《リアル脱出ゲーム》の仕掛け人として注目を集める、株式会社SCRAP代表 加藤隆生さん。インタビュー後編では、ゲーム制作における具体的な方法論とこれからのゲームが担う役割について、考えを伺った。
― 今、世の中あらゆるところでゲームがあふれていますが、その全てがやってみたいと思えるものではないですよね。その差はどこにあるのでしょうか?
「おもしろいかどうか」以前に、「おもしろそうかどうか」だと思います。僕らはこれを明確に意識していて、「“おもしろい”より“おもしろそう”のほうがエライ」、これを会社の合言葉にしているくらいです。
僕らが《リアル脱出ゲーム》を企画するときは、まずタイトルとキャッチとビジュアルを決めて、そこから逆算してゲームの中身を考えます。おもしろいゲームができたから「よしこれでいこう!」なんてことは絶対にしないですね。「どうすればおもしろくなるか」ではなく、「どうすれば“おもしろそう”と思ってもらえるか」から考える。映画「宇宙兄弟」とタイアップした『月面基地からの脱出』なんて、7ヶ月前から告知して、ゲームの内容が固まったのは開催日の3日前ですよ(笑)
誤解を恐れずにいうと、おもしろそうなタイトルが付けば、あとは誰がつくってもおもしろくなります。良いタイトルが出ると、そこから連想されるゲーム設定、ミッションをクリアした時の感情まで、作り手側で一気に想像できますから。そういう意味では、手前味噌ですが《リアル脱出ゲーム》というネーミング自体にも、人を惹きつけるパワーがあるんじゃないかと思っています。
僕らの場合は体験型イベントだから特にそうなんですけど、チケットが売れないと利益が出ません。だから、どんなにゲームそのものがおもしろかったとしても、動員できなければ意味がないんですよ。で、動員できるかどうかはもうタイトル・キャッチ・ビジュアルだけで決まるんです。先ほどお話した『月面基地からの脱出』もそうですし、1万人以上動員した『廃病院からの脱出』『夜の遊園地からの脱出』、これらもすべてタイトルとビジュアルイメージから決まっています。
といっても、全部うまくいってるわけではないですけどね。例えば『終わらない合戦からの脱出』っていうのは、ちょっと失敗だったかな。情報量が多すぎました。キャッチも「4番ファースト・織田信長」って、意味分かんないでしょ(笑)。もちろん考えたときには「イケる!」と思ってたんですけどね。神宮球場を貸しきってやったんですけど、思ったような集客はできませんでした。
ゲームでもそうですけど、おもしろいモノはどこにでも転がっています。無数の敵がひしめきあうなかでパッと目について「おもしろそう」と感じてもらう。こういった直感が命運を分けているのだと思います。この直感ってだいたい当たるんです。例えば料理だって、パッとみて「おいしそう」だと思ったものって、大抵おいしいですし。
― 多くの人におもしろいと思ってもらえるゲームって、どういうものなんでしょう?
うーん、そうですね…「シンプルで、わかりやすい」ということに尽きるのかもしれません。たとえば、任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』は“徹底して右に進むゲーム”なんです。一番はじめにマリオが画面の左に立っていますよね。その時点で「左ではなくて右にいくんだな」と直感的にわかる。そこからひたすら右に進む。キノコも右に流れていくし、ボスのクッパだって画面右に置かれたスイッチで倒す。普通だったら踏みつけたり、パンチしたり、ボス戦くらいやりたいじゃないですか。でも右に進む(笑)。こんなにシンプルでわかりやすいゲームって他にないですよね。奇跡的なゲームデザインになっている。だからこそ、国境も性別も年代も超えてみんなが夢中になったんだと思います。
《リアル脱出ゲーム》でも、例えば『月面基地からの脱出』だったら、「なんで閉じ込められてるの?」「何で1時間で脱出しなくちゃいけないの?」っていうところに対して、「宇宙飛行士が、月面基地から酸素がなくなる1時間以内に脱出しなくちゃいけない」って、ものすごく分かりやすいですよね。難しい説明をしなくても、お客さんに「自分が何をするのか」明確に感じ取ってもらえるんです。お客さんを楽しませる上で、その「分かりやすさ」はものすごく重要なポイントだと思います。
そういった意味でいうと、キャンペーンなどのゲームでオープニングムービーが何分も流れたりするものがありますが、あれは絶対に止めたほうがいいですよね。ゲーム開始からおもしろくなるまでのスピードは、1秒でも早いほうがいいですから。
― とはいえ、「シンプルで、わかりやすいゲーム」を作り出すのはむずかしいですよね?
1秒でも早くプレイヤーの感情を動かす、ここはカギになるのかもしれません。そのためには考えさせないことが大切。方法はいろいろあると思いますが、既に多くの人が持ち合わせている「知識」を使うのは手だと思います。たとえば「言葉」や「数字」を使ったゲームはとっつきやすい。野球ゲームもみんながだいたいルールを知っているから、わかりやすくて、多くの人が楽しめるのだと思います。
もうひとつ、シンプルでわかりやすいモノって、あとからみると「なんでこんな簡単なことが思いつかなかったんだろう」と思えるものばかりです。もしかしたら、すでにあるモノを変換し、シンプルに置き直すことが一つのやり方なのかもしれません。固定観念を捨てて、視点をズラしてみる。別の角度から見直すことが大事なんだと思います。
想像もできなかったような新しいモノって驚きはあるかもしれませんが、ワクワクにはならないんですよね。ありそうでなかったモノ、知っていたけど見方を変えたモノのほうがワクワクできる。この前『タモリ倶楽部』の空耳アワーを見ていたんですけど、ビートルズの名曲で空耳があって(笑)。何千万人の日本人が何十回も聞いてきた曲なのに、こんな空耳があったのか!?すげぇ!と思ったんですよ。この感じに近いかもしれません。
― 最近、ゲーミフィケーションという考え方が広まっていますよね。今後、ゲームが担う役割はどう変わっていくとお考えですか?
個人的には、ゲーミフィケーションという言葉にはあまりピンときていないというのが正直なところです。すばらしい映画や小説と同じでゲームは「楽しむこと」が目的だし、その先に目的がなくても自然とやりたくなるもの。ゲームはあくまで、エンターテインメントだと思っています。
僕らのイベントでも警備員さんが「走らないでください!」と言っているのにも関わらず、たまらず走り出してしまう人がいたりするんですね。楽しいゲームをしている時って、その中に入り込んでしまう。理性を超えて、とにかくワクワクが止まらなくなる。こういうゲームでしか得られない体験を大切にしたいと思っています。
だからゲームの手法を取り入れて街をきれいにするとかビジネスをまわすとか、もちろん有効な部分もあるかもしれないけど、自分はそこまでデザインしたくないんです。というか、する必要はないと思っています。もっとゲームそのものに期待してもいいのかな、と。
楽しいゲームをやった後に、前向きな気持ちになることってありますよね?仕事をがんばろうとか、勉強をしようとか、部屋を掃除しようとか。極端に言えば、ゲームはゲームそのものの力だけで、世の中をハッピーにすることができると思うんです。この思いが、僕にとってゲームをつくるモチベーションになっているんだと思います。
僕自身は、とりあえず飽きられるまでは《リアル脱出ゲーム》をやり続けていくつもりです。いま考えているのは、例えば子ども向けの企画。僕らが子どもの頃にやっていた「ケイドロ」ってあるじゃないですか。ある瞬間、ものすごく盛り上がった時の爆発的なおもしろさがありますよね。あの興奮をいまの子どもたちが知らないかもしれないと思うと、もったいない気がしていて。あとは海外にもどんどん打って出たい。自分のアイデアがどこまで届くのか試してみたいですね。
(おわり)
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