2014.12.24
「エンジニアにコミュニケーション能力はいらない」その真意とは?|マイクロアド 佐藤由紀

「エンジニアにコミュニケーション能力はいらない」その真意とは?|マイクロアド 佐藤由紀

JAXA関連など自然科学に関するシステム開発を行う大手SIerで、若くしてPMを歴任。インターネット広告分野で先端を走るマイクロアド システム開発部 部長の佐藤由紀さんへのインタビュー。多くのエンジニアをまとめてきた彼女が語る「エンジニアにコミュニケーション能力はいらない」という言葉の意図は?マネジメント手法にも注目したい。

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エンジニアが評価されるべきは、コミュニケーション能力ではない

「技術に真摯に向き合っている=技術力がある、それでOK」


そう語るのは、マイクロアド システム開発部 部長の佐藤由紀さん。宇宙・防衛等のシステム開発を行なうSIerから、インターネット広告分野の先端を走るマイクロアドに転職。IT未経験からキャリアを積み、若くしてPMを歴任。数多くのエンジニアをまとめてきた女性リーダーだ。
WEB/IT業界では、サービスにコミットし、高いコミュニケーション能力でプロジェクトを率いるエンジニアが評価されることが多い中、「口下手でも、技術に真摯に向き合う職人のようなエンジニアこそ本当は評価されるべき」と考える彼女。その背景にはどんな想いがあるのか?またそんな彼女のマネジメント手法にも注目したい。


【プロフィール】
佐藤由紀 Yuki Sato
株式会社マイクロアド システム開発部 部長

2002年 大手SIerに入社。宇宙・防衛等システムの企画・開発やプロジェクトマネジメントに携わる。
2010年 マイクロアドに転職。現在はシステム開発部 部長。中国のグループ会社である微告科技(瀋陽)有限公司の董事長を兼務。

職人エンジニアが輝ける、良いモノづくりができる場所を作りたい

― 佐藤さんのエンジニアへの想いやマネジメントについてお伺いする前に、これまでのキャリアについてお聞かせください。大学院では「理論物理学」を専攻し、そこからSIerに入社したと伺いました。ITの世界に飛び込んだ理由はなんだったのでしょうか?


はい。大学院の時は、真っ白な紙に鉛筆で数式を書き続けるような毎日で、ITは邪道と思っていたため好きではありませんでした。でも、好きなことだけを仕事にするより、好きではないことにも果敢に挑戦する方が歯ごたえのある人生になるなと思ったんです。それで就職活動ではIT業界に目を向けました。周りの先生方や友人は皆、私が学者になるものと思っていたので、驚かれましたね。「IT x 自然科学」というキーワードで企業を探し、入社したSIerでは、JAXAと共に国際プロジェクトに貢献するシステムの構想を練ったり、実際に宇宙関連のシステム開発を行なったり、震災時に役立つ地殻変動の研究を行うシステムの提案から開発・運用までを行うなど、様々なことを経験できました。

幼い頃からプレイヤーよりもマネージャー向きであったのと、良き上司に恵まれたこともあり、入社1年目の終わりにはPMを任せてもらえました。マネジメントする相手は全部先輩エンジニア。どちらかと言うと口下手で、社内でもあまり目立たないような40代のベテランの方も多くて。でも、そんな彼らと仕事をすることで、一つの考えに至ったんです。

それは、SIerの「ある程度プログラミングができるようになったら、マネジメント」というキャリアパスはおかしいということ。彼らはパっと見ると活躍していないのですが、私が技術に関する質問をすると、的確に自分の考えを話してくれて、これが技術力があるという事なんだなと思いました。一つひとつの工程にこだわるし、細部に渡ってよく考えている。書くコードも綺麗で、メンテナンス性が高かったり、長く持続できる良いモノを作る技術者。そんな人が、マネジメントの適性不足という事で評価されないのはおかしいじゃない?もっと言ってしまえば、口下手だから…という理由だけで評価されていないと感じたんです。

彼らのような人が輝くことができる場所を作りたいと思ったのは転職のきっかけにもなって。考えてみれば、私は幼い頃から職人気質な人を尊敬しているし、大好きだったんです。また、当時の開発は国の仕事であったこともあり、構想に5年~10年ということも普通。面白い仕事ですけれど、自分たちが頑張った結果をもう少し早く見たいという気持ちがありました。スピード感があり、まだ誰も手をつけていない未知の課題に挑戦できるような自社サービスを作り磨き続けたいと。それが全て実現できそうなWEB系のベンチャー企業へ転職を考えました。

「管理する」ではなく、「話を聞く」、というスタンスが大事

― 優秀なエンジニアを定義するとき、コミュニケーション能力も不可欠だと思うのですが、佐藤さんはどうお考えですか?


コミュニケーション能力には、外向きと内向きの2つがあると思うんです。外向きというのは、初対面の人と楽しく話をするとか、プレゼンテーションで自分をよく見せるとか、演出したりアピールしたりする能力だと思います。それは優秀な人材の一つの形だと思いますが、優秀なエンジニアに外向きのコミュニケーションは必須ではないと思います。むしろ外向きのコミュニケーションが強い人材は職人気質のエンジニアと相反する存在かもしれません。なぜなら、外向きのコミュニケーションでは印象的に伝えるために、話を簡略化して詳細を省いたり誇張表現を使ったりしますよね。技術に向き合い細部にまでこだわる職人気質のエンジニアが技術のことを誇張して話すって何だかチグハグだと思いませんか。自分はコミュニケーション能力が低いと自信がないエンジニアの方は多いと思うのですが、大丈夫ですよ。技術に真摯に向き合って「良いモノを作り磨いていきたい」という思いがあれば、それこそが価値ある素晴らしいことですから。

ただ、人にわかりやすく伝えようという気持ちを放棄してよいということではなくて。他のエンジニアに自分の思いや考えを伝え理解してもらったり議論したりできる、他のエンジニアの思いや考えを聞き理解できたり自分の意見を言って議論したりできる、そういう内向きのコミュニケーションを心がけることは必要不可欠ですね。


― とはいえ、そんなエンジニアを管理する側としては大変じゃないですか?


いえ、大変じゃないですよ。「管理する」という言葉は好きじゃないから普段は全く使わないのですけれど、いわゆる「管理する」役職の方の多くは、職人的なエンジニアは気難しくて扱いづらいという気持ちがあるのかもしれませんね。職人ほど細部にこだわるし、時には目指しているものと違うものを行いたいという話になることもあると思います。ただ、それはエンジニアがわがままな訳ではなく、彼らなりの考えがあっての事です。そんな時は、メンバーの考えをよく聞き・思いを引き出した上で、対等な立場で議論し一緒に結論を出すように心掛けています。当たり前ですけど、相手の思いや話にきちんと向き合えば、相手もこちらの話に向き合ってくれます。それに、そんな会話から新しい取り組みのヒントが得られることもありますしね。

また、「管理する」という意識を持つ方は、メンバーに教えてもらうことは恥ずかしいと思っているかもしれません。自分は偉いとか人を管理しなきゃいけないという考えを捨てた方がいいと思います。現場で本当にシステムを触っているエンジニアが一番システムのことを分かっているはずですし、知っている人に知っていることを聞くのは恥ずかしいことではないですよね?

自分は偉いという間違った考えを捨てて、メンバーが最大限能力を発揮しチームとして成果を出すために、先回りして雑用を全部やる。高校野球部のマネージャーのような存在になると、良いチームが生まれると考えています。

メンバーの想いをまとめて、アドテクのその先を切り拓く

佐藤由紀

― 2010年、マイクロアドに転職。入社後1年でシステム開発部のトップになり、現在は中国の開発子会社の代表もされ、エンジニアをまとめている佐藤さん。理想のチームは作れていますか?


マイクロアドには職人気質で、本当に良いモノを作りたいと考えるエンジニアが多くて、理想のチームに近いですね。私たちの手掛けている広告配信プラットフォームのシステムでは、webサービスらしい開発のスピード感と、基幹システムのようなミッションクリティカルさの両立が重要です。そんな自社サービスを担いたいと思っているメンバーですから、とにかく自発的に判断して、動いてくれていますね。日本のメンバーだけでなく管理画面の開発を担当してくれている中国の子会社のメンバーも、自分たちで考え様々な提案を持ち掛けてくれて。良い開発体制が出来上がりつつあります。


― 先ほどお聞きしたようなマネジメント方針を実践されている?


そうですね。自分が上でメンバーが下というようなことはまったくないですよ。自分よりメンバーが知っていることも多く、日々メンバーに様々な相談をして教えてもらっています。ベンチャー企業なのであまり形式ばったことは無いですし、いちいち上長の稟議とか承認のハンコがないと...みたいなことなく、エンジニア一人ひとりがオーナーシップを持って判断してくれています。


― エンジニアをどう評価していますか?


メンバー一人ひとりが自分で目標を設定し振り返るという事を中心に据えて、評価を行っています。SIerなどではバグを何件以内におさめるとか、何キロステップ以上コードを書くとか、よくわからない目標があったりしますが、私はほとんどの定量的な目標には意味が無いと思っていて。エンジニアとして価値のあることは、定量化できないことや場合によっては言語化すら難しいかもと思うんです。また、目標はメンバーに自分で立ててもらっています。自分自身、チーム、システム、サービス、会社全体でも範囲は自由。自分で目標を考えて「今はこういう状態です。色々なアクションを取ることで、半年後にはこういう良い状態にします」という内容を擦り合わせる。そして、目標への進捗状況を毎月一緒にレビューする。その過程で言語化できない部分もお互いに感じ取り、評価する側とされる側がお互いに納得感のある評価になることを意識しています。


― 最後に、そんな職人エンジニアたちを率いて、今後どんな方向に向かうのか教えてください。


マイクロアドでは、まさに今、新しいサービス展開を推し進めようとしているところなのですが、実は、私たちシステム開発部は、一年前から新しい展開とそれに必要な技術の検討を自主的に進めていました。誰かに言われてから始めるのではなく、自分たちで考え先回りして進めていくという事をもっと極めて行きたいですね。また、世の中には様々な技術がたくさんあるので、目的に応じてそれらの技術を巧みに使い、唯一無二のシステム/サービスを作り提供していきたいですし、その中で必要な技術を自分たちで創り出すという事にも挑戦し続けていきたいです。

先日、若手メンバーから「僕は情報のワープを作っていると思っている」と言われたんです。広告ってともすれば鬱陶しい。でも、ユーザーが本当に欲しいと思った時に、タイムリーに広告が出れば、「情報がワープしてきたみたいじゃないですか」と。情報ワープを作るって言葉自体がワクワクするし、いいなあと思って。私がすることは、そんなみんなの一つひとつの考えや想いを集めて、まとめていくこと。「イノベーションを加速させるための潤滑油」、なんて言ったらかっこ良すぎますかね。

「どこでもエンジニアとしてやっていける、でも、マイクロアドでエンジニアをやっていきたい」、メンバー全員にそう思ってもらえるように、様々な挑戦を続けていきます。


― 佐藤さんのエンジニアへの考え方や、マネジメントの姿勢に共感する人は多いと思います。ありがとうございました。


[取材・文] 手塚伸弥


編集 = 手塚伸弥


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