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みんな、絵本の「続き」を考えていなかった? 川田十夢の原体験

2018-10-12

みんな、絵本の「続き」を考えていなかった? 川田十夢の原体験

「通りすがりの天才」こと川田十夢さん。メーカー勤務時代に特許技術を開発し、退職後は開発ユニット「AR三兄弟」を結成。AR(拡張現実)を駆使した作品を世に出し続けている唯一無二の存在だ。家中にらくがき、味覚だけの生活、入社早々に部長就任....彼の口から語られた規格外のエピソードの数々をお届けしたい。

常識では測れない川田十夢の言葉

「『十の夢』と書いて、十夢(とむ)なんです」

冒頭でこう語り始めた川田十夢さん。

ユニコーンや真心ブラザーズといったトップアーティストとのコラボレーションやコカコーラの『AR自販機』といった夢のような拡張現実の技術を次々に開発し、世に送り出してきたユニット『AR三兄弟』の“長男”だ。彼の実績を聞いていると「名は体を表す」という言葉もあながち嘘ではないと感じてしまう。

  

真心ブラザーズ MV『消えない絵』の監督・出演を担当


活躍の場はそれだけではない。『情熱大陸』や『課外授業 ようこそ先輩』へ出演したり、ラジオ番組『THE HANGOUT』でパーソナリティーを務めたり……いわゆる”開発者”の枠組みにとらわれることなく、マルチかつクリエイティブな働き方を実践している。

しかし、彼の口から語られたエピソードは想像を超えていた。もっと言ってしまえば、私たちが認識している一般社会と川田さんのいる場所は地続きではない...もはや別世界の住人なのかも...?と感じた。知れば知るほど遠くに行ってしまいそうな、川田十夢の言葉に食らいついてみよう。

AR三兄弟・川田十夢を知る、6つのキーワード
・絵本の「続き」を創作していた幼少期
・ライバルはファミコン、味覚だけで生活
・入社とともに「部長」就任、そして挫折
・ヘルメットと白衣は、技術を未来に残していくための手段
・アン・ミカは拡張現実の天才?
・社会と接続すれば価値が生まれる...かもしれない

絵本の「続き」を創作していた幼少期

子どもの頃から「物語」をつくることが得意でした。たとえば、絵本。絵本を閉じると楽しい時間が終わってしまうので、『スイミー』や『からすたろう』は物語の「続き」をよく考えていましたね。要は、物語を拡張するというか(笑)。

実は僕、子どもの頃にサヴァン症候群と診断されたことがあるんですね。映画『レインマン』や最近だとドラマ『グッド・ドクター』で取り上げられたんですが、ある分野で驚異的な能力を発揮するという。映画やドラマで天才的なキャラクターのベタな描写として、数式が空中にポンポン浮かぶようなシーンがあると思うんですが、まさにあんな感じです。

僕自身に自覚はなかったけれど、おそらく母親は僕の力をもっと伸ばしたいと思ってくれていた。当時子どもながらに、自分の住んでいるマンションのエレベーターの待ち時間がすごい無駄だと思ったんです。だから、マンションの管理人さんに効率化の方法を提案して……まぁ当時は「効率化」という言葉は知らないのですが(笑)。でも、全然理解してもらえなくて。一連を見ていた母親が不憫に思ったみたいで「家のなかに落書きしていいよ」と。その落書きがエレベーターを効率的に稼働させる図だったみたいです。

ライバルはファミコン、味覚だけで生活

いわゆる学校の勉強は全然やらなかったけど、先生よりも自分の方が頭がいいと思っていたし、公式も覚えるものじゃなくて見つけるものだと本気で思っていましたからね。

小学校の頃に得意だったのは、ごっこ遊びを考えること。当時のライバルはファミコンですね。ファミコンよりも同級生たちを魅了するようなごっこ遊びを考えることにすべてを賭けていました。友達の間で何が流行っているのかをリサーチして、週末までにごっこ遊びを考案。で、週明けから遊ぶ。当時から開発者だったんですね(笑)。結構みんな熱狂的に遊んでいたと思います。「ドラゴンボールごっこ」とか、「あさりちゃんごっこ」とか。ただ「AKIRAごっこ」だけは難しかったですね(笑)。

もうひとつ、子どもの頃のエピソードでウケがいいのは、味覚だけで生活した話ですね。きっかけは忘れてしまったんですが、現代人は頭でっかちになっている。もっと原始に戻らなければいけないと思って、味覚だけで世界を感じ取ろうとしたことがありました。

一度だけミニ四駆のなかに入っていた乾電池から茶色い液体が出ていたんで、なめてみたんですね。するとちょっと鈍いシビレがあった。ある日、作文で「この気持ちは古い乾電池から流れてくる茶色い液体をなめたような気持ち」と書いたら、先生が「川田、天才か」と(笑)。僕にとってはひとつの実体験に過ぎなかったんですけどね。

入社とともに部長就任、そして挫折

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大学在学中も、就職活動はしなかったですね。「僕ぐらいになると企業から声がかかるんだよ」と就職活動している連中を見下していたくらいです。

すると、なんと留年しちゃって(笑)。まさかの履修科目計算ミスですよ(笑)。でも、結果としてミシンメーカー・JUKIの取締役が僕をヘッドハンティングしてくれたんです。しかも「部署をまるごと任せるからやってみろ」と。何が何だかよくわからなかったけど、そういう過程を経て会社に入りました。

ただ、期待に応えるまでは8年ぐらいかかりましたけどね。最初、社内で嫌われてたんですよ。普通メーカーの部長って、コツコツ頑張って、主任、係長、課長を歴任して、40歳ぐらいでようやく昇格できるものなんです。でも、僕は入社早々に部長就任。明らかに特別扱いを受けていたので、そりゃ気に入らないですよね(笑)。口を利いてくれない技術者もいましたから。

僕は特許技術を開発するために入社したという自負があるから、技術者と連携を取らなければいけない。それで「ちゃんとコミュニケーションをとろう」と。昼休みや飲み会などで技術者たちとのやり取りを重ねるようになりました。すると、だんだん仲良くなっていくと同時に、ミシンの構造が複雑だということにも気づかされて。入社から8年経ってようやくミシンとネットをつなぐ特許技術を開発できました。

ヘルメットと白衣は、技術を未来に残していくための手段

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会社員としてひととおり経験して技術の奥深さ、おもしろさを再確認できました。

たとえばレコードという技術が発明されなければミュージシャンの地位はこんなに高いものではなかったと思うんですよ。フライパンが開発されなければ、料理研究家・平野レミも生まれなかったかもしれない。そういう意味では、技術者の才能や能力は素晴らしいものだと思います。

同時に、技術なんて誰も見ないことにも気づかされました。どんなに優秀な技術者の技術であっても、爆笑を取ることは難しい。心に残らない技術は、未来に残っていくことが難しいんです。だから、これからは「技術をどう見せるか」が大切になってくる。そんなことを考えていたら、気がついたら会社を辞めて、白衣を着て、ヘルメットをかぶってテレビに出ていました(笑)。技術を突き詰めることは大事だけど、広めていく努力もしていかなきゃいけないな、と。

似たような話で、ライゾマティクスの真鍋大度くんの話を紹介させてください。彼はもっとシンプルなやり方で技術を広めています。彼は根っからの技術者なので、ラボを立ち上げて興味のある分野の研究や開発に取り組んでいますが、いざ世の中から必要とされれば100%以上の力で応えています。「技術者として求められていることに応える」ってシンプルなようで、技術を広めていく方法としては一番手っ取り早いですよね。僕がやっていることとは違うけど、「技術を追求しつつ、世の中に広めていく」というスタンスは同じ。『大きい度』で大度。やっぱり名前の通りになりますよね。

アン・ミカは拡張現実の天才?

先ほど「爆笑」というキーワードが出ましたが、最近では舞台やお笑いといった分野ともコラボレーションしています。

たとえばヨーロッパ企画の上田誠くんの舞台って拡張現実的だと思っているんですね。彼らのように感性が近い別の職業の人たちとバンドを組むような形でコラボレーションするのは好きです。

感性の見分け方としては、「軽いものを重くするタイプ」の「重いものを軽くするタイプ」のどちらに当てはまるかで判断していますね。正直、僕があまりうまくいかないと感じるのはただ「軽いものを重くする」だけの人。コントや番組なんかもつくるんですが結局笑いが生まれる瞬間って「重いものを軽くする」か「軽いものを重くする」ときなんですよね。双方向の質量変換が必要。そういうタイプの人とは相性がいいような気がします。

個人的に「重いものを軽くする」こと、つまり拡張現実の天才って、アン・ミカさんだと思っていて。あの方、昔は極貧生活を送っていたんですよ。で、一家総出でラーメン屋を立ち上げて「ようやくこれから人並みの生活ができる」というときに火事になってしまったんです。家族は命からがら逃げてきたわけですが、お母さんが羽織ってる服を見て放った一言が「お母さん、それ好きな服やん。一張羅やん。幸せやん」だったんですよ。普通こんなこと言えますか?火事という絶望的な状況をポジティブに変換する、つまり「重いものを軽くする」しているわけです。

そして彼女はガールズトークの天才でもあって、よく女ともだちの相談に乗るんです。そこで発動するのは、「(多くの人にとってどうでもいい)軽いことを重くする」能力です。

ちなみにあの方、テレビショッピングの数分間で1億円を売り上げたことがあるんです。そのときの商品紹介の仕方が「この財布、ものすごく重厚な革を使っていますね。あ、このがま口使いやすいやん、めっちゃ便利やん」というように丁寧語と関西弁を上手に織り交ぜてるわけです。個人の感想を関西弁で話すことで視聴者に親近感を与えるという……これも、軽いものを重たくする技術ですよね。まさに拡張現実の申し子です。

社会と接続すれば価値が生まれる……かもしれない

僕が芸能分野が好きな理由のひとつとして社会と接続していることがあります。そういう意味で、「企画」は社会と接続するための手段だと思いますね。変なことを思いついても、社会と接続しなかったら変なままなんです。

僕なんて、テレビでアン・ミカに注目しているだけの変なおじさん(笑)。でも、頭のなかにあることを企画書にすると、社会と接続し、イノベーションが起こる可能性がある。自分が大切にしているものが変なものだとしても、社会と接続することで価値観自体に意味がもたらされます。衝突を恐れずにまずは頭のなかを企画書にすること。これが、大切だと思いますね。

※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をCAREER HACKにて再編集したものです。

撮影:友田和俊



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