18歳の青年がつくるロボットが、未来を変えるかもしれない。オープンソースでの開発、高い拡張性、そして安価での販売を目指す。東出風馬さん(18)は中学時代、学校に馴染めなかった過去について語ってくれた。息苦しさ、葛藤、自己嫌悪…全てを受けとめ、「最高の仲間たち」と未来へ。彼が見つけた居場所とは。
「これまで動かなかったプログラムがやっと動いたんです。それが、最近とてもうれしかったことですね。仲間と一緒に喜びを分かち合う瞬間が最高なんですよ」
高校生が部活や塾に熱中するように、会社経営そのものが彼にとってかけがえのない「青春」なのだと思った。
東出風馬さん(18)。17歳で起業し、次世代ロボット『HACO』というプロダクトを開発している。
アニメや漫画で夢見たような「ロボットが一家に一台ある生活」。彼らは製品化に向けて、オープンソースでさまざまな拡張性と低コストを可能にし、ユーザーフレンドリーで”温かみのあるロボット”を生み出そうとしている。
じつは中学校時代には学校に馴染めず、悶々とした日々を過ごしていたという彼。なぜ起業だったのか。そして見つけた居場所とは?
【プロフィール】東出 風馬
1999年生まれ。シュタイナー学園3年。株式会社Yoki 代表取締役社長。中学2年時に、画面に依存せず、楽しく扱え、能動的にサービスを提供できる情報端末をロボットとおして実現するために起業を決める。 2016年夏、THINKERS FESテクノロジー部門優勝。同年11月TOKYO STARTUP GATEWAY優秀賞。 2017年2月、株式会社Yoki設立。
― まず、東出さんが起業家を志すようになったきっかけから伺ってもいいでしょうか。
14歳の頃、たまたまスティーブ・ジョブズの名言集に出会い、「好きなことを仕事にしていく」という生き方にすごく影響を受けました。アップルの創業ストーリーにワクワクして。彼らみたいにプロダクトをつくって、世界中の人たちに驚きを届けたい。どんどん夢が膨らんで、僕も起業したいなって。
あと、自分で作った紙のグライダーをキット化して中学の学園祭で販売したら、ものの数分で五十機くらい売れたんですよね。すごくうれしかった。みんなから「良く飛んだ!楽しかった」って評価してもらえたことも自信にもつながりました。
じつは幼い頃から、水ロケットをつくったり、蒸気エンジンをつくったり、からくり人形をつくったり、ものづくりが大好きな子どもだったんです。
― ロボットへの興味はいつごろから?
中学2年生くらいですね。パーツ付き組み立てマガジン 週刊『ロビ』とか、ホントは欲しかったんですけど、めちゃくちゃ高い。「買えないなら、自分でつくってやろう」と思って、すぐにスケッチを描いて見様見真似でつくりはじめました。メカのみで歩行するロボットを作ろうとしましたが、僕は電子工作やプログラミングの技術はもっておらず、完全に失敗しました...。
でも、なんでかすごく楽しかったんですよね。スケッチを描くだけでも、ワクワクして。気がつくと一日中ロボットのことばっかり考えている。夢中になっていました。
― たった2年で製品化に向けて動きだせるほどになるなんてすごいですね!技術は、独学で身につけていったんですか?
学校にクラブをつくってロボット製作をいろいろ試したんですけど、まったく技術力が上がらなくて...。じつは今でも僕はプログラミングも電子工作もほとんどできないんです(笑)
でも、「こんなロボットをつくってみたい!」って、アイデアはどんどん湧き上がってきて。なので、まずは仲間集めと資金集めにチカラを注ぎました。そのなかで、良い仲間に少しずつ出会えて、製品化に向けて動き出せるようになってきました。苦しいときもあるけど、ホントに心から楽しい。だんだんそう思えるようになりました。
― それまではあまり楽しくなかったということでしょうか?
そうですね。学校のなかでも、社会に対しても、とにかく違和感や疑問だらけ。なんというか…ムカついていて(笑) 起業を決意した中学2年までは、生きづらさを感じていましたね。
僕の学校はマシなほうだとは思うのですが、単純記憶を強要したり、何かしら趣味などがあわずクラスメイトとのコミュニケーションに苦しんだり...。ぼくは漢字ってほとんど書けないんですけど、読めるし、べつに困ってない。その代わりではないけど記憶力はすごくあったりもする。特に「物語」に関してはかなり覚えられるんですよね。
― 人には得意不得意がありますもんね。
そうなんですよね。ただ、集団生活がニガテというか、みんなが同じ方を向いているのが気持ち悪いと思うんです。東日本大震災が起きたときも、世の中の全体が「節電モード」になってましたよね。とにかく節電しようって。ただ、電力の問題って節電したところで、本質的な課題解決にはなっていない。なんとなく感情的に「いいことしている感」があればいい?それで満足してない?って。
― 東日本大震災は2011年ですよね。7年前というと…
11歳の時ですね(笑)とにかくいろいろなことにムカついていた気がします。
― 起業をして1年。実際にやってみてどうでしたか?
もうわからないことだらけ。「投資家」っていう存在すら知りませんでした(笑)ものを作って売るみたいなぐらいしか知らなかったので行き当たりばったりでやってきました。
でも、前に進めている感覚はすごく楽しいですね。シンプルに、これまで動かなかったプログラムがやっと動いたとか、その喜びを仲間と分かち合えるとか、その瞬間が最高なんですよ。余談ですが、じつはこの前、何ヶ月も動かなかったプログラムがやっと動いて、めちゃくちゃ幸せでした。うおー!ってみんなで超盛り上がって。
最近思うのは、もちろん僕自身はビジョンを持っているけれど、会社が将来つぶれてしまうんじゃないか?どうなるのか?先の話はどうでもいい。この時間のなかで、築きあげた、人間関係、経験、頭を悩ませた回数、問題を解決させた数そういうものが僕の血肉になっている。
そういった意味だと、起業して一番よかったのは、最高の仲間たちと出会えたこと。ここに尽きるかもしれません。
エンジニアリング的に超優秀な人もいれば、人との交渉やコミュニケーションが得意な人もいる。うちのNo.2って技術的には何もできないんですよ。でも素直に人への興味がすごい。だから起業家や投資家が集まるパーティーやイベントには彼に行ってもらっています。愛を込めて「まるで犬みたいに本能で営業する」とぼくは言っているんですけどね(笑)
みんなが好き勝手言うし、進まなくなることもたくさんある。毎回会うたびに殴ってやりたくなる。でも、みんなのことを心の底ではすごく尊敬している。僕と一緒にやってくれて本当に感謝しています。
僕ひとりでは何かを成し遂げる能力なんてない。価値あるチームに恵まれたから、僕にも価値が生まれる。価値あるチームにしか、価値あるプロダクトはつくれないと思っています。
#今日のスレッド#中二病 なディレクターの絵 pic.twitter.com/3ODEeUOeok
— HACOの開発日誌 @Yoki (@Yoki_Developer) 2018年2月12日
― 最後に東出さんの将来の目標について教えてください。
じつは将来の目標ってあんまりないんですよね。「将来こうなりたい」と思い描くよりも、「思い立ったら、いますぐやりたい」て気持ちがすごく大事な気がしていて。だって今「やりたい」って気持ちって将来なくなっちゃうかもしれない。見えない先の未来の自分を思い描く時間がもったいない。
なので、いま興味があること、熱くなれることをやっています。こんな世界にはなって欲しいよねってことは僕の中であって、それを会社であったりプロジェクトのミッションにしています。
― では目標にしている人は?
こうなりたいっていうのもなくて。自分は自分なので。
…ただ、家入一真さんのことはすごく尊敬しています、なんというか…とても優しい人だなって思うんです。人柄的な優しさもそうですが、作っている仕組みだったり、モノだったりに温かみがある。それがちゃんとビジネスとして成り立って、サービスがグロースしている。本当にすばらしいですよね。
家入さんの場合、お金というアプローチで社会をアップデートする活動をされている。僕はいま”事を起こす人”という意味での起業家を増やし、「小さな小さなプロジェクトをみんなが立ち上げる社会」を実現したいと思っています。
そのために、半年以内には1000万円をクラウドファンディングで募ってそれをそのまま賞金にしてスタートアップのシードラウンドレベル資金調達を実現させちゃおう!というイベントも開催しようとしています。
ロボットのこととはまた関係ない話ではありますが、僕は今これらのプロジェクトでお金という面ではなく、働き方という面で資本主義をアップデートしていきたいなと思っています。
― 逆にこういうふうな大人になりたくないなってありますか?
誰かの受け売りで語ったたり、知識人みたいなやつ、教える側にいるぞ、お前より偉いぞみたい上から語る人には絶対になりたくないですね。
自分でもそうなりがちなタイプってわかっているからこそすごくイヤ。Twitterで偉そうなこと自分で語って自己嫌悪しまくってるんです。叩かれると1日中凹んじゃうし。
― じつはメンタルはそんなに強くない?
そうだと思います。かなり落ち込みやすし、浮き沈みがあるほうだと思います。
― 同時にこの1年、メディアからも注目を集めましたよね。表に立つ機会も増え、持てはやされたこともあったと思います。ご本人としてはどう捉えている?
どうもこうもないっていうか…そんなに嬉しくないですね。大人たちから「若い」というだけでちやほやされることって何の価値もないと思っています。僕の場合、まだプロダクトをローンチさえしてない。そういう大人に対して違和感しかない。何を見ているんだって。ちゃんとつくったモノで評価しろよって。そう思うからには僕は絶対に勝負できるモノを出していく。むしろ若さしか見てない人たちには「今に見てろよ」って感じですね。ああ…こういう発言をするから叩かれるのかな(笑)でも、こういう性格なんだと思います。
― 一見するとビッグマウスにも捉えられる東出さんですが、すごく本質を見ているというか、ブレない軸を感じることができました。あと繊細な一面も知れてよかったです(笑)今後のプロダクト含め、ご活躍楽しみにしています。本日はありがとうございました。
文 = 野村愛
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