とくに女性の場合、出産や育児などライフスタイルの変化が、働き方にも大きく影響する。そのような中で「プログラミング学習」はキャリアの選択肢を広げるか。Apple表参道のイベントに「国際女性デー」で登壇したManabelle 小林コトミさんの講演レポートをお届けします。
※3月8日(月)国際女性デーに合わせて行われたApple表参道イベント/トークセッションよりお届けします。
「女性が仕事と育児を両立し、自由に働くことができる世の中を作りたい」
こう語るのは、小林コトミさん。Manabelleを起業し、気軽にプログラミングを学べるアプリ「codebelle」を提供している。
じつは彼女、子どもを出産後、「事務職」での復職を目指したところ、50社で落ちたという経験を持つ。
「出産後、育児をしながら復職するなら「とりあえず事務」と考えていたのですが、その考えは甘いものだったと思い知らされました」
こういった自身の経験から「女性たちがなにかのスペシャリストになる道をつくりたい」と起業にいたったという小林さん。これまで歩んできた道を辿ると共に、これから結婚や出産、育児をひかえる女性たちへのエールをお届けしたい。
小林さんはもともと、プログラマとして働いていた。当時は仕事中心の生活で、労働時間もそれなりに長かったが、それを苦に感じたことはなかったという。
「仕事が好きだったので、とにかく一生懸命働いていました。夜遅くまで働く日々でしたけど、つらいと思った記憶はありません」
ただ、結婚と出産をきっかけに、その考え方が少しずつ変わってきた。
「子どもができて、ただがむしゃらに働くことだけが幸せじゃないかもしれない、と考えるようになっていったんです。育児が落ち着いて復職しようとなったとき、もう以前のような働き方はできないなと思いました」
1歳の子どもを抱えて復職するうえで、プログラマという多忙な職種に戻るのは難しいと考えた小林さん。また、神奈川に住んでいたため、通勤で東京まで通うのは時間的にも体力的にも難しかった。
そこで、横浜や湘南エリアの「事務職」にしぼって復職のための就職活動を開始したが、大きな壁にぶつかった。
「ぜんぜんどこにも受からなくて50社くらい落ちました。小さな子どもがいるというだけでもネックなうえに、場所の制約もあったので、ある程度苦戦することは覚悟していましたが、まさかここまでとは…」
事務職は超人気の職種で激戦区。小林さんのような未経験者が採用されるケースは多くない。
「なかなか復職できない」という現実と向き合うことになった小林さん。この壁をクリアしたのは発想の転換だった。彼女が行ったのは「自身のアピールポイントを変える」ということ。
それまでは簿記2級の資格を持っていることをアピールしていたが、前職におけるプログラマの経験を活かし「ホームページの作成ができる」ということを押し出した。すると、すぐに復職先が決まったという。
「このとき、プログラミングってかなり需要のあるスキルなんだってことに気付いたんです。簿記っていう一般的な資格では太刀打ちできなかったのに、プログラミングっていうスキルだったら自分の価値を示すことができた。だからライフスタイルの変化が働き方に大きく影響する女性こそ、なにかのスペシャリストになる必要があるんじゃないかと感じました」
また、復職先では人材紹介サービスの立ち上げを担当し、「家の近くで就職したいけれど仕事がない」「出産してしばらくは派遣で働きたいけれど求人が少ない」など、育児と仕事の両立に悩む女性の多さを実感。
プログラミングを学ぶことが女性のキャリア形成に大きなプラスになる、こういった思いが強くなっていったそうだ。そこで、女性が気軽にプログラミングを学べるサービスを自分の手で作ろうと決意。Manabelleを起業し「codebelle」の開発にいたった。
「プログラミングを学ぶこと自体が、女性のキャリア形成やスキルアップにつながるはずだという実感はあったのですが、そういうことをやっている会社がなくて。それなら自分でやるしかないと思ったんです」
Manabelleがユニークなのは、固定のオフィスを持たず、メンバー全員が在宅ワークで作業していること。「codebelle」も自宅から生み出されたアプリケーションだ。「自由な働き方」を自分たちでも体現しようとしているわけだ。
自分たちが当事者であるからこその発想や設計がアプリにも反映された。特徴のひとつは「一つひとつの講座が3分で終わる」といった部分だ。
「私自身、子どもを保育園に預けられるようになるまで、たった10分さえ落ち着ける時間がなかったんです。だから、とにかく短い時間で学べることにこだわりました」
もうひとつのアイデアは、講座がチャット形式で進むこと。
「ユーザーヒアリングをすると、チャット形式でやり取りできるアプリをたくさんの方が利用されているとわかって。慣れ親しんだ形式ならより気軽に取り組めるだろうと思い、ギリギリで変更してもらいました」
また、さまざまなヒアリングを通じ、プログラミング学習で挫折する部分を明確化。それらがクリアできるよう丁寧にUXが設計されているのもポイントだ。現在、育児中の女性だけではなく、中高生たちが入門書代わりに使う例も出てきたという。「経験がない人でもわかりやすく」を徹底的に重視した結果といえそうだ。
イベント終了後、小林さんから以下のようなコメントをいただくことができた。
「育児で仕事を離れると、自分の評価がわからなくなるんです。だからどうしようもなく不安になってしまう。なんでもいいので、なにか気軽に学べるものがあれば、毎日『昨日より少し成長した自分』になっていることを実感できます。その選択肢のひとつがプログラミングですし、もっと身近に感じられるようにしていきたいですね」
なぜ人は働くのか。単に収入を得るためではなく、成長が実感できたり、生きがいが感じられたり、きっと大切なこと。キャリアの可能性を広げると同時に成長した自分と出会っていく。プログラミングの学習はそのきっかけにもぴったりかもしれない。
文 = 近藤世菜
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