに多い傾向のようなものはあるのでしょうか?
別に若いエンジニアがどうこうではないですが、技術のコモディティ化は進んでいて、技術的ハードルはどんどん下がっていますよね。たとえば、公開されているライブラリを引っ張ってきて「少し設定変更したら動いた」とか。その積み重ねでも「ものができる」という意味では一緒で。
ただ、そういった環境で学んできている分、どうしても「なぜ、そういった構造になっているのか」「なぜそれが動くのか」という根本が抜けてしまうケースはどうしても生まれてしまう。
「動けばいい」という考え方もありますが、たとえば、大きなトラブルが起こった時などは、起こっていることをかみ砕き、問題を切り分け、原因に到達する必要があり、そのためにも、深いところまで理解する必要があります。ただ、「深く理解する」ということが求められない環境なのかもしれませんが。
― どうすれば、「深く理解する」という能力は磨くことができるのでしょう?
どこまで知的好奇心があるか。興味が持てるか。ここに尽きると思います。エンジニアなら部品ごとに分解してみて、中はどうなっているのか?見てみたい衝動はありますよね。ハックの精神があるというか。逆に、それがなければ本当の意味ではエンジニアではないのかもしれません。
― 最後に、若手エンジニアがこれからのキャリアを歩んでいく上で「大切にしたほうがいい」と思うことがあれば教えてください。
「技術を磨く」とか、「サービスのことを学ぶ」とか、もちろん大切なのですが、一緒に働いている人にどう思われるか?だと思います。たとえば、いま在籍している会社が成長し、いろいろな人が独立した時に、「起業するから手伝ってほしい」と言われる仕事をしてきたか。そのために「俺はコレが出来る」とまわりにちゃんと伝わっていて、評価されているか。まずはそこを見つけることが先ではないか、という気はします。
― いかに自らのスキルをあげるか?というところに目が行きがちですが、一人で出来る仕事はないわけで…。まわりに自分の価値を理解してもらえているか。ここは意識すべきポイントなのかもしれませんね。本日はありがとうございました!
[取材・文]白石勝也
編集 = 松尾彰大
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