2015.09.14
新しい時代は、想定外のバグから生まれる、はず。 [Art Hack Day #しおたんレポ]

新しい時代は、想定外のバグから生まれる、はず。 [Art Hack Day #しおたんレポ]

アートのハッカソン「Art Hack Day 2015」作品レポートをお届け!エンジニアも、絵描きも、デザイナーも、建築家も、音楽家も、ダンサーも、美術家も、美大講師も、小学校教員も2日間缶詰になり、ダダダダダッとモノづくり。そして誕生した「新しい時代の作品」とは?!

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“新たな時代のにおいがする場所”

こんにちは、塩谷舞です。

「時代ってどうやって生まれるんだろう?」「新しい時代はどうやって始まるのか?」ということにもっぱら興味があるのですが、そんな“新たな時代のにおいがする場所”を嗅ぎ回っていると、自然とスタートアップシーンや、テクノロジーを使った表現領域に出くわした訳です。

前向きな人が集まる場所には、前向きな流れが出来る。スタートアップシーンも、テクノロジーでの表現領域でも、そこには良い「気の流れ」が確かにあるもの。

でも、ちょっと残念なこともあって、それは「イツメン」になりやすいこと。

「イツメン」とは「いつものメンバー」の略である。いつも一緒にいる仲の良い友人達のことを指し、学生や社会人など関係なく、いつもつるむ仲良しメンバーのことを意味する
ネット用語の辞典サイト「ネット王子」より

Webマガジンのインタビュー枠も、トークイベントも、ふと気がつけば「イツメン」勢ぞろい。そんな状況では想定外のバグが起こらず、衝撃的なイノベーションも起こりにくいんじゃないのかな…って。

と、タラタラとした前置きが長くなってしまうのですが! この夏、想定外のバグがいかにも起こりそうなアートのハッカソンArt Hack Dayに参加しました(私はスタッフ側です)。エンジニアも、絵描きも、デザイナーも、建築家も、音楽家も、ダンサーも、美術家も、美大講師も、小学校教員も集まって、2日間缶詰になってダダダダダッとモノづくりをする。

前回の前編レポート時から2週間。想像もつかないような展開がありました!



Art Hack Dayは24時間営業。保健室もありました!

2週間の作戦会議期間を経て、9月5日、6日に完成までの作業をするべく3331アーツ千代田に集合した、70名近くの参加者のみなさん。みんなが集まって制作出来るのは、たった2日間きり。まるで文化祭前日のように、大人たちが共同作業を進めていくのです。



Art Hack Day

どこから調達したのでしょう? 大きな展示台を用意するチーム



Art Hack Day

こちらでは、本格的な舞台装置を作っています。



Art Hack Day

Art Hack Day

まわるまわる、真剣な表情をしてまわるまわる。



Art Hack Day

彼女はダンサー。作っているのは、まるでレッスン場に備えられているような大きな姿見。



Art Hack Day

振動をセンシングし、音に変換するシステムを作っているエンジニアたち。



Art Hack Day

少しでも体の負担を軽減出来るように、会場内には保健室があって…


Art Hack Day

鍼灸師の資格を持ったスタッフが施術をしてくれるというサービス付き(!)。



Art Hack Day

深夜の様子……(Art Hack Dayは24時間営業でした。帰宅した人もいます)。

遊びではなく本気なのか、遊ぶことに本気なのか。まるで無我夢中な子どもみたいに、プログラミングし、絵を描き、半田付けをする、それぞれの参加者の姿がありました。


中には口論になるチームもあるし、十数時間をかけたプログラミングが全て消失するチームもありました。もう全然穏やかではありません。

でも時間はない、とにかく完成させること。


Art Hack Day


そのゴールに向かって、各チームはとにかく創って、創って、制限時間ギリギリまで創り続けました。

そこで出来上がったのは、以下12作品。


「運命的アクシデント」
「Sound of Tap Board」
「頭のない口は言葉をしゃべらない」
「ONE:個・弧・子」
「ニシハラアイリ」
「ファントム」
「トモダチノカタチ」
「Time lines」
「# drip3331」
「水との会話」
「あわせ鏡」
「侵食する音」

…タイトルだけ書かれても意味不明ですよね。詳細は後日公式レポートが出ることでしょう。きっと。


そんな作品を審査するのは、こちらの4名です。

Art Hack Day

左から、tha ltd.代表の中村勇吾さん、コルク代表の佐渡島庸平さん、3331アーツ千代田統括ディレクターの中村政人さん、ライゾマティクス代表の齋藤精一さん。すごく豪華な方々が、1つ1つの作品を丁寧に審査していかれました。



クリエイティブは大事。でもそれを引き立てるプレゼンもすごく大事。

まず、プレゼンが印象的だった2チームをご紹介。

こちらは「新しい宗教は作れるのか?」というテーマで集まった、松川美沙さん、ぎょうだなおしさん、石林典飛さん、小林颯さんという4名の作品。

「みなさんには信仰心、というものはありますか? もし宗教でなくても、情熱をもって信じているものはありますか? 僕たちは、新しい神様のあり方を提案させていただきます。こちらで手相をスキャンし、続いて人相をスキャンしてください。そのあとに悩みを入力すると、大量のデータをもとにした機械学習によって、神様があなたの悩みに答えてくれます…」


Art Hack Day


わずか2週間の作業で、無数の手相のデータを読み込んだり、メガネやヒゲ、眉毛の形などをセンシングしているのか……? そしてしっかり動作している神様の回答システム。これには審査員陣も驚きます。

が。一通りのパフォーマンスが終わり、ざわつくオーディエンスに向かって

「2週間でそんなものできるワケないでしょう!」

という盛大なネタバレ。裏で「神様役」をやっていた松川さんが「私が答えを入力してました〜」と登場します。


Art Hack Day


彼らは、大量のデータなんて一切取り扱っていませんでした。

一瞬バカにされたのかな?! と思いますが、しっかりと意識すべきことは、まんまと信じてしまった私たちがいるということ。

「ハッカソン」というプログラミングが中心になりがちなイベントの中で、いかに「問題提起」が出来るか、という方にアクセルを踏んでいたのが、このチーム。審査員の中村勇吾さんは「多くの作品がアーティストとテクノロジーのコラボレーションをしていたけど、このチームはエンジニア頼りではなかったし、それが面白かった」というコメントをされていました。

手相や人相のスキャンといった「それらしい行為」を行うと、人は案外簡単に信じてしまう。じゃあ、誰でも神様になれてしまうのでは?

12作品の中でも異例な、問題提起型の作品『ファントム』。こちらは佐渡島さん賞を受賞しました。


Art Hack Day



続いて、前回のレポートでもご紹介した、佐藤ねじさんが率いるチーム。タップダンサーの米澤一平さん、デザイナーの中農稔さん、エンジニアの池澤あやかさん、水落大さんというメンバーにて、タップダンスの拡張をテーマとした作品『Sound of Tap Board』を創り上げました。

Art Hack Day

「タップシューズがあの音だったから、タップダンスは生まれたという話があります。じゃあ、タップが違う音だったら、表現は違うものになるのでは? そんなタップの音をHackして、様々な音を鳴らせるタップボードを作りました」

最初のプレゼンテーションから、米澤さんのタップダンス、そして水落さんによる技術の説明まで、彼らのパフォーマンスはすべてにおいて完成度の高さを感じさせられました。カオスな空気が渦巻くArt Hack Dayの会場で、70人にも及ぶオーディエンスを集中させるのは至難の技。でも、広告業界で日々闘う佐藤ねじさんのプレゼンには、引き付けられるパワーがあるのです。

Art Hack Day


さらに、未完成のまま発表するチームがある中で、バグがなくパフォーマンスを終えたこのチーム。安心して楽しめるだけのエンターテインメントとなっていました。

3331アーツ千代田のディレクターである中村政人さんは「まず、タップダンサーが一人で参加して来てくれたことが素晴らしい!」と、ハッカソンであるイベントの想定を大きく超えてきたチーム編成そのものに強く感心されていました。

パフォーマンス表現を拡張するプラットフォームにもなりそうなこの作品は、プロダクト部門での最優秀賞を受賞。コルクの佐渡島さんからは「締め切りを守ることは大事!」とコメントし、その完成度の高さも評価に値しました。

バグだらけのパフォーマンスなのに、評価された理由

素晴らしいプレゼンテーションを行った2チームとは対照的に、悲しいほどに未完成なチームもありました。

最後にご紹介するのは、絵描きのchiaki koharaさんが中心となった『運命的アクシデント』という作品。建築家の只石快歩さん、メディアアーティストの坪倉輝明さん、エンジニアの衞藤慧さん、瓜田裕也さんというチームの作品は、気合いの入った舞台装置をこしらえました。

Art Hack Day


が。

15分間のプレゼンテーションはバグの嵐。左右に設置されたハーフミラー(きっとお金もかけている)は動作せず、彼らが「魔法の筆」と呼んでいた、自動で動く筆は何度もなんども地面に落ちて……。魔力が…効かない……。

見ていてギュウッッと胃が痛くなってしまうような状況。ライブペイントは最後まで笑顔で行われましたが、授賞パーティーのときには『運命的アクシデント』チームの方々は隅っこでお酒も飲まず、自分たちのパフォーマンスの大失敗に呆然としていました。

そんな中、アート部門の最優秀賞に選ばれたものこそ、この作品。

驚いて涙を流すchiakiさんの姿と、審査員コメントをうなずきながら噛みしめるメンバーの姿が印象的でした。

ライゾマティクスの齋藤さんはこうコメントしました。

Art Hack Day

「ちょっと、ぼくらのモノづくりの姿勢に近い気がしました。やりたいことを全部詰め込む。やろうとしているアイデアの総量が多かった。あれが全部うまくいったらすごく興味深い作品です。そしてアーティスト主導なだけではなく、エンジニア側からも多くの案を出していた。これはライブペイントというよりも、新しい表現として名前を付けたいくらいです」

そして先ほど「締め切りが大事」といった佐渡島さんは「熱量があれば、締め切りは先方が伸ばしてくれるものですよ!」と笑顔でコメント。

熱量をすべて詰め込んで、結果として爆発してしまった作品。それをグランプリにしたのは、審査員の方々も現場でモノづくりをするプレイヤーだったからこそ。今後の伸びしろに、大きな期待が寄せられました。

おまけ。一般公開をした9月12日のパフォーマンスでは、そのパフォーマンスはかなり成功していました。(3分20秒頃、「初めて上手くいってるよ!」という歓喜のコメントが聞こえるかと思います…)




他にも、魅力的な作品がたくさん生まれたArt Hack Day2015。その様子は、9月26日(土)の深夜25時25分から、日テレSENSORSでも放送予定です。(※放送日は変わる予定があります。また、関東圏での放送になります)

こうして展示は終わりましたが、昨年もミラノ万博でパフォーマンスする作品があったように、今年のArt Hack Dayもまだまだ終わらないはず。想定外のバグから生まれた作品や、彼らの出会いから創られる未来が、本当に本当に楽しみです!

(Photo by Ayumi Yagi)


文 = 塩谷舞(しおたん)


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