注目のリリース情報が飛び込んできた。カメラ&フォト系アプリで、新しいアプローチから切り込む《Seconds》だ。開発したのはベトナムに拠点を置くCinnamon。CEOの平野未来さんは「スマートフォンの標準カメラアプリをSecondsに置き換えたい」と語る。一体Secondsとは?全貌を解明する。
あまたあるスマートフォン向けカメラ&フォト系アプリ。この激戦区ともいえるカテゴリーに新規参入したアプリがある。
それが《Seconds》。スマートフォンで撮影した写真を、わずか2~3秒で知り合いにシェアできる写真共有アプリだ。Android端末の保有者は、こちらのページから試すことが出来る。
開発したのは、ベトナムに拠点を置くCinnamon 。CEOである女性エンジニア 平野未来(みく)さん率いるスタートアップ である。
平野さんは、以前にCAREER HACKで取材した堀田創さん、野澤貴さんと共に『未踏ソフトウェア創造事業』に採択されたエンジニア。
彼らとともに日本でスタートアップを立ち上げた後、mixi社への事業売却に成功。その後、昨年10月にシンガポールで起業し、ベトナムにも開発拠点を設けてCinnamonをスタートさせた。
その平野さんが、2013年3月、起業からわずか5ヶ月というスピード感で送り出したのが Seconds。今までのカメラ&フォト系アプリにはない、全く新しいユーザーエクスペリエンスを与えてくれるこのアプリの全貌を、平野さんご自身に語っていただいた。
― 《Seconds》はどんなアプリなのか、まず概要から教えていただけますか?
端的に言うと、プライベートで使う写真共有アプリですね。ポイントは「共有がめちゃくちゃ簡単で、ものすごく速い」というところ。
スマートフォンで写真を撮影すると、2~3秒後には、友だちや恋人、家族など事前に共有設定しておいたメンバーに自動で写真がシェアされるんです。
― 2~3秒というのは速いですね!とはいえ、これまでもプライベートで使える写真共有アプリはあったと思います。たとえば、FacebookやLINEでもグループ選択して共有できますよね。それらとはどう違うのでしょう?
共有するまでのステップを“ゼロ”にした、というところが一番違うと思いますね。FacebookやLINEの場合、
「アプリ起動後にカメラを立ち上げる」「撮影する」「共有するグループ範囲を選択する」「投稿する」
と、シェアするまでに複数のステップを経る必要があります。ですが、Secondsはアプリを起動して、撮影するだけ。つまり、撮影からシェアまでのステップがゼロなんです。
クラウド上にアルバムをつくっておいて、それを共有しているメンバーたちがSecondsで撮影すれば、撮った瞬間からどんどん写真が共有されるようになります。
― 知り合い同士で写真フォルダを共有する感覚ですね。
まさにその通りで、最も参考にしたのはDropbox。使っていればそれだけで、いつのまにかファイルが共有される。自分が特に何かをする必要はない。この“ゼロ”の発想こそが、イノベーションを起こすプロダクトには欠かせないと思っています。
― 具体的に、どんなシチュエーションでの利用を想定していますか?
結婚式や飲み会、旅行など、みんなが集まるシチュエーションにピッタリだと思います。
結婚式でも、友だちみんながスマートフォンで写真を撮りますよね。撮った瞬間からすべての写真がシェアされれば、きっと便利だろうと思います。メールやSDカードでデータをやり取りする手間がかかりませんから。「あとで写真を送ってよ」と友だちに頼んだけど忘れられる、なんて心配もなくなります(笑)
旅行にしても、一緒にいった人たちみんなの写真がすべてシェアされるので、どこで切符を買ったか、どんな場所を見たか、すべて思い返せます。「思い出」の残し方も変わっていくかもしれませんね。
― なるほど。従来のカメラアプリや写真系のSNSとは、まったく違ったコンセプトで作られているわけですね。
そうですね。フィルタをかけたりデコったり、そうしたFacebookやTwitterで“人に見せる”ためのカメラアプリとは、発想自体が違うと言えると思います。
― Secondsは、もともとどんなコンセプトで誕生したのでしょうか?
いったん使うと後戻りできない、生活を変えるサービスを作りたい、というところからスタートしました。
そもそもネイティブのカメラアプリって、写真がローカルにしか保存されませんよね。
これがもし、クラウド上に自動で保存されて友達と簡単に共有できるようになったら、圧倒的に便利なはず。それどころか、ネイティブのカメラアプリを使う必要がなくなるんじゃないか。そういう思いで開発していきました。
FacebookにしてもDropboxにしても、一度使い出すと手放せなくなりますよね。Secondsも、そうなる可能性があると思っています。
― 今までだったらローカル上で埋もれていたはずの写真が共有される、という点も面白いですね。
そうなんです!新しいコミュニケーションが生まれるきっかけにもなると思います。私自身、実際に使ってみて気づいたんですけど、失敗した写真やくだらない写真など何気なく撮った写真のほうが、共有したときに盛り上がるんですよね。
― なるほど。写真を通じた、今までにないコミュニケーション。
そのコミュニケーションの妨げにならないよう、写真の加工や投稿前の確認画面等はすべて排し、気軽に撮ってシェアしてもらえるような仕組みにしました。
これって、WEBサービスのトレンドがmixiからTwitterに移行していったときのイノベーションとすごく似ているなあと感じています。
mixiの日記には投稿前に内容を確認する画面がありましたが、Twitterに確認画面はありません。
この小さなサービス設計の差異が、サービスの使い方を大きく変えます。Twitterに『本当にツイートしますか?』という確認画面があったとしたら、きっと「眠い」とか「渋谷なう」みたいなつぶやきは生まれなかったと思うんです。
― たしかに!Secondsも、そのTwitterの手法を参考に設計されているわけですね。うん、たしかに「撮る」から「シェア」までの体感速度がものすごく速い。
ありがとうございます!とにかくスピーディに共有できるようにしたくて、技術的にもこだわった部分なので、褒めていただけると嬉しいです(笑)
― 技術的なこだわりとは?
そのままの画像サイズだとやはりどうしても重くて、「撮った瞬間にシェアされる」という体験にはならないんですね。
そこで、画像サイズを限界まで圧縮したサムネイルが、プッシュ通知で届くようにしました。圧縮したサムネイルであれば、撮った瞬間に通知を飛ばすことができます。そしてその通知が飛んでいる間に、実際に撮影された画像が、バックグラウンドでサーバーにアップされるわけです。
― なるほど、サムネイル画像つきのプッシュ通知があるおかげで、ユーザーが「ものすごいスピードで共有された」と感じられるわけですね。
そうです。それから、写真を受け取るほうの機能も、OS側が用意したものではなく、自分たちでイチから開発しています。
― Secondsの今後の展開は?
いまのところAndroidでのリリースなのですが、iOSでの開発もあと少しでひと段落する見通しがついています。開発スピードを速め、徐々にマーケットに広めていきたいですね。
まず3月末にタイでAndroid版のSecondsをリリースして、そこから少しずつ東アジアに広めていこうと考えています。
― なぜタイからのリリースなんですか?
日本をはじめ東アジアの成熟したマーケットでは、Google PlayやApp Storeのランキングで上位を獲得することが簡単ではないからです。
そこでランキング上位を狙いやすいタイからリリースし、アプリの完成度を高めた上で、東アジアでもリリースしていく予定です。
それから、タイとシンガポールってスマートフォンの普及率が高いんです。
特にタイの女の子は写真が大好きで、みんな毎日何十枚も写真を撮っています。自分撮りした写真をFacebookにアップしたりしていて。そういう点でも、Secondsと相性の良い文化だと思いますし、きっと楽しんで使ってもらえるんじゃないかな、と考えています。
(つづく)
▼インタビュー第2回はこちら
日本人はマネジメントで勝負すべき―ベトナムで起業した女性エンジニア、平野未来のキャリア論[1]
文 = 白石勝也
編集 = CAREER HACK
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