2018.06.21
どっちがアイデアを出しやすい? 「制約」を味方にする発想法

どっちがアイデアを出しやすい? 「制約」を味方にする発想法

「②のほうが「赤」という制約があり、探しやすくなると思いませんか?」こう語ってくれた菅俊一さん。「予算や時間もアイデアを出す上で味方になってくれるもの」とアドバイスをくれた。世の中やモノゴトの「おもしろい」を逃さず、アイデアを発想する。その方法について菅俊一さんと考えます。

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世の中の「ヘンなこと」を観察メモにしてみよう


「僕の表現は、毎日の”観察メモ”から生まれています」


こう語るのは、映像作家/研究者の菅俊一さん。NHK Eテレ「2355」のID映像をはじめ、彼の作品にはいつもハッとさせるサプライズがある。

彼の習慣は、毎日最低1つ”観察メモ”を残すこと。

写真やメモでストックして「おもしろい」と思った瞬間を逃さない。そして、「なぜおもしろいのか」を言葉にしているといいます。


+++Instagramのアカウントにて観察記録の一部を2010年より公開

「駅やオフィス、街や家の中...日常の中で出くわす小さな違和感に、アイデアのタネは隠れているのです」


どうすればおもしろい切り口に気づける?

ユニークなアイデアを生み出すためのヒントって?

観察メモは何がいい?

菅俊一さんと一緒に考えていきたいと思います。

【関連記事】「面白いのしくみ」を追いかけて|研究者/映像作家・菅俊一の視点

「なぜおもしろいのか」を言葉にしてみよう

+++【プロフィール】菅 俊一/すげ・しゅんいち コグニティブ・デザイナー / 表現研究者 / 映像作家 / 多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師 1980年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、様々なメディアを用いて社会に提案することを活動の主としている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/ 0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「単位展」コンセプトリサーチ、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「アスリート展」展示ディレクター。著書に「差分」(共著・美術出版社)、「まなざし」(ボイジャー)、「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」(共著・マガジンハウス)、「観察の練習」(NUMABOOKS)。主な受賞にD&AD Yellow Pencilなど。http://syunichisuge.com

普段生活をしていると、ちょっとおもしろいこと、変なことってたくさんありますよね。そうした”小さな違和感”に、じつはアイデアのタネは隠れています。

たとえば、手書きのメモ。

以前、カタカナで「ツメ」と書いたら、2つの文字が合体して一つの文字になってしまったんです。

+++

また別の日には、「取り外し」の「外」と「し」が合体した文字が現れたのです。

+++

こういうことって、よくあるけど、一体なんなんだろう?

そう思って、気になって調べてみると「書字スリップ」という現象を知ったんですよね。文字を高速で書くと、人間のクセで似たような文字を生み出してしまうんです。

たとえば、10秒のうちにものすごい速さで「お」を紙に書いてみてください。きっとこんなふうに、「あ」が現れた人もいるのではないでしょうか。先ほどの現象は、この現象に似ているのかな?と思ったんです。

+++書字スリップの例:「お」を書いているはずなのに、なぜか「あ」を書いてしまう。

こういった観察から「1つのものから複数の意味が生まれてしまう」ことや「複数の文字を合成する」というのは、おもしろいなと思いました。

この観察から取り出した概念を基に、ひとつのモチーフが少しずつ回転しながら、「2355」が浮かび上がってくる映像をつくりました。

+++
イメージ図※実際の作品映像ではありません

観察のポイントは、直感で「おもしろい!」と思った瞬間を逃さず捉えること。そして、「なぜおもしろいと思うのか」を言語化することです。絶対の真理じゃなくてもいい。大事なのは、自分自身で面白さを分解し、納得できることです。

ただ写真を撮るだけでは、その場の印象だけで終わってしまい、すぐに忘れてしまいます。「なぜおもしろいのか?」自分自身で考える作業を一度はさむことによって記憶に残り、ふとした瞬間に記憶から引き出されやすくなります。

いいアイデアは100本ノックから生まれる

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アイデアは天から降ってくるなんてことはないと思っています。だからこそ、重視しているのは、徹底して数を出すこと。100個の中から1個のアイデアを選ぶより、1万個の中から1個の方がおのずと洗練されてくる気がする。

僕が教鞭をとっている多摩美術大学の講義でも、1年生の時には特定のテーマを自分で見つけて、そのテーマに合致するものを100個見つけてくるという課題を出しています。

普段見落としていたものに気づくということは、最初はなかなかできないもの。けれど、何に着目するのかを意識しながら何度も何度も観察の練習を重ねていけば、必ず誰でもできるようになります。

それと同じようにものを作る時にも、どんどん試して作って、たくさん失敗することが重要です。そして、失敗をしたときに、必ず振り返ってどのレベルの判断が間違っていたのか。ちゃんと振り返って明確にしておく。そうすることで、はじめて次の糧になります。

「制約」を味方にする

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数を出せといわれても、なかなか出せずに悩んでしまう人もいると思います。僕はいつもアイデアを考えるときに、自分で「制約」を足すようにしています。たとえば、どちらのほうがアイデアを出しやすいでしょうか?


①身の回りの風景から気になるものを探してください

②身の回りの風景から赤いものを探してください


②のほうが、探しやすくなると思いませんか。あの人のスマホのケース赤だなとか、ボールペン赤だなとか。このようになんの制約もないと、アイデアをどこから出したらいいのか悩んでしまいます。制約を自分で設定して、乗りこなすことができれば、もっと考えやすくなる。

そう考えると、予算や時間もアイデアを出すうえで味方になってくれるものだと捉えることができますよね。限られた予算や時間は、敵として捉えてしまいがちですが、どうしたら自分の味方になってもらえるのかを考えたほうがアイデアは出てくるかもしれません。

「視点」をズラし、先入観を操作せよ

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アイデアの幅を広げるために、オススメなのが「自分の視点」をズラすこと。

そもそも、私たちは自分の視点でものごとをみています。それを乗り越えるために、意識的に視点を設定することで、先入観を操作することができます。

たとえば、先ほどの「赤いもの」を探したときにいままで全然気にならなかったペンケースが目に入ってきたように、何かターゲットを設定してその視点で物事を捉えることは有効です。他にも、いつもの風景をしゃがんで見てみるとか、物理的に別の位置に身体を置くだけでも世界は違って見えるはず。

枝葉ではなく幹をみる

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クライアントワークの場合、僕はいつも「そもそも」に立ち返って考えるようにしています。

たとえば「新しい傘を考えてください」というお題があったとき、みなさんはどう考えるでしょうか?

頭の中に傘が思い浮かんで、柄の先の形をどうするとか、たたみ方をどう変えようとか。傘の形に着目した人も多くいるかもしれません。でも、ただ傘のカタチを変えることだけが答えではないですよね。

僕の場合だったら、まず最初に「そもそも傘ってなんのためにあるんだっけ」というところから考えます。濡れたくないからだとすると、じゃあ濡れてもいいって気持ちになったら、そもそも傘がいらない可能性も出てくる。他にも、傘が不要になる空間をつくるとしたらどんなものがあるかなと考えていくと、どんどん傘のカタチに限らないアイデアが生まれてきます。

「そもそも」に立ち返るとは、その問題の川上や上流というか、根本原因をどうするか考えるということです。対処療法的にやって、その瞬間はよかったとしても、原因から解決しないと、また同じ問題に遭遇してしまうかもしれません。薬を飲んでいったん病気が治っても生活習慣を変えられなければ、また同じ病気になる可能性も高いですよね。そもそものもとを絶ったほうがいい。枝葉ではなく幹を見る。同じ問題は二度と解きたくないので、解かずに済むようにしたいですね。


編集後記

「僕は『才能』という言葉を信用するのを辞めたんです。生まれつきの才能があるかどうかで、諦めるなんて悔しいじゃないですか」

それまで淡々と話していた菅さんの声に、一瞬力強さを感じた。同時に、アイデアが思い浮かばないなんて、カンタンに思ってしまっていた自分が恥ずかしくなった。いいアイデアを生むために、仮説検証を地道に繰り返し、愚直に失敗を糧にしていく。そのプロセスから逃げないこと、できない言い訳をつくらないことが、いいアイデアをつくる近道なのだと思う。

※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をCAREER HACKにて再編集したものです。

撮影:加藤潤


文 = 野村愛


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