2013.09.04
スタートアップとは“生き残る”ではなく“生み出す”を追求する器―《スマポ》柴田氏・高橋氏に学ぶ組織論

スタートアップとは“生き残る”ではなく“生み出す”を追求する器―《スマポ》柴田氏・高橋氏に学ぶ組織論

ゼロからイチを生み出すことがスタートアップとしての社会的責任であり、自身の人生の目的でもあるというスマポの柴田さんと高橋さん。生み出したい“イチ”を明確に定めることで、組織の形や方向性は自ずと決まるとのこと。しかし、その“イチ”が定まっていない会社も少なくないという。

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▼《スマポ》柴田氏・高橋氏へのインタビュー第1弾
“ゼロイチ”でなければスタートアップではない―《スマポ》柴田氏・高橋氏に聞く“生み出す”ための組織論

組織の形やカルチャーは、会社が生まれ落ちた瞬間にほぼ決まる

― “ゼロ”から“イチ”を生み出すことがスタートアップの使命だと仰っていましたが、すべての企業がゼロからイチを生み出すことができるわけではないですよね。では、イチを生み出せる組織とは?


柴田さん

スポットライト社 代表 柴田陽さん

柴田:
“ゼロ”から“イチ”を生み出すなんて、自然発生的にできることではありません。やはりまず、生み出す“イチ”が何なのかが明確に定まっていないといけない。これが第一の条件です。

“イチ”が決まれば、自ずと組織の形は決まります。スマポの場合は、営業と技術とが両輪でバランスのとれた組織になっていますが、それはスマポというサービスを生み出すために必要だから、そうなったまでです。

例えばスマポの営業は、無数にある小規模な独立店舗に対して個別にあたるのではなく、業界攻略のセンターピンとなるコンビニチェーンのような大手企業の販促部長などの意思決定者に提案するわけですから、営業組織の形も「新卒を100人採用します」といったものではなく、適切なバックグラウンドをもった少数精鋭の組織になります。すると必然的にオフィスのサイズも決まりますし、必要な資金の量も決まります。

高橋:
生み出したい“イチ”がないまま会社をスタートすると、最初に集まったメンバーでできることから考えが始まり、そのメンバーのスキルセットによって、結果的に会社の方向性が決まってしまうと思います。

そういう意味で、組織や文化というものは、会社が生まれた瞬間にほぼ決まると思うんです。

そして、それを途中でシフトチェンジするのは非常に大変なこと。営業会社として立ち上がったらそのまま営業に寄ってしまうし、テクノロジー企業だったら技術に寄ってしまう。

だからその状態から、“ゼロイチ”志向の組織にシフトするのは難しいと思います。

“生き残る”ではなく“新しいものを生む”をゴールに

― “イチ”が固まっていないまま何かをやろうとしているケースって、結構多いという印象ですか?


柴田:
多いとは思いますが、悪いとは思っていません。あくまでも、組織として目指す“ゴール”の違いだからです。

会社によっては、「繁栄すること」や「生き残ること」がゴールになっている場合もあります。僕は、資本主義というのは、会社は誰のもので何のためにあるか、ということについて多様な価値観を許容する懐の深い社会制度だと思っていますから、それはそれで全然ありだと思います。

ただ、変化のスピードが速いIT業界について言えば、掲げているテーマや生み出そうとしているプロダクトにコミットするチーム、つまり“プロダクトドリブン”の組織でないと、新しいものを生み出すのは難しいと思います。


― とにかく、やりたいこと・生み出したいものありきだと。


高橋:
当然です。エンジニアのキャリアという観点でみても、そこで「何をやるか」にコミットするのが当たり前だと思います。WEBの世界は、これだけスピーディに技術が進化しているわけです。常に新しい、最先端の技術に仕事として関わっているほうが、その人のエンジニア人生にとって良いことだと思います。


柴田:
そういう意味では、起業家もエンジニアと似ている気がします。僕自身、自分の王国を築いて、その王様として引退するまで君臨してやろうなどとは全く思っていません。そのため、自分の“起業家としてのキャリア”を考えたりもするんですね。

陳腐化したものをやっていると、起業家としての価値はどんどん下がります。やはり鮮度の高いテーマに取り組むことが重要ですね。

新しいものは、“多様性のあるチーム”から生まれる

― “ゼロ”から“イチ”を生み出す組織に必要なもの、他にはいかがですか?

高橋さん

CTO 高橋三徳さん

高橋:
チームの“多様性”というのは、一つあるかもしれません。

スマポの開発チームも、エンジニアのバックグラウンドは非常に多様です。昔は油絵を描いていたという芸大出身のエンジニアがいたり、吉本興業の養成所(NSC)にいたという飛び道具的なメンバーもいれば、未踏ソフトウェアのエンジニアや、大手SIerでバリバリの大規模案件をやっていたという人もいます。

さまざまなベクトルの人間が集まることで、同じ方向性の人間だけでは出てこないようなアイデアが生まれることは確かにあると感じますね。

それによって違うベクトルを持つ者同士、素直にお互いを認め合い、非常にフラットなチーム作りができていると思います。

また、それぞれに不得意な部分はあるものの、それが逆に活かされているというか、“不得意な人がそれなりにやった結果、得意な人以上の結果を出す”というようなことも実際に起きています。

スマポのなかにある、“ゼロ”に挑み続けて

― “ゼロ”から“イチ”を生み出すチャンスをつかむには、やはり初期メンバーとしてチームに参加することが重要になりますか?


高橋:
必ずしもそうではないと思います。スマポに関して言えば、立ち上げから2年、確かに“出来上がったサービス”に見えるかもしれません。今からジョインしても、“ゼロ”から“イチ”を生み出す要素は少ない、と。

でも、やりたいことはまだまだたくさんあるんです。そういう意味で、僕はこの状況でも、“ゼロイチ”の要素は絶対にあると思っています。だからこそ、僕の役割として、僕自身がその要素を見つけ出し、多様性をもったメンバー達に、そこにコミットしてもらえるような環境づくりをしています。

新しく仲間に入ろうと考えてくれるクリエイター・エンジニアにも、素直に現在の“ゼロ”課題を提示しながらも、常に、技術者目線でみて魅力的なゴールとなる“イチ”を用意しておくようにしていますね。

ピボットなし、共感する“イチ”を生むことだけに集中した組織

― なるほど。エンジニア・クリエイター目線でいうと、初期メンバーとしてジョインすることより、その“イチ”の有無を見極め、そしてそれに共感できるかどうかが大事だということですね。


柴田:
そうですね。

一方で、企業としては単に“イチ”を掲げればいいというわけではないのも事実です。例えば、受託制作の会社が「自社サービスをつくる」と言うケースってありますよね。ただそれは、そう簡単には実現しない。なぜか?

一つは、クライアントの存在する受託の仕事がある以上、共感した自社サービスに対する優先順位がどうしても落ちてしまうからです。

そして、最もクリティカルなのが、本業の片手間に何か新しい事業を立ち上げようとしたところで、それを本業でやっている競合他社に勝つのは極めて難しいということ。そこで安易に勝てると思ったのだとしたら、覚悟が足りない、考え方が甘いと言わざるを得ないと思います。

“ゼロイチ”を追求する組織とは、“イチ”を世に出していくために最適化された器ですから、メンバーが集まった後に、彼らが共感した“イチ”をピボットすることは裏切りにも近いですし、その器でことをなす必要がないと思います。

「これをやろう」「これを生み出そう」と決めたら、そのためだけにすべてを最適化する。そうじゃないと勝率は上がりませんよ。

肥大化した組織は、イノベーションを起こし得るか?

― 最後に、組織の規模という観点でも質問させてください。ゼロからイチを生み出すということは、大規模な組織でもできるものでしょうか?大企業病という言葉もあるように、小規模な組織でこそ成し得ることでしょうか?


柴田:
個人的には、小さい組織で上手くいったことでも、大きい組織でやると上手くいかなくなる、ということはあると思っています。

もちろん、長期的にみた“組織としての生存確率”は大きいほうが高いですよ。でも“サービスとしての生存確率”となると、話は別だと思います。


― なぜでしょう?


高橋:
具体的に説明するのは難しいのですが、やはり大きな組織には、余計なことが多すぎるからです。

会社も人も同じで、肥大化するとそれだけ動きは遅くなります。身体が大きくて動ける人は極めて少ない。絶対にいないとは言いきれませんけどね。

新しいものを生み出すには、そこにフォーカスして振り切ることが大事です。その前提でいくと、他のことはすべて余計であると言えます。であれば、例えば3人でできることなら3人でやるべき。そこに300人の組織は必要ないと思います。

人間は、存在するだけで周囲に影響を与えてしまうものです。300人のうち、297人が黙って立って見ているだけでも、失敗確率は高まると思います。

柴田:
とはいえ、小規模の強みを活かしきれていないスタートアップも、極めて多いです。なので、キャリアの選択肢という観点で小さい組織を選ぶべきかどうかは、確率論としては、何とも言い切れないというのが正直なところですけどね。


― スタートアップ、小さい組織に身を置くことが、単純に正解だとは言えない、ということですね。本日は貴重なお話ありがとうございました。


(おわり)


[取材・文]上田恭平 [撮影]松尾彰大


編集 = CAREER HACK


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