“ソーシャル○○”――このところ、ソーシャルをベースとしたWEBサービスが増えている。どれも面白いサービスばかりだが、気になるのはビジネスとしての可能性だ。つまりは「それって儲かるの?儲からないの?」。ちょっと訊きづらいことを、《trippiece》代表の石田さんにズバリ訊いてみた!
一昨年ほど前から、日本においても“ソーシャル○○”と呼ばれるWEBサービスがずいぶん増えてきた。
ソーシャルフォトサービスソーシャルグルメサイトソーシャルリクルーティング…
たとえば、まとめサイトをチラリと覗くだけでも、そこに挙げられているサービスの数に驚き、多彩なアイデアに感心させられる。
だが、サービスとしての面白さ、可能性に魅力を感じる一方で、それらソーシャル系サービスは果たして、ビジネスとして成立しているのだろうか。正直、「上手くマネタイズできている」という話をあまり聞いたことがないように思える。
そんな中、アイデアの面白さはもとより、ビジネス的な価値についても各方面から高く評価されているソーシャル系サービスがある。ソーシャル旅行サービス『trippiece(トリッピース)』だ。
ユーザー自らがソーシャル上で旅を企画し、興味を持った人々が集まり、ソーシャル上であれこれと意見を交わしながら計画を膨らませ、最後は実際に旅に出る。オリジナルな旅の企画と、他人同士の思わぬ出会いが多くのユーザーを惹き付け、注目を集めているのだ。
『trippiece』を立ち上げた代表の石田言行さんに「ソーシャル系サービスがビジネスとして成立するための条件」を訊く。
― 石田さんが立ち上げられた“ソーシャル旅行サービス”『 trippiece(トリッピース)』は、本格稼働を始めたのが2012年の初頭ながら、すでにビジネス的に軌道に乗っていると伺っています。
目指すところはまだまだ先ですが、スタートアップの状態としては、収益化を含めてまずまずとは言えるかもしれません。現在のユーザー数は4万人ほどで、旅行参加者は予定者を含めて延べ6千人になりました。
― 成功の理由について詳しく伺う前に、まずは起業された背景から教えていただけますか?石田さんは現役の大学生(※2013年3月取材当時)ですよね?
はい。もうすぐ卒業式です(笑)
起業したいというのは以前から考えていたんです。実は、自分でお金を稼ぐ、というのは中学生の頃からやっていまして。たとえばケータイのオークションサイトとか。今はどうか分かりませんが、当時って、出品している人たちの売り方があまり上手じゃなかったんですよ。
たとえば、ある人気ブランドのお財布があったとして、それを結構お買い得な価格で売ってるんですけど、「○△のお財布 4万円」としか書いてない。
でも実はそれ、新作のデザインで、しかも未使用品だったりするんです。「2008年新作 未使用 ○△のお財布」と書くだけで、すぐに売れるし、売値もだいぶ高くできます。そういうところに目をつけて、やっていましたね。あまり自慢することではないですが、中学生にしては結構な額を稼いでいたと思います。
― 中学生の頃からですか…!それは筋金入りですね。
まぁ、そんなふうにずっとやってきていたんですが、大学生になって本格的に起業をしようかなと思ったとき、何によって起業するか、というのが決まっていなかったんですよね。単にお金を稼ぐだけのようなことはもうやりたくないと思っていましたし。それで、NPO法人を立ち上げたんです。
僕の名前、『言行』と書いて『イアン』って読むんですけど、アメリカ人の血が少し入っているんです。祖父がアメリカ人と日本人とのハーフで、祖母が広島で被爆している。そういう、ちょっと複雑な背景があるからか、小さい頃から「人を人としてみなさい」と教えられてきたんですよね。国籍とか肌の色とかで人を区別しないという考え方。そういったものがNPOを立ち上げるきっかけになったんだと思います。
で、ソーシャルビジネス(貧困などの社会的課題の解決に向け、事業として取り組むこと)を学びにバングラデシュに行こうと思い立ちまして。それをtwitterでつぶやいていたら、同じような想いを持った人たちが、どんどん集まってきたんですよね。
それで実際に、その人たちと一緒にバングラデシュに行ったんです。10日間ほどの旅でしたが、ものすごく楽しい時間でした。見ず知らずだった人たちが、同じ目的を持って旅に出て、同志として絆を深めていく。この素晴らしい体験をサービスにしたいと思ったのが、起業に至った背景です。
― 人が集まってきたきっかけがtwitterだった、というのも、『trippiece』がソーシャルサービスとして誕生した一因になっていますよね。
そうですね。旅の企画を募るにせよ、人を集めるにせよ、バイラルツールとしてのSNSがサービスにハマった感じです。
― 『trippiece』が多くの人にウケた理由って何なんでしょう?提供している価値をあえて端的に言うならば。
ざっくり言うと、“得がたい体験”ですかね。旅というのは、それ自体が非日常体験なので、そもそもバリューがあります。
ですが、「旅に行きたいなぁ」と思っても、実際にはなかなか腰が上がらないですよね。ツアープランや価格を調べたり、休みの日程調整をしたり、旅支度を整えたり…というのが結構大変で、最初の一歩が出ない。
その点、『trippiece』では、まずは「行きたい」という想いをポストすればいい。予算とか細かいことは後回しでいいんです。サイト上でやりたいことを語っていくと、だんだん興味を持った人たちが現れて、その人たちとああでもない、こうでもないとコミュニケーションしているうちに、どんどん実現に近づいていく。“アクセル”になるんですよね。そこが一つの価値だと思います。
しかも企画は自分たちで話し合って決めていくものなので、パック旅行では味わえない達成感や充実感が得られるんです。
また、旅に付随する“出逢い”も、価値の一つです。日常で出会える範囲ってすごく限定的じゃないですか。社会人であれば、基本的には会社関係の出会いぐらいですよね。でも『trippiece』で出逢う人は、日常生活とは全く違う文脈の人たちばかりです。ただ趣味や価値観が同じだから、一緒にいて居心地が良い。旅先で仕事の愚痴ともか言わないで済みますし(笑)
だから旅が終わっても友達になっているんです。「はじめまして」で始まって、「また会おう」で終われる旅。
― それは普通のツアー旅行を使っていては得られないバリューですね。
― ビジネスとしてカタチになるまでに苦労した点はありますか?
WEBサービスを作るのは初めてだったので、立ち上げには正直ものすごく苦労しました。サイトを作るだけで1年かかっていますし、当初想定していたスケジュールからすると、かなり遅くなってしまったんです。今考えると、もう少し頑張れたなと。
― マネタイズについてはどうですか?苦労などは。
バングラデシュのときの経験で、ある程度利益が出るというのは分かっていたので、それには苦労はしませんでした。
ただ、スキームづくりは最初にしっかりとやっておこうと考えていたので、旅行代理店のビジネスモデルを分解して、どこにどんなお金が発生しているのか、というのは徹底してやりました。基本的に僕らのビジネスは、旅行業のリプレースなので。
大体、利益率が10%ぐらいで、販促費が10%ぐらいで、営業管理費が…みたいな感じで見ていくと、僕らが人を集めて企画して旅行代理店に送客すれば、代理店の儲け分を確保した上で、僕らも利益を出せるなと。
― なるほど。代理店への送客手数料で利益を出しているんですね?
そうです。僕らがやっているのはWEBサービスなので、マネタイズポイントは他にもいろいろあるんですが、今はまだ広げようとは考えていません。まずはサービスの中心にある“旅”という部分をしっかりと展開させ、利用数を増やして…という段階ですね。
― 旅行代理店との交渉はどうでしたか?難航したりとかは?
それは全然大丈夫でした。代理店側からすると、特に断る理由はないので。そのあたりも、スキーム構築のときにある程度勝算があった部分です。
― うーん。お聞きしていると、とても大学生とは思えないビジネス感覚ですね…。やはり若い頃から自分で稼ぐ、ということをされていたせいなんでしょうか。
自分では分からないですが、無関係ではないかな、とは思います。
といっても、それほど綿密にアレコレ考えているわけじゃないんですけど。先ほども少しお話ししましたが、収益化のスキームを作るところだけは、数字を見ながら最初にしっかりと行なっておく必要があると思います。
それ以外は、ユーザーにキチンと向き合うことができればいいんじゃないでしょうか。まずは、ユーザーに対してどんな価値を提供できるのか。それから、どうやってユーザーを集めるのか。
これは後から経験的に分かったことですが、最低1万人のユーザーを持てないと、ビジネスとしては成り立ちづらいですね。
― 「マネタイズのためのスキームづくり」「提供できる付加価値の創出」「ユーザーを増やす」この3つがポイントと言えそうですね。ちなみに、ユーザー数はどうやって増やしたんですか?
いろいろとあるんですが、メディアに露出する、というのは意識していました。そのためにこの1年留年したようなもので…(笑)やはり、“学生起業家”というのはメディアに取り上げていただきやすいんですよね。僕自身は、本当は学生か、社会人かで区別するのは好きではないんですが…。サービスそのものの価値で判断されるべきだと思いますので。
とはいってもユーザーを増やさなければどうにもなりませんので、そこは肩書きを活用させていただきました。1万人突破までは、サービスの本格稼働からだいたい4~5ヶ月ぐらいだったと思います。
(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
ソーシャルグラフを“使う”か“作る”か、で生まれる違い ―《trippiece》の視点[後編]
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