仮想ライブ空間・動画配信プラットフォームでビジネスに革命を起こそうとしている、SHOWROOM 前田裕二さん。逆境に屈せず、成長し続けるーそんな彼が味方にしたのは“習慣の力”だった。
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次世代を担うリーダーたちの「習慣」に迫っていきたい。
編集部がこう切り出すと、SHOWROOM 前田裕二さんからは「そもそもなぜ習慣が重要なのか」について伺うことができた。
「そもそも習慣って何のための習慣なのか。ここが大切だと思っています。どうなりたいか。そのためにどう自分を変えられるか。そのプロセスが日々の習慣ですよね」
つまり、単に誰かのマネすることにはあまり意味はないということ。
「自分が理想とする姿に対し、“いつかそうなれたらいい”と思い描くだけでは一生、そこには到達できません。理想から逆算し、アクションを決める。そうすることで自ずと日々実践すべきことが見えてきます。
じつは外資系の投資会社で働いていた時、初めて上司に貰った本がスティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』だったんです。その本によって僕のビジネスの基礎は固まったといってもいい。習慣の1つに、「インサイドアウト」というものがあります。簡単に言うと、多くの問題は自分を変化させることで、まわりの環境が変わり、物事が良い方向に進むということ。そのために“何を習慣化すべきか”という視点が欠かせないと考えています」
彼はどう「理想」の姿を描くのか。そこに向け、日々何を実践しているのか。今やテック業界のみならず、ビジネス全般の世界において注目されるリーダーとなった前田さん。人生の壁を突破する、習慣化のメソッドがあった。
いつでもどこでもメモを欠かさない前田さん。さらに一日の終わりには日記へとまとめている。何を書きとめ、どう整理しているのか。キーワードは“抽象化”だ。
「以前、メモ術に注目いただけたのですが、それを毎日、日記へとまとめ直すという作業もしています。社会現象を含め、看板だったり、サービスだったり、あらゆるものを抽象化し、どう活かせるか?どう転用できるか?ゲーム感覚で楽しみながらやっていますね」
いうならば“抽象化ゲーム”といってもいい。実際には、どのようなものなのか。
「たとえば、ハロウィンの街中さえ抽象化するのです。混んでて歩きにくいなぁ、と思うのではなく、ハロウィンの夜に混んでいるという現象を抽象化する。なぜ若い人たちが仮装し、渋谷に集まるのか。たとえば、もしかしたら、多くの人が本質的に強く変身願望を持っているんじゃないか?と」
さらに前田さんは、その願望を解き放つ“イノベーション”があったのではないか?と考えていく―。
「ハロウィンというムーブメントが大きくなり、仮装する人数が増えている。おそらく以前は叶わなかった変身願望が、何からのイノベーションにより、叶うようになったのだと思うんです。
これ、ドン・キホーテの登場が大きかったと考えていて。仮装グッズが安く購入できるようになり、それがトリガーになったんじゃないかと。今までは、たとえば『今夜ドラキュラになりたいな』と思っても、実際にそれは簡単なことではなかった。つまり、仮装のハードルを一気に下げたことで、変身願望が解き放たれた。そういったハードルを見つけてあげて、その解消策を考えれば、革新を起こす事ができる。こうして現象やヒットの法則を見出していきます」
併せて「SHOWROOMはハロウィンと同じ構造。変身のハードルを下げ、欲求を満たしている」という説明をすることで、なぜ、SHOWROOMがヒットするのか。どうムーブメントが起こるか。抽象化は、物事をわかりやすく伝えることにも一役買うそうだ。
「そう考えると、抽象化こそ、ヒットの打率をあげる最大のポイント。たとえば、『君の名は。』もヒットしましたが、すごく参考になるんですよね。じつは一人語りの回想シーンがとても多い。隕石というモチーフも、誰もがわかりますが抽象化すると天災ですし、メタ的に震災など自分事として捉えることができる人も多い。つまり“自分の物語”を投影しやすいということ。“一人称”の体験を促す効果を狙っているのかもしれません。
いま、SNSが流行りつづけているのも同じ構造で、いかに自分の物語を感じられるか。そのほうがユーザーの満足できる効用の度合いが大きい。これもSHOWROOMのなかで“自分の物語”を描いていくことと共通すると思っています」
読書も前田さんが習慣としていることのひとつ。その手法においても“いかに行動を変えるか” という軸が貫かれているようだ。
「どんなに忙しくても、1日1冊は必ず本を読むようにしています。ただ、さすがに全ての本を読了している時間はないので、まず目次をさらって、活かせそうなところを重点的に読み込むという読み方をしています。なので読書するときも必ずメモとペンを用意していて(スマホで読むときは、メモアプリにメモを書いたりしてますが)。読書をしたら、そこから得た学び、次に起こす行動を、最低でも3つは書き出すことをルールにしています」
単に流し読みをして終わりにはしない。なぜ、行動とセットにして考えるのだろう。
「たとえば、”時間あたりの生産性が大切。それが仕事ができる人の共通点”といった話って多分世界で1000万冊ぐらいのビジネス書に書いてありますよね。でも、多くの人は仕事ができるようになりません。なぜなら、”行動”を変えていないから。自分に置き換えた時、どのような行動を起こすべきか、きちんと定めて、タスクにしていくことをおすすめしたいです」
また、ネットでの情報インプットにも独自のルールがある。たとえば、SNSでフォローしている同コミュニティにいる人たちが日々何をシェアしているか、漏らさずにチェックしていくというものだ。
「自分のまわりの人がどんな情報をチェックして、シェアしているか。これは最低限ベースで知っておく必要があると思っていて、あるアプリをつかって、効率的に追っています。これは単純にまわりの人が何に関心を持っているか知って、自分自身の発信につなげるという意味も大きいです。また、いいフィルターにもなるんですよね。信用できる方々がシェアしてくれる情報なので」
もうひとつ、何よりもリアルな場に価値を見出す。
「本もネットも大事ですが、生の情報に勝るものはない。リアルで人に会うことが一番大切かもしれませんね。一日に3件くらい会食が入っていたりします(笑)」
こうして読書、リアル、ネットと情報インプットにルールを設けている前田さん。では、実際にどのように習慣をつくっているのか、深掘りしていこう。
「そもそも人間って怠け者ですよね。僕自身も、怠け者だなぁと、自分自身の本質が垣間見えると、うんざりします。でも、怠け者であればあるほど、習慣の力を使った方がいいんですよ。習慣にしてしまえば、加速度的に成長していけると思います」
どうすれば、習慣の力を、上手につかっていけるのだろう。
「完全に習慣化するまで、もちろん一定の努力が必要だと思っています。たとえば、普通にタスク管理アプリなどで、毎日絶対やらなきゃいけないことをガ―ッて書いて、ひとつずつ潰していく」
これは、脳にムダな意思決定をさせないと言い換えてもいいかもしれない。前田さんは「SNSにアクション(いいねやコメント)する」という部分までタスクに落とし込んでいる。
「そもそも“習慣的にやんなきゃいけない事って何だっけ?”と考えることがもったいない。であれば、全てリスト化してやればいいだけですよね」
《タスク例》
□ 本を読む
□ Newspicks 投稿
□ Facebook リアクション
□ Twitter リアクション
さらに“歯磨きと同じレベルの習慣”にしていく。
「最も良いのは、毎日やっている歯磨きと同じくらいの習慣になること。“歯磨きをすると、何が起きるのか?なぜ必要か?”って問いを設計しなくてもやれますよね。モチベーションや仮説設計がいらないレベルに落とし込めると続くと思います。そうすることで、心のカロリー消費も最小限で済みますし。もっといえば、そもそも気持ちのいいこと、好きなことは、ほっといても勝手に習慣化しますよね」
それでも読書にせよ、学習にせよ、心が折れる、続かないというのは往々にしてあること。そんな時には“大前提のモチベーションを見つめる”という。
「どうすれば途中で投げ出さずに済むか。そう考えると“大前提のモチベーションを見つめること”がすごく大事なのだと思います。僕は習慣化するまでに必要な原動力を、先に手にすればいいと思うんです。必ずしも自分にとって快楽の度合いが大きくないことも、習慣にしようとしてるわけじゃないですか。モチベーションと意思ですよね、その意思が折れるから習慣化するまでに心が折れる。なんでそれをそこまで求めるんだっけ?と」
それは前田さんにとって「運命に屈しない生き方」と言ってもいいのかもしれない。
(引用)運命に屈しない生き方をするために|前田裕二×けんすう 特別対談
「自分自身に与えられた運命に屈したくない」という、そういう感覚です。人と戦ってもキリがない。自分は、自分の運命に打ち克つ。そう考えて毎日頑張っている気がします。
もうひとつ、特に最近では健康に気をつかうようになったという前田さん。彼自身の意識の変化があったようだ。
「社員の数が増えたことは大きいかもしれません。今社員100人分の人生を背負ってると思ってます。だから、自分が倒れちゃいけないって強く思ってて。そのためにも、自分が健康であることは大事にしています。だから、健康診断の結果とか、凄くいいです(笑)」
健康のために、どのようなことをやっているのだろう。
「仕事のパフォーマンスを上げるために、睡眠の質をあげたい。そこでベッドやマットレス、枕も、自分に合うか結構こだわっています。じつはベッドも10回くらい買い替えました。あとは遮光のカーテンを使ったり(笑)」
さらに、どれだけ多忙であっても続けている習慣がランニングだ。
「どんなに時間なくても、毎朝15分は絶対走っていますね。あとはジムにも定期的にいっています。パーソナルトレーナーの方にお願いして、ストレッチと自主トレーニングもセットで。行くのは朝方が多いです。
あと人に薦められて、最近はめちゃくちゃクエン酸を摂取しています。話すと長くなるんですが、僕ら生物には「クエン酸システム」と呼ばれる機構が備わっていて、これは、エネルギーを生成する時の仕組みです。この回路が正常に回らないと、体に支障をきたしてしまうそうで。ちょっとマニアックなので、これは余談ですが(笑)」
余談ついでに同じように毎日繰り返していること、ルーチンについても聞いてみた。
「たぶん弾き語りでしょうね。単純に歌うことが好きなので、気分が上がる。昔から毎日寝る前に必ずしているルーチンですね」
じつは前田さんがギターでの弾き語りをはじめたのは小学生の頃。すでに20年以上の習慣、原点といってもいいだろう。
(引用)DeNAファウンダー南場智子が5年かけて口説き落とした男
どうやって稼ぐか(中略)ギターを必死に練習して、ストリートでゆずとかを歌って、見てくれるお客さんからギフティング(笑)してもらったりしてました。小学生が一生懸命ゆずの失恋ソングを歌ってたら、大人から見て絶対可愛いだろうという、今考えたら相当あざとい小学生でしたね(笑)。
ギターを練習した少年時代。その時から持ちつづけた「努力」に対する考え方もSHOWROOMに反映されているようだ。
「これは習慣というか、サービスを運営する上で大切にしていることなのですが、何か意思決定をする時、努力に裏切らせないということ。後天的に頑張って努力する人が報われるようにするということなんですよね。
いろいろな努力のカタチがありますが、世の中における努力って多くの場合、裏切ってくるじゃないですか。頑張ったけど何も結果が出ない、報われないということがよくある。だからこそ、SHOWROOMという空間においては、できるだけ努力に裏切られないようにしたい。
たとえば、AKB48のメンバーたちでもSHOWROOMを365日続けてやっているメンバーだったり、朝5時半と決めて配信しているメンバーだったり、がんばっているメンバーたちが、報われるようにしたい。会社でもそうなんですよね。悩んだ時は努力してるやつを必ず優遇しよう、と伝えています」
2014年、CAREER HACKがはじめて前田さんを取材してから約3年半。飛躍的な成長を遂げたSHOWROOM。AKB48グループをはじめ、多くのアイドルやタレントが参画する動画配信プラットフォームとなった。なぜ、この短期間で、ここまでの成長を遂げることができたのか。そこには前田さんが守ってきた仕事哲学がある。
「ビジネスって気がつくと自分たちが優先すべき事項に目がいきがちですよね。そうではなく、相手は自分に対して何を求めているか?ここを冷静に見極める。どれだけ想像力を働かせられるかだと思うんです」
それはひとりのメンバーやプレイヤーでも同じだという。
「とても些細なことですが、この前、社員に感動したのが、打ち合わせの席で、僕の前に“のど飴”がさりげなく置いてあったんですよ。あまりに僕がたくさん話すから喉を痛めないようにって(笑)すごい気づかいですよね」
たとえば、AKB48グループの出演が決まった裏側にも、“相手の期待を考え抜く”というスタンスがあった。
「AKB48の出演交渉は、人生においてすごく大事な場面でした。プロデューサーである秋元康さんにプレゼンをするわけですが、秋元さんが何に喜び、悲しみ、悩み、苦しんでるのか、本当に憑依してしまうくらいに想像して、明けても暮れてもずっと考えていて。
秋元さんにとってSHOWROOMがどう見えているのか。どうしたら僕らが秋元さんに価値を提供できるのか。“秋元さんの目”になる。場合によっては普段から何を話すのか、スクリプトを作って準備することもあります」
最後に聞けたのは、人生をかけた勝負の時、大きな壁が立ちはだかった時、前田さんはどう向き合っていくのか。
「部屋に鍵を掛け、完全に外界をシャットダウンして考えることが多いですね。とにかく内省する。今、何がおきているのか?なぜやるのか?本当に後悔しない選択はなにか?自分自身と対話しながら、何段階も掘っていきます」
こうする理由のひとつに、前田さんが大切にしているお兄さんの言葉がある。それは「後悔しない決断をしろ」というものだ。
「人生の中で重要な意思決定の時。絶対に兄貴は『お前が後悔しない決断をしろ』っていってくれるんです。ちゃんと深く内省して決めろ、と。もう一つ、結局その意思決定した時点では、そもそもどっちが正解もない。だから後で後悔することが無いように決めた後のアクション頑張れよっていう意味なんですよね。つまり自分の選択を正解に導くのは、選択した後の自分次第であると」
彼の決断、歩んできた道には、いつも“家族”の存在があったといってもいい。
「あとは…すこし恥ずかしいのですが、よく願掛けをしています。じつは右手に5歳ぐらいのときにできた小さな傷があるんですよ。僕が8歳の時に亡くなった母が、僕の体の中で唯一知ってる傷でもあって。だからここ一番という時は、この傷を見て、母親のことを思い出す。心の中で話しかけたりして。これをやるとすごく落ちつくし、やって失敗したことがない(笑)受験でも、面接でも、プレゼンでも。僕だけの勝利の法則ですね」
今回、前田さんに伺うことができた「7つのキャリアハック(7HACKS)」。最後に紹介したいのが、彼が考える「何を習慣にすべきか」という問いへの回答について。
そもそも自身のなかで「解くべき問題」があり、それを解決していくための手段としての習慣がある。解くべき問いを見極めることこそが鍵を握るという。
「解いても意味のない問題ばかり解こうとしていることがよくあると思うんです。たとえば、宝が鉱山に眠っているとして、そのどこを掘ればいいのか。力業で下から上まで全部、掘り切るって絶対にムリじゃないですか。本当は別に山のふもとにずっと住んでる老人の所に話聞きにいったり、ダウジングしてみるとか(笑)どこに宝が埋まってそうか、先に見つける事の努力をする。見極めて生きる。そういう作業にちゃんと時間を割く」
そして、前田さんが習慣化の前に、必ず自らに行う問いがあるそうだ。
「必ず2つ、自分のなかで大切にしている問いがあります。“このアクションによって何が起こるのか?”と“何を解決するのか?” この答えから自ずと日々やるべきことが見えてくるはずです」
いかに自身を成長させていくか。そして理想とするゴールに近づくか。そこには日々の積み重ねや実践がある。ぜひ参考にしてみてほしい。
(おわり)
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