サイバーエージェントで、チーフ・クリエイティブディレクターの任に就く佐藤氏。彼のキャリアを紐解くことで、ひとつのロールモデルを提示する。活躍中のクリエイターが歩む道を知ることが、正解のないキャリアを考える上で、ひとつの道標となるだろう。
株式会社サイバーエージェント。説明不要の、様々なWEBサービスを展開する企業だ。多くの優秀なクリエイターとエンジニアが在籍。独自の企業文化から生み出される、数々のヒットサービスを誇る。
同社で働くクリエイターたちは、どのようなバックグラウンドを持っていて、どのような経験をしながら、どのようなキャリアを描いていくのか。
職業、仕事、職歴という日本語的な意味合いではなく、人生そのものと捉えたときの、本質的なキャリアを紐解いていきたい。
話を聞くのは、佐藤洋介氏。サイバーエージェントのアメーバ事業本部で、チーフ・クリエイティブディレクターを務める。
大学院を出て、DNPのWEB事業を手がけるグループ会社へ入社。2012年よりサイバーエージェントにジョインし、早々に要職を任されている。
佐藤氏の前職での経験や働き方、現職で送る充実した日々を伺うことで、クリエイターとしての哲学や生き方という、大きなテーマに迫ってみたい。
― 前職はDNPでデザイナーという事前情報があります。WEBやデザインとは少し領域が違うように思うのですが。
大日本印刷自体は印刷業界ですが、私がいたのはWEB部門を担うグループ会社でした。パンフレットをWEBに起こしたり、電子書籍を作成するなど、印刷に付随するWEBの部分を手がけていたんです。
もともと僕は、工業高校出身なんですね。機械とか建築への興味がきっかけで。
大学は千葉工業大学で、工業デザインを専攻しました。当時は、プロダクトデザイン全盛期。徐々に携帯電話なんかが普及していったこともあり、インターフェイスにのめり込んでいきました。最終的には院まで進み、テレビのUIを研究していたんです。
その頃、WEBに興味を持ったきっかけがありまして。例えば携帯のUIをやっていても、なんちゃってシミュレーターに載せるわけで、結局は実際に動くモノはWEBに載せていく。
WEBの強みって、自分でつくれてしまうことだと思うんですよ。多少、プログラミングができれば、なんとかなる。本当はコーディング苦手で、できればやりたくないんですけどね(笑)
ただやっぱり、WEBって情報がとても多くの人に伝わるじゃないですか。そこに魅力を感じたというのが大きかったですね。
― なるほど。学生時代から興味があった分野に進んで、デザイナーとして多くの経験を得られたのではないかと思います。そんな中で、転職を決意した理由やきっかけはあるのでしょうか。
前職は受注して仕事がスタートでしたので、お客さんが第一でした。そこへのやり甲斐はありましたよ。単純にコンペに勝ったとか、自分の提案やデザインが受け入れられたら嬉しかったですし。
でも自分のアウトプットを使う側に評価されたり、自分たちで検証したりして、ブラッシュアップができない。PDCAを回しながら、より良いモノに仕上げていきたかったんです。
デザインしているときは必死。全力で最善のアウトプットを目指していました。でも、やっぱりここを直したいなとか思うことはあって。かといって、クライアントの都合や予算の問題があります。勝手に直すわけにはいかないわけで。そこに、多少のストレスは感じていましたね。
もちろん、得られたモノはたくさんあって、そこでの経験が僕の下地になっているのは確かです。
複数のサイトを同時進行で手がけていて、自分が作業を止めたらプロジェクト全体が遅延する。それでも締め切りはありますし、その中で最善のアウトプットに仕上げるというのは、とても貴重な経験でした。
― やはり、特に駆け出しの頃であれば、膨大な仕事を経験するというのは大事ですよね。当時、クリエイターとしてこうなりたいとか、理想像みたいなものは描いていましたか?
ぶっちゃけたところ、あまり深くは考えていませんでした。デザイナーとして手を動かせることが幸せでしたし。
反面、デザイナーとしてのキャリアを意識することはありました。自分で手を動かし続けるという道があれば、全体のアートワークを手がけるようなアートディレクターやクリエイティブディレクターという選択肢もある。そこに興味は持っていました。
― おぼろげながらも持っていた理想のモデルに向けて、実現させるための取り組みは、何かしていたんですか?
自分がデザイナーとしてやっていくための、強みみたいなものは模索していました。
もともと手が早いほうで、手数で勝負みたいなところはあったかな。自分のキャパシティを超えるくらいの案件で鍛えられたというか。
あとは、職人タイプのデザイナーっていると思うんですけど、自分はそうじゃなかった。クライアント先に行くのが好きでしたし、コミュニケーションが得意だったので、デザイン業務以外も、自分の中では得意でしたね。
ですから、当時の会社でいうとアートディレクターにあたるんですが、クリエイティブの全体を見るような将来を想像していました。基本的にデザイナーであれば、そこを目指すんじゃないでしょうかね。
― サイバーエージェントに転職したわけですが、どんな仕事や環境を期待して入社しましたか?
ユーザーに届けたものに対して、どのような届き方をしているのかを知りたい、その上でブラッシュアップしたい、と考えていました。
その点、当社が持つAmebaのようなプラットホームであれば、すでにたくさんのユーザーがついていて、それをどのように高めていくかに挑戦することが、自分にとってプラスの機会が多いだろうと思っていました。
実際に入社してみると、最初に『Simplog』(シンプログ)というスマホブログの立ち上げと、『きいてよ!ミルチョ』というキャラクターの育成コミュニティサービスの立ち上げに参加させてもらいました。
一年弱は、この2つがメイン業務。つくって終わりではなくて、どこまでも自分が納得いくまで、思い通りのアウトプットに注力できた期間でした。
当時はスマホ向けのサービスを大量にリリースしていたので、入社早々に立ち上げを経験できたのは大きいですね。
― 念願通りユーザーに届けるサービスで、PDCAを意識できる環境だったわけですね。ユーザーの反応を見ながら改善を繰り返す業務ですが、すぐに馴染めましたか?
サービス提供者として、直接ユーザーと関わる機会がなかったので、得られた反応をどのようにデザインに反映させるかなど、戸惑った部分はあったと思います。やはりユーザー視点を完全に理解するというのは難しいもので。
― どのように克服しましたか?
人の意見を聞くことですね。特に当社の場合、ものすごいユーザー視点の持ち主がいまして。社長の藤田なんですけどね。
実は入社1週間で、社長にデザインを提案することがあったんです。個人的には、それまでに経験したデザインとこれから手がけるデザインは異なると思っていたので、模索していこうと考えていた矢先でした。
― 1週間ですか。それは緊張しますよね。プレゼンの結果というか、藤田社長の反応はいかがでしたか?
デザインに対して、具体的なフィードバックをいただけました。
やっぱり僕はデザイナーなので、デザイナー視点でつくってしまったんですね。意識としては当然、ユーザー視点を持っていたのですが。
でも藤田は、見ているところが全然違うというか。ものすごい良く出来たユーザーがいる感じなんですよ。
はっとさせられましたね。否定はされませんでしたけど、見えていない部分を気付かされたようで。とても腑に落ちたフィードバックだったんです。
この出来事で、たった1週間しか経っていないのに、会社の風土や方針など全部わかったような気がしました。
― 藤田社長がデザインなどの細かな部分に意見やアイデアを出すというのは、普段からあることなんですか?
鳥羽 :『Simplog』の立ち上げと並行して、20以上のコミュニティを並行して開発した時期もあったんですね。
藤田がアメーバ事業の総合プロデューサーの役割を担って、どの業務より優先して動いていました。
他のプロジェクトにおいても同じようなスピード感で、藤田が直接、全体を見ていましたね。
佐藤 : 確かに、ものすごいスピードでしたね。当社の場合、新しいサイトやサービスを、デザイン先行で進めることがあるんです。
それも、プロデューサーと吟味し、パターンを出した段階で、「社長に持って行こうか」となる。
実際に藤田に見せて、的確なアドバイスをもらって、サービスが立ち上がる。
こういう環境に身を置いたことは、初めて体験することが多くて刺激的。デザイナーとしても、すごくステップアップできました。
― 転職したことが、ご自身のキャリアに大きな、ポジティブな影響をもたらしたようですね。
ここからはもう少し、プライベートも含めたキャリア、そして将来のことや佐藤さんの哲学について伺いたいと思います。
(つづく)▼サイバーエージェント佐藤洋介氏のインタビュー第2弾
良いアウトプットを続けるための方法―サイバーエージェント佐藤氏が目指すクリエイターとしての生き方。
[取材]梁取 義宣 [文]城戸内 大介
編集 = CAREER HACK
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