「いまや空間設計には、ソフトウェア設計の要素も含まれている」。ピクシブやチームラボなど、メディアでも話題のオフィスを数々手がける建築家、河田さんに訊く《イノベーションが生まれる空間作り》第三弾。リアルな空間とネット世界の融合から生まれる、空間デザインの新たな可能性とは―。
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成果を出すにはルールを減らせ!―《チームラボオフィス》のイノベーションを生む空間作り[1]
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テンションが上がるオフィスを作れ!―《チームラボオフィス》のイノベーションを生む空間作り[2]
― 河田さんは、デジタルを活用した空間設計に関心が高いと思うのですが、これからの空間づくりはどのように変化していくと思われますか?
僕らの仕事ではすでに、空間の設計と“情報の設計”がシームレスであり、切り離せない状態になっています。どういう空間にしたいかと考えるときに、デジタルの介入領域がすごく大きくなっているんです。
たとえば、アパレルブランドを例にとってみましょうか。現在、ほとんどの企業が多くのコストをかけてネット店舗を運営しています。でも今って、基本的にはリアルとネットがバラバラに動いていますよね。ネットの中にある資源が、リアル店舗に活かされていないと思うんです。それは、コスト的にも資源的にも、非常にもったいないことです。
ネット店舗にある情報をリアル店舗でも利用できれば、イメージも共有できるし、資源も有効活用できます。
そのためにも、店舗にもネット接続のディスプレイなどを置いて、たとえばネット上で商品写真を変えたら店舗でも変わるとか、店舗での更新情報がネットにも反映されるとか、マージさせていくことが重要です。理想的には、リアル店舗に来店して気に入ったものをECで購入する、というカタチが良いのではないかと思っています。そのほうが顧客との継続的なコミュニケーションが取れて、ブランドのファンを増やせると思うので。
その場合ポイントとなるのは、まず前提としてリアルとネットをシームレスにつないでおきつつ、リアル店舗においては、リアルでしかできない体験を用意するということ。その体験をトリガーにしてネットにつなげ、コミュニケーションを循環させていくことだと思います。
チームラボでは実際に、あるアパレルショップに『teamLabCamera(チームラボカメラ)』というシステムを導入しました。これは、「フィッティングルームで自撮りをしてFacebookにアップしてる人が結構いる」という話を聞いて生まれたものです。
じゃあ簡単に撮影ができるシステムをフィッティングルームの前に置こうよ、と。で、お客さんが写真を撮ったらそのショップのFacebookページに画像がアップされるようにすればいいんじゃないか。アップした本人はそのページをシェアする。そうするとその人の友達も、ショップページを見に来る。ネットと店舗が上手く連動して、双方向にユーザーが行き来するという状態を狙いました。
― すでにそこまで実践されているとは驚きです。そのシステムというのはどのような技術が使われているんですか?
それほど複雑なものではなくて、被写体を認識するセンサー、画像を自動で切り抜き・加工するソフトウェア、それからカメラとディスプレイなどですね。
今はセンサーや機械部品がすごく安く手に入るようになっていて、結構複雑な画像の切り抜きなんかについても簡単に扱えるソフトウェアが出てきているんです。だから開発のハードルというのは以前に比べて急激に下がってきているといえますね。
マウスとブラウザを使って情報を引き出すという行為は、今後変化していくだろうと思っています。空間から情報を引き出す、ということが主流の一つになるのではないかと。
“マウスとブラウザ”は、文字情報といった理性的なものは捉えやすいですが、文字情報ではない感覚的な情報は空間のほうが捉えやすい。ユーザー行動に合せた情報の見せ方というのが重要です。
チームラボが手がけた『チームラボハンガー』は、まさにユーザー行動に沿って情報を提供するツールです。見た目はいわゆるハンガーなのですが、中にセンサーが入っています。お客さんがハンガーを手に取るとセンサーが作動して、目の前にあるディスプレイにその商品のコーディネイト写真や動画、文字情報などが映し出されます。
「気になった商品を手に取る」というごく自然な行為をインターフェースとして付加情報を提供するわけです。行動と情報が結びついているので、非常に身体的で、情報が体験として残ります。
― それは面白いですね。 オフィスでの情報のあり方というのも、変わっていきそうですか?
もちろん。今、僕たちが注目しているのが「複数人利用」です。パソコンというのはまさにパーソナルなコンピューターなわけですが、これからは複数人で同時に情報にアクセスするという形が広がるのではないかと考えています。
たとえば会議においては、皆が自分のパソコンを持ち寄って…ではなくて、空間そのものを通じて情報を得る、とか。
個人がパーソナルな端末を通じて、各自で情報にアクセスするという形ではなく、空間そのものに情報を持たせて、複数人が一度にその情報を利用する形。文字情報などの合理的な情報というより、主観的な情報や直感的な意識の共有を行なうことのできる空間を作るというわけです。
実現のためには、物理空間側には、センサーや表示部分に関するシステムの構築が必要ですね。デジタル側には、同一空間を複数人で利用することに適したインターフェースのあり方といったものを発見する必要があると思っています。
― それは面白そうですね。お話を伺っていると、なんだか河田さんの職業が何なのか分からなくなってきました(笑)
空間設計とかレイアウト設計というのは全体の50%ぐらいで、もう半分はソフトウェアの設計になっているんですよね。
今後は、オフィスや街中などのリアルスペースに今よりもっともっとコンピューターやWEBが出てくるだろうと思います。
『CAREER HACK』の読者にはWEBやIT系のお仕事をされている方が多いと聞きましたが、そういった職業に就いている方にとって、これからますます面白い時代になるんじゃないかと思います。
リアルとWEB、互いの領域から互いの領域へと活躍の場をクロスして、イノベーションを起こしていけたらいいですね。
(おわり)
編集 = CAREER HACK
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