日経電子版と名刺管理アプリ「Eight」を提供するSansan社のコラボ勉強会「アプリ開発勉強会」のレポート第2弾。今回はモバイルアプリで重要な「UI/UX開発」がテーマ。会場にはアプリ開発に携わるエンジニアを中心に、WEBデザイナー、情報システム担当者、サービス企画担当者など幅広い層のオーディエンスが集まった。
最初のトークセッションはSansan株式会社プロダクトマネージャー 廣瀬拓郎氏。
スマホアプリのデザインを内製化したのは1年前。当初アサインされた2名のスタッフはUIデザイン経験がほとんどゼロの状態からのスタートだったという。
「デザイン会社が作ってくれた初版のデザインから、UI/UXの細かいブラッシュアップをたくさんしてきたが、まだ全然やりきれてはいません。今日はどのように当社がUIに関する引き出しを増やし、UIを考える訓練をしてきたか、そしてプロダクトマネジメントの考え方についてお話をします。」
やれることをとにかくやろう……と考えた廣瀬氏は、ひたすらUI/UXに関する本を読み、他社サービスを研究し、スタッフ間でUIに関する議論を重ね続けた結果、3ヶ月後には感覚ではなく、ロジックをもってデザインを語れるようになったという。そして後から入ってくるデザイナーの為にレギュレーションを整備。半年をかけてデザイン制作チームのベースを構築した。
「メンバーも増え、制作体制はできましたが、やるべきこと・やりたいことは常に山積みです。その中で私がプロダクトマネージャーとして気をつけているのは、プロダクト全体の顧客価値を最大化すること。例えば1つの案件の品質を20%上げるために1週間を割くべきか、それともその1週間を他の新たな案件に割り当てるでは、どちらがお客様にとってプロダクト全体としての価値向上に効果的か……という判断をするように心がけています。案件の優先度を考える時、悩むことは当然ありますが、悩み続けたり、思考停止になってしまうことが一番よくないですね。」
続いてのトークセッションは日本経済新聞社のエンジニア 武市大志氏。
日経電子版アプリのリニューアルはUI/UX開発をTHE GUILDの深津氏(次のセッションに登場)が担当しているが、現在iOSのフロントサイドは内製化、Androidも内製に移行中だという。
「新聞メディアの最大の武器は膨大な記事コンテンツ。1紙あたり小説2冊分の文字数に相当する朝刊・夕刊の他、Web版限定の記事もあり、カテゴリも多岐にわたります。コンテンツ量を増やそうとすると、レガシーであるがゆえの深い階層構造をどこまで表現するかのせめぎあいになります。供給者側の自己満足にならないよう、新聞アプリのUI/UX開発には気を配っています。」
iPhone6の登場などスマホの大型化に伴い、「戻る」ボタンを片手で操作できるかどうかもUI/UX開発で考慮する重要なポイント。武市氏はサンフランシスコで開催されたWWDCに参加し、Appleのデザイナーに直接大型スマホ用のUIを用意すべきかを自ら尋ねてきたという。
「iPhone4S用とiPhone6plus用のUIを用意してもいいけど、AppleとしてはもうiPhone6がスタンダードだよ…って言われました(笑)。ホームボタン2回タップすれば戻れるし、スワイプで戻れるようにするといいなど、ヒントを得て開発に活かしています。」
その他、新聞ならではの表現である「見出しサイズ等による記事の価値付け」や、サクサク感の追求、ユーザーからの機能要望の咀嚼と対応など内製開発でやるべきことは、まだまだ数多くあるとのこと。今後もUI/UX開発エンジニアは増員していく予定のようだ。
最後に日経電子版アプリのコンセプトモデル設計とプロダクト監修に携わったTHE GUILD深津貴之氏のトークセッション。「確実によくするUI/UX設計」をテーマに、日経電子版の事例を基に、課題抽出、コンセプトメイキング、分析、プロトタイピング、ユーザテスト…といった具体的な方法論を紹介した。
「日経電子版リニューアルのプレゼンテーションでは、怒られる覚悟で『記事は素晴らしいですが、それ以外は全て競合以下です』 『ログイン画面なんて不要です』…など、言いたい放題に危険なプレゼンしたのですが、ご理解をしていただけました(笑) 今回のプロジェクトで良かったことは、ローンチまで6ヶ月という期間をいただけたこと。私はインプットを伴わない直感による判断というのは信じない主義なので、与えていただいた期間の中で、調査と検証を徹底的にできたことが幸いでした。」
UI/UX開発において特に注力したのは大量の仮説とアプローチを考えること。そのためプロトタイピングに時間を限界までかけたという。
「紙ベースのペーパープロト(低精度)、マークアップを施した部分プロト(中精度)、最終モックアップ(高精度)という3段階がある中で、今回はXcodeで中精度のものを数多く作りました。ナビゲーション方式やレイアウト、行間マージンなどあらゆるパターンのプロトを制作し、総当たり式で最適解を探しました。」
「仮説を検証するためのユーザテストは必ず外部の人に頼みます。注意力散漫な状態での操作ミスを検証するために、あえて被験者に酒を飲んでもらうというテストも実施しました。クライアントには大っぴらには言いにくい手法ですが(笑)」
今回のアプリ勉強会では、UI/UX開発の内製化の流れが進む中で「限られた社内リソースで何を優先すべきか、何を削ぎ落とすべきか」というマネジメント面の具体的なエピソードを数多く聞くことができた。一方で初期構築あるいは大がかりなリニューアル時に、外部のナレッジに頼るべきケースも当然あり、充分な調査とテスト実施の必要性を来場者は深く実感したようだ。今後の課題としては、内製化へ引き継ぐ際にクオリティを保つためのレギュレーションやガイドライン等の整備、相談の体制、勉強のし方といったところにあるようだ。
日経電子版×Sansanアプリ開発プロジェクト成功への道〜アプリ開発者勉強会Vol.3(最終回)のテーマはアプリ開発時のテスト自動化など開発効率の改善。
ご興味のある方はこちらをチェックしてください。
→http://connpass.com/event/16885/
文 = 鈴木健介
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