“イノベーション”とは、一体どんな組織において生まれ得るものなのか。その答えを、スマートフォンアプリと専用ハードウェアを活用した来店ポイントサービス「スマポ」を手がけるスポットライト社代表の柴田さんとCTOの高橋さんに聞いた。
エンジニア・クリエイターの中には、イノベーティブな環境に身を置きたいと考える方も少なくないだろう。そこで、実際に革新的なサービスを創出している方々にインタビューし、“イノベーションを生み出せる組織のあり方”を探ってみたい。
今回フォーカスするのは、O2Oビジネスで注目を集める「スマポ」だ。
スマポは、リアルな店舗にチェックインするだけで、ショッピング等に使える“来店ポイント”がもらえるスマートフォンアプリ。集客促進を狙う大手小売チェーン等との提携を着々と進め、今では約98ブランド700カ所のチェックインエリアで使えるようになっている。
非常にユニークなのが、顧客の来店を検出する仕組み。よく知られているGPSによるチェックインシステムではなく、来店を超音波で検出する専用のハードウェアを自社開発し、各店舗に設置しているのだ。
スマートフォンアプリ×ハードウェアで業界に革新を起こしているスマポ開発チーム。彼らが考える理想的な組織のあり方を伺う中で、イノベーションとはどのような環境から生まれ得るものなのか、探ってみたい。
― 今回はイノベーションとはどのような組織から生まれるものなのか、実際にそうした組織をつくっておられるお二人の考えを伺いたいと思います。最初に、お二人はイノベーションというものを、どのように捉えていますか?
柴田:
まず表現として、イノベーションという言葉はほとんど使わないですね。社内ではよく“ゼロ”から“イチ”を生み出す、「ゼロイチ」という表現を使います。
イノベーションというのはあくまで後知恵的な言葉だと思いますね。当事者自身がイノベーションを起こそうと思って何かを作っているわけではなく、ゼロベースで何か新しいものを具現化しようと取り組んで、その中で結果として上手くいったものがイノベーションと呼ばれるのでしょう。
― なるほど、イノベーションは主体者が使う表現ではないと。
柴田:
僕も高橋も、それぞれがこれまでに複数社の起業の経験があるのですが、その中で学んだスタートアップの社会的意義は世の中にないものをつくるということに尽きると思うのです。例えば、すでにヤマダ電機があるのに、新たにシバタ電機を作ったってしょうがないんですよね。世の中にまだない価値あるものを作るのはリスクが高いことです。でも、そのリスクに挑戦することができる社会的な制度こそが「スタートアップ」だというわけです。ここ数年でWEB業界での起業も増えていますが、僕自身は、世の中にないものに挑んでいる会社だけがスタートアップであって、そうでない場合は、すべてただの独立開業だと考えていますね。
高橋:
スマポの場合、公になっている技術では直接的に利用できる技術が無かったため、そこから研究開発しました。技術的にも“ゼロ”の状態からはじめました。イノベーションを起こそうとかそういう考えは全く無く、とにかく何とか実現しようという、その一心でやっていますね。
― そこまでの難題に挑むモチベーションとは?
柴田:
“ゼロイチ・ホリック”といいましょうか、やはり好きだからですね。新しいことであればあるほど、未踏の地を制覇するような感覚に魅了されています。
今まで世になかったものをサービスとして形づくる、それは自分だからできたことなんじゃないかと、後々になって自分で思える確率は高くなると思います。人生一回しかないわけですから、自分にしかできないものを追求していくと、新しいことをやろう、というところに行き着きますね。そのほうが楽しいかなと。
― 高橋さんのモチベーションは?
高橋:
柴田と同じように、好きだからですね。自分の引き出しにある技術を掛け算して、新しいものを作り出すという感覚が。また、僕の場合は、技術のチャレンジがあったとしてもビジネスとして出口が見えないことは意味がないと考えているので、その視点をブラさず、“イチ”を作り上げることに惹かれているのだと思います。
スマポに関して言えば、もともとやってみたいと思っていた技術的なストックがいくつかあって、スマポの要件がそこにたまたま合致したというのが大きいですね。具体的にいうと、ハードウェアとスマートフォンを掛けあわせるという軸と、“音”を使うという軸と、両方に挑戦できる点が面白いなと感じています。
スマートフォンやWEBだけで完結するサービスは既にたくさんありますし、それだけ作ったとしても面白くないと思うんですね。僕自身もともとハードウェアの開発をやっていたバックグラウンドがあるので、以前からハードウェアもやってみたいと考えていたんです。
とはいえハードウェアだと開発に何千万単位の予算が必要ですし、それを売るにしてもロジスティクスから考えなければならず、スタートアップでやるにはあまり現実的とは言えませんでした。
そこで、アイデアとしては、ちょっとしたハードウェアとWEBサービスを組み合わせるとわりと上手くいくんじゃないかと。そういうのを作ってみたいと思っていたんです。
― 「ゼロイチ」がスタートアップにとって大事であることは分かりましたが、なかなか簡単なことではないと思います。その中で、日本でも珍しいシリアルアントレプレナーとして幾つかの起業を成功されている柴田さんは、どのようなことを起業で最も重視されていますか?
柴田:
スタートアップに最も重要なのは「市場選択」と「タイミング」です。だから今、ニーズとシーズがちょうど良く熟しかけている市場はどこなのか?パズルのピースが揃いつつある領域はどこなのか?を考えることを心がけています。
この2つに合致するネタは大きいものから身近なものまで無数にありますから、その中で自分が好きなもの、得意なものをまずは試してみるというところから入ります。B2Cならプロトタイプを作ってみる。B2Bならば企画書を作って営業してみる。そこで手応えがあれば本格的に検討します。
自分としては特に意識していないのですが、この一連の「市場選択」と「タイミング」の検証作業がもともと好きなので、興味に従って行動すると自然とこの流れになっているんです。
起業家にはサービスサプライヤーとしてそれらを見極める目が求められるわけですが、同じようにエンジニアなど作る側の人たちにも、“今はどのようなテーマに取り組むのが一番可能性があるのか”を選びとるセンスや能力が非常に重要だと思います。
高橋も2010年、11年の段階で、そのセンスによって、スマポが狙う市場の可能性に興味を持ち得ていました。
ちょうどスマートフォンが普及し、一般の方が日常的に、高い処理能力をもったネットワークデバイスを持ち歩いている状況が生まれていました。そのスマートフォンにアドオンするようなハードウェアを組み合わせると、技術とビジネスの掛け算で、実にさまざまなことができるんじゃないかと。そして、そんな時に“イチ”のアイデアを持った僕と出会い、この市場を選んだんです。
(つづく)▼《スマポ》柴田氏・高橋氏へのインタビュー第2弾
スタートアップとは“生き残る”ではなく“生み出す”を追求する器―《スマポ》柴田氏・高橋氏に学ぶ組織論
[取材・文]上田恭平 [撮影]松尾彰大
編集 = CAREER HACK
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