2018.02.28
車を買う時代の終焉?ミレニアル世代が提案する「車移動」の未来。ドライブシェアアプリにブームの兆し

車を買う時代の終焉?ミレニアル世代が提案する「車移動」の未来。ドライブシェアアプリにブームの兆し

いま「車による移動」が大きく変わろうとしている。ドライブシェアアプリ「CREW」が2周年を迎えリニューアル。機能追加や改善などを通じ、配車から移動までのユーザー体験が抜群に良くなった。その裏側にあったのは、データに忠実な意思決定とアップデート。あらゆるプロダクト開発に応用できるUX改善の手法がそこにはあった。

0 0 10 0

ドライブシェアサービス「CREW」のUX改善ウラ側を公開!

海外では一般的になってきた「ドライブシェア」、つまり車の相乗りだが、日本にもそのブームの兆しがある。

たとえば、今回取り上げるドライブシェアアプリ「CREW」は、「乗りたい人(ライダー)」が「乗せたい人(ドライバー)」がスマホでのマッチングがスムーズに行なえる。新たな移動手段としての可能性を感じさせている。

そんな「CREW」は、2017年9月でサービス開始から2周年を迎え、大きなリニューアルを行なった。

CREW

先日、筆者もリニューアル後に乗車を体験。指定位置までBMWのセダンがほとんど誤差なく迎えに来てた。わざわざドライバーさんがドアを開けてくれるなど、ホスピタリティ溢れる乗車体験が印象的だった。料金はガソリン代などの実費に加え、感謝の気持ちである謝礼を上乗せした額を支払う。(※謝礼の支払いはユーザーの任意。)(※2018年2月現在)


このリニューアルにあたり、プロダクトマネージャー(PM)の小田啓さん(24)にお話を伺うことができた。

「2015年のローンチ段階では必要最低限のミニマムな機能でリリースしました。そして今回のリニューアルでは、日本らしいモビリティーサービスとは何かということを意識しながら、よりユーザーが使いやすく、ストレスのないプロダクトを目指し取り組んできました。」

CREW、リニューアルの裏側とは? そこから見えてきたのは、シェアサービスにかかわらず、あらゆるプロダクトにとって参考になるデータドリブンのUX改善の考え方だった。


[プロフィール]小田 啓|株式会社Azit プロダクトマネージャー 兼 UIUXデザイナー
大学生の頃にNagisaでアプリディレクターを経験。ゲームアプリ「お金を愛しすぎた少女」はAppStore無料総合ランキング3位を獲得するなど活躍後、UIデザイン、プログラミング、ディレクションなどのスキルを活かし、受託開発、プロダクト開発などに従事。卒業後はリクルートに入社しSUUMOの開発に関わる。2017年7月から現職。

CREWが進化。その内容とは?

[1]近くにいるドライバーがどんな人なのかわかる。


― まず、今回のリニューアルで大きく変わったところ、アップデートについて伺わせてください。


まず、一番大きいのがドライバーさんを探すマップ画面ですね。サービス時間内は近くにどんなドライバーがいるのかわかるようにしました。アプリを立ち上げた時、どんな車に乗れるのか、サービス体験のイメージが湧く、これが理想。「どんな車に乗るのかわからない」という乗車前のペインに対してのソリューションでした。

利用可能時間内のUI

元々は乗車可能時間外だとどんな車に乗れるのか、わからない状態だった。それでは初回乗車に繋がりづらいと考え、改善された。


[2]乗車可能エリアが一目でわかる。

現段階では出発可能エリアを都内の一部のエリアに制限してサービスを運営しているので、出発可能エリアがどこかは重要な情報です。今回のリニューアルによって、出発可能エリアがマップ上に可視化され、今指定している場所でCREWのサービスが利用できるのか、パッと見てわかるようになりました。

利用可能時間外のUI

初期UIでは乗車可能な範囲の表示がなかった。そのため、いま指定している場所が乗車可能なエリアかわからない状態。当時は感覚的に配車指定場所のピンをズラし、探り当てるしかなかった。(※リリース当初の渋谷・六本木エリアに加えて、現在は恵比寿・銀座・東京駅・新宿まで乗車可能エリアに)


[3]友人紹介ポイント発行。リファラルによる利用促進

― また、TwitterでCREWの「友人紹介ポイント」がシェアされてきて、それも印象的でした。リファラルの機能もリニューアルによってアップデートされたのでしょうか?


QRコードによる招待を可能にして共有手段を拡張しました。よりユーザーにシェアを促すようなデザインにアップデートしました。こちらはマーケチームとも密に連携して、一気にリファラル導線を立ち上げました。僕の中でも非常に印象的な画面です。

リファラル

まずはざっくり課題を網羅。解決すべき課題に優先順位をつける

小田啓


― さまざまな機能をリリースされていますが、実装する機能はどのように選定していったのでしょうか?


たとえば、「初回利用率(初めて乗車した人の数/アプリインストール数)」を上げていこうと考えたとき、初めて「CREW」アプリをインストールしたライダーはどのような期待値でアプリを触り、何に対して不安を持っているのか。まずは腹落ちするまで考え尽くします。

そのことを僕たちは「ユーザーへの憑依」と呼んでいます。、実際に自分でサービスを使ってみたりもしてみて、完全なユーザー目線でサービスの現状を見つめます。

そうするとユーザーのペインが見えてきます。

例えば
・どんなドライバーが来るのかわからない
・待ってる間寒いし、暇
・いくら支払えばいいのかわからない
・いつ使えるのかぱっとわからない
など。

ユーザーに憑依することで、課題を見つけ、そこから打ち手を考えていきました。

課題を洗い出すためのツールとしては、「XMind」をよく使っています。

特に今回のリニューアルで意識していたことは、細かくリリースしていくこと。だいたい1週間半に1回くらいリリースする。それぞれ施策ごとにどのくらい数値が変わったか、結果を確認しながら調整していくカタチで進めていきました。

数値の確認・管理は「Metabase」というツールを使っていますね。SQLを書くと、それがいい感じに可視化される。グラフとかも棒グラフとかいろいろと選べるのが便利ですね。


― 実際、KPIとしてはどのあたりの数値を見ているのでしょうか。


たとえば、「ゼロドライバータイム」といって乗りたい人がアプリを開いたときに乗車可能な車がひとつも無い時間や、車を探した人とドライバーとの「マッチング率」などは見ていますね。それぞれ日別と週別と月別で数字を出していて。日ごとに上がり下がりを常にモニタリングしています。

あとは数値について毎日朝会でみんなで共有するようにしていて。主な数字に関して、全社で必ず共有する。そういった体制によって問題の「種」が早急に発覚できると考えています。

月1回の経営会議で経営分析をやっているので、社内で上がった声や数字の動きを見ながら、Xmindで原因の可能性を出していく。施策や変更が必要かどうか結論を出し、実装する機能やユーザーへのオペレーションの方法など施策に落とし込んでいます。


― ちなみに、もっとも効果が良かった施策とは?


登録時のサポートですね。「インターコム(intercom)」というチャットCSサービスを使っています。初回のインストールした人に対し、ポップアップが出てくるようにしています。導入前と比べ、初回乗車まで至った率が、だいたい2~3倍くらい上がりましたね。

インターコム

フリーテキストで質問できるようにしていて。使うにあたっての不安とか、料金のこととか、なんでも聞いていただけるようにしています。

もちろん、チュートリアルや説明を文字で入れることも試しました。でも、どれだけ説明されたとしても、実際に自分の聞きたい言葉でしか質問できないのがやっぱりある。

ユーザーのみなさまが気になること、聞きたい質問ってだいたいふわっとしているもので。何について心配しているのかを考え、ちゃんと返信をし、初回乗車までサポートする。一つひとつの声をつぶさに拾うことで、初回利用率が大きく改善されていきました。そういった意味だとユーザーのみなさまの声ってダイヤの原石みたいなものかもしれませんね(笑)

コーヒーを飲みつつ、ドライバーからも直接ヒアリング

― もうひとつ私が実際に乗車させてもらって感じたのが、ドライバーさんのホスピタリティ。CREWとも良好な関係が築けているのではないかと感じました。


そうですね。ドライバーさんと信頼関係を築くために行なっているのが「コーヒーサービス」という取り組み。

乗車可能時間(22時)がはじまる1時間前、都内のカフェに、ドライバーさんに集合してもらう。週に3~4回ほど、みんなでコーヒーを飲みながらコミュニケーションしています。ドライバーさん同士も話すし、CREWスタッフとも話せる場となっています。


― ある種のコミュニティというか。


そうですね。「昨日のライドはこんな感じだったね」とか「プロダクトのここを改善してほしい」とか、貴重な意見を集めることができています。

すごくおもしろいのが、ドライバーさんのなかには、ドライバー仲間が欲しくて参加されている方がいること。2ヶ月に1回程度、ツーリングのイベントとか開催し、熱海まで行って、温泉入って、写真を撮ったりしていて(笑)

こういったカタチでドライブやツーリングが好きな方と、相乗りしたい方々の輪が自然と大きく広がっていくのは理想的ですね。

ドライバーコミュニティ

昨年立ち上げた「CREW Supply Demand Lab」とは

― アプリのUIも改善されて、ドライバーコミュニティもできて、順調なように感じます。


ありがとうございます。たしかに、UIなど表面的な部分ではかなりよくなって来たという自負があります。さらにサービスを広めるために、どれだけ待ち時間を短くできるか。「配車のネットワークの構築」がキーになると考えています。

そのために、2017年末に「CREW Supply Demand Lab」という研究機関を社内に立ち上げました。最適化問題に詳しい東大の大学院の方に入っていただいています。実際に都内で車を呼ばれたエリアや時間帯などCREWが持つデータをもとに需要の予測をしていく。「配車の最適化」ですね。

たとえば、マッチングの精度をあげて、待ち時間を最適にするために「乗りたい人(ライダー)」と、「乗せたい人(ドライバー)」、それぞれのユーザー数のバランスをとっていく。

その他にもデータを見ながら、ひとりあたりの使用頻度を見ていますね。ドライバーでいえれば、趣味の延長でやってる方も多い。どうすればたくさん使ってもらえるか。最適な回数はどのくらいか。あらゆるデータで出し、マーケティングチームとも連携してプロモーションや広告などの施策を打っています。


― まさにデータドリブンで改善をしていく、と。最後にCREWが目指す未来について伺わせてください。


ぼくたちは「CREW」のことを面白いサービスとか変わったサービスではなく「移動のスタンダード」として認識されることを目指してやっています。それこそ、自転車・電車・バスみたいな。時間や場所に制限があるとなかなか習慣化しづらい。だから利用可能な時間帯の拡大、そして乗車可能エリアの拡大に取り組んでいきたいと考えています。

たしかにリニューアルを経て、ライダーさん側のUXは良いものになってきたと思います。数字も伸びています。一方で、ドライバー側のUXはこれからどんどん伸ばしていく必要もあります。配車ネットワークの最適化も進めていく。

たとえば、いまドライバーの多くが20代〜40代で男性。昼は仕事をして、夜の空き時間で使ってくれる方が多い。たとえば、昼間の時間帯を有効活用したい学生、ママ世代にも使ってもらえないか。まだまだ検討すべき事象がたくさんある。ライダー・ドライバー両方のUXを改善ながら、都市だけではなく地方も含めて、社会から必要とされるサービスを創っていきたいと思います。

小田啓さん


文 = 大塚康平


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから