ビジネススクールは起業に役立つか?そんな疑問をViibar(ビーバー)のCEO上坂優太さんにぶつけた。動画制作クラウドを手がけるViibarは現在創業3年目に突入。今後はマーケティング領域にも進出し更なるサービス拡充を目指す。次なる挑戦へ着実に歩を進めつつある今、上坂さんがビジネススクール時代を振り返り、思う事とは。
ビジネススクールと聞いてどんなイメージを持つだろう?
「大企業の幹部候補や経営企画、コンサルタントなどを養成する場」というイメージがあるかもしれない。ましてWEBのスタートアップに役立つのか。疑問に思う人もいるだろう。しかしここ数年、ビジネススクール出身者がWEB業界で起業する事例を見かけるようになった。
Viibarの上坂優太さんも、ビジネススクールで学んだ経験を持つCEOだ。Viibarといえば、今年5月にヤフー株式会社との資本業務提携を発表。今後は、動画制作クラウド事業に加え動画マーケティングテクノロジー事業にも力を入れていくそうだ。
上坂さんが通っていたのは早稲田ビジネススクールの夜間MBA。スクールは1年間通って現在は休学中。まだMBAを取得したわけではないが、前職である楽天に勤める傍ら1年間経営について学んだ後、Viibarの起業に踏み切った。今回はその体験をもとに、“ビジネススクールに通ったからこそ得られたもの”について伺った。
[プロフィール] 上坂 優太
1984年生まれ。大学卒業後、映像制作会社に就職。TV番組やCM制作に携わった経歴の持ち主。その後、楽天に転職して営業、マーケティングを経験。楽天に勤務しながら早稲田大学ビジネススクール(夜間MBA)に1年間通学し、学友と「起業部」を創設。その後休学をし、2013年4月にViibarを立ち上げた。
― 本日は「ビジネススクールは起業にとって有効か?」というテーマですが、これに関しては懐疑的な人もいるのではないかと思います。上坂さんの場合は、なぜビジネススクールに行かれたのですか?
私の場合、一度体系的に経営を勉強してみたいと思ったのがきっかけですね。起業するにしても、経験のない分野における意思決定って、なかなか難しいんですよ。意思決定をするための選択肢の「幅」を身に付けたいといった思いがありました。
それまで映像制作というアート寄りの世界、楽天というインターネットビジネスでROIゴリゴリの世界と、両極端で働いて、事業経験の幅は広がっていたものの、経営の経験はありませんでした。特にヒューマンリソース、財務、経営戦略あたりには明るくなかったので、そういった経営全般を網羅しておくことは有益かな、と。
実際、スタートアップってトラブルだらけなんですよね(笑)。特にインターネットビジネスの領域は、技術革新の速度が早く外的環境が目まぐるしく変化します。想定通りにいくことの方が少ないくらい。そうするとスピーディに精度の高い意思決定が求められます。もしその都度、脊髄反射で判断していたら高い確率で舵取りを誤ると思うんです。そこである程度客観性をもって判断するのに、MBAで一通りなめることができるフレームワークや、ケーススタディの蓄積はそれなりに有用です。当然それだけで十分ではなく、あくまでショートカットコマンドのようなものだと考えています。
― 上坂さんの場合は「起業して経営に携わる」という目的があったと。たとえば起業家向けのコミュニティや勉強会への参加などではなく、ビジネススクールを選んだ理由はありますか?
「スタートアップ・起業家向けのコミュニティ」のような特定分野に特化したネットワークではなく、経営を広く横断的に学びたかった、というのが理由ですね。
「事業作り」や「プロダクト作り」を学べる場所は他にもあるかもしれませんが、経営そのものを体系的に学べる場所となるとビジネススクールぐらいしか思いつかなかったですね。
― 楽天で働かれながら通学したんですよね。大変だったのではないでしょうか。どのように両立させていましたか?
朝の時間をなるべく使おうと思い、朝型の生活に切り替えました。また、仕事では優先順位付けを強烈に意識して、本当に必要なことだけをやるようにしましたね。決められた時間の中でいかに効率化するかっていうのは、人間、追い込まれると自然とできるものです。平日は18時キッカリに会社を出ないと学校に間に合わないので、もうそこはドラスティックにやって。
それこそ飲み会も行かなくなって付きあいも悪くなるわけですが、「今、自分にとって大事なことは何か」っていうのを本気で考えているから、仕方ないなと。
あとは環境作りも重要で、職場の人の理解を得る工夫をしました。特にインターネットのベンチャーにいて、定時に帰ることなんて周囲からしたら異質なわけです。「何あいつだけ早く帰ってんの?」ってなっちゃう(笑)。だから根回しして、通学することに関して上長から「お墨付き」をもらうようにしました。
― ビジネススクールに通うことで自分を追い込む、という側面もありましたか?
ありましたね。経営のフレームだけ学ぶのであれば、極端な話、本読んでググって、一人でもできます。ただ、限られた期間の中で大量にインプットしてアウトプットしたいと考えると、ビジネススクールに入って「やるしかない」状況を作ってしまうのが早いかなと思いました。
― Viibarは3年目に入りましたね。実際に起業して経営者となった今、振り返ってみて、ビジネススクールで得られたものは何だと感じますか?
多様なバックグラウンドを持つ人たちとのつながり、ネットワーキングという点が大きかったかなと思います。ビジネススクールにはいろいろな業界の幅広い年齢層の人が集まるんです。下は20代から上は60代まで。それでいて上下関係なんかなくて、フラットなんですよね。
相手がどこの会社のお偉いさんだろうと関係なく、最年少の私が「そこは、違いません?」なんて生意気な発言をしても、むしろリスペクトされるくらい。いろいろな立場の人たちと忌憚なく議論できる環境だからこそ、いい仲間になれるし同志になれる、と思いました。
Viibarの共同創業者にもビジネススクールで出会った仲間がいますし、そこで得た人脈は、さまざまな形で生きています。立ち上げたプロジェクトを広めてくれたり、キーマンを紹介してくれたり、アイディアの壁打ちさせてくれたり。ビジネス一緒にやらせてもらうこともあります。ビジネススクールの先生が「知識は陳腐化するが人脈は醸成する」と仰ってましたが、まさにその通りだなと思います。
― 逆に、ビジネススクールでは学べないことはありますか?休学された理由もそこにあるのでしょうか。
ビジネススクールでは、ロジックは扱えても、現実世界で物事を動かすために必要な「泥臭さ」って扱えないですよね。やってみるしかない。
実際のビジネスの世界って、ロジックだけじゃ動かないじゃないですか。人の感情とか政治といった「パワー」の領域があって、その領域はロジックより直感が効果的だったりします。ベン・ホロウィッツも『HARD THINGS』の中で、効率的市場仮説なんてインチキだ!って言ってましたけど、実際の経営の現場もやっぱり不条理なわけです(笑)でも、ビジネススクールで学べるのは、あくまで「抽象化した理論や、教材にまとめられた過去のケーススタディのシミュレーション」なので、そこにはやはり限界はありますよね。
ビジネススクールで学べるのはあくまで「切り口」であって「答え」ではない。シミュレーションはできても、起業体験そのものは得られません。企業幹部になっていく人が多く来ているというのも事実としてあり、カリキュラムも起業のために最適化されているわけではない。
だから、1年間通って起業に必要な要素はある程度学べたと思ったとき、あとはスピード勝負だと思い休学して起業しました。チャレンジするなら今だという気持ちで、旬を逃したくなかった。結果的にその判断は正しかったと思っています。
― 通う目的やその人の状況によって、ビジネススクールが有益かどうかは違ってくるのですね。ちなみに「こんな人にはビジネススクールを勧める」などありますか?
起業はしたいけど解決すべき課題が漠然としているとか、まだ決意しきれない、みたいな人にはいいと思います。天才的な異端児だけが起業家になるのではなくて、普通に優秀な人が、逡巡しながらも起業していけるようにするって、社会にとっても重要なことだと思うんです。そういう人たちにとってはビジネススクールってうってつけで。そこでしっかり経営を学びリスクを計算しつくした後に起業に挑戦するっていうのは、パスとしてありだと思う。
逆に、計算もいらなくてリスクテイクできる人は行く必要ないです。それこそ「Fail fast」の精神で突っ込める人は今すぐ起業したほうがいい。
― 今後、ビジネススクールで学んだ人が起業する例は増えるでしょうか?
起業は「誰とやるか」がすごく重要です。そういうとき、「いい仲間、同志を見つけられる場所」としてビジネススクールのメリットはあると思います。素晴らしいチームで創業するという意味では、ビジネススクールで出会った仲間を集めて、そこにエンジニアも加わって・・・という形でやるのは有効だと思うし、増えていくと思います。
ビジネススクールって、“本気で何かやろう”という熱量のある人間が、いろんな業界から集まってくるホットスポットなんですよね。新しいモノってそういう熱い場所からしか生まれない。起業志望の人はまだ少数派だけど、今後はどんどんホットスポット化して起業も増えていくんじゃないでしょうか。期待も込めて、そう思います。
― どうもありがとうございました!Viibarのさらなる躍進を楽しみにしています。
[取材・構成] 白石勝也 [文] 柳澤明郁
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