2012.08.17
頓智ドット 井口尊仁が語る、日本人がSXSWに行くべき3つの理由。

頓智ドット 井口尊仁が語る、日本人がSXSWに行くべき3つの理由。

日本で最も「SXSW」を知る人物、頓智ドット代表の井口尊仁さんを直撃。「日本のスタートアップは絶対にSXSWに行くべきだ」と語る井口さんに、その理由と、SXSWの魅力、日本のテクノロジーやスタートアップに対する世界からの評価について、お話を伺った。

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今、なぜSXSWなのか?

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先日アップした「SXSW(South by SouthWest)特集」の記事にもある通り、先ごろ「SXSW2013」の詳細がオフィシャルサイト上で発表された。SXSWといえば、Twitterやfoursquare、Pinterestといった世界的なWEBサービスが初めて注目された場であり、「SXSWをみれば、インターネットの次のトレンドが分かる」とまで言われている世界的なイベントだ。

しかし、ここ日本において、SXSWの認知度はまだまだ高いとは言えない。それは言い換えれば、日本のインターネット産業が世界の流れから取り残されてしまう恐れがある、ということにもなるのではないだろうか。

そんな状況の中、SXSWに並々ならぬ想いと労力を注いでいるのが、頓智ドット代表・井口尊仁さんだ。SXSWには2011・2012と続けて参加。しかもSXSW2012に関しては、「IT業界のサムライ1,000人でテキサスSXSWを目指す」と宣言。国内でミートアップを多数実施するなど、「日本で最もSXSWを知る人物の一人」として、日本のインターネット業界に“世界に目を向ける必要性”を説き続けている。井口さんがSXSWに惚れ込む理由、そして日本のスタートアップがSXSWに出ていくべきだと考える理由に迫った。

[理由1]世界の最先端のカルチャーを浴びるように体感できる。

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― 頓智ドットさんは2011年、2012年と続けてSXSWに参加されていますよね。現地の空気を肌で感じた井口さんからみて、SXSWというのはどういうイベントなのでしょうか?

SXSWを一言で説明するのはとても難しいんです。他に同じようなイベントって、世界のどこにも見当たらない。東京の感覚でいうと、渋谷駅を中心に半径が道玄坂上くらいまでの円をぐるっと引いて、ぴあのフィルムフェスティバルやコミックマーケット、ワンダーフェスティバル、それからTEDの50倍くらいの規模のテックカンファレンス、FUJI ROCK Festival……こうしたそうそうたるイベントが、その円の中で同時に行なわれているようなものなんです。

しかも街中のどのバーでも、どのクラブでも、どのカフェでも、必ず何かやっている。今年は「turntable.fm」「Spotify」「Mashable」なんかがでっかいハコを借りきって、ロックイベントやDJイベントをやって夜通し盛り上がってましたね。まさにクレイジー。そもそも、インタラクティブと音楽と映画の祭典を一気にやっちゃう時点で普通じゃないでしょう?

それが約10日間つづきます。今年の来場者は5万人。といっても正規にチケットを買ってきている人間が5万人ということなので、実際はもっと多いはずです。で、世界中からやってきます。産業振興で国をあげて参加しているところも多い。それから各分野のトップランナーが来ます。世界的な映画監督やインタラクティブエージェンシーのCEO、超有名なスタートアップのファウンダー。今年のキーノートは、ショーン・パーカーでしたね。Instagramのファウンダーやfoursquareのファウンダーもいた。音楽のほうもすごくて、フィオナ・アップルとかノラ・ジョーンズとか…。要するに、企業にしろ映像にしろ音楽にしろ、トップにいる連中が世界中からオースティンという狭い街に集まってくるんです。

メディアの数も半端じゃない。今年は4000メディア! ニューヨーク・タイムズ、CNN、MTV…。彼らももちろん一人でくるわけじゃないですから。ツアーバスでクルー丸ごとドーンと大集団でやってくる。それだけで、ものすごい人数になります。

この全貌のつかめない規模感とダイナミズムは、実際に行ってみないと分からないかもしれない。一番大きな会場がヒルトン・ホテルとその隣のコンベンションセンターなんですが、そこでトレードショーやパネルディスカッションをやったり、スタートアップのコンテストなんかも四六時中やっているんですね。あとはショーケースといって、いろんな新しいプロダクトのデモをやっているブースもたくさん出ている。それからアメリカ人は政治への関心も高いから、政治のセッションやったり、政治関連のプロダクトを見せ合ったり。

それだけでもお腹いっぱいなのに、さらに会場の外、オースティンの街中でも企業がいろんな企画をやっている。今年特に目立っていたのは、Spotify、GoogleのAndroid、Mashable。foursquareとTwitterとPEPSIがキャンペーンを組んで、街中でチェックイン大会やったりもしていました。そうそう、Tumblrも屋外ライブをやっていましたね。

[理由2]他のテックイベントでは、絶対に起こり得ないシナジーがある。

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― 井口さんは、日本のスタートアップやクリエイター、エンジニアに、SXSWに行くべきだと勧めていますよね?

それは、SXSWでしか得られない体験があるからです。SXSWに集まってくる人たちって多かれ少なかれ「プロ」なので、プロダクトとか作品とか、何か自分を表現するものを持ってきます。だからその場で会った人たちと「お前のプロダクトのこと教えてよ!オレのも教えるから!」という具合に話が進む。レベルの高いコミュニケーションを数多く経験できます。

例えばニューヨークを旅したとして、自由の女神を見てティファニーに寄って…という旅と、ブルックリンで現地のアーティストと直に接して、自分の作品に意見をもらって…という旅とでは、得るものが全く違うでしょう?SXSWで得られる経験は、圧倒的に後者なんです。

僕らもバーを貸しきってイベントをやったり、トレードショーでブース展示したり、パネルディスカッションしたり、いろいろやりました。そこまでセッティングするのが難しければ、路上でやっちゃってもいい。日本のスタートアップで《トーンコネクト》という会社をご存知ですか?電話のダイヤル音を使って情報を交換するモバイルアプリを作っているチームなんですが、彼らはキャンピングカーで現地に乗りつけてきて、ラジカセを持ってプロモーションしていました。

国内外を問わず、一般的なテック系のカンファレンスってすごくきっちりしていて、プレゼンテーションは基本的に6~8分、ブースも1日のうち何時から何時までって決まっていることがほとんど。それに、見にくるのも、ITスタートアップやWEBエコノミー界隈の人間しかいなんですよ。それはそれで効率はいいんだけど、そこから何かクレイジーな発想であったり、思いもよらないシナジーが生まれることはほとんどないんです。

その点、SXSWは違います。例えば2012で面白かったのは、《洛洛.com》さんという京都のベンチャーが手がけた《Beautecam(ボーテカム)》というiPhoneアプリ。iPhoneに専用のレンズをつけて自分の肌チェックができて、さらにソーシャルメディアと連携し、自分の肌に合った情報収集ができるというアプリなのですが、それがラスベガスでやっている世界最大級のコスメコンベンションの関係者の目に止まって、いきなりその場で「契約してくれ」って。エスティローダーやロレアルといった世界的なコスメブランドのプロモーターやマーケッターが次々やってきて、「ウチと組もう」「こんなことできる?」と、そういう話をしているわけです。そもそもテック系のカンファレンスにコスメ系の企業の、しかもマネージャークラスの人間が来ていること自体、普通はあり得ないでしょう?

それが、SXSWなら起こってしまうんです。全く違う興味関心だったり、全く違うインダストリーやクラスタにいる人間が、クリエイティブやソーシャルといったキーワードに惹かれて集まってくる。そして音楽をエンジョイしたり映像の最新表現を観たり、あるいはインタラクティブの新しいトレンドに触れる中で、いろんなシャッフルが行なわれる。するといつの間にか、普段は接することすらない人と人との間でディール(商談)が始まっている。それがSXSWなんです。

[理由3]日本のスタートアップは、圧倒的に有利である。

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― 世界は、日本をどう見ているのでしょうか?

これはSXSWに限った話ではないのですが、日本は僕らが思っている以上に世界から期待されているし、ジャパンブランドの価値は想像以上に高い。特に東京。どこに行っても「東京はヤバい、awesomeだ」という声を聞きます。東京を一番ディスっているのは、きっと日本人なんじゃないかな。

「日本のテックはイケてる」というイメージもまだまだ強いと思いますね。任天堂もソニーもあるし。確かにWEB系では輸出しているサービスは少ないですが、とはいえハードウェアに関しては超一流。その印象はやっぱり強いみたいです。さらに言えば、東京なんて都市そのものがクール。とてつもなく優れた公共交通機関の中で、超オシャレな女子高生がめちゃくちゃハイテクなゲームデバイスとかモバイルデバイスを駆使して、最先端のソーシャルなコミュニケーションをしている。まさに「未来都市」じゃないですか(笑)

街の公共的なインフラ、国民全体のいろんな意味でのリテラシーやホスピタリティ、それからカルチャーの成熟度や鮮度という観点でみると、やっぱり東京はすごい。そして、それは世界でもかなり理解されています。


― 日本のWEBサービスやスタートアップとなると、世界レベルで語られるものはまだまだ少ないように思うのですが?

それは単純に、まだ知られていないだけだと思います。よく考えてみてください。アメリカの、それもシリコンバレー以外のスタートアップで、プラットフォームとして世界レベルで成功しているものってどれだけありますか?大半はシリコンバレーで、ときどきニューヨーク、たまに中国、韓国、ごくまれにEUがあるかどうか。それなのに、日本には世界レベルのWEBサービスがないって名指しでディスるのはおかしい。

今、アメリカのモバイルで何が一番ホットな技術か、ご存知ですか?実は《QRコード》と《NFC》なんです。タッチで支払いとか、QRで何か飛び出すとか、ドヤ顔で自慢している(笑)。日本人からしたら、そんなの10年前からスタンダードじゃないですか。

価値軸的にもスピード的にも戦い方にしても、日本は決してアメリカに負けているわけではないと思います。たしかにWEBテクノロジーはアメリカが先行していますが、その分、日本にはハードウェアがありカルチャーがある。その強みを活かせば、世界に出ていくのも決して難しいことではないと思っています。それなのに、日本人はあまりにも内向きで国内の商売しか見ていないことが多い。だから自分たちのバリューに気付けない。

そういう状況を乗り越えるための機会としても、SXSWは最適です。自分たちがもっているものを正面からどんどんぶつけて、いろんな国のいろんな人間に見せることで、自分たちの価値に気づける可能性は大きいと思います。

SXSW2013に、ジャパンムーブメントを。

― 先ごろSXSW2013の募集が始まりましたね。日本でも注目度は高まっているように感じるのですが?

そう思います。2011年、日本の3.11に対してSXSWがすごくケアをしてくれて、そこから僕が2012年に「IT業界のサムライ1,000人と一緒にSXSWに行く」というプロジェクトを立ち上げました。SXSWは素晴らしい場所だし、そこで日本人は地震や津波の被害に対して彼らから熱い声援を受け、たくさんの募金もしていただいた。その恩を返そうと思ったときに、やっぱり僕らのテクノロジーを見せつけて「日本は元気だ」ってことを伝えなければいけないと考えたんです。

結果、250人がSXSW2012に足を運んでくれました。2011年にはたったの20人程度でしたから、1年で10倍以上。2013年はきっと1000人を達成するでしょう。はてなの近藤さんやコミュニティファクトリーの松本さん、元DeNAの川田さんといった影響力のある方が、現地で体験したことを持ち帰って生の声で伝えてくれています。そのバイラルの効果はすごいです。去年は日本でのSXSW関連のイベントなんてほぼ僕の知っている範囲でしか起こっていなかったのに、今年は全然知らないところで全然知らない若者がイベントやミートアップをやっていますから。

頓智ドットとしても、SXSW2013にかける気持ちはかなり強いです。今年は《tab》という新しいプロダクトをもって、乗り込んでいくつもりです。そこに他の日本の素晴らしいスタートアップがたくさんついきてくれるとありがたい。日本勢が一大勢力でやってきて現地で存在感を発揮できれば絶対に有利ですから。SXSW2013は頓智ドットの《tab》をはじめ、日本勢躍進のためのステージだったと言われるようにしたいですね。


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文 = 白石勝也
編集 = 松尾彰大


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