2013.06.04
最高受注年齢77歳!利用が広がるクラウドソーシングの更なる可能性―クラウドワークス吉田浩一郎氏に訊く

最高受注年齢77歳!利用が広がるクラウドソーシングの更なる可能性―クラウドワークス吉田浩一郎氏に訊く

日本最大級のクラウドソーシングサービス《クラウドワークス》では、アプリ開発案件やロゴ制作案件などにおいて、50代、60代のユーザーによる受注が相次いでいるという。受注実績の最高年齢は77歳というから驚きだ。急速に利用が広がるクラウドソーシングの可能性について、代表の吉田浩一郎氏に話を訊く。

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▼《クラウドワークス》代表・吉田浩一郎氏への取材レポート第1弾
正社員とフリーの格差は無くなる?日本最大級のクラウドソーシング《クラウドワークス》吉田浩一郎氏の視点

クラウドソーシングを通じて見えてきた、価値観の変化。

クラウドソーシングの急速な伸びを感じる昨今、アメリカではすでに、フリーランスが得られる仕事や待遇が常用雇用者のそれに近づきつつあるという。

「日本においても、働く側の価値変容や、発注者と受注者との関係の変化など、新しい動きが見られる」

そう語るのは、日本最大級のクラウドソーシングサービス《クラウドワークス》の代表を務める吉田浩一郎氏だ。

その変化とは一体どんなものなのか。実際に《クラウドワークス》で起こっている事例を交えながら、さらに深く掘り下げていく。

人々は、やりがいを求めている。

― 「正社員という安心を得たいか、フリーランスの自由を得たいか、働き方の価値観はそれぞれだ」というお話がありましたが、価値観自体が変化している、というようなことは感じますか?


少なくとも我々クラウドワークスの中においては、色々と変化を感じますね。まず、受注者側が、必ずしも報酬額で仕事を選んでいない、という傾向。これは結構あります。

たとえば、発注者側から出される依頼内容の中で、受注者側をいわゆる“業者扱い”している印象が感じられたり、要件をキチンと伝える姿勢が見られなかったりすると、たとえ発注額が大きくても、予想以上に応募がきません。

逆に、金額的にはそれほど高くなくても、要件をしっかり伝えようとしていたり、困っているので相談しながら進めさせてほしいといった姿勢が見えたり、継続依頼を前提としている案件だと、応募が集中するんです。



― それは興味深い傾向ですね。ひと昔前だと、「どんな仕事でも断ったら終わり」みたいな空気が、特に強かったように思いますが。


そうですよね。もちろん金額も大事でしょうが、それのみで判断しない、ということなのでしょう。

中長期で信頼関係が築けるとか、相手の役に立てるとか感謝されるとか、そういうことを仕事の価値として捉える傾向がより強くなっているんじゃないかと感じますね。

個人的には、「3.11」以降に起こった価値観の変容がここでも見られているのではないか、と考えています。

実際、当社でユーザーアンケートを実施した際にも、クライアントや社会との繋がりをやりがいとして挙げるユーザーがかなり多くいらっしゃいました。

実はそういったポジティブな感情を可視化させたいと思って、『ありがとうボタン』という機能をサイトに追加したんです。


― 『ありがとうボタン』?


Facebookの『いいね!ボタン』がすごいと思うのは、“共感”という感情を数値化しているところです。

クラウドワークスでは、仕事上で芽生える感謝の気持ちを可視化することが非常に重要な効果をもたらすのではないかという考えのもと、『ありがとうボタン』を設けました。

すごく早くメールを返してくれたとか、自主提案をしてくれたとか、仕事を進めている上で感激することって結構あると思うんです。ちょっとしたことが余計に嬉しかったりするんですが、だからこそなかなか伝えるタイミングが無いということも多い。それをちゃんと表現できるようにしたかったんですよね。


― 些細なことだからこそ感激するって、確かにありますね。でもわざわざ伝えるのも大げさか…なんて、逡巡する気持ちは非常によく分かります。


実際に『ありがとうボタン』をリリースしてから1週間で1万回も「ありがとう」が押されていて、これはもう、求められているんだなと確信しました。非対面でのコミュニケーションであっても仕事を円滑にしてくれますし、その人自身に対する評価の一部にもなります。

クラウドソーシングによって時間や空間に縛られずに働ける、というのはあくまでも仕組みであって、大事なのはその上にどういう価値を載せられるか、ということだと思うんです。

クラウドワークスが大事にしていて、会社のスローガンにもなっているのは“「働く」を通して人々に笑顔を”という考え方です。インターネットを使って個人が働く、というのは、今後100年をかけて進化していくスタイルだと思っています。オンラインの世界の中に、人と人との繋がりや感謝、笑顔、やりがいといったものをどうやって表現していくのか。新しい価値をどう生み出していくのかが必要なことだと思うんですよね。

最高受注年齢77歳。

新しい価値といえば、シニア層の活躍、というのも挙げられます。そもそも50歳以上の方が1400人以上ユーザー登録していただいていることにも驚いたのですが、さらにすごいのは、実際に仕事の契約まで至った件数というのが300件以上あること。最年長の受注実績は77歳の方です。


― 77歳…!


他にも、66歳の女性の方で、データ入力の仕事を20回継続で受注されていたり、Androidアプリの開発を受注した61歳の方などもいらっしゃいます。


― すごい。そこでは“定年”という概念が無くなっているわけですね。


そうですね。スキルがある限り活躍できる場となっていますし、社会との関わりを持ち続けることが可能な場、ともいえます。


フリーランスとしての不安を取り除く方法。

― やりがいという価値傾向が強まってきているお話を伺いましたが、とはいえ、フリーで食っていくのはコワイですよね。不安というか。


それに対して今、考えていることの一つが、顧問制度みたいなものができないか、というものです。

弁護士や税理士が、企業に対して顧問契約を交わす、というのがありますよね?ある一定の契約料で、一定の業務を請け負うという。複数社と契約を結べば、ある程度まとまった収入を得ることが可能になる。それって、専門性を武器にウデ一本で食べている士業と呼ばれる人たちが、安定的な収入を得るための一つの知恵だと思うんです。

これと同じようなことを、エンジニアやデザイナーといった専門職においても出来ないかと思っているんですよね。まだ全くのアイデア段階ではあるのですが。


― 顧問制度というのは面白い発想です。


それから、フリーランスになったからといって、全ての仕事を新規で獲得する必要はないですよね。前職の会社からいくつか業務委託で仕事を貰っている、という人は結構多くいらっしゃいます。

そういう意味では、会社を辞めてフリーになろうか、というとき、その会社や取引先から仕事が貰えるような状態を作っておく、というのが、不安を持たないための方法かもしれませんね。

ちょっと話は逸れるのですが、不安のほかにフリーランスの方からよく聞くのは、「孤独である」という声ですね。

そこに対する工夫というのも考えていて、すでにクラウドワークス上で展開している『マイチーム』という仕組みです。一度でも仕事をやったことのある人同士がチームメンバーとして繋がり、各自の管理画面に皆のステータスが表示されるんです。「現在対応可能」とか「忙しいです」とか。

時間の空き具合や、各人の得意分野などを考慮しながら、案件ごとにチームを組んで仕事ができるようになっているんですね。ちょうどパズドラでチームを組んでダンジョンを攻略する、みたいな感じですよね。あるいはドラクエの『ルイーダの酒場』みたいな。


― その喩えは分かりやすい(笑)


その際には、時給制での契約を推奨しています。そうすることで見積りを出す必要がなくなるので、稼働してほしい、稼働したい、というときにスムーズに動き出せるんです。個人のスキルも理解されている状態なので人選も早いですし、空き状況も分かる。クラウドソーシングのメリットを最大化できる仕組みだと思っています。フリーランサーにとってみたら、毎回新規案件からスタートするより、いろいろ繋がっておくことで収入源の確保にも繋がりますしね。


― 一方で、クラウドソーシングがノマドやワーキングプアを生み出すといった、ネガティブな声も少なからずありますが…。


それは新しいモノに対して必ず出てくる批評の一種だと思っています。

以前、慶応義塾大学の村井純先生と対談させていただいたときにも、「自動車がそうだったよ」と教えていただきました。最初は“殺人兵器だ”というような言われようだったと。

ですが現実には、免許制度ができて、法律が整備され、リスクのボラティリティが分かるにつれて保険制度ができて…と、工夫によって人々の生活に利益をもたらす存在になっていったわけですね。クラウドソーシングにおいてもそのような整備をしていくことが重要だと考えています。


オフィスには、まつもとゆきひろ氏、GitHub創設者、批評家の宇野常寛氏のサインが。

(つづく)
▼クラウドワークス代表・吉田浩一郎氏への取材レポート第3弾
ロゴ制作料は数千円が妥当?クラウドソーシングは価格破壊を招くか―クラウドワークス吉田浩一郎氏に問う


[取材]上田恭平 [文]重久夏樹 [撮影]松尾彰大


編集 = CAREER HACK


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