ツクルバが設計・運営している渋谷のシェアードワークプレイス『co-ba(コーバ)』。ここでは所属する組織も職種も違うクリエイター・エンジニアが結びつき、新たなサービスやプロジェクトを立ち上げているという。”新しい働き方”を生み出しているとも言えるこの空間には、一体、どんな仕掛けがあるのだろうか。
サンフランシスコ界隈で2011年より急速に注目され始めた「コワーキングスペース」。主にフリーランスや起業家など特定のオフィスを持たない人たちが集い、それぞれが、オープンスペースで思い思いに仕事をする場所だ。
ここ日本でも、さまざまな場所で仕事をする新しいワークスタイルである“ノマドワーキング”という言葉の普及とともに、起業家や、エンジニア・クリエイターを中心にコワーキングスペースの存在が定着しつつある。
今回訪問した『co-ba』もその一つなのだが、いわゆるシェアオフィスやレンタルオフィスとは決定的に違うことがある。co-ba自体に利用者同士のコミュニケーションを促す仕掛けが設けられており、そこから新しいビジネスのタネが自然発生的に生まれているのだ。
今回は、co-baの設計・運営を手掛ける株式会社ツクルバ CEOの村上浩輝さんにコワーキングスペースのプロデュース・運営を通じて培われたコミュニティ論、そしてこれからの時代における、クリエイター・エンジニアの新しい働き方について伺った。ツクルバが実践する“コミュニティデザイン”は、クリエイターやエンジニアの働き方をいかに変えていくのだろうか。
― 近年、国内でもコワーキングスペースの認知度が高まり、利用者も増えているようですね。そもそもコワーキングスペースとは一体、どのような定義を持つ場所なのでしょうか?
文字通り定義すると、“一緒に働く場所”という意味になります。言ってみれば、カフェでもSOHOでも家でも、どこでもコワーキングスペースになりえるということです。
ただ、世間的には“コワーキング”って、意外と限定的な意味で認識されているんですよね。ですから、co-baの説明をする際に、僕らはコワーキングという言葉を推す事はありません。
では、僕らツクルバとして“コワーキングスペース”をどう定義づけているのかというと、「デザイン」「シェア」「ローカル」の3つを柱としたコミュニティプラットフォームとして位置づけています。co-baも、その考えに基いて作っていきました。
― co-baを例にとって、それぞれについて具体的に教えていただけますか?
まず「デザイン」についてですが、コワーキングの意味をそのまま体現させるのであれば、従来のレンタルオフィスの延長みたいに、既製品の机などを並べた空間でも十分だと思います。でも、それじゃ味気がなくて面白くないし、ただの業務スペースでしかありません。そこでまずデザイン性が高く、利用者にとって居心地の良い、良質な空間をつくりたいと考えました。
特にこだわったポイントは、ひと続きになった木の机でみんなが仕事するということ。ふだんはそれぞれ別の組織に所属していて、別の仕事をしている人たちが、一つの大きな木に宿って仕事している、というイメージです。それから、距離感。向かい合っていても気になりすぎず、でもお互いの存在を意識できるような距離感になるように意識しました。
場所を作るとき、たしかに机やイス、空間などハード面のデザインは大切です。だた、それだけではコミュニティは醸成されません。コミュニティをデザインする上で、最も重要なのはソフト面のデザイン。その場所で自然と入居者同士の間にコミュニケーションが生まれるような“仕組み”をつくることこそが、何よりも大事なんです。
― 仕組みというと、たとえばどんなことでしょうか?
そうですね、co-baの場合だと、ワークスペースのワンフロア上に、「co-baライブラリ」というシェアライブラリを設置しています。
co-baのメンバーはこのライブラリにMy本棚を持つことができ、そのスペースに自分の好きな本を自由に置くことができます。そして、それらの本を“貸し借り”することもできるようになっています。そこに、利用者同士のコミュニケーションが生まれる可能性があるんです。
初対面の人に自己紹介をするときって、どんな会社で何をしているとか、こんなアプリつくっていたとか、多くの場合、自分の“スペック”の面を話すだけに終始してしまいがちです。
でも、このシェアライブラリを介することで、まず“どんな本を読んでいるのか”を知ることができますよね。つまり、その人の“人柄”を垣間見ることができるわけです。
― なるほど。「シェア」が人と人をつなげるカギになるんですね。 では、「ローカル」とはどういう考え方なのでしょう?
場所をつくる上で、その場所を“地域に根ざしたもの”にするのが重要だということです。co-baの場合は、所在地である“渋谷”に価値を還元していきたいと考えています。具体的な動きとしては、3月に「はしご図書館」というプロジェクトを実施しました。これは、本を介して街に集う人々をつなぎ、街全体をネットワーク化された「生きた図書館」とするプロジェクトです。
プロジェクト期間中は、co-baライブラリをはじめ、渋谷にあるカフェやショップ、商業施設などの店舗オーナーに、渋谷に関わる本や、趣味・趣向などにちなんだ本が並ぶ小さな本棚を設置してもらい、それらを「はしご」して楽しむことができるネットワーク型の図書館を展開しました。
ここでも、渋谷に集まる様々なバックグラウンドを持つ人々と店舗スタッフ等とのコミュニケーションを“本を介して”活性化し、渋谷という街の魅力を今以上に伝えらえるようにすることを目指しました。
― 場所を作った後、“それをいかに運用していくか”という点も気になります。co-baでは、オープン当初、どのような取り組みを通じてコミュニティを形成していったのでしょうか?
一つは、co-baをどういうふうに使うのかというロールモデルを僕らが示すこと。例えば、co-baのワークスペースって会社のオフィスではありませんから、極端な話、いつお酒を飲んでもいいわけです。なので、僕らが率先してビールを飲んだり。朝から会議をして盛り上がった時は、よく昼から飲んでました(笑)
服装も、Tシャツなどラフな格好で来るようにしましたね。スーツで来ると浮いてしまう、そういう空気感をつくることを意識しました。
― イベントも頻繁にやってましたよね?
そうですね、週3日ぐらいのペースで。いろんな企業とのタイアップ企画を行なったり、業界の著名な起業家やクリエイターの方を招いたトークショーをひらいたり。そうして「co-baでは自由にイベントとかもやっていいんだ」という風土を作っていったんです。
ただ、ある程度、雰囲気が醸成されたきたら、徐々にフェードアウトしていこうというのは決めていました。あくまで僕たちは「盆栽」ではなく、「添え木」になろうと。
― 添え木、ですか。
盆栽の場合、木を育てる側の意図するカタチにするため、枝をこまめに切ったり、あえて本来伸びるべき成長を止めるために固定したりするんですね。
対して添え木というのは、木自身が、自分の枝を伸ばす方向を定めた時点で、曲がってしまわないように別の木を添えてあげることです。
コミュニティも木と同じで、どの方向に伸びていくかわかりません。ただ盆栽のように自分たちの意図するカタチにしようとすると、その成長には限界があり、僕らの範疇を超えたコミュニティには育っていかないんですね。だから僕らは添え木となって、僕らのイメージを大きく超えるコミュニティへと成長していくのをサポートすることに徹するようにしています。
― 実際、co-baではさまざまな利用者同士が結びつき、そこからいくつものプロジェクトが生まれているそうですね。
最近は特にそうですね。一つのきっかけは、サイボウズさんからの依頼でした。以前から「co-baのメンバーを集めて何かできないか?」というお話をいただいていて、その流れでグループウェア「サイボウズLive」のパンフレット制作を依頼されたんですね。で、僕らからco-baのメンバーに声をかけて、制作しました。
それをきっかけに、メンバーの間で自然と「一緒に何かをやろう」というコラボへの意欲が生まれてきて、営業とエンジニアが起業したり、エンジニアとUIデザイナーが一緒にプロジェクトを進めたりと、有機的なコミュニティがいくつも自然発生していきました。
次の段階として、co-baから世の中にインパクトを与えられるようなサービス、そして企業が生まれてほしいと考えています。そのために、事業会社とマイクロビジネスをやっているクリエイターたちをつなげたり、VCのサポートが受けやすくなる制度をつくったり、公的な支援を受けたり、大企業とコラボする場所をつくったり…“添え木”となって、co-baのコミュニティを盛り上げていきたいですね。
(つづく)
▼シェアードワークプレイス《co-ba》の取材レポート第2弾
CoffeeMeeting誕生の裏側。シェアードワークプレイス《co-ba》で、何が起きているのか?
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。