『私立恵比寿中学』を起用し、クレアラシルのTVCMと連動したMV制作を手がけた《アマナ異次元》とは一体何者なのか?「アマナ」とは、あのアマナ?今回メンバーたちとの接触に成功。彼らの素顔に迫る。
アマナといえば、ストックフォトの販売や広告ビジュアルの制作会社として知らぬ人はいない大手。そのなかに一際、異彩を放つクリエイティブ集団がいる。
彼らの名前は《アマナ異次元》。WEBサイトを見ても、彼らの素性は明かされていない。4人のメンバーにも関わらず、直近ではアイドルグループ『私立恵比寿中学』のMVや、彼女たち出演の洗顔料クレアラシルのCMを制作するなど、独自の活動を手がけている。
果たして、《アマナ異次元》とは一体何者なのか?今回、独自のルートからメンバーのハッシー橋本さんと篠田利隆さんへの接触に成功。チーム設立の経緯、社内における立ち位置、お二人のバックグラウンドなどを聞いてきた。インタビューを通じて見えてきたのは、「転職や独立をせずに、社内で自分たちの好きなことをやる」という彼ら独自のスタイルだった。
<Profile>
ハッシー橋本 プランナー/クリエイティブディレクター
放送作家を経て、アマナへ。広告のコミュニケーションデザインを考えるプランナー兼クリエイティブディレクターとして、幅広いクライアントのCM、プロモーション、WEB、イベントなどを展開。《アマナ異次元》のマネージャーを兼務する。
篠田利隆 プランナー/ディレクター
電通テックからアマナへ。WEB事業部の映像ディレクターとして活躍した後、《アマナ異次元》へ。アイドルグループ『私立恵比寿中学』、『妄想キャリブレーション』のMV、CM、アニメーションなどを制作した。《アマナ異次元》の専任。
― 早速なんですが…《アマナ異次元》ってアマナのなかで、どういう立ち位置なんですか?
ハッシー:
まず、アマナについてカンタンに説明しますね。アマナはストックフォトのイメージが強いかもしれませんが、グループ全体では広告の企画・プランニングからビジュアルの制作まで幅広く手がけています。ビジョンとして掲げているのは「ビジュアル・コミュニケーションで世界を豊かにする」。つまり、人間の五感に訴えかけられるようなビジュアル・コミュニケーションの表現や仕組みを追求しています。
でも、個人的には第六感を刺激するようなことにもチャレンジしたかった。それが“萌”の発信だったんです。おもしろくキャッチーなクリエイティブをそのまま露出させるのではなくて、広告の手法を活用できればもっと幅広く浸透できるんじゃないか、と。そこでクリエイターとして信頼していた篠田に「部署をつくろう」と持ち掛けたんです。
― そのお話を受けて、篠田さんはどう思ったんですか?
篠田:
実は、当時オタク系の仕事を個人でコソコソとやっていたんですよね。本心では大々的にやりたかったけど、「そんなこと、うちの会社じゃ受け入れてもらえないだろう」とあきらめていて。そんなときに、ハッシーが声をかけてきてくれたんです。「マジか!?」と。彼のほうが社歴は短いんですが、それまでに積極的に社内プロジェクトの立ち上げをやってきていて実績は文句なしだったので、二つ返事でOKしました(笑)。
ハッシー:
アマナのサービスは、ある程度決まった枠のなかで提供しているので、会社の事業領域を広げることがこれから生き残るためにも重要なことかなと。ある程度大きい会社じゃないとできない事や領域があるのは事実で、これからの日本発信のクリエイティブを世界に認めてもらうために「やったもん勝ちだ」と思って始めました(笑)。世界から注目される2020年、そのときに僕らが何をやっているかを考えて、今しかなかったように思います。
― 篠田さんは《アマナ異次元》の専任で活躍されていますが、もともとオタクカルチャーに造詣が深かったんですか?
篠田:
僕のオタク歴は5~6年なので、そんなに長くないんですよ。
ハッシー:
当初篠田は、グラフィカルで鋭い感じの広告づくりが得意だったんです。ある日僕が担当していたクライアントから「萌えキャラを使ったカーナビを売るためにCMをつくりたい」という依頼があって、そこで相談したら、急激に変身しててびっくり!出来上がりもすごく良くて、もっと一緒に仕事しよう!と思いました。
篠田:
オタクたちの名言のなかに「かわいいは正義」って言葉があるんですが、この言葉がすごく好きなんです。「かわいい」ってフワフワした言葉を信じて生きるのは幸せだな、と。オタクの人たちって、誰しもがハッピーな生い立ちだなんてことはなくて、バカにされることもたくさんあった。そういった名言を生むコンテンツに支えられ、みんなが楽しんでいる感が感動的で、僕自身もどんどん傾倒していきました。
― ビジネスとしてオタクの視点を理解するために、どんな取り組みをされていたんですか?
篠田:
とにかく現場に行くということです。同人誌ショップ、コミケ、アニメフェス、地下アイドルのライブまで何にでも足を運びました。そして参加しているオタクたちと議論を交わして、みたいなことを繰り返して知識を身につけていました。
でも、僕は元々ニワカだから、詰めの甘い部分もあるわけです。Twitterで何かつぶやいたことに対して、「篠田さん、まちがってます」って、すぐオタクの友だちからLINEがきて(笑)。“漢字なのか、カタカナなのか、ひらがななのか”の表記も間違えちゃいけない、この世界の作法みたいなものも学びましたね。
ハッシー:
最近『私立恵比寿中学』のMVやCMをつくったんですが、篠田が校長先生(マネージャー)に「今までのエビ中で一番可愛かった」と言われてて。端から見ていて、篠田の“かわいい”が相当進化していると思いましたね。
― 今回の『私立恵比寿中学』の映像制作において特に意識したことを教えてください。
ハッシー:
クレアラシルのCMは、リバイバル広告です。広告展開も、昔の広告とほぼ同じカット使いで再現しています。僕らの世代だと、クレアラシルのCMはアイドルの登竜門のような印象が強かったんですよね。
篠田:
昔のCMをめちゃくちゃパクりました(笑)。
ハッシー:
イヤイヤ、オマージュですから!わざと過去の印象が残るようにイメージしてつくっています。鏡の世界観は、篠田が持ってきたケミカル・ブラザーズのPVがネタになっているんです。これがすごいハマりました。
篠田:
撮影は本当に大変でしたけどね(笑)。アマナ異次元には、エビ中ファンのスタッフが一人いて、常に彼女にチェックしてもらいながらファンも大切にするように意識して進めました。一般のお客様もファンも皆さんが楽しんでもらえるようにアマナ異次元としては、今までの経験をフルに活用し本領発揮ができたと思います。
― これから、《アマナ異次元》として世の中に何を発信していくのかを聞かせてください。
ハッシー:
オリジナルのコンテンツ発信をもっとしていきたいです。さまざまな会社と協業して、ライセンスも視野に入れて、どうにかしてクリエイターたちに還元できる仕組みをつくりたいと考えています。
篠田:
僕は、2020年のオリンピックを視野に入れながら、オタクの聖地である秋葉原の存在を世界に広めていきたいなと思います。ただ、闇雲に広めていくんじゃなくてアニメ好きな人たちを中心に考えたプロモーションや作品づくりをしていけるように。
― お二人は《アマナ異次元》での仕事は、どう捉えているんですか?
ハッシー:
僕はあまり仕事とは捉えていないですね。自分が一番やりたいことを仕事でやっちゃっているだけで(笑)。人生で一番長く接するのは仕事じゃないですか。だから、いかに楽しめる環境を整えていくかが大事なんじゃないか、と思います。
篠田:
僕も会社の休日返上でアニメフェスやアイドルのイベントに行っていますが、仕事とは全く思っていませんね(笑)。
ハッシー:
クリエイターは外に出て遊んでナンボですからね。そこから大きな価値が仕事に還元されると思います。篠田含め、《アマナ異次元》メンバーの現地情報収集力はかなり信用しています。
篠田:
大好きなアニメの『ユリ熊』のなかに、「好きをあきらめない」っていうセリフがあるんですが、まさに《アマナ異次元》は「好きをあきらめないでいられる場所」ですね。好きなことを仕事として、挑戦させてもらえる場です。
ただ、アイドルや声優さんのMVは、広告に比べると予算がとれないので、どうしても徹夜作業が多くなるんですよね。だから完パケが金曜だったとしたら、徹夜明けなのに次の日もフェスで徹夜みたいなこととかあって…大変なのは、そういうツラさがときどきあることくらいですね(笑)。
― 「好きを仕事にする」というとつい転職や独立を考えてしまいがちですが、お話をうかがって社内でもやり方次第でやりたいことをやれる環境をつくれるということを感じました。今日はありがとうございました!
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