2013.08.29
起業も、プライベート開発も、“子育て”も。元Twitter技術アドバイザー山本裕介氏の生き方。

起業も、プライベート開発も、“子育て”も。元Twitter技術アドバイザー山本裕介氏の生き方。

Twitter APIのJava向けライブラリ『Twitter4J』の開発者として知られる山本裕介さん。個人のエンジニアとして実績をつくる上で「知ったかぶり」が重要だと言う。技術の幅を広げるために少し背伸びして、「限界を決めない」ことを信条とする仕事の哲学・生き方について語ってもらった。

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▼山本裕介氏へのインタビュー第1弾
転職、フリー、起業…いつでも飛びこめる準備を―元Twitter技術アドバイザー山本裕介氏のキャリア論

仕事もプライベートも限界を決めない。

会社の「看板」に依存せず、いつ訪れるかわからない転機に備えて個人として実績をつくる重要性を説くのは、36歳で転職5回、フリーランス、起業を経験したソフトウェアエンジニアの山本裕介さん。

実際、個人で開発したTwitter APIのJava向けライブラリ『Twitter4J』がきっかけでTwitter社にジョインしている。

現在は独立し、仕事とプライベート開発、そして積極的に育児に参加するイクメンパパの顔も併せ持つ山本さん。仕事でも、プライベードでも、限界を決めないように、「有言実行」をモットーとしているという、その哲学を伺った。

限られた時間のなかで、仕事もプライベートも“欲張る”。

― 伺ったところによると、育児にも積極的だそうですね。プライベートを大切にすることで、仕事にもよい影響はありましたか?


けじめをつけて働ける、ここは良いことだと思います。仕事ってダラダラやるといつまでもできますよね。気づけば日付が変わっているということも少なくありません。



でも「8時に帰って子どもをお風呂へ入れる」と決めて、妻に宣言すれば、その時間までに仕事を終えないといけない。

背水の陣じゃないですけど、後戻りできない状況に自分を追い込み、逃げ道をつぶす。

心に決めるだけで実行できる努力肌の方もいるとは思いますが、私はナマケモノなので、まわりの人の目を使って緊張感を持てるようにしないとやらないんですよね。


― 追い込まれないとできないなら、自分で追い込む。荒療治ですが、効きそうですね。


本当に効きますよ。実は最近、子供ができてから、「仕事も子育ても忙しいし、当面はできないよな」と諦めていたアーチェリーを5年ぶりに再び始めたんです。高校生で初めてから、全日本選手権に出場したり、東京都の国体代表に選ばれたりするくらいで、それなりにうまかったんですよ!

でも最近、友人に誘われて「やります!」と宣言したんです。言った手前、かっこ悪いですから「やっぱりできない」とはなかなか言えないですよね。そして、いざやってみると意外と時間が作れるものなんです。さらに不思議と、アーチェリー以外についても、時間や心の余裕が生まれてきた気がします。

「無理だろう」と自ら限界を決めるのではなく、限られた時間のなかで仕事もプライベートも欲張る。そうすると一つひとつの質があがっていきますし、すべて全力で出来るようになります。


アーチェリー

「知ったかぶり」が成長の鍵になる。

仕事でも同じことが言えるかもしれません。

「こんなことがしたいんだけど…」という話を聞いたとき時、ざっくりとしか理解していない技術が必要だったとします。そんな時も「こういう技術を使えば、私ならこれくらいでできますよ」と幾分知ったかぶりをしながらでも言って、やらざるを得ない状況を自分から作るようにしています。

失敗できないプレッシャーはありますが、自分ができることだけで勝負しても成長しないし、仕事の幅も広がりません。

ただ、この「知ったかぶり」をするには日頃から広くアンテナを張って、それぞれの要素技術のさわりの部分でも把握して善し悪しを知っておかなければいけません。当然ながら見当違いの事を言って「やっぱりできませんでした」となってしまっては信頼を失ってしまうだけですからね。

また矛盾するようですが、広く浅く知識を仕入れておき「知ったかぶりできる」状態にしておくのと同時に、腰を据えて一つの技術を突き詰めて行くことも大事だと思います。私の場合はJavaを10年以上コツコツと触ってきたからこそ、それなりに詳しいと認知してもらえているのではないかと。


― どんな技術を掘り下げていけばいいか。それを見つけるヒントがあれば教えてください。


データサイエンス、ビッグデータ、クラウド…とトレンドを追いかけてもキリが無いですし、結局のところ、何が流行るか誰にもわかりませんよね。

そのきっかけを掴むためにも、広くインプットしておき、ブログなどで興味のある分野をアウトプットし続けたほうがいいと思います。

あとは自分がのめり込めるかどうか、好きかどうか、ここに尽きると思います。

エンジニアとして面白いことをやり続けるために。

― 最後に山本さんのこれからの展望をお聞かせください。


直近では、会社の事業を効率化することですね。会社の事業内容は開発ツールの代理店なのですが、元々は自分が愛用しているツールが日本でもっと普及したら良いなと、チェコのベンダであるJetBrains社に働きかけたのが始まりです。また、企業と取引をするには個人では限界があるため、起業したという流れです。

代理店事業はシンプルに言ってしまえば、品物を右から左に回す仕事。さらに扱う商品はソフトウェアで在庫を持つわけではないので、リスクもほとんど無いだろうと、たかをくくっていたんです。ところがふたを開けてみると為替リスクやキャッシュフローなど様々なリスクがあること、そして受注業務にかなりの手間暇がかかることがわかりました。

当初は、事業を行ないつつ、別の仕事も手を付けようと考えていたのですが、結局のところ今は代理店事業にかかりきりになってしまっている状況です。いまは、定型作業を少しずつ自作ツールで自動化、効率化していっているところです。


― その自動化が終わった後は?


日々「作ってみたいWEBサービス」を書きためたネタ帳があるので、それをどんどん作っていきたいですね。

別に「世界を変えたい」といった壮大なことは頭になく、エンジニアとして面白いことをやりたい、世の中を便利にしたい。これが、叶えていきたいことです。



新卒でSEになった時から変わっていないのは、自分が使いたいモノをつくっていくこと。

それが何らかのカタチでマネタイズできればいいですし、たとえ、お金にならなくても、世界60億人もいれば、きっと自分以外にも使いたい人はいて、何かの役に立つはず。

いま開発しているツールは再利用可能なコードとして整えた上でオープンソースの部品として公開する予定です。そのまま無料で使っていただいても良いですし、実際の業務に取り込む上でエンジニアリングリソースとして声をかけていただくことで、仕事に繋がることもあると思っています。

ソフトウェアのいいところは、ハードウェアがそのままでも、アップデートしていくことでどんどん姿形を変えて強化されていくところ。

コードは自分の思考をあらわしたものですし、自分が作ったソフトウェアは、自分の分身だと思っています。

たとえば自分が死んだ後に、何万倍もの影響力を発揮するかもしれない。そんなふうに自分の分身が世界中のあちこちで活躍して、役に立っていく、そう考えるとすごく夢がありますよね。


― 目先の利益は追わず、たくさんの人に使ってもらう。長い目でみてより仕事の幅を広げるポイントになりそうですね。
今後の更なるご活躍に期待しています!本日はありがとうございました。


(おわり)


[取材・文]白石勝也 [撮影]松尾彰大


文 = 白石勝也
編集 = 松尾彰大


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