2013.02.28
えっ!三男が“卒業”!?―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[1]

えっ!三男が“卒業”!?―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[1]

異色の開発ユニット AR三兄弟。その三男・小笠原雄氏の卒業が決まったという。そこで三兄弟各位に、AR三兄弟という組織について改めて振り返ってもらった。AR三兄弟とは何か?ユニットとして活動する意味とは?彼らの言葉から見えてきたのは、エンジニアの新たなキャリアの可能性だった。

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3月3日に三男が卒業。AR三兄弟はどうなるのか?

AR技術を使って、世界の拡張を目論む。このコンセプトにのっとり、AR三兄弟は実に幅広い活躍を続けている。フジテレビ“ノイタミナ”のオープニングロゴ制作から、最近では、ユニコーンとのコラボレーション企画を手がけるなど、その勢いはとどまるところを知らない。

だがそんな中、来たる3月3日に、三男の小笠原雄さんがAR三兄弟を卒業するという。

“三兄弟を卒業”というのもこれまたおかしな表現だが、そもそもAR三兄弟は、3人のフリーディベロッパーによる開発ユニットである。彼らは企業に属したり、プロジェクトごとにチームを組むことではなく、あくまで“3人からなるユニット”として仕事をすることにこだわってきた。

そのこだわりを紐解くことで、ディベロッパーやエンジニアの新たなキャリアの可能性が見えてくるのではないか―。

そんな仮説を持ったCAREER HACK編集部は、三兄弟各位に声をかけ、“AR三兄弟”という組織について改めて振り返ってもらうことにした。

三男卒業という節目を迎えた今、彼ら自身は、開発ユニット・AR三兄弟を、どう考えているのだろうか?


右から川田十夢 氏(長男)、髙木伸二 氏(次男)、小笠原雄 氏(三男)。
MEISEIロゴのユニフォーム、マネージャーの体操着、死装束という出で立ちは、某有名野球マンガを思わせなくもない。

AR三兄弟とは、"劇団"のようなものである。

― 三男さんが卒業されると聞いて驚きました…。“これまでのAR三兄弟を総括する”という意味も込めて、お話を伺えればと思います。そもそも、皆さんはAR三兄弟を“ユニット”だと表現されていますよね。ユニットという組織形態って、一言でいうとどんなものなのでしょうか?


長男:
“劇団”っぽいかもしれないですね。AR三兄弟という劇団においては、僕が作家兼役者で、次男と三男は役者です。

もともと僕は、気質としては一人で小説を書いてるほうが向いてるタイプなんですよ。本当は人前で浮かれたことばかり言いたくないし、根が暗いんで一人で飲んでいたい。ただそれだと、単に僕という一人の作家性でしかモノを作れなかったと思うんです。

それが“AR三兄弟”というユニットがあることによって、次男・三男という二人の役者を想定してストーリーを描いたり、僕自身も、普段の自分とは違う自分を演じられるようになったりするんですね。これは僕自身の名前で一人で仕事をしていたら、できなかったことです。

それに、この二人(次男・三男)にはそれぞれの職能があるから、僕が彼らに向けてストーリーを描いたとしても、必ずしも僕が思った通りにはならない。この二人にしかできないことがたくさんあって、そこからいろいろ教わることも多いし、仕事の幅という意味でもめちゃくちゃ広がるんですね。

劇団で例えると、二人が“アドリブ”を入れてくれる感じです。まあ二人はあまり人前でしゃべったりはしないんですが、開発の中でのアドリブという意味では、ものすごく手数が多くて。演劇的にアドリブが積み重なる作品づくりというのも、ユニットという形態ならではのものかなと思います。


― AR三兄弟の仕事の進め方を、もう少し教えてもらえますか?


長男:
いろんなやり方がありますけどね。

僕らは自分たちの事例紹介をするときに、“ユニコーンを拡張しました”とか“○○のシステムを作りました”とか、そういう細かいことは言わないんですよ。だからオファーをいただくときは、「何だか分からないんですが、これ拡張してもらえませんか?」っていう、ざっくりした球がいっぱい飛んできて(笑)

で、打ち合わせのときにやることを大体決めちゃうんですね。そのときに浮かんだ拡張ネタを僕が「こんなことできますよ!」って言ってる横で、次男は“映像”のことを考えているし、三男は“プログラム”のことを考えているし、“こうすればいいな”っていう設計図を、それぞれが頭に浮かべているんです。

というのも、普段の会話やメールのやり取りを通じて、他の二人が何を考えているのか分かるから、“だったらこうやると面白いな”というのが、自ずと見えてくるんですよ。

クライアント先での打ち合わせでも、三人並んで僕だけしゃべっているようでいて、実は二人の職能を考えた上で、企画を出すようにしています。

映像をこういうふうに刻んで、ここでこんなエフェクトかけて…とか、長男も三男もできないけど、次男ならできるな、みたいなことを考えながらね。三人でできるキャパシティから逆算して、アウトプットしていきます。


― なるほど、確かに“劇団”という例えはしっくりくる気がしますね。


長男:
僕らの場合は、既存の劇場で単に上演するという感じではなく、“舞台装置”も自分たちで作っているイメージですけどね。

ユニットは、共通のビジョンがあって、初めて成立する。

― ユニットという形態は、どういう人たちに向いているものなんでしょうか?


長男:
個々の具体的な思想はバラバラでいいんですけど、大きな枠として“共通の地平”は見ていたほうがいいですね。僕らで言うと「人がやらないことをやりたい」ということが一致しているんですよ。

あとは「あんまり働きたくない」とか。これは全員一致してたんですが、だんだん実現できなくなりましたね(笑)なんだか、うっかり過酷になってきましたね、AR三兄弟。


― お二人はどうですか?


次男・三男:……。


長男:
こういうときに、その人の声を代弁してくれるような人がいると上手くいくかもしれないですね(笑)各自に欠けているものが何なのかをそれぞれが自覚していて、“こういう人がいたらもっとなんとかなるのにな”って感覚がある人たちには、向いているのかも。



三男:
…そうですね、そういう意味でいくと、僕は「一緒にいて相乗効果がある人たち」じゃないかと思います。当たり前ですが、一緒にいてマイナスになるんだったら、やらないほうがいいですから。

マイナスになることって、人によってはあるんですよ。ユニットって刹那的なものでもなければ、永続的なものでもないですし。ユニットという名前の通り、“部品”が集まってできているものだと捉えたほうがいいと思います。

あとは…フットワークが軽い人とかが向いてるかもしれません。


次男:
他人が好きになれる人じゃないですかね。独りよがりじゃないっていうか、どっかで自分以外のメンバーを信頼していないといけないですし。


― 共通のビジョンがないと成り立たないってことですかね?


長男:
そうですね。AR三兄弟って、ユニットとして完全にアタマおかしいですからね。突然「兄弟になりたい!」ってお願いしたら、普通なら「何言ってるんですか?」ってなるわけじゃないですか。でも、この二人だったら分かってくれるなと確信していましたし。

毎回毎回の仕事を、“これは本当に面白いのか”“これを作ったら世の中が変わってしまうんじゃないか?”と本気で考えながらやっていて、僕の場合だと、まずそれを次男と三男が受け止めてくれているのが大きいです。メンバーの誰かがそういう考えや気持ちを受けとめてくれるというか、ユニットが“入れ物”としてちゃんと機能しているというのが、とても重要ですね。

例えば曲を作ったら、それを最初に聴いてドキドキしてくれる人がいる、ということ。“コレつまんないですよ”って言われたら、もうやれなくなっちゃいますから。

何か新しいことをやるときに、それぞれが“面白い”と感じて、各自が“自分は何をすべきか”をきちんとイメージできるかどうかが重要。それができたら、一人では味わえない、ユニットとして活動することの意味が出てくると思う。

僕たちの場合、違う職能の人間が集まっているからこそ成り立っている部分はあるかもしれませんね。バンドだと、ドラム叩きたい人だらけだと音にならないじゃないですか。それと同じで、ユニットも皆のやりたいことが同じなら、もう個人でやったほうがいいんですよ。

職能の違う人間をちゃんとまとめられる人が一人いれば、ユニットとして成立させられるんじゃないかと思います。で、まとめる人は、「コレだ!」というアイデアを出せて、「コレをやれば間違いない!」ということを言える人なんじゃないかと。


次男:
うちは長男と三男が天才だから、僕は二人をサポートできるような立場がいいんじゃないかなって思ってますね。


三男:
個々の個性が強すぎるのは、あまりよくないかもしれません。もちろん、長男のような、しっかりまとめていける“指揮者”がいればこその話ですけど。

僕も、長男が立てた企画が面白いので、それを形にするのが楽しいんです。バンドでいうと、ボーカルが作ってきた歌に、「じゃあギター合わせてみるわ!」っていう感じでコードを書いてますね。プログラムの詳細な仕様までは決まっていないので、どう形にするか考えながらやってます。


長男:
僕らの場合、お互いの素養が、ぶつかり合うものじゃなかったから良かったんでしょうね。

でも今回、三男が卒業するということに関して、彼の気持ちは僕にもすごくよく分かるんです。三男には三男の世界がしっかりとあるので、自分の世界のリアリティをちゃんと書き出さないと、立ち行かなくなる部分がやっぱりあると思う。

三男はAR三兄弟としてもアイデアを出してくれるんですが、基本的に大きなアイデアは僕が考えてしまうケースが多いし、彼が何をやっても“AR三兄弟の三男が何かやってる”という見られ方をするわけです。

だったら、一度ユニットを離れて、彼が彼自身で何かを作るというのは、それはそれで良いことだと思うんですよね。

“二代目 三男”を募集!?

― 三男さんが卒業された後、追加メンバーの募集などは?


長男:
そうですね、“マンスリー三男”みたいなのもいいかなって思ったりしてます。やる仕事ごとに、三男が変わるっていうか。

でも、CAREER HACKを見て三男になりたいって人がいたら、「こんなこと僕できるんです!」っていうことを言ってきてくれると嬉しいです。三男なりたい人、大歓迎!良い人だったら会いますし。


― 三男としての役割みたいなものは、明確にあったりするんですか?


長男:
いや、それはもう僕らとかぶってないものだったら何でも。工作が得意でもいいですし、塗装が得意でもいいですし。何か得意なことが一つあればいいと思います。現状で言えば、プログラミングはできたほうがいいかもしれないですけどね。そのほうが話に入りやすいと思いますし、僕も評価しやすい。例えば、熟練の陶芸家がきても評価できないですから(笑)

あとは年齢もあるかな。次男が30歳だから、それよりも下の方がいいなと思います。


― あ、きちんと年齢順に長男・次男・三男なんですね。


長男:
そこはウソつきたくないですね。ちゃんと年齢順でいきたいです。ちなみに、三男は女の子でも大丈夫です。三男なのに女。あると思います。



(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
“AR三兄弟”はいかにして生まれたか?―AR三兄弟に学ぶ、理想のチームのつくり方[2]

緊急告知!3月3日“三男 最後の日”イベント開催決定!

3月3日(日)、AR三兄弟 三男 小笠原雄さんの卒業イベントが開催されます!当日は、“二代目三男”の公開オーディションも行われる予定。そしてなんと二代目三男の立候補はまだまだ絶賛受付中!イベント参加・三男への立候補はこちらの応募フォームからどうぞ。

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編集 = CAREER HACK


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