クラウドソーシングを通じて、肩書や場所に関係なく実に多くの“作り手”が市場に参加できるようになった。発注者や受注者にとって計り知れないメリットが生まれている一方で、「価格のダンピング」が問題視されてきている。クラウドソーシングはどこに向かうのか。《クラウドワークス》代表 吉田浩一郎氏に見解を伺う。
▼《クラウドワークス》代表・吉田浩一郎氏への取材レポート第2弾
最高受注年齢77歳!利用が広がるクラウドソーシングの更なる可能性―クラウドワークス吉田浩一郎氏に訊く
クラウドソーシングの登場によって、居住地や年齢、キャリアに関係なく、多くの“作り手”が市場に参加できるようになった。
「実際、アプリ開発やWEBデザインの案件を受注するシニア層が増えている」と語ってくれたのは、日本最大級のクラウドソーシングサービス《クラウドワークス》の代表である吉田浩一郎氏だ。
“市場の開放”は、働く側にとって大きなメリットをもたらすと考えられる一方で、過当競争による価格破壊を懸念する声も小さくない。
適正価格とは?発注者と受注者の在り方とは?新たな時代の働き方を考える上での重要な示唆に富む、インタビュー最終回。
― クラウドソーシングに対するネガティブな批評に関して、あえてもう少し突っ込んで訊いてもいいですか?
もちろん大丈夫です。
― クラウドソーシングが、仕事のダンピング…つまり本来の価値より低い価格での取引を助長しているというような批評がありますよね?ロゴ制作費用は5000円が妥当か、50万円が妥当か、というようなことも話題になりました。
たとえばロゴ制作に関して言えば、本来は単にデザインするだけではなくて、商標的に問題ないかを調査したり、CI設計をしたりと、付随する多くの専門業務があるわけです。
コンペ形式で比較的安価にロゴ案を募集している案件では、それらの付随業務についてはプライスに組み込まれていないんですね。
なので、「5000円か、50万円か」という単純比較をするには、そういった前提条件を揃える必要があるとは思います。
また、コンペ形式の案件には数十件、数百件単位の提案が集まるわけですが、そこには、「コンペ形式のほうが気楽に応募できる」といったユーザーの思惑も絡んでいるんです。
「事前見積り形式だと期待に応えられるか不安だが、コンペなら気負わずに出せる。採用されれば嬉しいし、されなくても勉強になる」といった声が、ユーザーアンケートで寄せられているんですよ。
― つまり腕試しのような捉え方で参加する人が多いということですね?
その通りです。
一方で、先ほど申し上げたような“付随業務”込みで発注したい場合や、より実績のあるデザイナーに依頼したい場合、守秘義務性が高く、事前見積り形式で発注したい場合などでは、それ相応の、妥当なプライシングというものが発生すると思います。
― クラウドワークス側が、案件のプライスやフリーランサーの能力をレーティングする、といったことはしないんですか?
うーん、実はそれについては、ずっと考えているもののまだ明確な答えが出ていないんですよ。
我々プラットフォーマーが第三者機関のようにレーティングをすることが、本当に正しいことなのだろうかという疑問が常につきまとっていまして。それって結局、旧来の“企業対下請け”という構図とあまり違いがないんじゃないかと。それよりも、受注者と発注者との間にポジティブな流れが生まれるよう、『ありがとうボタン』を設けるとか、そういう方向から支えていきたいなと。
また、受注者や発注者自身に考えてもらったほうがワクワクするし、納得感もあるんじゃないかという気もするんですよね。
実は先日、仕事の悩みや疑問についてユーザー同士で相談できる『みんなのお仕事相談所』というのをサイト内に開設したんですが、そこでは、発注者側も受注者側もオープンにやり取りしているんです。
発注金額についての相談や、契約書に関する内容もやり取りされていますが、いまのところ大きな問題もなく上手くいっている。このことからも、当人同士で話し合いながら作り上げていくことの良さみたいなものを信じているところがあるんですよね。
― 吉田さんのお話を伺っていると、徹底して性善説に立って物事を考えていらっしゃる気がします。
それはもう、超性善説でやってますね(笑)今日までいろいろやってきた中である程度の確信も得ましたし、人々を信じたほうが上手くいくように思います。
ウチは、受注者と発注者との直接的なやり取りも禁止していないんですよ。以前は、いわゆる“ナカヌキ”をされないよう監視していたこともありましたが、それって意味がないなと思い、やめました。ウチを通さないユーザーが現れるんだとしたら、それはウチのサービスが便利じゃないから使わないだけなんだろうと。
― それってスゴイ判断ですね。
結局、管理・監視するやり方というのは、情報が制限できた時代のやり方ですよね。誰でも情報にアクセスできるようになった今、人々を信じて任せ、一人ひとりに最適化してもらう、という考え方のほうが上手くいくのではないかと思います。
― クラウドソーシングは過渡期、というお話が出ましたが、今後、クラウドソーシングに関わっていく際には、どういうことに気をつけていくべきだと思われますか。まず、フリーランス側としてはどうでしょう。
クラウドソーシングが新しいといっても、お金を支払う企業側は、既存社会に属しているわけです。なので、社会に対する知識を身につける必要があると思いますね。契約の概念だとか、商標権や特許などについて。
同時に、その辺りは我々がサポートすべき内容だとも思っています。フリーランスとして働いていくにあたり、覚えておくべきことを啓蒙していく役割ですね。『みんなのお仕事相談所』を開設したのも、そのような狙いがあります。
― 逆に発注者の側、つまり主に企業側に求められることは?
一言でいえば、“発注する能力”みたいなものでしょうか。
日本の場合は特に、「書いてなくても分かるでしょ」という、暗黙の了解といった感覚があるので、ときに“丸投げ”ともいえるような仕事の出し方が当然のようにあったりします。
でもそれでは、意図した通りの出来になるか保証がないし、これからの時代、受注者側に敬遠される可能性も高くなる。
良いフリーランスに巡り会いたければ、発注する側もキチンと仕様を明らかにするとか、相手を業者扱いせずパートナーとして仕事を依頼していくとか、そういうことが求められるんじゃないかと思います。
あるいは、「自分で整理をつけられない」というのであれば、素直に相手に助けを求めるというのも手だと思います。実際、「分からないので相談しながら進めさせてください」という一文が依頼内容の中にあるだけで、応募数が格段に違ってくるんですよ。
― 発注者と業者、という上下関係の中で発達してきた仕事のフローというものが変化してきている、ということですね。
その観点でいうならば、瑕疵担保責任も非常に難しい問題ですね。
瑕疵担保責任というのは、納められた成果物に瑕疵…つまり不備があった場合に、納品した業者が損害賠償や作り直しを担保する、というものです。ですがこの考え方は、WEBやITの世界においては前時代的ですよね。WEB上でリアルタイムにどんどん加工していきたいという時代に、成果物がこれで仕様がこれで…とか決めながらやっていくのは非効率です。
しかも例えば、不備を出したのが社内で雇っているアルバイトスタッフだったら、そのミスに対して瑕疵担保責任を問う、とかは無いわけですよね。フリーランスに発注するとなった途端に、瑕疵担保の概念が持ち出されるのは、時代の流れにマッチしないと思います。コンフリクトが起こるだけだし、そのせいで、企業側もフリーランスを上手に使うことができなければ誰も得しません。
そうではなくて、良いフリーランスを見つけて継続的に仕事を依頼していけるような、中長期的な仲間を作っていくというのが、これからの在り方じゃないかと。
― フリーランスを中長期的な仲間と捉える…雇用契約や業務委託契約といった従来的な考え方と比較すると、パラダイムシフトとも呼べる発想ですね。では最後に、クラウドワークスの今後の目標をお聞かせいただけますか?
2018年の段階で案件の流通総額を1000億円にする、というのが直近の事業計画です。そして、2010年代末までには上場をする。上場資金をもってグローバル展開を行ないます。
これは余談に近いんですが、クラウドワークスはまだ日本語サイトしか展開していないのに、サイト開設1年で世界48ヶ国の方々に利用されているんですよ。海外に住む日本国籍の方、あるいは日本語を話せる外国人の方。全然宣伝していたわけじゃないのに、驚きですよね。
― 時間や場所に縛られない働き方の可能性を感じますね。本日はありがとうございました!
(おわり)
[取材]上田恭平 [文]重久夏樹 [撮影]松尾彰大
編集 = CAREER HACK
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