正社員比率が50%を切り、多様な就業モデルの模索が否応なしに求められる日本。クラウドソーシングは変革の急先鋒として注目を集め続けている。官公庁や大手民間と精力的に協業し、新たな働き方の提案を活発に行なっている《クラウドワークス》。代表の吉田浩一郎氏に、海外動向も含めた“最前線”について伺う。
多様な雇用形態や働き方が生まれる中で、存在感を急速に高めているクラウドソーシング。
海外では、フリーランスのユーザーに対しても社会保険が用意されたり、週30時間以上の継続的な案件が大きな割合を占めるなど、これまで正規雇用者だからこそ得られていた安心や安定が保障されつつあるらしい。
日本における正社員比率は、特にこの十数年の間に下がり続けている。この流れが不可逆なものであることは、論じるまでもないだろう。
そんな中で、クラウドソーシングは日本の働き手にとって希望の光となるのだろうか。
官公庁との共同プロジェクトや、大手民間企業との協業など、さまざまな試みを精力的にこなす《クラウドワークス》。
その代表である吉田浩一郎氏に、日本におけるクラウドソーシングの可能性についてお話を伺った。
発注者と受注者との関係性の変容、Androidアプリ開発をするシニア・フリーランサーの登場、クラウドソーシングによる価格破壊の問題…等々、刺激的な話題が次々に飛び出した今回のインタビュー。働く側はもちろん、発注者側にとっても興味深い内容となった。
― クラウドソーシングについて伺う前に、まずは従来型のワークスタイルについて吉田さんのお考えをお聞かせいただければと。あえて、問題点や課題点に限定して伺ってみたいのですが。
既存の会社組織というのは、インターネットが無かった時代に作られた仕組みですよね。当時は“皆で一か所に集まって働く”というのが最も効率的な時代でした。なので当然、今の時代にそぐわない事態というのは発生します。
以前、私が上場企業で執行役員をやっていたときに感じたのは、まず、“時間”の問題です。
エンジニアやデザイナーの中には、「夜遅く、静かになってから集中して仕事をするほうがいい」という人が結構います。ですが会社としては、「どうぞ自由に残業してください」というわけにはいかず、無理にでも帰ってもらうわけです。
労務管理上それが必要なことであると思いつつも、その人が最もパフォーマンスを出せる方法で仕事できない、というのは合理的ではないなぁとも感じていました。
それから、“場所”の問題。たとえば「このソフトを買って欲しい」とデザイナーに言われたときに、会社としては稟議を出さないといけないわけです。で、稟議を通すためには、「なぜ彼に購入するのか」「他のデザイナーには買わなくていいのか」というような検討をアレコレとやらないといけない。
そうしているうちにデザイナーが、「じゃあいいです、自宅のPCにはそのソフトが入ってるので、その部分の作業は家でやります」とかいって、会社を早めに切り上げて帰っていく。じゃあなんのために会社に来てるんだろうと、非常に不合理性を感じたんですよね。
― デバイスなども含めて、自宅のほうが働きやすく最適化されている…というのは、特にエンジニアやデザイナーという職種においては、あり得る話ですね。
あくまでも会社側にとっての最適化がなされているだけで、働く側にとっての最適化は、まだまだ不充分です。
― 働く側にとっての最適化が必要だと。
そうです。最適化を考えるときに、“情報の共有”というのがカギとして考えられると思います。情報を持っていることが何をするにつけても重要なわけですが、20世紀には、個人より企業が、企業より国家が、情報を持っていた。だからそこに上下関係が存在していた。
ですが、個人同士が情報を瞬時に共有できるようになった現代においては、もはやその並びはフラットです。たとえば企業対国家でいえば『ダッチサンドイッチ』のようなことも起こっているし、個人対国家ですら、エジプト革命やジャスミン革命のようなことが起こりました。
21世紀は個人の立場が相対的に高まってきているので、ビジネスフィールドにおいても、働く側の最適化というものを企業も含めた全体が考えなければならない時代だといえるんじゃないでしょうか。
― そのあたりが、吉田さんがクラウドソーシング事業に乗り出したきっかけですね?
きっかけとしては、他にもあります。やはり以前勤めていた上場企業のときの話なんですが、WEB制作とかって、5~10万円ぐらいのちょっとした仕事というのがちょくちょくあるんですね。そういう仕事を外に出したいと思うとき、いわゆる外注会社に依頼しようとすると頼みにくい。営業マンが訪問して要件決めて見積りだして、エンジニアがその後ろにいて…みたいなカタチになるので、人件費的には1人月ぐらいのものでないと依頼が難しいんです。
でも、個人レベルであれば、「10万円でWEBページ作成」みたいなものは充分可能ですよね。事実、後になって「それだったら僕がやってあげたのに」みたいなことを友人から言われることが何度かありました。そのときに、「個人のスキルと空き時間が可視化されていたらどんなに便利だろう」と思ったんです。
そういった考えがだんだん一つにまとまってきたときに、海外のクラウドソーシングの事情を知って、今に至るという感じなんです。
― 海外のクラウドソーシングはどんな状況なんですか?
《oDesk》(アメリカのクラウドソーシングサービス)を調べてみて一番衝撃的だったのは、週30時間以上稼働しているフリーランスに対して、oDeskがいわゆる社会保険を提供している点でした。
もちろん、アメリカと日本では社会保障制度が違うということもありますが、それにしてもクラウドソーシングというインターネットサービスに属しているだけで、企業に所属しているのと同じ待遇で働けるというのはすごいなと。これは21世紀型の働き方の一つだなと感じましたね。
それから、oDeskに登録されている案件のうちの約6割が、「週30時間以上の勤務を希望」という案件だったことも驚きでした。週30時間以上ということは、ほぼフルタイムの仕事と変わらないですよね。
日本では、クラウドソーシングというとまだまだ“単発業務の外注”というイメージなんですが、アメリカの場合、日本でいうところの正規雇用者を、そのまま外から調達する感覚です。
たとえばサーバ監視やSNS監視といった業務をフルタイムで出したりとか。時差を利用すれば、各地に3チームあればデイタイムで24時間をカバーできます。
― 日本においても、いずれは正社員という雇用形態が無くなると思いますか?
数年以内に正社員比率が45%台になる、といった予測もありますよね。いつまでに何%になるかはともかくとしても、正社員以外の働き方が増加していくことは間違いないと思います。クラウドソーシングの利用というのもその一つで、特にITやクリエイティブ分野においては流れが速い。
ただ、正社員にしてもフリーランスにしても、どちらかがどちらかを駆逐する、というものではないですよね。
たとえるなら正社員というのは、Windowsみたいなものだと思うんです。ライセンス保証されていて、画一規格で使える。正社員というのも、どの会社にいっても同一基準で働けるシステム。安心です。
一方、フリーランスはLinuxみたいなもの。自己責任は増えるけれども、自由度が高く、工夫次第ではより快適な環境にできる。
安心を得たいか、自己裁量を得たいか、人それぞれの価値観に対する選択肢、ということです。
(つづく)
▼クラウドワークス代表・吉田浩一郎氏への取材レポート第2弾
最高受注年齢77歳!利用が広がるクラウドソーシングの更なる可能性―クラウドワークス吉田浩一郎氏に訊く
[取材]上田恭平 [文]重久夏樹 [撮影]松尾彰大
編集 = CAREER HACK
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