Web業界で活躍するエンジニアたちのキャリアは多彩を極める。今回注目したのは、ファーストキャリアにSIを選んだ4名のエンジニア。彼らはなぜSIをファーストキャリアに選んだのか。そして、なぜWeb業界への転身を決めたのか。元SIエンジニアたちのターニングポイントに迫る。
クラウド名刺管理サービスのSansan、クラウド型労務手続きソフトウェア《SmartHR》のKUFU、グローバルソーシング《セカイラボ》のモンスター・ラボ、ERPのフロントウェア《TeamSpirit》のチームスピリット。この注目のWeb企業4社には、ある共通点がある。それは、かつてSIerに在籍していたエンジニアが活躍しているということだ。
では、なぜ彼らはSIerからWebの世界へ転身することを決めたのか。そもそも、SIer出身エンジニアにとって、Web業界へのキャリアチェンジはアリなのか。
キャリアの可能性を探るべく、2016年8月8日に開催されたイベント《注目企業4社のエンジニアが告白!【大手SIからWeb系ベンチャーへ!キャリアチェンジのリアル】》に潜入。SIerをファーストキャリアに選んだ4名のエンジニアたちのターニングポイントに迫ってきた。彼らの本音をお届けしたい。
<登壇者>
Sansan株式会社 神原 淳史
株式会社KUFU 内藤 研介
株式会社モンスター・ラボ 宇野 智之
株式会社チームスピリット 山﨑 真吾
まず4名が話されていたのは、SIerを離れることになった経緯からだ。一言で退職理由といっても実にさまざま。それぞれの言葉でリアルな退職理由が語られた。
最初に、現在モンスター・ラボで国内外のプロジェクトマネジメントを手がける宇野さん。SIerからWebに転職した理由についてこう話している。
私の場合は、将来に不安を感じたことが理由です。新卒で入社した大手SIerに11年ほど勤めていたのですが、6~7年目あたりから「このままでいいのだろうか?」という感情が芽生え始めました。数多くの大手メーカーと仕事をする機会があり、貴重な経験を積んでいる実感はあったのですが、反面「もしメーカーの業績が傾いたら、僕らはどうなるのだろう」と。「社会がどんな状況になっても生きていけるスキルを身につける必要がある」と思ったことがきっかけですね。(宇野さん)
次に、新卒で入社した大手SIerを半年で退社しチームスピリットにジョインした山﨑さん。転職理由について、こう述べている。
1つ目は、自分の将来が見えづらかったから。証券会社向けシステムの機能追加を任されていたのですが、当時の記憶がないくらい忙しかったんです(苦笑)。最初は「3年は頑張って力をつけよう」と思っていたのですが、体力的にも追い込まれて、3年続くか怪しくなってきて…。一度落ち着いて自分の将来を考えたいと思いました。
もう1つは、自分の志向性とのミスマッチですね。僕はどちらかと言うと、「何万ユーザー獲得したか」というより、「実際に知っている人から感謝される」方が達成感を得られるタイプだということに気づいて。「SIer向きじゃないな」と思い、転職を決めました。(山﨑さん)
続いて、KUFUの取締役・CDOとしてクラウド型労務手続きソフトウェア《SmartHR》の開発などを手がける内藤さん。起業に参画した理由について、次のように語った。
“私の場合は、「自分のスキルでどこまでやっていけるか確かめたかった」というのが理由です。KUFUを創業する前、少しくすぶっている時期がありました。そんなとき、タイミングよく代表となる宮田から声をかけてもらって、それでKUFUを一緒に立ち上げることになりました。宮田のことは信頼していましたし、「これはいい機会だ」と思ったんです。(内藤さん)
最後に、Sansanで開発部長を務める神原さん。どんな理由で転職したのだろうか。
私の場合、「成長できる環境に身をおきたい」と思ったことが理由です。Sansanでは自分がコミットしたぶん市場が大きくなります。ミスをすればそのまま事業がなくなってしまうかもしれませんが、その分成長できると思ったんです。まだ30代前だし、大手企業で安定した給料をもらうより、そういった刺激的な環境に身をおきたいと思ったんです。(神原さん)
次に、転職後4名にどんな変化があったのかについて迫る。それぞれの口からさまざまな感想が語られた。
まず、神原さん。Sansanに転職してからの変化をこう語る。
私の場合、価値観が大きく変わりました。前の職場では大手外資系コンサルティングファームの文化を引き継いでいたので、「昇進するか、辞めるか」のいわゆる「アップ・オア・アウト」の世界でした。そういった環境にいると、いかに今のプロジェクトで評価されるかを考えるようになります。それで、納期のことばかり考えていたのです。Sansanに入ってからは、「自分たちのプロダクトをいかによくするか、どうすればユーザーに価値を届けられるか」と考えるようになりました。(神原さん)
同じく宇野さんについても、モチベーションに大きな変化があったようだ。
一番大きく変わったのは、一緒に働く「人」。SIerにいた頃は、事業の特性上やることが決まっていたので、すでにある仕事をどう最適化していくかを考えるタイプが多い印象でした。逆に今の会社は、0から1をつくり出していくことや、1を10に成長させていくことを考える人が集まっています。みんな熱量がすごいので、「あれもやりたい、これもやりたい」という雰囲気に自然となります。そういった環境で働くことが自分にとってもいい影響となり、テンションの上がった状態を保てているのだと思います。(宇野さん)
山﨑さんは、「将来どうなりたいかを考えられるようになった」と言う。
僕も転職してから、落ち着いて自分に今足りないものや、将来どうなりたいかを考えられるようになりました。それに合わせて今、仕事の後に勉強できるようになったり、コミュニティに参加する余裕も生まれました。今回のイベントもそうですけど、いわゆるスターエンジニアと呼ばれる優秀な方々にお会いする機会にも恵まれています。「自分はまだまだ」「自分にもできる、挑戦したい」と刺激をいただけていることが、以前と大きく変わった点ですね。(山﨑さん)
一方で、SIer時代より要求されるレベルは高くなったと山﨑さんは続けた。
転職したことで自分の力量を見つめなおすいいきっかけになりました。新卒で入った会社を半年で辞めて、学生時代にアルバイトしていた会社に出戻ったときは、「社会人半年し、いろいろ教えてください」というスタンスでした。しかし、一人前のエンジニアと同じように扱われたんです。「君の意見はどうなの?」「ここに関しては君が正しいと思う設計をしてくれ。それで、自分のタイミングで上司を呼んでレビューしてくれ」とか、全部自分たちで進めていくことが求められたんです。そこは自分に甘えがあったと思いましたね。(山﨑さん)
内藤さんは、起業後の変化についてこう語った。
起業してから、業務範囲が広がりました。SIer時代は大人数で大きなシステムをつくっていたので、自分が担当している機能は全体からするとごく一部であることが多かったんです。だから、全体像がよくわからないし、お客さまがシステムをどう使うのかもよくわからない状態でした。今はお客さまがこのシステムをどう使うかを考えて、実際に自分で書いて、インフラからフロントまで全部やっています。
良くも悪くもなんですが、お客さまの反応がダイレクトに返ってくるようになりました。SIer時代は大きなシステムをつくっていたので、担当の方と直接お話しする機会が少なかったんです。導入・リリースしたら、あとは保守に引き継いで終わり、みたいな感じでした。今は機能開発とリリースを毎日繰り返している中で、お客さまの声をダイレクトに聞くことができます。実際に、「おかげで業務が効率化されたよ」と言っていただけるとすごく嬉しいですし、光栄ですね。逆に使いづらいことがあれば、それもダイレクトにフィードバックしていただけます。それを真摯に受け止め、改善していくプロセスは辛いこともありますが、やりがいがあります。(内藤さん)
神原さんは「営業と開発の関係に変化があった」と話す。
Sansanに転職して感じたのは、営業と開発の一体感が素晴らしいということ。営業が無茶な案件を受注して、開発が疲弊しながらつくって、お互い文句を言いあうって、この業界だとよくあるじゃないですか。
でもSansanでは、営業も開発もお互いに感謝し合っています。「このプロダクトを世界に通用するサービスにしていきたい」という想いは同じなので、ぶつかり合うことはありません。営業は開発に「お前がそれだけ気合い入れてつくってくれたんだったら、俺たちが絶対に売るから。売れなかったら、俺たちが悪いから」って平気で言うんですよ。逆に開発は営業に「そこまで言わせてごめんな。俺たち、もっといいものをつくるよ」って本気で思える。そんな熱い営業と開発の関係が気に入っていますね。(神原さん)
SIerからWeb業界にキャリアチェンジを果たした4名。本音ベースで転職後のリアルを語っていただいたが、全員が今を楽しんでいるように感じられた。キャリアパスに決して正解はない。しかし、彼らの歩んできた道を紐解き、ロールモデルにすることで、見えてくるものもあったのではないだろうか。
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